<font size="3">千葉の野の児手柏の含まれどあやにかなしみ置きてたち来ぬ大田部足人◆千葉の地名が出てくる万葉集の歌である。「千葉」は多くの葉が茂る様をいい繁栄を願った地名。児手柏（コノテガシワ）はヒノキ科の植物である◆６６３年白村江の戦いの後、唐や新羅の来襲に備えて、約３千人の防人を壱岐や対馬などに３年交代で常駐させた。防人は大陸と血縁関係のない東国、蝦夷の兵士が集められた。食料や武器、任期後の帰還も自弁であり、帰れぬ者も多かった◆７３８年の駿河国正税帳によると、帰国するために駿河国を通過した防人は、安房３３名、上総２２３名、下総２７０名の計５２６名。１回の交代は千名であり、防人の半数以上が房総出身者であることがわかる◆「千葉の野のコノテ柏の葉が開ききっていないような、若くあどけない娘がいとおしく、手も触れずに遠くはるばるやってきた」千葉に続く水平線を見つめて、心に秘めた愛を歌う防人の切ない思いが今の世にまで伝わってくる歌である。