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  • from: ueyonabaruさん

    2011年01月01日 22時56分07秒

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    この命、義に捧ぐ

     表題は、第19回山本七平賞受賞の、門田隆将氏著のノンフィクションのタイトルです。

     内容は、戦争末期と戦後にわたり活躍した、駐蒙軍司令官であった根本博中将のことを書いております。

     根本中将は、戦争が負けて玉音放送を現地蒙古の張家口で聞くことになります。そして、同時に上部組織の支那派遣軍総司令官 岡田大将から
    部隊の武装解除命令が出されるわけです。

     しかし、根本中将は岡田大将の武装解除命令に従いません。彼は、共産軍の支配に入ることの危険を、若き日の同僚であった橋本欣五郎や自身の得た情報から既に知っており、在留邦人4万人、方面軍将兵35万人の命が、武装を解除すれば危なくなると思ったのです。上部の命令に従うべきか自己の信念を貫くかと悩みますが、結局自分の信念に従い、武装解除することなく攻撃してくるソ連軍と戦い続け、ついに念願の目的を果たします。すなわち、在留邦人4万人と将兵35万人を無事日本へ帰国させることに成功します。

     軍律厳しい中、上位機関の命令に従わないというのは、尋常な行為ではありません。禅の公案に「南泉猫を斬る」というものがありますが、これは、猫に仏性ありやなしやで言い争っていた雲水たちを前にして、南泉和尚がついに猫を斬ってしまったという話です。当時、軍人たちに多く流布していた谷口雅春先生の著書「生命の実相」には、この公案の解釈が載っていたそうです。武装解除命令に従うべきかで迷っていた根本司令官は、たまたま開いたペ-ジで、谷口先生の説かれた南泉の公案の解釈の文章を読むことになります。次のように書かれていたようです。

     南泉が猫を斬ったのは「形にとらわれるな、仏性というものは、形の猫にあるのではない。形の猫を斬ってしまったら、其処に仏性があらわれる」ということを、猫を斬る行為で示したのだ、 と。

     これを読んだ根本司令官は、「そうだ。余計なことを思い悩む必要はない。ただ自分は、形や現象にとらわれることなく、自分自身の使命を果たせばよい」と考えるにいたります。これが、多くの人たちの命を救う行為につながったわけです。

     根本中将は、自身は死刑になることも覚悟の上、国府軍(武装解除の相手方)に対し、将兵と在留邦人の日本への無事の帰還を依頼することになりますが、蒋介石の国府軍は根本の願いどおりに、ことを進めます。

     このときに、根本中将は、蒋介石と国府軍への恩義を感じることとなります。その後、戦後4年も経ったときになって、国共内戦で負けつづける国府軍が台湾まで後退すするという局面を目にすることになります。恩義に報いるべきときだと、根本(元)中将は立ち上がり、占領下の日本から密出国し、金門党守備戦に加わることになります。金門島守備軍の軍事顧問となり、共産軍との戦いにおいて、大勝利を収めたのです。

     著者の門田氏は、誰も知らなかったこの日本軍人の偉大な功績を、明るみにしたわけですが、史実の発掘は、容易でなかったようです。国府軍の正史にもこのことは記載されておらず、もっぱら著者の情熱により、真実がやっと明らかになった感があります。

     根本博という軍人のことや国府軍の当時の姿など、歴史の深奥が伝わってくるノン・フィクションです。ご一読を。

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