<font size="3">　九段坂は大きなカメラや携帯で写真を撮る人々でいっぱいである。靖国神社へ行く。境内奥の池神庭園や気象台が開花宣言に使う標本桜を見る人々の表情は皆おだやかな笑顔でとてもきれい。
　友人が靖国神社には朝鮮から来た珍しい獅子があるといって案内してくれた。獅子は朝鮮を経て狛犬となって渡来した。神社から見て左が獅子、右が狛犬。仁王をまねて御祭神を守護する阿吽（あうん）の表情をしている。獅子は「あ」と口を開き、狛犬は「うん」口を閉じている。しかし、この獅子は左右どちらも口をあけており、狛犬ではなく中国の獅子そのものであろう。先月、上海の豫園で見た獅子と表情や丸く彫られた目が同じであった。靖国の獅子は山形有朋の命で遼東の寺から譲り受けたものだという。
　遼東半島は中国の黄海の入口にあり、高句麗と唐の攻防の地、そして日清戦争では日本と清国、日露戦争ではロシアとの攻防の地である。日清戦争ではるか異国の地で亡くなった兵隊さんといっしょに来たこの獅子も、来た当時の百倍近くとなる240万人の戦死者を守護することになるとは思いもかけぬことであったろう。


境内奥の池神庭園　　　　　　　　　　　　標本桜


靖国神社の獅子　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　上海の豫園の獅子