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ゾイドバトルストーリー文藝部

ゾイドバトルストーリー文藝部>掲示板

公開 メンバー数:8人

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  • from: たかひら鶉さん

    2008年03月22日 02時12分38秒

    icon

    【小説・考察】テキスト系作品発表スレ【設定・考証】


     文章中心の作品を投稿する場合はこちらへ。

     どんな作品も1カキコミで1つ書ききった上で投稿してください。
     スレッドを独り占めせず、読みやすい文章でスマートな作品をよろしくお願いします。

     

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コメント: 全8件

from: 堀田功志さん

2009年07月15日 16時28分03秒

icon

「Re:背びれ耳輸送隊道中記 前編 潜む虎 改訂版」
 ここは北エウロパ大陸のロブ平野。ミューズ森林地帯の北端を抜けてレッドラストとの境に位置する山々に続く街道を、トレーラーを牽いて進む改造マンモスの姿があった。
「確かに、悪か無ぇのかも知れねえなぁ」
 コクピットで40センチ近い長煙管をふかしつつしみじみしているのが本編の主人公、ヨウスケ・フジノ曹長だ。着崩した軍服の下にはさらしと刺青が覗き、頭は志願した時刈り取られ意地で伸ばしたほつれ気味のリーゼント。どこに出しても恥ずかしい山出しの田舎物である。
「うっせー、誰がいなかもんだ。誰が!!」
 こらこら、地の文に突っ込む奴があるか。
「うるさいわよ、番長。頭に虫でも湧いたの?」
 後続しているゴルヘックスから無線越しに騒いでいる曹長に声をかけたのは、彼の上官であり最近眉間のしわが消えなくなってきたと悩んでいるシズカ・ガンマ少尉。曹長とは士官学校の同期であり、その頃から彼の問題児的行動に悩まされてきたのだ。こう見えても良い所のお嬢様だというのに最近小姑じみてきたと評判で・・・ご愁傷様である。
「今すぐその薄汚い口を閉じなさい。脳漿ぶちまけるわよ」
 だから地の文に突っ込みを入れるのはやめいと。見えないはずの私の額に銃口を突きつけている辺り彼にかなり毒されているようだ。

「おめーだって、騒いでるじゃねーか。委員長さんよ」
「委員長って呼ぶな!! はー、なんで学校出てまで山猿と組まなきゃならないのよ。本当なら順調に参謀としての道を歩んでるはずだったのに、やってることはこんなどさ回り・・・・」
「喧嘩は会議室で起こるんじゃねー、現場で起こってるんだってぇ名言を知らねぇのかよ、いいんちょー? それを言うなら俺だってゴジュラスと肩並べて砲弾の雨を降らせたかったんだぜ? 風の噂じゃゴジュラスが足りなくて軍が困ってるてぇ話だったからポチを連れてきゃとんとん拍子で出世できるはずだったのによ」
 ちなみにポチとは彼が乗っているマンモスの名前である。犬かよと突っ込むと切れるので注意が必要だ。何故なら彼ではなく以前の主である彼の祖母の命名だからだ。だからといって彼のネーミングセンスが言い訳ではないが・・・。後になれば分かることなのでここでは割愛する。にしても交わす言葉の割りに険悪なムードは漂っていない。当人達からすればじゃれ合っている様な物なのだろう。けっ、このバカップルが。死ぬまでいちゃついてやがれ。閑話休題。

「委員長って呼ぶなと何度言えば・・・。民間人をほいほい軍に組み込める訳無いでしょうが。土俵際からの大逆転は家のお家芸だけどそこまでまだ追い込まれて無いわ。大体、二桁の掛け算も覚束ないあなたに七面倒臭い弾道の計算なんて出来る訳が無いでしょう」
「足し算引き算が出来て、新聞が読めて自分の名前が書ければ世の中渡って行けんだよ。ぶっ放すのは委員長の仕事。俺の仕事は見晴らしが良くてしっかりした足場まで歩いてく事と、近寄ってくる面子の相手だけさ」
 委員長・・・、もとい少尉の挑発じみた言葉に反論せず受け流す曹長。ここは否定する場面だと思うのだが、真逆本当に出来ないのか?

「他力本願なんだか、分を弁えているのか分からない台詞ね。まぁ良いわ。坂が見えてきたわね。番長、斥候として先駆けている「のこ」と、殿で痕跡を警戒している「たま」を呼び戻して。戻ったら街道を逸れて坂の手前で止まって頂戴」との少尉の言葉に曹長は怪訝な顔で聞きなおした。のことたまとは曹長の実家の山にきのこを盗みに入ったコソ泥から巻き上げたダブルソーダとスネークスの事である。ろくすっぽ手入れもせずこき使っていた以前の飼い主から解放された恩返しとばかりに、彼の手足としてせっせと働くかわいい奴らだ。
「ああん? 届け先はあの山だろ? 後一息じゃねぇか。腹の虫がせっつきやがったか? 俺は飯より荷物を基地に届けてひとっ風呂浴びてぇんだが」曹長は顔に似合わず綺麗好きである。小まめに風呂に入れるよう、ぽちことマンモスタンカーの背中に設けられたたま発着用の甲板の隅に横っ腹をそぎ飛ばしたドラム缶とすのこが括り付けてあるほどだ。
「デリカシーという概念すら持っていない田舎者らしい台詞ね。「のこ」に上空からの映像を送って貰いなさい。それを見ても同じことが言える?」

「何? ・・・そういうことか。こりゃ十中八九居ねぇが、居たらしんどいな。俺たちにお座敷が掛かるわけだ」
「相変わらず鋭いのか鈍いのか判断に困る人よね。起こりうる事態を想定して対策を立てるのが私の仕事よ。分かったならさっさと言うとおりにして頂戴」
言われた通りのこに指示を出し、送られてきた映像に目を走らせた曹長は何やら合点が行った様で、指示に従おうとしたが、
「あー、委員長?」「何よ?」「ラージャ(中国語。漢字で了解。朝鮮戦争ごろアメリカに伝わりラジャーの語源となった)と言いたいとこだけどよ。坂の手前で止まっちまったらもろに爪の間合いに入るよな?」「虎のアギトに飛び込むよかマシよ。飛び道具が専門じゃ無いのはお互い様。なら・・・」
「俺の楯と委員長の背びれが物を言うか。ドン亀共は孵ったばっかで頼りにならねぇしな。解った、手間食わせちまったな」


「つか、俺らだけ納得してるだけじゃどうにもなんねぇぜ。ホロボにはのこ経由で俺が連絡しとくから、ドンガメ達にゃ一応委員長から話といてくれや」
 全くである。地の文を書く身にもなって欲しいものだ。
「それもそうね。エンプレス0からトータス1及び2へ。タスク1の左右に展開して方陣を組んで頂戴。」
 エンプレスは少尉の乗るゴルヘックス・シャムのコードであり、タスクは曹長の乗るマンモスタンカーの事である。少々ややこしいがぽちやシャムは名前であり、マンモスタンカーは機種名に当たる。惑星ZIに生きる者達はノリと勢いで魔改造を施すことが多く、似たようなカスタムでも微妙に仕様が異なるため、機種名がそのまま名前になることが珍しくないので一応断っておく。話が逸れた。ホロボとは曹長が自腹を切って雇っている傭兵の相棒であるコマンドウルフ達の事だ。正式なコンビ名では無いのだが曹長が下手に横文字を並べててとだせぇとあだ名を付け其れが定着してしまったのだ。そしてトータスは何の捻りも無くカノントータスの事だが、そのうち奇数番の亀たちを率いるトータス1に乗り込んだズーカ軍曹から少尉へ通信が走った。

「少尉殿、目的地は目の前ですが、如何なさいました? トレーラーに異常は見当たりませんが機体にトラブルでも?」怪訝な顔で聞きなおす彼に少尉は奇妙な答えを返した。
「発生したんじゃないわ。この先に待ち構えているのよ」「は?」
「この先に有る森の中の一本道を山に突き当たるまで進んでから右折すれば、後は滑りやすい山肌に敷かれた葛篭折り状の坂道を登るだけ。折り返しごとにセンサーが埋設されていて奇襲をかけられる恐れは無し。そもそも身を隠す物が無いわ。と言う事は敵が待っているとしたらあの森の中、右側は森の生え際で大型が隠せるスペースが無い以上、敵の本体が居るのは左側よ」

「待ち伏せから挟撃をかけられると言う事ですか。お言葉ですがここは味方の勢力圏ですよ? 第一帝国の所有するゾイドであの山の陣地を迂回出来る機体となるとアイアンコングにレドラー・ヘルキャット位の物です。アイアンコングでは進軍中に哨戒網に発見されている筈ですし、レドラーでは航続距離が足りません。少しばかりのヘルキャットでは例え輜重を襲撃しても生きては帰れません。優勢な帝国軍がやる賭けとしては分が悪すぎます」
 少尉の言葉に偶数番の長たるラコウ軍曹が反論を投げかけた。彼のいう通りZAC2099年8月に始まったこの戦は帝国軍が共和国側の実に3倍に昇る兵力で圧倒。共和国はじりじりと後退させられヘスペリデス湖から曹長達が目指す山脈を防衛ラインとし踏みとどまるのみとなっていた。下手に策を巡らすより力任せに押しつぶした方が、返って帝国としては被害が少なくて済む、その意味では軍曹の意見は正しかった。

「良く勉強しているわね、軍曹。確かに正式に運用されている機種ではその通りよ」「でしたら」
「でもね」―少尉は一旦言葉を切ると
「私のシャムも番長のぽちも正式な機体じゃ無いのよ。なら敵も「出戻り」や新装開店を担ぎ出してきても何の不思議も無いわ」とのたまった。
ここでいう「出戻り」とは旧大戦終了の原因となった大異変からの復興作業に予算を持っていかれ、パイロット達の給料や運営資金に困った軍が戦闘以外に使い道の無いゾイドに無理やり理屈を付けて作業用として払い下げに出した物や、退職金代わりに自分が乗っていたゾイドを連れて帰った物をその子や孫が入隊する時持ち込んだものの事を指す。大半は現在も使われている数打ちだが、曹長や少尉が使っている機体のような掘り出し物も存在する。補修用の部品の生産ラインが僅かに稼働している物の常に品薄であり、シャムこと少尉が使っているゴルヘックスのクリスタルレーダーのように製造技術が失われ現物限りで替えは無いといったケースも珍しくない。
素体となる野生体が確保出来ず搭載されたゾイドコアも高齢化しているが、蓄積された経験と機体性能自体の高さも相まって、今置かれているような局地的な戦場では文字通りの鬼札と化すのだ。

「暗黒軍時代のゾイドはディオハルコンが取れなくなった結果、禁断症状に陥り、ほぼ全滅したと聞いていますが」
「逆に言うと、ディオハルコンを使わなければ良いのよ。「ゼネバスの三つの鉤爪」と謳われた内の二つ、「動く要塞」レッドホーン。「歩く山脈」アイアンコングが確認されている以上、サーベルタイガーが現れるのも時間の問題よ。絶滅した幻獣型を復活させるより、終戦の混乱に乗じて確保しておいたタイガー形素体を養殖して再生産した方が楽でしょうしね。少数の出鱈目な性能のゾイドより、そこそこ強くて信頼性の高い機体を量産すると考えた方が自然だわ」昨日傍受した通信によると大量のレドラーが基地を強襲した後、大した戦果も挙げずに撤退したって話だから、その混乱に紛れて進入されたんじゃ無いかしらと、少尉は続けた。
「取り越し苦労で済めばそれに越した事は無いわ。時間が潰れるだけだもの。分かったら今のうちに決められることは決めちゃいましょう」
「了解しました。ですがこちらの戦力はマンモス・ゴルヘックス・ダブルソーダ・スネークスが各一機に、私とラコウ軍曹が預かっているカノントータスが8。サーベルタイガーを含むヘルキャットの部隊相手ではいささか相性が「うちらの出番ちゅうこっちゃな」」
 一先ず納得し、ではどうするのかを相談しようとしたズーカ軍曹の言葉を、曹長の連絡を受けて無線が届く距離まで引き返してきたコマンドウルフ「ロボ」のパイロットのユーリ・ナニワがさえぎった。曹長に付いていけば少なくとも退屈はしないという理由で推参した西方大陸生まれの何でも屋である。相方で同じくコマンドウルフ「ホロ」を駆るミヤコ・D・フォレストと部隊の前衛を勤めている。カラーリングはロボが燻し銀、ホロがつや消しの黒だ。

「ポンコツ虎やか、よちよち虎やか知らんがうちらと総長はん。子分ののこたまが揃えば一ひねりや」
「・・・あんなぁ、ユーリちゃん。うちらの仕事は荷物の護衛やで? 荷物ほっぽって突撃して良い訳があらへんやろが。そやろ委員長はん」
「だから私は委員長じゃ「やったらどないするんや 委員チョーはん?」――ないと何遍言わせたら「二人とも、その辺にしとけ。又夜中に眼鏡ぎらつかせて包丁しゃーこしゃーこ研ぎ出しちまうだろうが」番長、あなたっ「ほとんど俺のお目付け役と化してるが、一応シズカが上官でこの部隊の責任者なんだからよ。つぅ訳で委員長、説明は任した」・・・・三人とも給料80%カット。昼及び夕食抜き「なあっ!?」思い切り自業自得である。ユーリが曹長のことを総長と呼んでいるのは、かつての彼のやんちゃが西方大陸まで届いていたからだ。てか何をしたんだ己は。

「・・・少尉殿。お気持ちは分かりますが話が進みません。進軍しつつ打ち合わせをしているのです。このままでは坂を登りきり帝国のお家芸たるビーム兵器の射線に晒されてしまいます。一先ず本題に戻っていただけませんか」
「軍曹、あなたも番長たちの色に染まってきたわね。唯でさえ突っ込み要員が少ないっていうのに。これ以上ぼけ倒されても対処しきれないわ。そこん所理解するのよ、良いわね3人とも「あいよ」「合点や」「はいなー」・・・返事だけは良いのよね」こうしてますます少尉の眉間の皺が深くなっていく。

「軍曹が言いかけてた通り、森の中の一本道を進んでる最中に挟み撃ちを食らったらまずアウトよ。例え勝てたとしてもずたぼろで積荷も無事じゃ済まないわ。だから」少尉はユーリ達を見ると、「あなた達、引っ張り出してきて頂戴。」

「文字通り虎穴に飛び込めっちゅう訳やな」
「居る可能性自体は少ないのよ。取り越し苦労ですめばそれに越したことは無いけど、積荷が積荷だしね。これが届けることが出来なかったら前線を駆けずり回っているボーグマンのおじ様に申し訳が立たないわ」
「おったら、適当に相手した後一目散に逃げ帰ってきたらええんですな?」
「ええ、出てくるなら良し。出てこなくても起動してコアが温まったならレーダーに引っかかるわ。居場所さえ分かれば後は飛び出てくるか反応が無くなるまで撃ち続けるまでよ。危険手当は・・・」少尉はぽちぽちと電卓を弄くると、「この位でどうかしら? 居なかった時は0が二つ減るけどね」目の玉の飛び出る程ではないが、ぽんと出すには抵抗のある額を提示した。贅沢と無駄は違う、高級品を最後まで使い切り、必要な時は惜しまず使うのが本当の金持ちというのが彼女の持論である。

「悪くない額やな。総長はん、のこたまを貸してくれへん?」
「のこは兎も角、たまは勘弁してくれ。仕留めきれねぇで回り込まれた時困るんでな。んで委員長は何時もの指定席か?」
「そうなるわね。普段は過保護すぎて恥ずかしいけど、こういう時は有り難いわね。トレーラーを切り離してる暇は無いからスロープも展開して頂戴」
あいよと返事をするが早いか、マンモスが牽引しているトレーラーの先頭車両が車体部を残して横長の絵本を開くように姿を変え始めた。
曹長の駆るマンモスタンカーはL型だけあってグスタフより一両多い三両のトレーラーを引くことが出来る。だが荷物が搭載されているのは後半の二つだけ、先頭のは少尉のシャムの専用CP[ミサイルキャリア]だからだ。三相構造になった車両の一番外側はミサイルランチャー、二層目は防弾壁。三層目は古傷により本来の性能を発揮できないクリスタルアンテナを補うためのアンプと共和国らしい機能特化型な装備である。
これにより連結状態の本機(形式名マンモスチャリオット)は「瞬間最大火力」でならLLバスターキャノンを積んだ現行の兄弟機達と互角以上に渡り合うことが出来るようになったのだ。余談だがこれは軍の支給品ではなく少尉の父親(元大佐)が自腹を切った特注品である(本来は二両編成だが台所や寝室が搭載された二号車は即座に叩き返された。だって旦那、目ぇ潰れそうなまっピンク色のハートでフリフリでカボチャな物体ですぜ。一号車にも幼いころの少尉の肖像があちこちに描かれているが羞恥心と能力を天秤に掛けたら辛うじて能力が勝ったようだ) 。目から怪光線を出しそうな形相で「何かあったら命に変えても守れ」と凄む父親に曹長は「何当たり前の事言ってんだこのおっさんは?」といった顔でしばし考え込んだ後、ぽんと手を叩くと「指一本、触れさせやしねぇ。きっちり家(少尉の実家まで)までつれて帰るさ」と答えたという。聞いた途端暴走した父親と大乱闘をおっぱじめ、同じく完全にフリーズした少尉が我に帰るまで誰にも止められなかったそうな。閑話休題。

「さて鬼が出るか、出るか蛇が出るか。自分で言い出したか二つ返事で引き受けたんだか知ら無ぇが、どっちにしろ線切れだ。楽しませてくれよ? 期待外れだった時にゃ委員長のマフラーにしちまうぜ」シャムがスロープを登る関係上、坂の手前でぽちを仁王立ちさせた曹長は嘯いた。その瞬間森の奥で何かが光を反射した。

 一年近くたってしまいましたが、続きと言うか改訂版です。

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from: たかひら鶉さん

2008年12月18日 16時03分11秒

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「ゾイドリバースセンチュリー・実験的掌編小説」
 ふしゅる
 と白い息を吐いて、ドラゴンホースは立ち止まる。
 羽毛に覆われた首筋をめぐらせると、背中で主人が舌打ちを漏らした。
 削られたというよりはハンマーで叩き出された破片に近い。ドラゴンホースが見上げたのは、そんな岩肌が幾重にも連なって形成する凶暴な傾斜であった。それこそ彼の足が無ければ見回りもままならない、天然の城壁に三方を囲まれた集落が彼の主人たちの住処である。
 集落を挟んでほぼ真正面、崖の合間を縫って西に伸びる一本道だけが、外界と集落を結んでいる。

 生業は人狩りである。
 このドラゴンホースもまた、集落の外で子供を追い回す手伝いをしたことがある。人いきれに満ちた幌付の荷台を引いて西の道を通ったこともある。

 だから、彼は足を止めた。
 ドラゴンホースは知っている。
 この場所で、

 自 分 た ち 以 外 に

 動 く も の が あ っ て は

 な ら な い は ず だ

 ということを。

 切り立った岩肌は不規則な鋸だ。
 その歯と歯の間に湛えられていた闇が、いま、波打つように蠢いていた。
 ふしゅるふしゅる
 ドラゴンホースの鼻息が荒くなるが、主人は踵の拍車で先に進めと脇腹を蹴りつけるばかりである。
 闇はこんもりと盛り上がり、か細く節くれた腕をかざした。それはドラゴンホースの目には、ひどく暢気に両手を振っているように見えたかもしれない。闇はやがて長い腕を折りたたむと、鋭く尖ったその先端を左右の岩肌に突き立てて全身を揺すり上げたのであった。
 ふしゅるふしゅるふしゅる
 ドラゴンホースが踵を返し、元来た道へ取って返そうとするので主人はいよいよ怒り狂う。
 握り締めた手綱を酒焼けした顎の下まで引っ張り、唾を飛ばして跳ね上げた怒鳴り声が、しかし山裾にこだまする事は無かった。それを十二分にねじ伏せるだけの轟音と衝撃波を帯びた何かが、彼らの背後の岩肌に叩き込まれたからである。
 舞い上がる礫、土気色の噴煙。
 もっともドラゴンホースは見ていた。のっぺりとしたその全身をいよいよ浮き上がらせた闇が、その背中から1本の槍を伸ばしつつあったことを。ろくに陽も差していないというのに、その先端がちかりと光を帯びたことを。
 主人は首の周りにしがみついてぶるぶる震えている。背中に生ぬるい液体が伝っていくのを感じたかどうかはわからないが、兎にも角にもドラゴンホースは地を蹴った。
 鳴き声もあげず、首を胴に対して垂直になるまで下げ、足元を舐めるようにして岩肌を駆ける。ぽっかりと開いた窪みに飛び込んだその直後、熱を帯びた鉄の塊が頭上を掠めていった。彼は再び頭をもたげると、その出処へ目をやる。主人が仕事終わりに喫する一服にも似た、細い煙がゆるりと棚引いているのが見える。
 すでに岩陰より脱した闇の姿は、鉄に鎧われた蜘蛛のそれであった。
 煙はその背に負われた、火を吹く長槍の円い先端から伸びていた。さきほど谷間からのぞかせた細い腕は計8本、鉤爪のように折れ曲がり先端を岩肌へ突き立て、小山のような胴体を僅かに浮き上がらせている。
 ふしゅるふしゅるふしゅるふしゅる
 ドラゴンホースは周囲に視線をめぐらせる。

 集落   守    
    を   る、  峻険     鋸    峰峰 
               たる    の      、

 そ   の   歯 
   と   歯 
     の  
     間

     に


     落



     ち



     た


      
    の 中 
   か   ら

     染  み  出  し た 

 無数  の それら 

              音  も  無  く

         岩肌    

              を  

                    踏破
    
                          す べ て  

 同型  の   
     
             濃緑  

         に 

            身   を  染   め

 鉄 の 蜘 蛛 た ち が 近 づ い て く る  !!

 蜘蛛たちの尻から生えた九本目の足が、深々と岩肌へ突き刺さる。
 それが砲撃戦における衝撃を制動するためのチタンスパイクと呼ばれる部位であることも、宙を撫でて穂先を揃えた火を吹く槍が高速カノン砲と呼ばれる兵器であることも、そしてそれを背負う鉄の蜘蛛たちがエクスグランチュラと称されていることも、ドラゴンホースは知らない。
 これから彼らの集落が戦場になるのだという、いままで何回も嗅いだ匂いを反芻するだけである。
 
 ふしゅるふしゅるふしゅるふしゅるふしゅる

 だが、そのとき、ドラゴンホースの双眸を見たものは誰もいない。
 ようやっと鞍から上げた顔いっぱいに絶望を塗りたくった主人も、装甲化されたキャノピーの下でコンソールの弾き出した弾道計算と睨み合っているパイロットも、誰ひとりとして彼の目の色を伺いなどしなかったのである。
 そこに世紀を跨いで乱痴気騒ぎを繰り返す人間たちを――そして再び戦場へたたき返されていく哀れな戦闘機械獣どもを――嘲り笑う光など宿りはしなかったと、誰が断言できよう?


 クケェーーーーーーーーー――――――――――――――!

 ただ一声、ドラゴンホースは空を仰いで甲高く鳴いた。
 鉄の蜘蛛たちが砲撃を始めたのはほぼ同時である。
 主人は尻を打たれたように飛び上がると、鞍を蹴りつけてその場から逃げ出した。窪みのへりに足を取られ、岩肌に打ち付けた額を抱えて立ち上がる。その時には既に蜘蛛の1匹が、その姿をガンサイトに収めていた。キャノピーの真横に据え付けられていた小型の武器が、そこだけ別の生き物と化して頭を巡らせる。間隙なく続いた銃声の中、主人は奇妙な姿勢で岩肌を跳ね、宙に半ば縫い付けられてステップを踏んだ後、その上半身を血煙とともに消滅させた。
 火を噴く槍を背負った蜘蛛たちは、9本目の足を引き抜いて後退する。入れ替わるようにして現れた蜘蛛たちは、大きな箱を両の脇腹に抱えていた。幾度か運ばされた幌付の荷台に似た匂いをドラゴンホースは嗅ぎ、8本の足が激しい起伏を捉えて突き進んでいくのを間近で見た。
 すり鉢の底に似た集落からは火の手が上がり、蜘蛛の脇腹から銃を抱えた男たちが飛び出していく。

 不穏分子の鎮圧。
 大異変から1年が経った今ではなんら珍しくも無い任務ではあったが、再隆起に伴う地形の変化が困難にしていた。小型機の基準を超えたペイロードと火器管制能力を持つエクスグランチュラの導入が、渡りに船だったことに変わりは無い。

 突入支援の砲撃を開始する直前、エクスグランチュラのパイロットは甲高い鳴き声のようなものを聞いた気がした。岩陰から飛び出してきた何かを思わず撃ってしまったと震える僚機の若造を宥めた彼は、兵員輸送コンテナを積んだ制圧部隊が集落に下っていくのを見送った後、あたりを探索してみることにした。
 パニックになられても面倒なので、若造は機体に残していく。何を見つけてもキツネモドキだったと答えるつもりだったが、案の定転がっていたのは男の下半身だった。何かの前衛芸術のように飛び散った赤黒い血飛沫の中、臓物は細切れを通り越して跡形もなく溶け込んでいた。腰から上を綺麗に噛みちぎった対人ガトリングの威力に、彼は口笛を吹くほかなかった。
 首筋がむず痒い。どこかから見られているような気がして、早々に立ち去ることにした。
 彼と若造が人狩りの集落へ入るのに、それから半日とかからなかっただろう。制圧部隊は掃討自体よりも、そいつらに捕まって売り飛ばされかけていた近隣集落の女子供の保護と、撃ち殺した人狩りどもの処理に手間を食っていたようだった。
 集落までエクスグランチュラで乗りつけ、ベースキャンプで飯を食っていると、若造が先ほどの狼狽ぶりなど嘘のような笑みを湛えてやってきた。誘われるがままに外へ出ると、そこには1匹のドラゴンホースがいた。
 そこの納屋で飼われてたみたいで、すごく大人しいんですよ。置いてけぼりにするのも気が引けるし、連れて帰ってやりたいんですけど。

 ふしゅる

 若造の隣で、ドラゴンホースは他人事のような顔をしてそっぽを見ている。

 〜了〜


 ゾイド実験情景小説
 越 え て き た も の
 〜ドラゴンホースVSエクスグランチュラ〜

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from: たかひら鶉さん

2008年06月30日 00時15分47秒

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「ハウリングレスフィールド」
 今日はとことん厄日だ、とイブラ少尉は思う。

 ――ZAC2110晩秋のニクス、
 ゲフィオンの高く険しい山稜が見下ろすヴァーヌ平原。

 散発的に明滅するマズルフラッシュは、装甲耐久試験用に持ち込まれた武装のものではない。
 ターゲットもまた然りだ。コンソールの照合結果を信用するならキメラブロックスのシェルカーン型ということになるが、倍近く膨れ上がった体躯といい、そこから突き出した無数の砲塔といい、かの原型は共食いに告ぐ共食いでほぼ失われてしまっている。このシェルカーンを筆頭に十数匹からなるキメラ群の襲撃に、輸送業者からの救難信号を受け、付近でテストを行っていたイブラの部隊が着の身着のまま駆けつけた、という次第だ。
 ガイロス帝国機動陸軍兵器開発師団、第03実験中隊という。
「呆れた!」
 ケルトシュタイナー中佐が駆る隊長機がシェルカーンに当たり、イブラ少尉はグスタフの周りを飛び交っていたフライシザースを牽制にかかった。幌を被ったカーゴの積荷はもちろん、四散した破片それ自体が被害を及ぼすからキメラに当てるわけにもいかない。
 故に求められる手段――針に糸を通すような隙間への精密射撃に、しかしイブラの駆るゾイドは難なく応じて見せた。
 ゾイド?
 これをゾイドと呼ぶのかと、イブラは思う。
 東方大陸のZOITECから試験的に導入したブロックス、個体名はレオストライカー。背部に増設されたヤクトユニットが、そこから伸びたスナイパーライフルの矛先をミリ単位で調整する。それと同時に、コクピットの正面モニターにロックオンを告げるサインが点滅。
 1回。2回。
 イブラの人差し指がトリガーを引くだけで、フライシザースの群れは蜘蛛の子を散らすようにカーゴから離れた。高官が提出された書類に判を押すのは、たぶんこんな感覚ではないだろうか。グスタフが足回りから土煙を上げて急加速するのを見送りながら、イブラはふとそんなことを考えた。
 ケルトシュタイナー中佐へ回線を開く。
「こちらミッド2。グスタフの離脱を確認、キメラ掃討に移ります」
『ミッド1、了解だ』
「今日び護衛のゾイドもつけないなんて、我らがニクスはずいぶん平和になったものですね」
 しっかり添えた悪態に、スピーカーの向こうからも苦笑が漏れる。
『よほどシートの座り心地が悪いみたいだな少尉。お尻の形が崩れないように、あとでマッサージでもしてやろうか? ん?』
 びきり。全身の関節という関節が音を立てて固まった。
 首筋からせり上がってくる熱を唾と一緒に飲み下したイブラは、「結構です!」と大声で撥ね付けるのが精一杯だった。
『その意気だ。一気にたたむぞ、援護を請う』
「……ミッド2……りょう、かい、です!」
 声を叩き返すと、ケルトシュタイナーはからから笑って回線を切った。
 全くもって心臓に悪い上官だ。
 ああもチャランポランな返事をしておいて、しっかりこちらの心中は見透かしているのだから性質が悪い。確かにグスタフの事ばかりが、この不機嫌の理由ではないのだから。
 イブラはレオストライカーを発進させる。通信の合間に叩き落したフライシザーズの残骸には、一瞥もくれることはなかった。

 ケルトシュタイナーの駆る実験機――今回のテストスケジュール自体が、この機体のために組まれたものだった――は、肥大したシェルカーンの周りを円を描くように走り回っている。イブラがグスタフを逃がすまでの間、付かず離れずで引き付けておいてくれたのだ。
 シェルカーンを中心にその半径を広げては狭め、狭めては広げを繰り返して巧みに攻撃を回避する。白い四足獣型の動きは、人工コアを積んでいるとは思えないほど活き活きしたものだ。
 援護射撃に入るイブラの舌に、ふと「タイガードライバー、」という単語が弾けて消えた。
 接敵して驚いたのは、このキメラの一団に明確な指揮官機が存在しなかったことだ。にも拘らず、実際はシェルカーンを守るようにフライシザースが飛び交い、逃げ回るケルトシュタイナー機の足を止めようと果敢にアタックをかけてきている。それを1機ずつ、今度は確実に射落としながら、人の手を離れて随分になるのかもしれないとイブラは想像した。
 大異変直後ではないにせよ、不安定な情勢下に機を見て蜂起する暴徒が後を絶たない。資力戦力に乏しい彼らが頼るのが、中央大陸のシンジケートを介して入手できるキメラタイプだ。セオリーどおりに指揮機を介して運用してくれれば始末もしやすいのだが、制御の甘い廉価な改修キットに手を出した成れの果てか、このように野生化して誰の手にも負えなくなってしまうことがままあった。

 が、それは現状の説明でしかない。
 シートの座り心地の悪さは、もっと別のところから来ているとイブラは思う。
 キメラ、そしてブロックス。
 心胆震わすほどのゾイドの咆哮は、この戦場に一抹たりとも存在しないのだ。

 数を減らしたフライシザースたちが、わずかにシェルカーンから遠のいた。群れのボスではあっても、死守すべきほどの存在ではないのかもしれない。
『仕掛けるぞ、イブラ』
「了解」
 すかさず照準をシェルカーンの足元に合わせ、両翼のミサイルポッドを一斉射。緑色の巨体が動きを止めたところへ、ケルトシュタイナーの白い機体が接近した。全身をわずかに沈めたのもつかの間、後ろ足でストロークに押し出す。振りかざした前足の爪は、吸い込まれるようにシェルカーンの半身を抉り、赤熱させた。
 そのまま一気に駆け抜ける。溶断されたシェルカーンの半身が、崩れ落ちた。
 ストライク・レーザー・クロー。
 熱に揺らぐ大気の向こう、白い四足獣がむくりと身を起こすのを確かめたイブラはレーダーに眼を移した。息を呑む。遠ざかっていた6つの赤い光点がターンし、ケルトシュタイナー機めがけて急接近していた。
「中佐!」
 近接格闘の最強兵装と謳われるストライク・レーザー・クローも、放つ際にフレームにかかる負荷、それに伴う立ち上がりの悪さという弱点を抱えている。今ごろテスト機の中ではバランサーが唸りを上げて四肢の重量モーメントを調整していることだろう。
 だが、それでは間に合わない。
 イブラはレオストライカーを走らせる。スロットルを開きながら、増設されたヤクトユニットとスナイパーライフルをパージ。射角だけをマニュアルで調整して、マルチプルキャノンを2発続けざまに放った。めくら撃ちもいいところだ。
 それなりの場数を踏んできたらしいフライシザースは、銃口のきらめきとともに直線的なビームの軌道も読んだらしい。翼で宙を打って回避行動をとる間に、イブラはその後ろへ機体を回りこませた。FCSを首の両脇にあるポッドに合わせ、放つ。白い尾を引く6発のミサイルが、巨人の掌のように宙で広がった。次々とフライシザースに突き刺さりその赤い装甲をひしゃげさせたが、爆発の光と煙が広がり、それすらも真っ白に覆い隠した。
 レオストライカーのコクピットで、イブラはほぅと息をつく。
「中さ――」『上だ、イブラ!』
 回線越しの張り詰めた声と、警告の発振音がコクピットに響き渡ったのは同時だった。

 そこからの永遠とも取れる数秒間を、彼女は決して忘れることはないだろう。
 レーダーには敵の存在を告げるマーカーがまだ、ひとつ。レーダーの中心点――レオストライカーの頭上に重なって点灯しているのを見て、イブラは絶句した。
 コクピットに影が差す。未だ宙にわだかまる白煙をその一対の顎で切り裂き、1匹のフライシザースが躍り出たのだ。直上、翼をたたみ急降下してくる。顎の間の銃口が、冴えた陽光を反射してぎらりと輝き、その奥に蓄えられた闇をイブラの両目と結びつけた。
『止まるな、走れ!』
 中佐の叱咤が凍りついた思考の枝葉を蹴飛ばしてくれなければ、彼女はこのままコクピットの中で絶命していたに違いなかった。吼えるような彼の声に、イブラはレバーを握る掌の感触を取り戻すことができたのだ。スロットルを一気に開くのと、ケルトシュタイナー機の後ろ足が大地を蹴りつけるのは同時だった。フライシザースに覆いかぶさるようにして、四肢を伸ばした獣の巨大な影がコクピットを覆った。頭上でマズルフラッシュが閃こうが、装甲を弾丸が掠めようが、イブラはレバーをけして離さなかった。頬の裏の肉をかみ締めながら、駆け抜ける。
 次の瞬間、雲間からさす陽光にも似た電光が走った。中佐機の放つ2度目のストライク・レーザー・クロー。上空からのダイビングアタックでフライシザースのキメラコアが打ち砕かれたとき、イブラの目は再びレーダーに見開かれていた。

 ――残存兵力、1。

「何処!?」
 レオストライカーの鼻先をマーカーの方向へ向けたイブラは、崩れ落ちていたはずのシェルカーンの頭部が、微かに動くのを見た。双眸から漏れる紫の光。コアがまだ生きているのかという驚愕よりも、その背中から伸びた1本の砲塔がケルトシュタイナー機に向けられているのに、イブラは今いちど戦慄することになった。
 レオストライカーのFCSが、最適兵装たるマルチプルキャノンを示唆する。
 中佐の白い機体が変にゆっくりとした速度で落下しているのが見える。
 その動きに従って、照準を定めるシェルカーンの砲。その先端に光が灯る。
 垂直で落下してくるゾイドは的でしかない、という戦技教官の言葉が脳裏にこだましたとき、再びケルトシュタイナーの声が耳を打った。

『イブラ少尉。自分の、ゾイドを、信じろ』

 刹那。
 腹を揺さぶるほどの轟音が、上空にこだました。
 コクピットに呼び戻されたイブラは、何かに背中を押されるようにトリガーを引く。
 光条ふたつ。大気を裂いた。
 そのひとつがシェルカーンのキメラコアを灼く。
 レオストライカーの上空で、白い獅子がくるりと舞った。
 白い煙が、風に乗って流れていた。

   *   *   *

「何もそんなに怒る事ねぇじゃねぇか」
「だっ、あ、もう、くっ……!」
 無造作に伸ばした癖のある黒髪をぼりぼり掻きながら、ケルトシュタイナーは口を尖らせた。
 イブラはイブラでうまく舌に言葉が乗らず、色んな物が前のめっているのをどうしようもできない状態だ。それでも言わんとしている所は心得ているらしく、中佐はタバコの煙で器用に輪を作ってから、顎をしゃくってハンガーを示した。
 第03実験中隊がトレーラーで移送してきた組み上げ式ハンガーの下、ライトに照らされて浮かび上がるテスト機。その腹の下に据え付けられている3連衝撃砲の口が、黒く煤けていた。
「あの時めくらでぶっ放したのさ。反動で落下軌道をそらして、機体の向きを変えるためにな」
 対ゾイド戦兵装が主流化する、そのはるか昔から城砦攻略用に使われていた装備である。ただでさえ四本の足で支えた状態でなければ撃てないものだけに、その反動たるや押して知るべしといったところか。
 とは言えそれはそれ、種明かしをされれば、ますます憤りがよみがえるイブラだった。
「それならそうと早く言ってくださいよ! もう!」
「言ってる暇がないだろ、あの場合」
「う……」
 ぐっとつまった彼女の頭を、ケルトシュタイナーの手はごしごしと撫でた。
 乱暴だが暖かい。こんな上官でも、もうしばらくはその背中を追ってみたいと思う。今日改めてその気持ちが強くなったのを自覚すると同時に、あらゆる糸が一斉にほぐれたような安堵が涙腺のあたりにわだかまり始めた。
 それを悟られないように、イブラは顔を伏せてつぶやいた。
「……手袋、はずしてくださいよ」
「……臭ぇぞ。いいのか」
「愚問でした」
 からからと笑いながら、ケルトシュタイナーはコーヒーを渡してくれた。
 駐機ハンガーの下にはテントが張られ、ZOITECや機動陸軍のエンジニアたちが行ったり来たりしている。その片隅で手の空いた連中が囲んでいるのは、キメラに襲われたあのグスタフだった。
「次のエリアで、基地のモルガを護衛につけるそうだ」
 冬が来れば、ヴァーヌ平野は雪と泥に閉ざされる。それまでに仕事を片付けてしまいたい運び屋がわんさといれば、護衛をするものの手が足りなくなるのも必然といえた。
「無事に着くといいですね」
「なんだ、コクピットじゃずいぶんとお冠だったくせに」
「う……」
 いちいち痛いところばかり突いてくる人だ。
「タイガードライバーって、本当に性格悪い人ばっかりなんですね」
「俺がお尻を揉んでやった女も、みんなそう言ってたぜ」
「誰もがそうとは限りませんよ」
 ピシャリと言い放ったイブラは、ついでに腰の辺りに擦り寄ってくるケルトシュタイナーの手の甲も軽くひっぱたいておいた。「まだまだお堅いねぇ」と手首をぷらぷらさせて顔をしかめる彼に少しだけ噴き出しそうになったが、イブラにはその前に尋ねておきたいことがある。
「中佐、」
「ん?」
 ケルトシュタイナーは気の抜けた声とともに顔を上げた。
 白い獣は四肢を踏みしめ、レオストライカーともども鼻先を月に向けている。
「あの時言った、『自分のゾイドを信じろ』って……」
「ああ、それな」
 ん、と意味深に眉根を寄せながら、中佐は続けた。
「あの時は咄嗟だったから、俺も何がなんだか」
 イブラの全身から力が抜ける。
 いかにも文句の言いたげな顔を読み取ったのか、中佐の口元が意地悪げにつりあがった。
「ただ、そうだな……もうひとつだけ、種明かしをしておこうか」
「はい?」
 呆気にとられるイブラを尻目に立ち上がったケルトシュタイナーは、彼女の耳元にぐいと顔を寄せると、内緒話のように囁いたのだった。
「あの時な。衝撃砲撃ったの、俺じゃねぇんだわ」
「え……ビークが、ですか?」
 テスト機に搭載されている、帝国製人工知能の名前をイブラは思い出す。
「人工知能ってのもバカにできねぇな。俺もタイガードライバーなんて名乗っちゃいるが、まだまだ修行がたりねぇよ。コンマ1秒とは言え、思ったことを先にやられちゃ、な」
 ふん、と漏らしたケルトシュタイナーの鼻息が、イブラの耳たぶを無造作に掠める。
「俺はゾイド乗りったって、セイバータイガーしか知らない虎バカでよ。だからずーっと追いかけっこさ。同僚とも、自分の相棒とも。それができる相手と巡り遭うってのは、楽しいけど、怖ぇな」
 彼の横顔は影になっていてよく見えなかったが、それでも口元が何かを封じ込めるようにぎゅっと結ばれているのだけはわかった。
「中佐ぁー」
 遠くから、なじみの整備兵が声をかけてくる。ふたりがそろって振り返ると、彼の隣に立ったふたつの人影が深々と頭を下げているのが見えた。中年の男と女。その手前には男の子もいる。グスタフに乗っていた民間業者だ。
「このちびっ子、中佐の機体が見てみたいんですって」
「ほほう、こいつぁ軍法会議覚悟で来たなぁ少年」
 巌のように閉ざされていた中佐の口が、嘘のようににっと白い歯を見せた。
「いいんですか? 正式なロールアウトは……」
「構うこたねぇよ。どうせ実戦には出ない機体だしな」
 そう言うや否や、ケルトシュタイナーはイブラの頭を軽く押しのけてずかずかと行ってしまった。
 男の子の顔がぱっと華やぎ、一丁前に敬礼をかざして見せる。自分のお尻は当分出番がないだろうな、と小さく笑ったイブラは、ジャケットを羽織った中佐の背中を見送り、その先にあるレオストライカーの横顔を睨んだ。
 イブラは戦争を知らない軍人だ。
 けれでもゾイドに乗り続ける限り、戦うべき敵はいる。
 それに相応しい相手を見定めるのが、自分と、第03実験中隊の仕事なのだ。

「こいつな、インフィニティ・レオってんだ!」

 少年を勢いよく肩車した中佐は、白い機体を見上げて笑っている。

CAST:
イブラ少尉
ケルトシュタイナー中佐
整備兵
グスタフの一家

レオストライカー
グスタフ
シェルカーン
フライシザース

and…

Infinity Leo (Special Thanks to RYO)




END

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from: 堀田功志さん

2008年06月27日 18時05分52秒

icon

「背びれ耳輸送隊道中記 前編 潜む虎」
 ここは北エウロパ大陸のロブ平野。ミューズ森林地帯の北端を抜けてレッドラストとの境に位置する山々に続く街道を、トレーラーを牽き左右にカノントータスを従え進む改造マンモスの姿があった。
「確かに、悪か無ぇのかも知れねえなぁ」
 コクピットで40センチ近い長煙管をふかしつつしみじみしているのが本編の主人公、ヨウスケ・フジノ曹長だ。着崩した軍服の下にはさらしと刺青が覗き、頭は志願した時刈り取られ意地で伸ばしたほつれ気味のリーゼントとどこに出しても恥ずかしい山出しの田舎物である。
「うっせー、誰がいなかもんだ。誰が!!」
 こらこら、地の文に突っ込む奴があるか。
「うるさいわよ、番長。頭に虫でも湧いたの?」
 後続しているゴルヘックスから無線越しに騒いでいる曹長に声をかけたのは、彼の上官であり最近眉間のしわが消えなくなってきたと悩んでいるシズカ・ガンマ少尉。曹長とは士官学校の同期であり、その頃から彼の問題児的行動に悩まされてきたのだ。こう見えても良い所のお嬢様だというのに最近小姑じみてきたと評判で・・・ご愁傷様である。
「今すぐその薄汚い口を閉じなさい。脳漿ぶちまけるわよ」
 だから地の文に突っ込みを入れるのはやめいと。見えないはずの私の額に銃口を突きつけている辺り彼にかなり毒されているようだ。

「おめーだって、騒いでるじゃねーか。委員長さんよ」
「委員長って呼ぶな!! はー、なんで学校出てまで山猿と組まなきゃならないのよ。本当なら順調に参謀としての道を歩んでるはずだったのに、やってることはこんなどさ回り・・・・」
「喧嘩は会議室で起こるんじゃねー、現場で起こってるんだってぇ名言を知らねぇのかよ、いいんちょー? それを言うなら俺だってゴジュラスと肩並べて砲弾の雨を降らせたかったんだぜ? 噂じゃゴジュラスが足りなくて軍が困ってるてぇ話だったからポチを連れてきゃとんとん拍子で出世できるはずだったのによ」
 ちなみにポチとは彼が乗っているマンモスの名前である。犬かよと突っ込むと切れるので注意が必要だ。何故なら彼ではなく以前の主である彼の祖母の命名だからだ。だからといって彼のネーミングセンスが言い訳ではないが・・・。後になれば分かることなのでここでは割愛する。にしても交わす言葉の割りに険悪なムードは漂っていない。当人達からすればじゃれ合っている様な物なのだろう。けっ、このバカップルが。死ぬまでいちゃついてやがれ。閑話休題。

「いいんちょーって呼ぶなと何度言えば・・・。民間人をほいほい軍に組み込める訳無いでしょうが。土俵際からの大逆転は家のお家芸だけどそこまでまだ追い込まれて無いわ。大体、二桁の掛け算も覚束ないあなたに七面倒臭い弾道の計算なんて出来る訳が無いでしょう」
「足し算引き算が出来て、新聞が読めて自分の名前が書ければ世の中渡って行けんだよ。ぶっ放すのは委員長の仕事。俺の仕事は見晴らしが良くてしっかりした足場まで歩いてく事と、近寄ってくる面子の相手だけさ」
 委員長・・・、もとい少尉の挑発じみた言葉に反論せず受け流す曹長。ここは否定する場面だと思うのだが、真逆本当に出来ないのか?

「他力本願なんだか、分を弁えているのか分からない台詞ね。まぁ良いわ。坂が見えてきたわね。番長、斥候として先駆けている「のこ」と、殿で痕跡を警戒している「たま」を呼び戻して。戻ったら街道を逸れて坂の手前で止まって頂戴」との少尉の言葉に曹長は怪訝な顔で聞きなおした。のことたまとは曹長の実家の山にきのこを盗みに入ったコソ泥から巻き上げたダブルソーダとスネークスの事である。ろくすっぽ手入れもせずこき使っていた以前の飼い主から解放された恩返しとばかりに、彼の手足としてせっせと働くかわいい奴らだ。
「ああん? 届け先はあの山だろ? 後一息じゃねぇか。腹の虫がせっつきやがったか? 俺は飯より荷物を基地に届けてひとっ風呂浴びてぇんだが」曹長は顔に似合わず綺麗好きである。小まめに風呂に入れるよう、ぽちことマンモスタンカーの背中に設けられたたま発着用の甲板の隅に横っ腹をそぎ飛ばしたドラム缶とすのこが括り付けてあるほどだ。
「デリカシーという概念すら持っていない田舎者らしい台詞ね。「のこ」に上空からの映像を送って貰いなさい。それを見ても同じことが言える?」

「何? ・・・そういうことか。こりゃ十中八九居ねぇが、居たらしんどいな。俺たちにお座敷が掛かるわけだ」
「相変わらず鋭いのか鈍いのか判断に困る人よね。起こりうる事態を想定して対策を立てるのが私の仕事よ。分かったならさっさと言うとおりにして頂戴」
言われた通りのこに指示を出し、送られてきた映像に目を走らせた曹長は何やら合点が行った様で、指示に従おうとしたが、
「あー、委員長?」「何よ?」「ラージャ(中国語。漢字で了解。朝鮮戦争ごろアメリカに伝わりラジャーの語源となった)と言いたいとこだが、曲がろうにも両脇の大名行列を何とかして貰わねぇと身動きが取れねぇ」「あ」何とも締まらない面子である。

「つか、俺らだけ納得してるだけじゃ一から十まで指図しなきゃならねぇぜ。ホロボにはのこ経由で俺が連絡しとくから、ドンガメ達にゃいいんちょーから話といてくれや」
「それもそうね。エンプレス0からトータス1及び2へ。タスク1が進路を変更するので部隊を連れて離れて頂戴。」
 エンプレスは少尉の乗るゴルヘックス・シャムのコードであり、タスクは曹長の乗るマンモスタンカーの事である。少々ややこしいがぽちやシャムは名前であり、マンモスタンカーは機種名に当たる。惑星ZIに生きる者達はノリと勢いで魔改造を施すことが多く、似たようなカスタムでも微妙に仕様が異なるため、機種名がそのまま名前になることが珍しくないので一応断っておく。話が逸れた。ホロボとは曹長が自腹を切って雇っている傭兵の相棒であるコマンドウルフ達の事だ。正式なコンビ名では無いのだが曹長が下手に横文字を並べててとだせぇとあだ名を付け其れが定着してしまったのだ。そしてトータスは何の捻りも無くカノントータスの事だが、そのうち奇数番の亀たちを率いるトータス1に乗り込んだズーカ軍曹から少尉へ通信が走った。

「少尉殿、目的地は目の前ですが、如何なさいました? トレーラーに異常は見当たりませんが機体にトラブルでも?」怪訝な顔で聞きなおす彼に少尉は奇妙な答えを返した。
「発生したんじゃないわ。この先に待ち構えているのよ」「は?」
「この先に有る森の中の一本道を山に突き当たるまで進んでから右折すれば、後は滑りやすい山肌に敷かれた葛篭折り状の坂道を登るだけ。折り返しごとにセンサーが埋設されていて奇襲をかけるのは無理。そもそも身を隠す物が無いわ。と言う事は敵が待っているとしたらあの森の中、右側は森の生え際で大型が隠せるスペースが無い以上、敵の本体が居るのは左側よ」

「待ち伏せから挟撃をかけられると言う事ですか。お言葉ですがここは味方の勢力圏ですよ? 第一帝国の所有するゾイドであの山の陣地を迂回出来る機体となるとアイアンコングにレドラー・ヘルキャット位の物です。アイアンコングでは進軍中に哨戒網に発見されている筈ですし、レドラーでは航続距離が足りません。少しばかりのヘルキャットでは例え輜重を襲撃しても生きては帰れません。優勢な帝国軍がやるには分が悪すぎます」
 少尉の言葉に偶数番の長たるラコウ軍曹が反論を投げかけた。彼のいう通りZAC2099年8月に始まったこの戦は帝国軍が共和国の実に3倍に昇る兵力で圧倒。共和国はじりじりと後退させられヘスペリデス湖から曹長達が目指す山脈を防衛ラインとし踏みとどまるのみとなっていた。下手に策を巡らすより力任せに押しつぶした方が、返って帝国としては被害が少なくて済む、その意味では軍曹の意見は正しかった。

「良く勉強しているわね、軍曹。確かに正式に運用されている機種ではその通りよ」「でしたら」
「でもね」―少尉は一旦言葉を切ると
「私のシャムも番長のぽちも正式な機体じゃ無いのよ。なら敵も「出戻り」や新装開店を担ぎ出してきても何の不思議も無いわ」とのたまった。
ここでいう「出戻り」とは旧大戦終了の原因となった大異変からの復興作業に予算を持っていかれ、パイロット達の給料や運営資金に困った軍が戦闘以外に使い道の無いゾイドに無理やり理屈を付けて作業用として払い下げに出した物や、退職金代わりに自分が乗っていたゾイドを連れて帰った物をその子や孫が入隊する時持ち込んだものの事を指す。大半は現在も使われている数打ちだが、曹長や少尉が使っている機体のような掘り出し物も存在する。補修用の部品の生産ラインが僅かに稼働している物の常に品薄であり、シャムこと少尉が使っているゴルヘックスのクリスタルレーダーのように製造技術が失われ現物限りで替えは無いといったケースも珍しくない。
素体となる野生体が確保出来ず搭載されたゾイドコアも老朽化しているが、蓄積された経験と機体性能自体の高さも相まって、今置かれているような局地的な戦場では文字通りの鬼札と化すのだ。

「暗黒軍時代のゾイドはディオハルコンが取れなくなった結果、禁断症状に陥り、ほぼ全滅したと聞いていますが」
「逆に言うと、ディオハルコンを使わなければ良いのよ。「ゼネバスの三つの鉤爪」と謳われた内の二つ、「動く要塞」レッドホーン。「歩く山脈」アイアンコングが確認されている以上、サーベルタイガーが現れるのも時間の問題よ。絶滅した幻獣型を復活させるより、終戦の混乱に乗じて確保しておいたタイガー形素体を養殖して再生産した方が楽でしょうしね。少数の出鱈目な性能のゾイドより、そこそこ強くて信頼性の高い機体を量産すると考えた方が自然だわ」昨日傍受した通信によると大量のレドラーが基地を強襲した後、大した戦果も挙げずに撤退したって話だから、その混乱に紛れて進入されたんじゃ無いかしらと、少尉は続けた。

「あの坂を上りきったら隠れられる物が何も無くて危ないわ。今のうちに決められることは決めちゃいましょう」
「了解しました。ですがこちらの戦力はマンモス・ゴルヘックス・ダブルソーダ・スネークスが各一機に、私とシェル軍曹が預かっているカノントータスが8。サーベルタイガーを含むヘルキャットの部隊相手ではいささか相性が「うちらの出番ちゅうこっちゃな」」
 一先ず納得し、ではどうするのかを相談しようとしたズーカ軍曹の言葉を、曹長の連絡を受けて無線が届く距離まで引き返してきたコマンドウルフ「ロボ」のパイロットのユーリ・ナニワがさえぎった。曹長に付いていけば少なくとも退屈はしないという理由で推参した西方大陸生まれの何でも屋である。相方で同じくコマンドウルフ「ホロ」を駆るミヤコ・D・フォレストと部隊の前衛を勤めている。カラーリングはロボが燻し銀、ホロがつや消しの黒だ。

「ポンコツ虎やか、よちよち虎やか知らんがうちらと総長はん。子分ののこたまが揃えば一ひねりや」
「・・・あんなぁ、ユーリちゃん。うちらの仕事は荷物の護衛やで? 荷物ほっぽって突撃して良い訳があらへんやろが。そやろ委員長はん」
「だから私は委員長じゃ「やったらどないするんや 委員チョーはん?」――ないと何遍言わせたら「二人とも、その辺にしとけ。又夜中に眼鏡ぎらつかせて包丁しゃーこしゃーこ研ぎ出しちまうだろうが」番長、あなたっ「ほとんど俺のお目付け役と化してるが、一応シズカが上官でこの部隊の責任者なんだからよ。つぅ訳で委員長、説明は任した」・・・・三人とも給料80%カット。昼及び夕食抜き「なあっ!?」思い切り自業自得である。ユーリが曹長のことを総長と呼んでいるのは、かつての彼のやんちゃが西方大陸まで届いていたからだ。てか何をしたんだ己は。

「・・・少尉殿。お気持ちは分かりますが話が進みません。幾ら速度を落としているとはいえ進軍しつつ打ち合わせをしているのです。時間が勿体無いので本題に戻っていただけませんか」
「軍曹、あなたも番長たちの色に染まってきたわね。唯でさえ突っ込み要員が少ないっていうのに。これ以上ぼけ倒されても対処しきれないわ。そこん所理解するのよ、良いわね3人とも「あいよ」「合点や」「はいなー」・・・返事だけは良いのよね」こうしてますます少尉の眉間の皺が深くなっていく。

「軍曹が言いかけてた通り、森の中の一本道を進んでる最中に挟み撃ちを食らったらまずアウトよ。例え勝てたとしてもずたぼろで積荷も無事じゃ済まないわ。だから」少尉はユーリ達を見ると、「あなた達、引っ張り出してきて頂戴。」

「文字通り虎穴に飛び込めっちゅう訳やな」
「居る可能性自体は少ないのよ。取り越し苦労ですめばそれに越したことは無いけど、積荷が積荷だしね。これが届けることが出来なかったら前線を駆けずり回っているボーグマンのおじ様に申し訳が立たないわ」
「おったら、適当に相手した後一目散に逃げ帰ってきたらええんですな?」
「ええ、出てくるなら良し。出てこなくても起動してコアが温まったならレーダーに引っかかるわ。居場所さえ分かれば後は飛び出てくるか反応が無くなるまで撃ち続けるまでよ。危険手当は・・・」少尉はぽちぽちと電卓を弄くると、「この位でどうかしら? 居なかった時は0が二つ減るけどね」目の玉の飛び出る程ではないが、ぽんと出すには抵抗のある額を提示した。贅沢と無駄は違う、高級品を最後まで使い切り、必要な時は惜しまず使うのが本当の金持ちというのが彼女の持論である。

「悪くない額やな。総長はん、のこたまを貸してくれへん?」
「のこは兎も角、たまは勘弁してくれ。仕留めきれねぇで回り込まれた時困るんでな。んで委員長、俺が正面に陣取るとして亀共は鶴翼か? 下手に並べると砲塔がねえから向き直るのに手間食って食われちまうぞ」
「そのまま使ったらそうなるわね。軍曹達が左右を固めて主砲をエネルギーレベル低め、拡散気味に発射。残りの三体は一体が軍曹たちの斜め後ろ、残りは・・・、これで良いわね」
「俺を中心にした緩いMの字か。投影面積が増えちまうが敵のが届く前に仕留めちまえば問題ねぇわな。委員長は何時もの指定席か?」
「そうなるわね。普段は過保護すぎて恥ずかしいけど、こういう時は有り難いわね。坂の途中で乗り上げるのは無理だから、一旦止まって頂戴」あいよと返事をするが早いか、曹長は牽引しているトレーラーを切り離した。マンモスタンカーはその巨体に漲る力により普通より一両多い三両のトレーラーを引くことが出来る。だが荷物が搭載されているのは後半の二つだけ、先頭のは少尉の駆るシャムの専用CP[ミサイルキャリア]だからだ。丸っこい三角系の内部には古傷により本来の性能を発揮できないクリスタルアンテナを補うためのアンプ、側面にはそこから齎されたデータに従って軌道を変えるミサイルがずらりと並んでいる。トレーラーとの連結器のすぐ上から伸びるスロープを登った後ハーネスで機体を固定する(その際頭部コクピットは装甲に覆われることになる)関係上、機動力はほぼ皆無となるが、元々高速機動系ゾイドに狙われたらひとたまりも無い電子戦型。近づかれる前に倒せと割り切って設計されている。
これにより連結状態の本機(形式名マンモスチャリオット)は中、近距離でなら(容積や補給の問題上、長距離ミサイルの搭載は見送られた)LLバスターキャノンを積んだ現行の兄弟機達と互角以上に渡り合うことが出来るようになったのだ。余談だがこれは軍の支給品ではなく少尉の父親(元大佐)が自腹を切った特注品である(本来は二両編成だが台所や寝室が搭載された二号車は即座に叩き返された。だって旦那、目ぇ潰れそうなまっピンク色のハートでフリフリでカボチャな物体ですぜ。一号車にも幼いころの少尉の肖像があちこちに描かれているが羞恥心と能力を天秤に掛けたら辛うじて能力が勝ったようだ) 。目から怪光線を出しそうな形相で「何かあったら命に変えても守れ」と凄む父親に曹長は「何当たり前の事言ってんだこのおっさんは?」といった顔でしばし考え込んだ後、ぽんと手を叩くと「指一本、触れさせやしねぇ。きっちり家(少尉の実家まで)までつれて帰るさ」と答えたという。聞いた途端暴走した父親と大乱闘をおっぱじめ、同じく完全にフリーズした少尉が我に帰るまで誰にも止められなかったそうな。

「シャムがキャリアに乗り上げてシステムを立ち上げるのに3分ちょっとか。ぼけっと突っ立ってるのも芸が無ぇやな。ズーカ、おめぇは俺の左側を子分どもと横一文字になって丘を越えちまえ、ラコウは右からな。上りきったら指図を待たずに並んじまえ。ユーリとミヤコは亀共の射線を塞がねぇように大回りして殴りこめ。のこは高度を上げて正面からだ、何上を押さえちまえばそうそう当たらねぇさ。たまは俺が「盾」を構えたら背中に乗りな」ゴルヘックスとキャリアを接続する為の作業を始めた少尉に代わり、曹長が矢継ぎ早に指示を飛ばしだした。一同がそれに従い動き出したとき、正面の森の梢で何かが光を反射した。

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from: RYOさん

2008年06月27日 17時33分24秒

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「Re:なかなかの美人じゃねーか、なぁ?相棒」

本作品に登場する「X-02 ブレイドホーク」です。
一応、改造作品ということで設定も投稿させて頂きます。


設定
 共和国軍がガイロス帝国との本土決戦を控えて開発した空戦ゾイド。機体の大幅な軽量化をはかり重量物を機体外部に外付けすることにより、旋回時に回転モーメントが発生し旋回能力を大幅に向上させるシステムを採用している。
 圧倒的な旋回性能と、大出力の外付けブースター、さらには独特な形状と特殊な塗料による高いステルス性能と、次期主力戦闘機型ゾイドとしては申し分無い性能を持っていたにも関わらず本機が量産されなかったのには理由がある。
特徴的な旋回システムを有し、なおかつ機体を極限まで軽量化したため強度が不足し、頻繁に大幅な整備が必要であった点がまず一点目。そして特殊な塗料を使用し、外部発注の大型ブースターを標準搭載するなどの理由でコストが跳ね上がり、量産には不向きであったためである。

その結果、すでに生産されたテスト機体が「居残り組」と呼ばれる部隊に送られ、その隊長機として活躍している。




あとがき・・・・?
初の小説(までもいかないようなw)です。TGZさんの作品に感化され、勢いだけで書き上げてみました。自分は文章が激しく下手クソで、コンプレックスがあったのですが、何事も克服が大切ということで挑戦してみました。これに懲りずにまた書いてみたいですw

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from: RYOさん

2008年06月26日 01時26分15秒

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「なかなかの美人じゃねーか、なぁ?相棒」
「出来ればこんな仕事はやりたくなかったんだがなぁ・・・・。」

背の高い男がつぶやく。
彼の名前はブレイズ・フェルドール。共和国軍第224戦闘小隊、通称「居残り組」所属のパイロットである。

ZAC2104年、共和国軍はネオゼネバスの猛攻を受けほぼ壊滅状態。司令部が東方大陸への撤退を決意したのもこの年である。
「まさか、また居残りさせられるとはね・・・・。」
軍の大規模な撤退には、必ずしんがりが必要だ。共和国にはもうすでに制空権はほとんど残っておらず、かろうじて存在する箇所も維持は困難だという。
だが、制空権を完全に失えば、しんがりの全滅も早い。だからこそのブレイズ達なのである。
彼ら224戦闘小隊は純粋な航空戦隊であり、昔からこのような損な役回りばかりを引き受けてきた、ある意味精鋭部隊である。

「慣れたさ・・・・。」

隊長のブレイズは苦笑いしながら、補佐官の女に愚痴をこぼした。
「ストームソーダーが少ない今、ここを一定時間維持できるのはこの中隊しかありません。224小隊には特に厳しい空域を担当して頂くことになります。」
淡々と作戦を説明する補佐官を尻目に、ブレイズは煙草に火をつける。他の224小隊のメンバーも、生きて帰れるとは思っていまい。
敵のキメラブロックスは無人機だという。Gを考えなくて良いということは、空戦において圧倒的に有利である。しかも数が違いすぎる。パイロットを養成する必要のない無人機は、作った分だけ即戦力になるのだ。しかも戦闘力に個体差がほとんどない。
どう考えても勝ち目はなかった。

ブレイズがタバコを灰皿に入れた刹那

耳を劈くような爆音が、基地内の空気を揺るがした。
ネオゼネバスのステルス爆撃部隊が突如飛来したのだった。夜間戦闘、目の聞かない有人機と、赤外線で目標を判別する無人機で最も差が出る戦闘だ。
爆撃部隊は搭載した爆雷を撒くと装備をチェンジマイズ、ステルス戦闘機に姿を変えた。フライシザースだ。グレイブクアマも見える。
幸い、ブレイズの所属する中隊の格納庫までは敵は進行していなかったが、かなりの戦闘ゾイドがやられている。

ブレイズは愛機ブレイドホークに飛び乗ると、火を入れた。
「こちら224小隊ブレイズ、各機直ちに出撃後、散会して各個撃破しろ!俺が撃墜された時は2番気のフェイが指揮を引き継ぐ!!」
すさまじい加速Gに耐えながら、部下に指示を出す。奇襲だ、相当数の戦闘機ゾイドが飛ぶことなく炎上している。

ブレイズの愛機はX-02ブレイドホーク。
共和国軍がテスト機体として開発し、時期主力戦闘機として十分な性能を持っていたが、コストの高騰と時期的な問題が重なり量産計画は白紙になった。俗に言う、影の機体である。
ブレイズは一気にスロットルを全開にした。アフターバーナーとともに、機体が軋む音がする。
3方向から同時にミサイルが迫る。チャフをばら撒きながら、それを避けつつ、敵をロックしトリガーを引く。
爆散した敵機の破片がコクピットをかすめる。
「今のは・・・・・・危なかった。」
だが安堵などしていられる状況ではない。戦闘開始からミサイルアラームは鳴りっぱなしで、計器を見る余裕など全くない。

敵見方の破片が花びらのように舞い散る。

キリが無い。数ではブレイズ達は圧倒的に不利なのだ。この時期に未だ現存する飛行ゾイドは、良くてレイノス。しかも数は非常に少ない。
ふと、モニターに奇妙な形のグレイブクアマが写った。四方八方に突起が突き出し、さながらムササビと言った方が妥当かもしれない。

「指令機か!!!」
ブレイズは思わず叫んだ。
無人機の性か、空域内に指令機がないと十分に性能を発揮することができない。すなわち、指令機さえ破壊すれば無人機は無効化できるのだ。
ブレイズはすかさず指令機に照準を合わせる。

衝撃とともに機体が大きく揺れた。モニターを見ると、左翼に大きな被弾痕がある。
落ちる。ブレイズのゾイド乗りとしての本能がそう告げている。

「クールにいこうぜ、相棒。」
そうつぶやくと、ブレイズはスロットルを全開にした。機体はきりもみ状態になりながら、一直線に指令機に向かっていく。
グレイブクアマからバルカンが放たれる。

当たった。コクピットだ。

ブレイズは無くなった左足に構うことなくこうつぶやく。
「なかなかの美人じゃねーか、なぁ?相棒。」
一瞬の静寂。

轟音。
ブレイドホークは指令機のグレイブクアマに激突、炎上した。

時を同じくして、無人機達が一斉に指揮を失い、互いに激突。みるみるうちに数を減らしていく。無人機は完全に無力化した。
残る戦闘機はグレイブクアマだけである。どう考えてもレイノスに勝ち目はない。
各グレイブクアマから撤退の通信が入る。

歓喜に沸く共和国軍司令室で、ブレイズのバイタルサインがそっと消えた。

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from: TGZさん

2008年06月23日 20時27分24秒

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「掌編:弾道の先に」
 ZAC2102年中央大陸、首都防衛戦線。
「……スナイプマスター……ねぇ」
 山林の高台に陣取ったスナイプマスターの中で老兵は呟いた。彼は、第一次前面会戦以来、随分と世話になった彼の愛機、カノントータスBCが撃破され、中央大陸へ養生しに帰還していた。そろそろ軍を去る潮時かとも思ってもいたのだが、重砲隊へ残って欲しいとの司令部の要請でそのまま軍に在籍していたのだった。
「どうにも……馴染まん」
 だが、ベテランに優先的に回された新型機に、彼は不満だった。同じ砲撃戦に主体を置いた機体とは言え、打撃を与える事を目的に設計されたカノントータスに対し、スナイプマスターは急所に一撃で直撃弾を見舞う為の精密狙撃用の機体だ。おまけに気体が軽すぎ、また重心が高すぎて反動の扱が厄介な事この上ない。彼は機首転換訓練は一通り受けたが、スペック上は性能が上のはずのスナイプマスターでもカノントータス以上の長距離射撃を出来たためしがない。スナイパーライフル以外の武装も貧弱で、アクティブシールドなりフレキシブルブースターなりがなければ、先発機であるガンスナイパーの方が使い勝手が良いと言うのがもっぱらの評判であった。
 グゥゥ、とコアが唸る。
「別にお前さんを責めてるわけじゃないんだがねぇ」
 苦笑いしながら老兵は言う。
 このスナイプマスターは一人乗り用に改装されている。何も彼の機体だけが特別なのではない。主力部隊が暗黒大陸へ出払っている今、パイロットの絶対数が不足しているのだ。
 ツー、と通信機がなった。
「こちら偵察隊!新型の移動要塞を確認!」
 老兵は驚いた。
「!?、……本土でゆっくり出来ると思ってたがそうもいかんか」
 言葉以上に深刻な事態を老兵は理解していた。ガイロスの戦力はへリックの主力部隊の猛攻にわざわざ中央大陸まで動かせる戦力は無いはずだ。例え、追い詰められた鼠が猫を咬むつもりで戦力を中央大陸に送ったとしても、制空権と制海権は共和国の物だ。たどり着く前に全滅するだろう。ならば、今、自分達のところへ近づいている移動要塞はガイロス軍ではない。方角と地理的条件から言って西方大陸の連中が鬱憤を晴らしに来た訳でもない。ガイロスやエウロペの勢力ではない、そしてへリックに攻め込もうとする勢力。
「まさかな……」
 老兵は呟いた。
 その刹那、光芒が閃いた。数秒遅れて爆音。
「!?」
 最大望遠でズームする。林の中でゴドスが燃えていた。随分古い機体のようだが、綺麗に崩れ落ちている。
「来なすったか……」
 敵機の姿は見えないが、いつでも対応できるよう周辺にある程度遊びをもたせて照準を置く。カメラで言う「ピン置き」と同じ理屈だ。
「……なんだ、ありゃあ!?」
 出てきた機体を見て老兵は叫んだ。
「……蟹か?」
 キラードームはこの時、最新鋭機である。無論共和国軍が始めて目にする機体だ。
 照準を合わせ、湿度計、サーモグラフ、いくつかの場所においてある風速計等のデータを総合して照準を微調整する。
「……!」
 トリガーを引いた。
 他の射撃ポイントに潜んでいたスナイプマスターからもいくつかの弾がキラードームへ向かう。
「!?、弾いた!?」
 144mm弾を弾く重装甲。あの機体は小型機ではないのか!?
 続けざまに数発が蟹型に命中するが弾かれる。一発が、地面に突き刺さり、蟹の腹が浮いた。そこへ弾丸が吸い込まれた。力を失い動きを止める蟹型。
「無敵でもないようだが、ご大層な装備だな」
 一点に留まっていては弾道から位置を予測される。次の射撃ポイントに移りながら老兵は呟いた。
「さて……」
 獲物を探す。光芒が見えた。遠い、レンジ範囲ぎりぎりだ。しかし老兵はそこをズームした。見覚えのあるあの光芒は。
「カノントータスか。……!?」
 先刻の蟹型が背後に出てきた。
「何をやっている!?……新兵か!?」
 亀は蟹に気付いていない。
「チッ!」
 一瞬で地形図とGPSを見て見方の位置を確認する。あの陣に弾が届くのは自分だけだ。そしてそれも……スペック上は。
「クソッ!」
 何も考えずにトリガーを引いた。この距離だ。弾はやはり外れた。だが、亀が蟹に気付く。
「逃げろ、バカ野郎!」
 だが亀の動きは遅い。対する蟹は144mmを弾く重装甲とは思えない機動性。
「ぬうッ」
 照準を合わせる。先程と同じように蟹を浮かせて腹に弾を突き刺せば蟹を倒す事は出来る。倒す事、は。二発続けて同じ場所から撃てば完全に場所を敵に教える事になる。しかしそれ以前にそこまでの精密射撃が可能か?
「できるか……?」
 グゥウ、とコアが唸る。
「そうか……すまんな、スナイプ……!」
 老兵はスコープを覗いた。神経が研ぎ澄まされる。
「…………!」
 一発。一発目の着弾を確認してからでは遅い。
「、!」
 二発。………………。

 カノントータスの新米パイロットは今まさに自分に襲い掛かろうとした蟹型ゾイドに弾丸が突き刺さり、宙に浮き爆散するのを見た。しかしその弾道の先で一機のスナイプマスターが崩れ落ちた事には、気付かなかった。

 ZAC2102年、へリック首都陥落の混乱の中で、老兵の名は、遂に戦死者名簿に記される事は無かった。しかし、このカノントータス部隊は、幾多の実戦を経験し、ゴジュラスギガ完成を待つ共和国基地を、その「精密射撃」で守りきったという事である。



あとがき……のようなもの
 勢いだけで息抜きに書いていたはずのものが先に完成したので投稿させてもらいます。一番乗りがこんな作品でいいんだろうか……?

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from: たかひら鶉さん

2008年04月08日 00時11分02秒

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「INFINITY LEO」

公式コミュにてRYOさんと進めていた立体×文章のコラボ企画として、RYOさんの改造ゾイド「INFINITY LEO」のキャプションを担当させていただきました。
立体作品とあわせてご覧ください。
モデラーサイドから手を差し伸べてくださったRYOさんに、熱い感謝を。


 中央大陸全土にネオゼネバスの旗が翻り、へリック陣営にとっては只管雌伏の年となったZAC2107。
 ガイロスからの野生体提供に基づく新機軸ゾイドの開発と、ブロックスを中心とした軍備の再編が急ピッチで進む。その慌しい時の流れに埋もれた、ひとつの『名機』があった。

 ――インフィニティ・レオ。



 敗戦に次ぐ敗戦を繰り返す一方、確実に数を増やしている志願兵の教導用に開発されたブロックスである。ブロックスシリーズの要ともいえるチェンジマイズ機構を大幅にオミットし、代わりに四足獣用フレームに特化した専用のOSを実装。さらにガイロス側から提供された人工知能技術を生かし、野生体のそれに近い自己判断・危機回避能力を与えられつつクセのない新兵向きの機体に仕上がった。
 ブロックスが『ゾイドの形をした非メカ生体マシン』であれば、インフィニティ・レオこそは『非メカ生体マシンによって形作られたゾイド』だったのである。

 が、訓練用という名目のもと配備されたのは各拠点にわずか数機のみ。
 共和国のブロックス運用セオリーとの違いからも戦力に組み込まれることはなく、インフィニティ・レオは一筋の爪痕も残さぬまま歴史の表舞台から消えた。

 時は流れる。
 へリックとネオゼネバスとのあいだに停戦協定が引かれたその後年、インフィニティ・レオを求める声が上がった。命を持たぬレオに『知』を与えた国、ガイロスからである。
 ガイロスはギュンター=プロイツェンの仕掛けた『擦り切れるような消耗戦』の痛手をいまだ引き摺っており、こと優秀なゾイド乗りの損失は大きな壁となっていた。戦乱に踏みにじられた国土や西方大陸植民地への復興支援の影で置き去りになっていた『ゾイド乗りの育成』という問題を解決するべく、賢帝ルドルフ自らが提案したインフィニティ・レオの導入であった。



 かくしてルドルフのオファーを受けた東方大陸のZOITECは。
 へリック陣営ブロックスの開発によって得られた高出力型の人工コアを使い、インフィニティ・レオを旧来のコンセプトそのままに大型化するという開発プランをガイロスサイドに提案。承諾を受けると、セイバータイガーやライガーゼロといった帝国系四足獣の操縦を意識たリ・デザインをフレーム周辺に施す作業に入った。
 既にブロックスが主力となってしまったヘリック・ネオゼネバス両軍とは違い、ガイロスは『ブロックスを補佐とするゾイドの運用』を希求するストイックな面を持っている。新兵の中でも『伝説の三銃士』や『シュバルツ・タイガー』に憧れ、高性能なブロックスを蹴ってタイガー乗りに志願するものは決して少なくない。
 そんな彼らの受け皿を少しでも大きいものにしようという、ルドルフの気遣いがそこにはあった。彼は恒久の平和を望む一方で、古き良きゾイド乗りの気風を愛してもいたのである。

 かくしてZAC2111。名称もそのまま、教導用高速戦闘機械獣INFINITY LEOが堂々のロールアウト。
 機体の特徴でもある高性能AIは、帝国技術部の精鋭チームが開発した『ビーク111』を世界初の実装。教導師団にて運用され、カール=リヒテン=シュバルツ中将の大きな賛辞を得ることとなる。
 INFINITY LEOはそのやや大きめな愛嬌のある頭部、そしてAI開発者の名を取って『トーマの白猫』と呼ばれ、帝国兵から愛される稀代の名機となったのである。




ゾイド原案、モデリング担当:RYO
キャプション文責:たかひら鶉

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