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恋愛小説発表会〜時にはノンジャンルで〜

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  • from: エリスさん

    2015年04月10日 10時46分56秒

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    夢のまたユメ・108

    そして土曜日。長峰家では真珠美が一人で暇を持て余していた。夫も息子も休日出勤で、舅は接待を受けてゴルフに。それならば娘を誘ってお芝居でも見に行こうかと

    そして土曜日。
    長峰家では真珠美が一人で暇を持て余していた。
    夫も息子も休日出勤で、舅は接待を受けてゴルフに。それならば娘を誘ってお芝居でも見に行こうかと思ったら、娘は前もって友達と約束しているからと、マイカーで出掛けてしまった。
    一人残された真珠美はやることが本当に無いので、とりあえずお茶でも淹れようかと台所に向かった。そこには家政婦が二人いて、朝食の後片付けをしていた。
    「奥様、なにかご用でしょうか?」
    年配の家政婦が言うと、真珠美は、
    「お茶でも淹れようと思って」
    「畏まりました、今お持ちします」
    「ああ、いいのよ! 自分で淹れるから」
    「ですが奥様......」
    「やりたいのよ。することがないのですもの」
    真珠美はお茶の葉が仕舞ってある戸棚を開くと、紅茶の缶を手に取った――以前、百合香にもらった物だが、手に取った途端、中身がもうないことに気付いた。開けてみるとやはりあと一回分ぐらいしか残っていない。
    「あとこれだけ......」
    真珠美の呟きに気付いて、家政婦がまた声をかけて来た。
    「どうかなさいましたか? 奥様」
    「......いいえ、なんでもないわ」
    真珠美はそう言いつつも、少しだけ考えて、そして......。
    「敏江さん(年配の家政婦の名)、今日は誰か運転手は残ってるかしら?」
    「確か松崎さんが残っているはずです。国木田さんは大旦那様のお車を運転して行かれましたから」
    「そう。紗智子は自分で運転して行ったのね、良かった。それじゃ松崎さんに車を回すように伝えて」
    「はい、お出掛けですか?」
    「ええ。お茶を買いに行ってくるわ」
    用事が出来た嬉しさで、真珠美は満足そうな笑みを浮かべた。
    お出掛け用の和服に着替えた真珠美は、お抱え運転手が運転する自家用車に乗って、百合香に教えてもらった紅茶専門店まで行った。そこの駐車場に入ると、エレベーターの横に同じ駅ビルの中にある劇場のポスターが貼られているのを見つけた。自分の好きな落語家が出演しているのを知った真珠美は、運転手に「三時間後ぐらいに迎えに来て」と告げた。この劇場なら当日券があることを知っていたのだ。
    劇場に行ってみると、満席近くなっていたが、一番前の右端の席を買うことが出来た。
    『紗智子も落語を聞きに行くって言っていたから、もしかしたらこの劇場かもしれないわね。帰りに会えないかしら』
    そんなことを思いながら落語が始まるのを待っていると、先ずは前座が現れた。
    真珠美が好きな落語家は大トリだったが、その前を飾る二つ目や若手の真打も面白くて、真珠美を大いに満足させた。たまには一人で出掛けるのも良い物だと、改めて思ったのである。
    落語も終わり、真珠美はそのまま階下の紅茶専門店へ向かった。
    同じ階にはさまざまな菓子店が並んでいて、ついつい目移りしそうになったが、先ずはお茶を買ってから、それにあったお菓子を買おうと決めて、足を進めると、そこに見慣れた後姿があった。
    「あら、やっぱり居たわ! 紗智子!」
    真珠美が呼ぶと、紗智子と思われる女性と、その隣にいた女性もビクッと肩を震わせた――その後ろ姿にも、真珠美は見覚えがあるように思えた。少し違うようにも見えたが、しかし、醸し出す空気が忘れられないほど凛とした百合のような女性......。
    藤色のマタニティードレスを着たその女性が、ゆっくりと振り返った。
    「......ご無沙汰をしております、真珠美さん」
    「百合香さん、あなた......」
    真珠美の目は百合香のお腹に釘付けになった――当然、答えは一つしか見つからない。
    「百合香さん、あなた......そうなのね? 翔太の......」
    すると百合香は、黙って頷いた。
    「ああ、百合香さん!」
    真珠美は思わず、百合香を抱きしめた。そして嬉し泣きをするので、紗智子がなだめるのだった。
    「お母さん! ここじゃお店の人に迷惑だから、場所替えよう。ね?」
    「そうね......ああでも待って。私も買いに来たのよ」
    と、真珠美は言うと、百合香が持っている紙袋を覗いた。「百合香さんは何を買ったの? ああ、いいわ! 店員さん、私にも彼女と同じものを全部頂戴!」
    すると女性店員は「畏まりました」と、にっこり笑って答えるのだった。

    三人は近くにある、静かに話が出来そうな喫茶店に入った(駅ビルの中の喫茶店だと、寄席を見た帰りの客たちが押し寄せていて、とても静かではなさそうだった)。そして真珠美は先ず運転手の携帯電話に連絡を入れた。
    「偶然、紗智子と会ったから、帰りは一緒に帰って来るわ」
    これで余計な邪魔者も入らない――真珠美は改めて百合香に聞いた。
    「お腹の子は翔太の子に間違いないのでしょ?」
    「ええ、真珠美さん」と、百合香は答えた。「でも、この子のことは翔太に知らせるつもりはありません。私の子として、宝生家の跡取りにします」
    「跡取り? それは、ご家族の方もそのつもりでいるってことなのね? つまり、私たちがなんと言ってこようと、その子を長峰の家に渡すつもりはないと」
    「その通りです」
    そこで注文した紅茶とケーキが届いたので、話は一旦途切れた。
    真珠美はダージリンティーを一口飲んでから、一息ついて、言った。
    「なんとなく、紗智子はまだ百合香さんと会っているのではないかって、思っていたのよ。この子は百合香さんに憧れさえ抱いていたから......お父様やお兄様に止められたりしていないの?」
    「父も兄も、私の交友関係に口を出したりしません。私と紗智子さんがスールになったことは認めてくれています」
    と、百合香が言うと、
    「スール?」と真珠美は聞いた。
    それに紗智子が答えた。「義理の姉妹のことよ。女性向けの小説に出て来るの」
    「ああ、そうなの。つまりあなたは、百合香さんの妹になったのね」
    「そうゆうこと」
    「いいわね、若い人はそうゆうことができて」と、真珠美は苦笑いをした。
    「お母さんも入る? 百合香さんのお姉様になるの」
    「娘のお姉様のお姉様になるなんて、なんか変ですよ。私はこのままでいいわ。このまま......友人、でいいのよね? 百合香さん」
    真珠美の言葉に、百合香は微笑んだ。「ええ、真珠美さん」
    「ああ、良かった!」
    真珠美は心から安堵した。
    だが、百合香はまた真剣な表情に戻った。
    「真珠美さん、友人としてお願いしたいことがあるんです」
    「なにかしら?」
    「翔太には、何も言わないでほしいんです」
    「......あなた、それじゃ本当にシングル・マザーになるつもりなのね」
    「シングル......にはならないと思います」
    「どうゆうこと?」
    そこで紗智子が口を挟んだ。「百合香さんには、もう他に交際相手がいるのよ」
    「え!?」
    真珠美が驚いたのも無理はない。「交際相手って、相手の方はお腹の子のことは......?」
    「もちろん知っています。私が妊娠していることを知ったうえで、交際を申し込まれたので。それに、翔太とも知り合いで、彼女は自分も一緒にこの子の母親になってくれると言っています」
    「あっ......相手は女性なのね」
    「ええ、心は」
    「心は?」
    「お母さん」と、紗智子が言った。「ISって知ってる?」
    「ちょっと前にドラマでやってた、あれ? 男女の性別がはっきりしないとか言う......」
    「そう、それ。彼女、馨さんって言うんだけど、そういう障害を持って生まれたから、そういうのを理解してくれる相手をずっと探していたのよ。それで百合香さんと巡り会って、付き合うことになったの」
    「そう......百合香さんなら、同性とのお付き合いもあるものね......百合香さん、その方と結婚なさるのね?」
    「はい、そのつもりです」
    「そう......そうなのね......」
    真珠美は、もうこれで百合香を翔太の嫁として迎え入れることは、完全に出来なくなった、と悟った。
    しかし、それでいいのだ。百合香を長峰家に迎えれば、不幸な目に合うのは百合香である。
    だから、もう諦めよう。
    真珠美はにっこりと笑って見せた。
    「分かったわ、翔太には――誰にも言わないわ、お腹の子のことは。だからせめて、私も紗智子のようにあなたに会いに来ていいかしら?」
    「ええ、もちろん」と、百合香は微笑んだ。「私も真珠美さんに会いたかったもの」
    「本当! 嬉しいわ!」
    こうして秘密を共有する人物が増えた。それが新たな展開の引き金になるとも気付かずに......。

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  • from: エリスさん

    2015年04月03日 13時12分58秒

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    夢のまたユメ・107

    9月に入った。妊娠7カ月になった百合香のお腹もかなり立派になって来て、もうマタニティードレス以外の服は着られなくなってきた。それを察した近所に住む幼馴

    9月に入った。妊娠7カ月になった百合香のお腹もかなり立派になって来て、もうマタニティードレス以外の服は着られなくなってきた。それを察した近所に住む幼馴染の荒岩静香と福田千歳が、
    「ユリちゃんに似合うと思って」
    と、新しいマタニティードレスをプレゼントしてくれた。
    「いいの? ありがとう!」
    百合香がさっそく着替えて見せている時、隣の部屋から姫蝶が「みにゃあ~」と顔を出した。
    「あら、キィちゃん。久しぶり......」
    静香が言葉を途中で止めたのも無理はない。姫蝶もお腹が大きくなっていたからである。
    「え? キィちゃんもおめでたなの?」
    と千歳が言うと、着替え終った百合香が振り向いて言った。
    「そうなの。柿沼さん家の幸太くんが通い婿してくれて、見事に授かりました」
    「授かりましたって(^_^;) 親子(百合香と姫蝶のこと)そろって出産って、大丈夫なの?」と静香が言うので、
    「大丈夫よ。キィちゃんの出産は今月中だから、私の出産とはかち合わないわ」
    「ユリちゃんの出産は12月だものね」と千歳は言った。「その頃には生まれた子猫も離乳してるから、そんなに手がかからなくなってるのね」
    「でも里親探しで大変だと思うよ」と静香が言うと、
    「里子になんか出さないわよ。全部家で飼うから」と百合香は言った。
    「やめときなって(-_-;) なんならうちで一匹貰ってあげるから」
    と、静香はあまりに楽観的な百合香を諭すのだった。
    次の日には、紗智子がベビー服をお土産に訪ねてきた。
    「流石にベビー服は気が早くない? 男か女かも分からないのに」
    百合香が包み紙を剥がしながら紗智子に言うと、
    「だって、買わずにいられなかったんですもの。だから色は......」
    「あ、黄色ね! これなら男女どちらでも大丈夫ね」
    「でしょ? それでね、このフードをかぶせると......」
    「ひよこちゃんだ!」
    「可愛いでしょ?」
    最近はベビー服に遊び心が加わって、ひよこや猫、犬、果てはアニメキャラクターにコスプレ出来るものも出回っていた。
    「早く見てみたいわ、百合香さんの赤ちゃん」
    「あなたにとっては姪っ子か甥っ子ですものね」
    ちょうど百合香がその日の仕事を終えた時でもあったので、二人はその後まったりとお茶の時間にすることにした。すると、百合香は茶筒の中の茶葉がもう残り少ないことに気付いた。
    「そろそろ買いに行かないと......」
    「買いに行くって......その中身、緑茶じゃなくて紅茶でしょ?」
    日本茶用の茶筒を使ってはいるが、百合香が大の紅茶好きなのを熟知したうえで、紗智子はそう聞いた。実際、ティーポットのお湯に茶葉からにじみ出ている色が赤い......。
    「ええ、ローズヒップティーよ。実は他の茶筒のカシスブルーベリーも、白桃烏龍(はくとうウーロン)も、アプリコットも......」
    「全部ないの?」
    「ううん、アセロラティーだけ残ってるけど、それもあとちょっと」
    「なんで買いに行かないの?」
    「だって......」
    百合香はお盆にティーセットを乗せて運んできて、紗智子の横に座ってから言った。
    「こんなにお腹が出てきたら、電車に乗るのもはばかられて」
    「満員電車にさえ乗らなければ、危なくないでしょ?」
    「下が見えづらいから、エスカレーターに乗るのも、ホームに出るのも怖いの」
    「ああ、怖いのね......」
    百合香が贔屓にしている紅茶専門店は、電車で二駅行ったところの駅ビルの中にあった。
    「じゃあ、私と一緒に車で行きましょ。今度の土曜日、ひま?」
    と紗智子が言うので、
    「いいの?」
    「もちろん! ついでに落語聞きに行かない? 駅ビルの上の劇場で、今ちょうどやってるのよ」
    「行く!」
    そんなわけで、二人は久しぶりのスールデート(義姉妹でのデート)と洒落込むことになった。

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