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ゾイドバトルストーリー文藝部

ゾイドバトルストーリー文藝部>掲示板

公開 メンバー数:8人

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from: たかひら鶉さん

2008年03月22日 02時12分38秒

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【小説・考察】テキスト系作品発表スレ【設定・考証】

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from: たかひら鶉さん

2008年06月30日 00時15分47秒

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「ハウリングレスフィールド」
 今日はとことん厄日だ、とイブラ少尉は思う。

 ――ZAC2110晩秋のニクス、
 ゲフィオンの高く険しい山稜が見下ろすヴァーヌ平原。

 散発的に明滅するマズルフラッシュは、装甲耐久試験用に持ち込まれた武装のものではない。
 ターゲットもまた然りだ。コンソールの照合結果を信用するならキメラブロックスのシェルカーン型ということになるが、倍近く膨れ上がった体躯といい、そこから突き出した無数の砲塔といい、かの原型は共食いに告ぐ共食いでほぼ失われてしまっている。このシェルカーンを筆頭に十数匹からなるキメラ群の襲撃に、輸送業者からの救難信号を受け、付近でテストを行っていたイブラの部隊が着の身着のまま駆けつけた、という次第だ。
 ガイロス帝国機動陸軍兵器開発師団、第03実験中隊という。
「呆れた!」
 ケルトシュタイナー中佐が駆る隊長機がシェルカーンに当たり、イブラ少尉はグスタフの周りを飛び交っていたフライシザースを牽制にかかった。幌を被ったカーゴの積荷はもちろん、四散した破片それ自体が被害を及ぼすからキメラに当てるわけにもいかない。
 故に求められる手段――針に糸を通すような隙間への精密射撃に、しかしイブラの駆るゾイドは難なく応じて見せた。
 ゾイド?
 これをゾイドと呼ぶのかと、イブラは思う。
 東方大陸のZOITECから試験的に導入したブロックス、個体名はレオストライカー。背部に増設されたヤクトユニットが、そこから伸びたスナイパーライフルの矛先をミリ単位で調整する。それと同時に、コクピットの正面モニターにロックオンを告げるサインが点滅。
 1回。2回。
 イブラの人差し指がトリガーを引くだけで、フライシザースの群れは蜘蛛の子を散らすようにカーゴから離れた。高官が提出された書類に判を押すのは、たぶんこんな感覚ではないだろうか。グスタフが足回りから土煙を上げて急加速するのを見送りながら、イブラはふとそんなことを考えた。
 ケルトシュタイナー中佐へ回線を開く。
「こちらミッド2。グスタフの離脱を確認、キメラ掃討に移ります」
『ミッド1、了解だ』
「今日び護衛のゾイドもつけないなんて、我らがニクスはずいぶん平和になったものですね」
 しっかり添えた悪態に、スピーカーの向こうからも苦笑が漏れる。
『よほどシートの座り心地が悪いみたいだな少尉。お尻の形が崩れないように、あとでマッサージでもしてやろうか? ん?』
 びきり。全身の関節という関節が音を立てて固まった。
 首筋からせり上がってくる熱を唾と一緒に飲み下したイブラは、「結構です!」と大声で撥ね付けるのが精一杯だった。
『その意気だ。一気にたたむぞ、援護を請う』
「……ミッド2……りょう、かい、です!」
 声を叩き返すと、ケルトシュタイナーはからから笑って回線を切った。
 全くもって心臓に悪い上官だ。
 ああもチャランポランな返事をしておいて、しっかりこちらの心中は見透かしているのだから性質が悪い。確かにグスタフの事ばかりが、この不機嫌の理由ではないのだから。
 イブラはレオストライカーを発進させる。通信の合間に叩き落したフライシザーズの残骸には、一瞥もくれることはなかった。

 ケルトシュタイナーの駆る実験機――今回のテストスケジュール自体が、この機体のために組まれたものだった――は、肥大したシェルカーンの周りを円を描くように走り回っている。イブラがグスタフを逃がすまでの間、付かず離れずで引き付けておいてくれたのだ。
 シェルカーンを中心にその半径を広げては狭め、狭めては広げを繰り返して巧みに攻撃を回避する。白い四足獣型の動きは、人工コアを積んでいるとは思えないほど活き活きしたものだ。
 援護射撃に入るイブラの舌に、ふと「タイガードライバー、」という単語が弾けて消えた。
 接敵して驚いたのは、このキメラの一団に明確な指揮官機が存在しなかったことだ。にも拘らず、実際はシェルカーンを守るようにフライシザースが飛び交い、逃げ回るケルトシュタイナー機の足を止めようと果敢にアタックをかけてきている。それを1機ずつ、今度は確実に射落としながら、人の手を離れて随分になるのかもしれないとイブラは想像した。
 大異変直後ではないにせよ、不安定な情勢下に機を見て蜂起する暴徒が後を絶たない。資力戦力に乏しい彼らが頼るのが、中央大陸のシンジケートを介して入手できるキメラタイプだ。セオリーどおりに指揮機を介して運用してくれれば始末もしやすいのだが、制御の甘い廉価な改修キットに手を出した成れの果てか、このように野生化して誰の手にも負えなくなってしまうことがままあった。

 が、それは現状の説明でしかない。
 シートの座り心地の悪さは、もっと別のところから来ているとイブラは思う。
 キメラ、そしてブロックス。
 心胆震わすほどのゾイドの咆哮は、この戦場に一抹たりとも存在しないのだ。

 数を減らしたフライシザースたちが、わずかにシェルカーンから遠のいた。群れのボスではあっても、死守すべきほどの存在ではないのかもしれない。
『仕掛けるぞ、イブラ』
「了解」
 すかさず照準をシェルカーンの足元に合わせ、両翼のミサイルポッドを一斉射。緑色の巨体が動きを止めたところへ、ケルトシュタイナーの白い機体が接近した。全身をわずかに沈めたのもつかの間、後ろ足でストロークに押し出す。振りかざした前足の爪は、吸い込まれるようにシェルカーンの半身を抉り、赤熱させた。
 そのまま一気に駆け抜ける。溶断されたシェルカーンの半身が、崩れ落ちた。
 ストライク・レーザー・クロー。
 熱に揺らぐ大気の向こう、白い四足獣がむくりと身を起こすのを確かめたイブラはレーダーに眼を移した。息を呑む。遠ざかっていた6つの赤い光点がターンし、ケルトシュタイナー機めがけて急接近していた。
「中佐!」
 近接格闘の最強兵装と謳われるストライク・レーザー・クローも、放つ際にフレームにかかる負荷、それに伴う立ち上がりの悪さという弱点を抱えている。今ごろテスト機の中ではバランサーが唸りを上げて四肢の重量モーメントを調整していることだろう。
 だが、それでは間に合わない。
 イブラはレオストライカーを走らせる。スロットルを開きながら、増設されたヤクトユニットとスナイパーライフルをパージ。射角だけをマニュアルで調整して、マルチプルキャノンを2発続けざまに放った。めくら撃ちもいいところだ。
 それなりの場数を踏んできたらしいフライシザースは、銃口のきらめきとともに直線的なビームの軌道も読んだらしい。翼で宙を打って回避行動をとる間に、イブラはその後ろへ機体を回りこませた。FCSを首の両脇にあるポッドに合わせ、放つ。白い尾を引く6発のミサイルが、巨人の掌のように宙で広がった。次々とフライシザースに突き刺さりその赤い装甲をひしゃげさせたが、爆発の光と煙が広がり、それすらも真っ白に覆い隠した。
 レオストライカーのコクピットで、イブラはほぅと息をつく。
「中さ――」『上だ、イブラ!』
 回線越しの張り詰めた声と、警告の発振音がコクピットに響き渡ったのは同時だった。

 そこからの永遠とも取れる数秒間を、彼女は決して忘れることはないだろう。
 レーダーには敵の存在を告げるマーカーがまだ、ひとつ。レーダーの中心点――レオストライカーの頭上に重なって点灯しているのを見て、イブラは絶句した。
 コクピットに影が差す。未だ宙にわだかまる白煙をその一対の顎で切り裂き、1匹のフライシザースが躍り出たのだ。直上、翼をたたみ急降下してくる。顎の間の銃口が、冴えた陽光を反射してぎらりと輝き、その奥に蓄えられた闇をイブラの両目と結びつけた。
『止まるな、走れ!』
 中佐の叱咤が凍りついた思考の枝葉を蹴飛ばしてくれなければ、彼女はこのままコクピットの中で絶命していたに違いなかった。吼えるような彼の声に、イブラはレバーを握る掌の感触を取り戻すことができたのだ。スロットルを一気に開くのと、ケルトシュタイナー機の後ろ足が大地を蹴りつけるのは同時だった。フライシザースに覆いかぶさるようにして、四肢を伸ばした獣の巨大な影がコクピットを覆った。頭上でマズルフラッシュが閃こうが、装甲を弾丸が掠めようが、イブラはレバーをけして離さなかった。頬の裏の肉をかみ締めながら、駆け抜ける。
 次の瞬間、雲間からさす陽光にも似た電光が走った。中佐機の放つ2度目のストライク・レーザー・クロー。上空からのダイビングアタックでフライシザースのキメラコアが打ち砕かれたとき、イブラの目は再びレーダーに見開かれていた。

 ――残存兵力、1。

「何処!?」
 レオストライカーの鼻先をマーカーの方向へ向けたイブラは、崩れ落ちていたはずのシェルカーンの頭部が、微かに動くのを見た。双眸から漏れる紫の光。コアがまだ生きているのかという驚愕よりも、その背中から伸びた1本の砲塔がケルトシュタイナー機に向けられているのに、イブラは今いちど戦慄することになった。
 レオストライカーのFCSが、最適兵装たるマルチプルキャノンを示唆する。
 中佐の白い機体が変にゆっくりとした速度で落下しているのが見える。
 その動きに従って、照準を定めるシェルカーンの砲。その先端に光が灯る。
 垂直で落下してくるゾイドは的でしかない、という戦技教官の言葉が脳裏にこだましたとき、再びケルトシュタイナーの声が耳を打った。

『イブラ少尉。自分の、ゾイドを、信じろ』

 刹那。
 腹を揺さぶるほどの轟音が、上空にこだました。
 コクピットに呼び戻されたイブラは、何かに背中を押されるようにトリガーを引く。
 光条ふたつ。大気を裂いた。
 そのひとつがシェルカーンのキメラコアを灼く。
 レオストライカーの上空で、白い獅子がくるりと舞った。
 白い煙が、風に乗って流れていた。

   *   *   *

「何もそんなに怒る事ねぇじゃねぇか」
「だっ、あ、もう、くっ……!」
 無造作に伸ばした癖のある黒髪をぼりぼり掻きながら、ケルトシュタイナーは口を尖らせた。
 イブラはイブラでうまく舌に言葉が乗らず、色んな物が前のめっているのをどうしようもできない状態だ。それでも言わんとしている所は心得ているらしく、中佐はタバコの煙で器用に輪を作ってから、顎をしゃくってハンガーを示した。
 第03実験中隊がトレーラーで移送してきた組み上げ式ハンガーの下、ライトに照らされて浮かび上がるテスト機。その腹の下に据え付けられている3連衝撃砲の口が、黒く煤けていた。
「あの時めくらでぶっ放したのさ。反動で落下軌道をそらして、機体の向きを変えるためにな」
 対ゾイド戦兵装が主流化する、そのはるか昔から城砦攻略用に使われていた装備である。ただでさえ四本の足で支えた状態でなければ撃てないものだけに、その反動たるや押して知るべしといったところか。
 とは言えそれはそれ、種明かしをされれば、ますます憤りがよみがえるイブラだった。
「それならそうと早く言ってくださいよ! もう!」
「言ってる暇がないだろ、あの場合」
「う……」
 ぐっとつまった彼女の頭を、ケルトシュタイナーの手はごしごしと撫でた。
 乱暴だが暖かい。こんな上官でも、もうしばらくはその背中を追ってみたいと思う。今日改めてその気持ちが強くなったのを自覚すると同時に、あらゆる糸が一斉にほぐれたような安堵が涙腺のあたりにわだかまり始めた。
 それを悟られないように、イブラは顔を伏せてつぶやいた。
「……手袋、はずしてくださいよ」
「……臭ぇぞ。いいのか」
「愚問でした」
 からからと笑いながら、ケルトシュタイナーはコーヒーを渡してくれた。
 駐機ハンガーの下にはテントが張られ、ZOITECや機動陸軍のエンジニアたちが行ったり来たりしている。その片隅で手の空いた連中が囲んでいるのは、キメラに襲われたあのグスタフだった。
「次のエリアで、基地のモルガを護衛につけるそうだ」
 冬が来れば、ヴァーヌ平野は雪と泥に閉ざされる。それまでに仕事を片付けてしまいたい運び屋がわんさといれば、護衛をするものの手が足りなくなるのも必然といえた。
「無事に着くといいですね」
「なんだ、コクピットじゃずいぶんとお冠だったくせに」
「う……」
 いちいち痛いところばかり突いてくる人だ。
「タイガードライバーって、本当に性格悪い人ばっかりなんですね」
「俺がお尻を揉んでやった女も、みんなそう言ってたぜ」
「誰もがそうとは限りませんよ」
 ピシャリと言い放ったイブラは、ついでに腰の辺りに擦り寄ってくるケルトシュタイナーの手の甲も軽くひっぱたいておいた。「まだまだお堅いねぇ」と手首をぷらぷらさせて顔をしかめる彼に少しだけ噴き出しそうになったが、イブラにはその前に尋ねておきたいことがある。
「中佐、」
「ん?」
 ケルトシュタイナーは気の抜けた声とともに顔を上げた。
 白い獣は四肢を踏みしめ、レオストライカーともども鼻先を月に向けている。
「あの時言った、『自分のゾイドを信じろ』って……」
「ああ、それな」
 ん、と意味深に眉根を寄せながら、中佐は続けた。
「あの時は咄嗟だったから、俺も何がなんだか」
 イブラの全身から力が抜ける。
 いかにも文句の言いたげな顔を読み取ったのか、中佐の口元が意地悪げにつりあがった。
「ただ、そうだな……もうひとつだけ、種明かしをしておこうか」
「はい?」
 呆気にとられるイブラを尻目に立ち上がったケルトシュタイナーは、彼女の耳元にぐいと顔を寄せると、内緒話のように囁いたのだった。
「あの時な。衝撃砲撃ったの、俺じゃねぇんだわ」
「え……ビークが、ですか?」
 テスト機に搭載されている、帝国製人工知能の名前をイブラは思い出す。
「人工知能ってのもバカにできねぇな。俺もタイガードライバーなんて名乗っちゃいるが、まだまだ修行がたりねぇよ。コンマ1秒とは言え、思ったことを先にやられちゃ、な」
 ふん、と漏らしたケルトシュタイナーの鼻息が、イブラの耳たぶを無造作に掠める。
「俺はゾイド乗りったって、セイバータイガーしか知らない虎バカでよ。だからずーっと追いかけっこさ。同僚とも、自分の相棒とも。それができる相手と巡り遭うってのは、楽しいけど、怖ぇな」
 彼の横顔は影になっていてよく見えなかったが、それでも口元が何かを封じ込めるようにぎゅっと結ばれているのだけはわかった。
「中佐ぁー」
 遠くから、なじみの整備兵が声をかけてくる。ふたりがそろって振り返ると、彼の隣に立ったふたつの人影が深々と頭を下げているのが見えた。中年の男と女。その手前には男の子もいる。グスタフに乗っていた民間業者だ。
「このちびっ子、中佐の機体が見てみたいんですって」
「ほほう、こいつぁ軍法会議覚悟で来たなぁ少年」
 巌のように閉ざされていた中佐の口が、嘘のようににっと白い歯を見せた。
「いいんですか? 正式なロールアウトは……」
「構うこたねぇよ。どうせ実戦には出ない機体だしな」
 そう言うや否や、ケルトシュタイナーはイブラの頭を軽く押しのけてずかずかと行ってしまった。
 男の子の顔がぱっと華やぎ、一丁前に敬礼をかざして見せる。自分のお尻は当分出番がないだろうな、と小さく笑ったイブラは、ジャケットを羽織った中佐の背中を見送り、その先にあるレオストライカーの横顔を睨んだ。
 イブラは戦争を知らない軍人だ。
 けれでもゾイドに乗り続ける限り、戦うべき敵はいる。
 それに相応しい相手を見定めるのが、自分と、第03実験中隊の仕事なのだ。

「こいつな、インフィニティ・レオってんだ!」

 少年を勢いよく肩車した中佐は、白い機体を見上げて笑っている。

CAST:
イブラ少尉
ケルトシュタイナー中佐
整備兵
グスタフの一家

レオストライカー
グスタフ
シェルカーン
フライシザース

and…

Infinity Leo (Special Thanks to RYO)




END

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