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  • from: orimasaさん

    2010年03月25日 09時14分53秒

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    日本周遊紀行(71)十勝 「幻の魚・イトウ」

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    日本周遊紀行(71)十勝 「幻の魚・イトウ」

    十勝川を過ぎると、サッパリした森林帯の中を、ややアップダウンを繰り返しながら進む。
    ここから眺める事は出来ないが海岸線に沿って長節湖、湧洞沼、生花苗沼、ホロカヤントウ沼という湖沼愚群が点々と並び、周辺は大小の湿原が取り巻いている。 いかにも北海道らしい原風景であることに変わりなく、優美な風景を演出していることだろう。 


    中でも最大の湖沼は湧洞沼であり、この沼には「巨大イトウ」にまつわる伝説があるという。
    『 沼とつながる湧洞川上流にアイヌ民族の村があった頃の話で、その年は大渇水に悩まされ人々は沼まで水をくみに行かねばならなかった。 近づくと、渇水期で水が少ないはずなのに、沼は満水状態で溢れ出るようであった。 見ると沼と川との水口に大きなイトウが横たわり、水の流れを塞いでいたのである。 そして周りには無数の小魚が群がっていたという。 「かねがね湧洞沼の主はイトウと聞いていたが、この干ばつで子孫の絶えるのを恐れて、自ら死をもって子孫のために堤となって犠牲になったのだろう」・・、』という話である。


    現在、「イトウ」の生息地は、道内でも限られた河川流域でしか確認できないといい、激減、絶滅の危惧種の一種だという。 
    イトウは体長が2mを越す国内最大級の淡水魚、サケ科の大型魚で「幻の魚」と言われている。 かっては青森や岩手などにも生息していたが、今は北海道、サハリンなどロシア極東の一部にしか存在しないという。 
    成魚の体長は150cmを超え、一生の間に川の上流から下流を行き来し、稀に海にも出ることもある。 20年以上も生きた例も報告され、強い歯を持つ肉食魚で、マニアックな釣り人にも人気だが、近年は滅多に釣れないため「幻の魚」と言われる所以である。



    「イトウ」といえば、克ってテレビのドキュメンタリー番組で「開高 健の海外釣紀行」(仮題)で、アラスカかどっかで巨大なイトウを釣り上げたのを記憶している。 
    開高 健(かいこう たけし)といえば、ベトナムで従軍記者として九死に一生を得た事でも有名であるが、むろん自然派の作家である。 
    後半生は熱心な釣師としても知られ、日本はもちろん世界中に釣行し、様々な魚を釣り上げ、「オーパ」、「フィッシュ・オン」など釣りをテーマにした作品も多い。 現在では浸透している「キャッチアンドリリース」(釣った魚を河に戻す)という思想を広めたのも彼だと言われている。

    その釣り紀行のエッセイ・ノンフィクションの内容は卓越したもので、その中で北海道の根釧原野で幻の魚イトウを初めて釣ったときのことを彼は記している。 
    カッと巨口をひらいたまま息をひきとりつつ、肌の色がみるみる変わっていく二尺五寸(75センチ)のイトウに、いいようのない恍惚と哀惜、そしてくっきりそれとわかる畏敬の念をおぼえる。これこそがこの大湿原の核心であり、本質である。蒼古の戦士は眼をまじまじ瞠ったまま静かに死んでいき、顔貌を変えた』と。

    又、釣り専門誌「オーパ!」の中での釣りを描写する語彙は、たちまち釣り師・釣り好きな少年たちの間に広まって、釣り雑誌には開高健の言葉が氾濫するようになったという。 
    ふいに強い手でグイと竿さきがひきこまれたかと思うと、次の瞬間、水が炸裂した。一匹の果敢な魚が跳ねた。右に跳ねては潜り、消えては走り、落下しては跳躍した・・、』 

    かくして釣り雑誌では、いまだに「水が炸裂し」、魚が「走り」、「跳びまくっている」、などと独特の表現で書いているという。



    北海道の川の生態系の頂点に君臨する王者イトウは、陸の「ヒグマ」、空の「シマフクロウ」とならぶ自然保護の象徴的生物でもある。時に、研究者によるイトウの生息調査が行なわれているが、実際のところ産卵可能な親魚が道内に何匹生息しているかはよく分かっていないという。 そして川魚を好む釣り人には「いつかは釣ってみたい魚」として人気が高く、一年中イトウだけを追いかけるというイトウ専門釣り師も存在する。

    釣魚としての「イトウ」の魅力は、第一にその並外れた大きさであろう。 
    現在でも北海道には150cm以上のの巨大魚がいると真密かにいわれているという。 第二の魅力は「幻の魚」と呼ばれる希少価値であろう。 そう簡単に釣れないから釣り人は知識と経験と情報を総動員して、途方もないエネルギーと時間を費やしてこの名魚を追うのである。


    次回は、大樹町 


     
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