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  • from: エリスさん

    2014年03月14日 12時08分43秒

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    夢のまたユメ・92

    小坂を女として見る......それはまあ、出来なくもないことだが。それに併せて「付き合う」となると、話は違ってくる。「私、まだ翔太のことが好きなのよ」

    小坂を女として見る......それはまあ、出来なくもないことだが。それに併せて「付き合う」となると、話は違ってくる。
    「私、まだ翔太のことが好きなのよ」
    と、百合香が言うと、
    「分かってます。ミネさんのことは想ったままでいいから、僕とお付き合いしてください」
    「そんな......下手をしたら、あなた、翔太の身代わりよ?」
    「それでもいいんですッ。初めはミネさんの身代わりでも。そのうち、僕が忘れさせてみせますから!」
    「それに、私のお腹の中には翔太の子供がいるのに」
    「それこそ! 願ったり叶ったりなんです!」
    「どうゆうこと?」
    「僕には子供が出来る確率が少ないから!」
    しばらくの沈黙が流れ......再び小坂が話し始めた。
    「体内に男性・女性両方の生殖器を持って生まれたから、どちらも成長が不完全なんです。とくに子宮は小さすぎて、受胎できても胎児を育てられないって言われていて......だから僕、子供は産めない......」
    その辛そうな表情から、本当に精神は女性なんだと言うことを百合香は感じた。子供が産みたくても産めない――この苦しみは、女性じゃないと理解できない。
    それでもあえて、百合香は聞いた。
    「男性として、女性に産んでもらうことも難しいの?」
    「ええ。自然な形では無理だと言われています」
    「......つまり、体外受精なら可能なの?」
    「まあ、そうゆうことらしいです......変ですか? やっぱりこうゆうの」
    「ううん、変じゃないわ。現に私も兄も、両親が不妊治療を受けていて、体外受精で生まれてきたのよ。今の世の中、普通のことよ」
    「......リリィさんなら、そう言ってくれるって思ってた」
    確かに、聞けば聞くほど、小坂にとって百合香は絶好の相手だった。この先、百合香以上に小坂の立場を理解できる人間が現れるかどうか、難しい。
    それは分かるのだが......。
    「考えさせてもらっていいかしら?」
    百合香は、そう答えるのがやっとだった。
    翔太のことが好き、だから付き合えない――そう、突っぱねてしまいたい。けれど、そうした後の小坂の心情を考えてしまうと、できない。セクシャル・マイノリティーの気持ちは百合香にも十分理解できる。
    「気持ちの整理をつけたいから、少し考えさせて。お願い」
    百合香の言葉を聞き、小坂は唇をかみしめた。
    「それは、逃げ口上ですか?」
    「違うわ。そういう風に取らないで......私の気持ちも考えて、ルーシー」
    "ルーシー"と呼ぶことで、女性として認めていることを示すと、小坂も少し肩の力を抜いた。
    「帰りましょうか」
    百合香が言うと、小坂も黙ってうなずいた。
    「ここで着替える? 私、階段の下で待ってるわ」
    「いえ、このまま帰ります。この衣装、僕の専用だから、そろそろクリーニングに出すのに持って帰ろうと思ってたの」
    「そう、ちょうど良かったのね。じゃあ、帰りましょ」
    二人は席を立つと、階段を下りて行った。
    メリアン女学園に入ると、店長の晶子はちょうど入って来たお客を席に案内しているところだった。
    その「ちょうど来た客」というのは、百合香が良く知る人物だった。
    「あら、沙耶さん」
    「まあ! 百合香さん」
    小説家の紅藤沙耶こと崇原沙耶だった。百合香が朝日奈印刷に勤めていた頃に知り合った友人で、ここの常連でもあった。
    「良かったわ。ちょうどあなたに会いたかったのよ」
    と、沙耶は歩み寄ってきた。
    「あら、そうなの?」
    「ええ。私がというより、うちの主人がね」
    「崇原さんが?」
    「そう、ちょっと仕事がらみでね。近いうちにお電話してもいいかしら?」
    本当はすぐに話をしたかった沙耶だったが、小坂からの冷たい視線を感じて、そう締めくくった。
    「いいわ、待ってる」
    「じゃあ、その時に」
    二人が話している間に会計を済ませていた小坂は、先に店を出て、ドアの前で百合香を待っていた。
    百合香が出て来ると、小坂は無言で彼女と並んで歩き出した。
    何か話をしながら歩きたかった百合香だったが、小坂の雰囲気がそれを許さなかった。
    二人はそのまま電車に乗り、自分たちが住んでいる駅まで着いた。
    ここから先はバスで帰ろうと、百合香が「それじゃ......」と言いかけると、小坂は「あの......」と、咄嗟に言った。
    「なァに?」
    「やっぱり、着替えてから帰りたい......うちの近所の人に、女装しているところを見られると......」
    「ああ、そうよね......」
    とは言っても、この近所に着替えられるような場所はない。例えば公衆トイレで着替えようとすると、女装したまま男子トイレに入るわけも行かず、かと言って女子トイレに入っても、男装して出て来るわけにはいかない。
    「じゃあ、私の家に来る?」
    百合香の口からその言葉が出るのは、ごく当たり前のことだった。
    二人は百合香の家がある方向のバスに乗った。(小坂の家は別方向のバスになる)
    百合香の家に着くと、姫蝶が玄関で待ち構えていた。小坂のことも何の抵抗もなく出迎えている。
    「みにゃあ~!(お帰りなさいませ、お姉様!)」
    「はァい! ただいまキィちゃん......お父さんは?」
    百合香が"お父さん"と言った途端、ビクッとした小坂だったが、台所のテーブルに父・一雄からの「急に仕事が入った。夕飯は食べて帰ってくる」というメモが置いてあったと百合香から知らされると、そっと安堵した。
    「たぶんお得意さんね。ときどき夕飯をご馳走してくれる患者さんがいるのよ」
    百合香が呑気にそんなことを言っていると、また小坂が「あの......」と言いづらそうに口を開いた。
    「なァに?」
    「着替える前に、シャワー借りてもいいですか?」
    「......ああ、そうね」
    電車の中が少し蒸し暑かったから、汗をかいたのかもしれない。そのまま着替えをしろと言うのも酷な話である。
    「いいわよ。今、バスタオル出してあげる」
    百合香は風呂場のガスのスイッチを入れてから、戸棚の中にある白いバスタオルを出してあげた。
    着替えも全部持って小坂は脱衣所に入ったので、百合香はその間に部屋着に着替え、お茶を淹れようとポットでお湯を沸かし始めた。
    晶子ほどではないが、百合香も紅茶の淹れ方には自信がある。とっておきのカシスブルーベリーの茶葉をティーポットに入れ、お湯が沸くのを待っていると、風呂場の脱衣所から小坂が出てきた。
    小坂は、タオルを体に巻いただけの姿だった。
    それで百合香は悟った――メリアン女学園で着替えずに帰って来たのは、ここまで計算したからだったのだ。
    まんまと騙された、とは思いたくない。それだけ小坂も必死なのだと、同情する気持ちはある。
    やっと自分を理解してくれる人と巡り会ったのだ。どんなことをしても放したくないと、そう思っても仕方ない。
    理解はできるが......百合香は正直、困っていた。
    『まだ、翔太以外の人と恋愛する気持ちにはなれないのに......』
    そんな百合香の気持ちに気付いてはいるのか、小坂は遠慮がちに歩み寄ってきた。
    「......リリィさん......」
    小坂は、胸元で抑えていたタオルを手から離した。
    タオルが床に落ちて、咄嗟に百合香は目を背けた。
    「リリィさん、ちゃんと僕のこと見て......僕はやっぱり、化け物なの?」
    「そうじゃないわ。そうじゃなくて......ルーシー、忘れてるでしょ? 私が男の人の"あれ"が見られないってこと」
    「あっ......ごめんなさい」
    小坂はタオルを拾って、下腹から前を隠した。
    「隠したわ......これならいいでしょ?」
    小坂の言葉に、百合香はゆっくりと顔をあげた。
    「うん......それならいいわ」
    こうやって見ると、男性と言うよりは、細くて華奢なその体つきは、胸がかなり平たいが女性に見える。
    『中性の美ってこういうことを言うのかしらね。ギリシャ彫刻みたいだわ』
    冷静にそんなことを考えている百合香は、自分に笑った。
    『参ったなァ。ここでルーシーを拒絶してしまうと、彼女を傷つけることになって、私が悪者になるって、そんな言い訳も考えてたけど......』
    百合香はポットの火を止めた。
    『同性愛者としての私の血が、確実に彼女を求めてしまってる......』
    百合香は右手を差し出した。
    その手の上に小坂の左手が乗ると、百合香はゆっくりと彼女を引き寄せて、左手で彼女の頬に触れた。
    百合香からの甘いキスで、小坂が目眩を起こしそうになる。それを百合香がしっかりと抱き留めて、耳元で囁いた。
    「私もシャワーを浴びて来るから、部屋で待ってて」

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