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from: エリスさん
2015年05月21日 21時14分10秒
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夢のまたユメ・111
紗智子が訪ねてきたのは、その翌日のことだった。「本当にごめんなさい!」紗智子は百合香の部屋に入るなり、そう言いながら土下座をするのだった。「もう!そう
紗智子が訪ねてきたのは、その翌日のことだった。
「本当にごめんなさい!」
紗智子は百合香の部屋に入るなり、そう言いながら土下座をするのだった。
「もう! そうゆうのはやめて」
百合香は紗智子の手を取って、普通に座布団に座らせた。
「いつかは知られてしまうことよ。同じ常磐線圏内に住んでいるんですもの、道でばったりすれ違うことだって十分あったはずよ」
「そうだけど、今回のは私と母が家の中で内緒話していたのが原因だし......」
「もういいの、それは!......だって、翔太に会えたから......」
百合香が恥ずかしそうに言うと、紗智子は恐る恐る言った。
「会いたかったの? 翔太に」
「......うん......本当はね」
「そっか......」
紗智子は少しだけ安堵した。
「翔太、何か言ってた?」
百合香はお茶を淹れながら紗智子に聞くと、
「特には何も。ただ、あなたに会って来たって言ってただけで......あまり問い詰められる雰囲気じゃなかったのよね」
「そう......」
「なんか考えてるとは思うんだけど。例えば認知とか......」
「私にその気はないわよ」
「それは分かってるけど、私は子供の将来のことを考えたら、認知ぐらいはさせた方がいいと思うよ」
「もう、その話題はいいわ。今は考えたくないから。それより、次のスールデートを何にするか決めましょ」
百合香はテーブルの上に何冊かの情報誌を広げて、無理矢理話題を変えるのだった。
紗智子が帰ってから、百合香は一人で考えていた。
確かに将来なにが起こるか分からない――生まれてきた子が大病を患ったりしたら、さほど裕福ではない宝生家で十分な治療費を用意できるだろうか? ただでさえ健康ではない、しかも高齢出産とも言える自分の体から生まれて来るのである。なんのリスクもない確率の方が低いのではないだろうか。
心配事は考えれば考える程、次から次へと思い浮かぶ。
百合香の心が不安でいっぱいになった時、彼は訪ねてきた。
インターフォン越しに彼の声を聞いた百合香は、胸が苦しくなるのを覚えた。
その後は衝動的に動いていた――玄関のカギをあけ、扉を開く。
そこに、長峰翔太が立っていた。
「どうしても、二人っきりで話したくて......」
翔太が言い終わる前に、百合香は彼の手を取って中に招き入れ、扉を閉めた。
百合香が翔太の首に両腕を絡めて、キスする......。それに応えるように翔太は百合香を抱きしめた。
ちょうどその時、猫部屋から姫蝶が顔を出したのだが、すぐに引っ込んで行ったのを百合香は目にした。
「来て......」
百合香は自分の部屋に翔太を招き入れた。
「リリィ......」
翔太は短めのキスを何度もしながら、百合香をゆっくりと床に倒して、最後に軽めのディープキスをした。
「いいのか?」
翔太が聞くと、
「あなたに会えて、抱かれずにいられるわけがないわ」
と、百合香は自分で服を脱ぎ始めた。
「無理するな......俺がやるから」
翔太は百合香の胸元だけを肌蹴させて、彼女の上には乗らないようにして、それでも十分な愛を注いだ。
懐かしい翔太の指使いに、百合香は身悶えずにはいられなかった。
「あなたも脱いで......あなたの素肌に触れたい......」
百合香の手が翔太の胸元に伸びるのを、翔太はその指にキスすることで止めて、自分で剥ぐようにシャツを脱いだ。
翔太は百合香の背後に回って彼女を抱きしめ、以前よりも膨らんだ胸に触れてきた。
「右の方が感じやすいのは相変わらず?」
翔太が耳元で囁くと、百合香は甘美の声で答えた。
「左利きのあなたが、そういう体にしたんじゃない......」
百合香はそう言うと、翔太の左手を取って、薬指にキスした。「私の男はあなただけなんだから」
「嘘つき。カールがいるじゃないか」
「あれは"彼女"よ。彼女のことは女性として私が組み敷いてるの」
「それじゃ......」
翔太の左手が百合香の腰元に伸びて来る。
「君の中に入れるのは、俺だけってことだな」
「そうよ......この先もずっと......」
百合香は翔太を受け入れた......。
いつの間にか部屋の中が真っ暗になっているのに気付いた百合香は、ゆっくりと起き上がると、隣で横になっている翔太に聞いた。
「明かりつけてもいい?」
「ちょっと待った。今着るから......」
手探りで翔太が服を着ている間、百合香もマタニティードレスを着直した。そして先にズボンだけ履き終えた翔太が立ち上がって、部屋の明かりを点けた。
時刻は7時半を回っていた。
「今日は、恭一郎さんは?」
「遅番の仕事だから、10時にならないと帰ってこないわ」
「そっか......」
翔太はシャツを羽織っただけでボタンは留めずに、百合香の着付けを手伝った。
「じゃあ、まだ少し話す時間はあるな」
「話すことなんか何もないわ」
百合香はそう言うと、立ち上がって台所へ向かった。「ローズヒップティーでいい?」
「お茶はいいから......話ぐらい聞けよ、リリィ」
「話はしたくないの。お茶だけ飲んだら、帰って」
「オイオイ(-_-;) さっきまであんなにラブラブだったのに、急に冷たくなるなよ」
翔太も台所へ行くと、後ろから百合香を抱きしめた。
「分かってるだろ? 俺たちがどんなに相性がいいか。スローセックスが成功するってのは、体の相性だけでなく心の相性もあってるからこそだって言われてるんだ。俺たちはそれをもう何度も経験してるだろ?」
「だからって、必ずしもその二人が結婚しなきゃいけないって法はないわ」
「そりゃ......結婚は出来ないかもしれないけど」
翔太の手が緩んだのを察して、百合香は彼から離れた。
「分かってるじゃない、あなたも。だったらもう、会いに来ないで」
「それは嫌だ」
「駄々っ子みたいに言わないで」
「駄々こねてるのはどっちだよ!」
翔太は百合香の肩を掴むと、自分の方を振り向かせた。
「お腹の子は俺たち二人の子だ! 母親の君だけが自由にしていいわけじゃない。俺にだって権利はある!」
「この子を私から取り上げようって言うの!」
「そうじゃない! 認知ぐらいさせろって言ってるんだ!」
その時、玄関のチャイムが鳴った。
驚いて二人が硬直していると、
「あっ、開いてる......」
と、その人物は入って来た――ナミこと池波優典だった。
ナミは、宝生家に翔太がいて、しかもシャツのボタンを全開にしていることに不快感を覚えつつ、言った。
「何やってるんっスか? 二人とも」
「ああ......その、なんだ......」
翔太がしどろもどろに答えてると、ナミは構わずに家の中に上がって来た。
「リリィさん、校正できてます?」
「え? こ、校正?」
「明日、俺が出社する時に持っていくから、用意しておいてほしいって、2時間ぐらい前にメール送りましたよ。見てないんですか?」
「メール......は、ごめん。見てない」
「ヘェ~」と、ナミは百合香の部屋に入った。「......なるほど、"事後"ですか」
もう百合香と翔太は赤面するしかなかった。-
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from: エリスさん
2015年05月21日 21時12分29秒
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夢のまたユメ・110
馨が宝生家に戻ると、百合香は何をするでもなく、ただ自分の部屋で座って惚けていた。馨が声を掛けても、しばらくは我に戻らなかったぐらいである。それだけ、目
馨が宝生家に戻ると、百合香は何をするでもなく、ただ自分の部屋で座って惚けていた。馨が声を掛けても、しばらくは我に戻らなかったぐらいである。
それだけ、目の前に翔太が現れたことは衝撃だったのである。
「ミネさんは帰ったわ」
馨が言うと、
「そう......」とだけ、百合香は言った。
馨は百合香の前に座ると、彼女の手を取った。
「大丈夫? まだ少し惚けてるわ」
「うん......ちょっとびっくりしただけ。来るなんて思わなかったから......」
「紗智子さんとお母様が内緒話しているのを聞いてしまって、それで確かめに来たって、ミネさんは言ってたわ。二人に注意しておいた方がいいかもね」
「いいわよ......そういうことなら、遅かれ早かれいつかは翔太にバレていたわ。私も想像してみるべきだった。......いいえ、もしかしたら、これを望んでいたのかもしれない」
それまでは紗智子だけが知っていることだった。だから長峰家の中で百合香のことが話題になることは避けられていたのに、そこに真珠美が加わってしまった。秘密を共有している二人に、二人だけで百合香のことを話題にするなというのは無理な話である。そしていつかは翔太の耳に入り......。
――会いに来てくれる――それこそが、百合香の本当の望みだったのかもしれない。
そのことに馨も気付いて、言った。
「百合香さんは、僕と結婚してくれるのでしょ?」
「ええ、するわ」と、百合香は即答した。「それは決定事項よ」
「本当に愛しているのはミネさんなのに?」
その問いに、百合香は悲しそうに笑った。「......ごめんなさい」
「いいの......身代わりになることは覚悟の上だから」
馨は百合香を抱き寄せると、彼女の唇にキスをした。
そのキスが激しすぎて、百合香の息が続かなくなる。
「馨、待っ............」
言葉を全部言い終る前に、過呼吸の発作が起きて、百合香は床に手をついた。
「百合香さん! ごめん、つい!」
馨はゆっくりと百合香をその場に横にして、背中をさすってあげた。
「僕はただ、自分の不安を拭い去りたくて......あなたに触れていれば、安心出来るから......」
幸い百合香の発作は軽い物で、やがて呼吸も落ち着いてきた。喋れるようになった百合香は、馨の手を取って自分の胸に当てた。
「大丈夫よ、もう......ごめんね、健康じゃなくて」
「僕こそ、百合香さんは喉が弱いって知ってたのに、無理させちゃって」
「......ごめんね......」
「謝らないで、僕が悪いのに......」
「......ごめんね......ごめんなさい」
百合香が謝り続けるのを聞いて、馨は気付いた――百合香が謝っているのは別のことだと言うことに。
未だ翔太を愛していることへの――馨に対しては"愛"ではないことへの謝罪。
「いいんです......もう分かりましたから......」
むしろ邪魔なのは自分だと、馨は思い知らされていた。-
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from: エリスさん
2015年05月08日 13時07分56秒
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夢のまたユメ・109
それからというもの、百合香は仕事の合間に真珠美とも喫茶店で会うようになっていた。流石に真珠美が宝生家を訪ねるのは憚られたからだが、それでも二人にとって
それからというもの、百合香は仕事の合間に真珠美とも喫茶店で会うようになっていた。流石に真珠美が宝生家を訪ねるのは憚られたからだが、それでも二人にとっては友情を深める機会が持てるだけで、最高に幸せな気分だった。
そして週末、今度は百合香のもとに馨が訪ねてきた。いつもなら今日はメイドカフェでバイトの日のはずなのだが......。
「辞めるの?」
百合香が聞くと、首を傾げながら、
「一応、そのつもりなんだけど......」
二人は天気もいいので、百合香の運動がてら遊歩道を歩いていた。馨はゴスロリ服で可愛く決めていて、誰が見ても男性には見えなかった。
「本業が忙しくなってきたから?」
百合香が言う通り、馨の本業は保育園の保育士である。今の世の中、夫婦の共働きやシングルマザー、シングルファザーの為に夜遅くまで子供を預かる保育園が増えてきて、馨が勤めている保育園もご多分に漏れずその傾向にあったのである。
「特に僕は男の保育士――だと思われてるから、夜遅い時間まで残るシフトに入ることが多いの」
「馨の保育園はシフト制にしてるのね。今どきでいいんだけど、馨にとっては不公平なのね。馨だって女だから、夜遅い帰宅は嫌よね」
「まあ、男の格好してるから、痴漢とかに会ったりはしないけど......」
「でも、メイドカフェはあなたが本当のあなたになれる、数少ない場所でしょ? いいの?」
「そうなの。だから本当は辞めたくないけど、でも、本業のことを考えると、体に無理はさせられないから......保育士って結構、体力勝負なのよ」
「大変そうよね。子供たちって元気いっぱいだから。しかも大勢いるし」
「でも楽しいよ、子供たちといると。だから、保育士の仕事を辞めるって言う選択肢はないの」
馨にとっては、保育士になることは子供のころからの夢だったのである。その夢は「女の子になりたい」という希望よりも大きなもので、だからこそ、まだまだ男性には狭き門だった保育士への夢を叶えた時の、馨の喜びようと言ったらなかったのである。
「だからね、今考えていることがあるの」と、馨は言った。「保育園で、女の姿で働かせてもらえないかなって......」
「ああ!......そうなれば一番いいけど......難しそうね」
「うん。園長先生や他の保育士さん達がなんと言うか......どんな反応を示すか、不安で......」
普段から馨がオネエっぽかったら、周りの人達も気付いてくれたかもしれないが、ファンタジアで働いていた頃の馨を思い出してみても、彼女は微塵も自分の心が"女"であることを見せたことはなかった。なにしろ幼いころから人前で"男"を演じてきたのである。その名優たるや、年季の賜物である。
「でも、そろそろ男の姿で仕事をするのも、危なくなってきたの。百合香さんは気付いてるでしょ? 僕の胸、少しずつ大きくなってきてるから」
「そうね。男の先生の胸におっぱいがあったら、子供が驚くわよね」
「うん......女の格好で仕事することを許してもらえるなら、ニューハーフの人みたいにホルモン注射とか受けて、もっと女らしい体にすることもできるの」
「素敵ね。馨が自分らしくいられるようになれるのなら......とりあえず、園長先生に告白してみたら」
「うん。そうしてみる」
馨は立ち止まったので、百合香も歩みを止め、二人は向かい合って両手を握り合った。
「ありがとう、百合香さん。あなたはいつも、僕に勇気をくれるわ」
「お互い様よ、馨......でも、仕事でも女性になるなら、その"僕"っていうのは直さなきゃね」
「うん、そうね......子供のころから、僕って言うように癖をつけてたけど......」
馨が言いかけたまま止まったので、どうしたの? と百合香は聞いた。
馨は目配せで、百合香に後ろを向くように言った。
そこに、懐かしい人が立っていた。衝動で駆け寄りたくなってしまうほど、一瞬で胸が焦がれる程、愛しい......。
「.........翔太.........」
百合香が抑えられずに言うと、彼も口を開いた。
「リリィ......百合香!」
長峰翔太が駆け寄るのと同時に、百合香は馨の手を振り払って、逃げた。
「待て! リリィ、走るな!」
翔太は馨の横を通り過ぎ、百合香を捕まえた。
「転んだらどうする、そのお腹で......」
翔太は後ろから百合香を抱きしめて、百合香のお腹に触れてきた。
「俺の子......だな?」
「......私の子よ」
「そういうことを聞いてるんじゃない!」
翔太は百合香を自分の方に向かせて、詰め寄るように聞いた。
「俺との間に出来た子供なんだろ? 別れ話の時には、もうお腹にいて......」
翔太は百合香を抱きしめずにはいられず、そして、泣き出した。
「ごめん......気付いてやれなくて」
「......あなたが悪いんじゃないわ。私が隠してたから......」
「じゃあ、やっぱり俺の子か」
その言葉に、百合香は苦笑いをした。「誘導尋問?」
「ふざけるなよ。俺は真剣に聞いてるんだ」
「じゃあ、私も真剣に答えるわ」
百合香はそう言って、翔太の手を振り払った。
「この子は私の子として、宝生家の跡取りにするって決めているの。父親が誰かなんてどうでもいいのよ」
「リリィ!」
「第一、あなたに何かできるの! 長峰家は母の娘である私を拒絶したじゃない!」
「それは!......」
そのことを言われてしまうと、言葉を失う。どう取り繕っても、百合香とその母の沙姫を傷つけることになりかねない言葉しか、出てきそうになかったからだ。
「分かったら、もう私の前から消えて。目障りよ」
「そんなこと言うなよ。本心じゃないって分かってるぞ。君は、今でも俺のこと......」
「やめて!」
今でも翔太を愛してる――そんなことを口にしたら、もう歯止めが効かなくなってしまう。
「会いたくなかった」と、百合香は振り絞るように言った。「だから、あなたには会いたくなかったのに......」
「リリィ......」
翔太の手が百合香に触れようとすると、それを馨が制した。
「それぐらいにしてあげてください、ミネさん」
「......おまえ......カールか?」
ようやく翔太は馨の存在に気付いた。「なんで女装?」
「それはこの際どうでもいいでしょ? 百合香さん、ミネさんとは僕が話をするから、先に帰ってて」
「......ええ、お願い」
普通なら自分でちゃんとこの場を収められるところだが、これ以上ここにいると、百合香は翔太とどこかへ消えてしまいたい衝動に駆られてしまいそうだった。だからここは、馨の好意に甘えるしかない。
百合香が元来た道を引き返して家へ向かうのを見送ると、馨は翔太を近くの東屋に連れて行った。
「百合香さんは今、僕と付き合ってるの」
「......そうか。もう男とは付き合わないって、言ってたのにな......」
「だから、僕は男じゃないわ」
「おまえ、女装子(じょそこ)か?」
「今は"男の娘(おとこのこ)"って言うんですよ」
「分かってるよ! わかってるけど、言葉で言うと誤解が生じるだろ、漢字で書いたのを読むならまだしも」
「マスコミの仕事をしてるだけありますね、ミネさん。でも、僕はただの"男の娘"じゃないんですよ」
馨は翔太の手を取ると、胸を触らせた。その途端、翔太は感触に驚いて、慌てて手を引っ込めた。
「性転換したのか? 女装だけじゃなく?」
「手術は受けてません。いずれはするかもしれないけど、僕は生まれつきこうゆう体なんです」
「どうゆうことだよ」
「僕は性分化疾患――いわゆる半陰陽なんです」
馨は自分の体のことを詳しく話し、その上で心の性別は女であることも告白した。だからこそ、百合香が必要なんだと。
「僕たちはいずれ結婚します。百合香さんからそう言ってくれたんです。だから、百合香さんのことは諦めてください」
「おまえにそんなこと言われて、簡単に引き下がれるほど、俺は単純じゃないんだよ。分かるだろ?」
「そうでしょうね。あなたと百合香さんとのつながりが、どれほど深いか。僕はファンタジアにいた頃に思い知らされているわ。だから一度は諦めたけど、今は僕が交際相手なんだから、僕だって引き下がったりしません」
すると翔太は溜め息をついて、
「相手が男なら、ぶん殴ってでもリリィを取り返すところだけど、女が相手じゃそうもいかないな。今日のところは帰るよ」
「そうしてもらえると助かります。それにしても、今日はどうして?」
「うちのお袋と姉貴が、こそこそと話してるのを聞いてしまってね。確かめたくなったのさ。まさかおまえの秘密まで知ることになるとは思わなかったよ」
翔太は背を向けると、左手を軽く上げて「またな」の挨拶をしながら帰って行った。-
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