from: たかひら鶉さん
2009年01月09日 01時26分31秒
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【連載小説】銀風は故郷に吹いた【全四回】
銀河の彼方にある惑星Zi。そこには金属生命体『ゾイド』が存在した。高出力のエネルギー炉を心臓(核)とするこの生命体はZi人の手によって捕獲、改造され、
銀河の彼方にある惑星Zi。
そこには金属生命体『ゾイド』が存在した。
高出力のエネルギー炉を心臓(核)とするこの生命体はZi人の手によって捕獲、改造され、この惑星独自の文明成立に少なからず寄与してきた。
惑星に浮かぶ大陸のひとつ、中央大陸デルポイは戦火に包まれていた。部族間の争いが耐えなかった大陸を初めて統治したヘリック大王の子、へリック二世とその弟ゼネバスの引き起こした骨肉の争いである。
部族間の確執も巻き込んで戦渦は拡大し、統一国家は分断。
へリック二世が受け継ぎ、大統領として治める共和国と、出奔したゼネバスを皇帝とする帝国が成立し、ここに機械化されたゾイドを主力とする一大戦争が勃発することになる。
後に『中央大陸戦争』と呼ばれる戦い。
以下はその末期、とある戦場の片隅で生まれた物語である。
銀 風 は
故 郷 に 吹 い た
著:たかひら鶉
〜旧バトルストーリー及びゾイドグラフィックスより〜
毎週金曜日更新予定
CAUTION!!
著者本人ノ許諾無キ部外ヘノ帯出を禁ズ
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from: たかひら鶉さん
2009年01月30日 00時38分22秒
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「【毎週金曜日】銀風は故郷に吹いた・第四章【更新予定】」
サーシャが見たのは、敵機のクラッシャーホーンに煌くビームの反射光だった。
1発、2発。
ディバイソンの足元へ立て続けに炸裂し、浮き足立った右のサーボ機構へ3発目が突き刺さる。
続いて上流の方角から飛んできた新手のビームが、対岸のゾイドたちを襲った。残り50センチ先にシーパンツァーを捉えていた角の切っ先が、空しく宙を流れた刹那。吹き荒れた一陣の風は銀色であった。
川面を跳ねる水切りの石さながらの、
低い跳躍で川を飛び越えたそのゾイドは、
上流から降りてきた加速そのまま、
右側へ崩れかけたディバイソンの背中、
そこから伸びた17連装砲の砲身を、
黒い装甲に覆われた後ろ足で蹴りつけ、
尾部先端のエルロンエッジで風を切り、
隣に装備された低反動のビーム砲で僚機を牽制、
シーパンツァーを囲むように半円を描くと、
大きく横に傾いだディバイソンの腹めがけて、
胸部の連装砲を次々とぶっ放し、
装甲を瞬く間に歪ませ、
次の一撃でコアを焼き、
そして最後の一撃で、
薬室と弾倉にストックされた残りの砲弾ごと貫くと、
次の瞬間生まれた、
マッチを放り込まれた火薬庫さながらの爆発が、
完黙した鉄牛の機体を、
横たわる地面ごと撃砕し、
後に残った屑鉄の塊が、
隣で慌てふためくディバイソンともども、
トビチョフの流れに消えていくのを、
湧き上がる爆炎に照らされて見つめる、
流線装甲に包まれた1頭のライオンである。
『……パンツァー、シーパンツァー聞こえるか』
コンソールに帝国の共通回線が開かれる。
サーシャは弾かれるように応答した。
「こちらシーパンツァー、無事です! わたしも、父ちゃんも」
『サーシャ! 無事なんだね、怪我は無いかい!?』
聞き覚えのある優しい声。
対岸の共和国部隊に相対した銀のライオンは、その数を物ともせず、悠然と頭を巡らせる。腰を落とし、その4本の足で大地を踏みしめると、弓のように胸を張った。
『っと……失礼。こちらはゼネバス帝国機動陸軍所属、エイベル=ストラウス少尉であります』
ヘッドホンの向こうでがちゃりと音がする。
外部スピーカーへ出力を切り替えて、ストラウスは宣戦した。
――共和国軍に告ぐ。
貴君らの祖国を蹂躙せしめたデスザウラー大隊は、此処に未だ健在なり。
高速戦闘隊の剣、ライジャーの牙を恐れぬならかかってこい!
大気を震わせ、獅子が吼える。
共和国部隊の背後からも、応えるように3機のライジャーが躍り出た。
山裾に点在する基地を襲いながらの決死行、その長距離を走破した満身創痍の体もそのまま、剥き出しの牙をコマンドウルフの首筋につきたてる。シーパンツァーの前で佇むストラウスの機体にも、無数の弾痕と擦過痕が刻まれていた。
すべては、ひとりでも多くの仲間を救うために。
『よく最後まで橋を守り抜いてくれました、ロブーシン団長。倒れた同志たちが、安らぎに満ちた神の御許へ向かわれることを』
『おまえ……高速戦闘隊って……』
ロブーシンの声が震えている。
『サーシャ、がんばったね。君たちが最後の脱出部隊だ』
「最後って少尉たちはどうなるの? それに上流の橋はもう」
そうだ。橋がひとつでも敵の手に落ちた以上、今からここを渡ったところで、シーパンツァーが追いつかれるのは時間の問題である。
「だから少尉、わたしたちも一緒に!」
『耳を澄ませて』
風のない草原を思わせる、穏やかなストラウスの声が耳を打つ。
それを合図に、遠くから地鳴りのような音が近づいてくるのをサーシャは感じた。
やがて座席の下からも伝わってきた振動は、次の瞬間、橋を押し流すほどの波濤となってサーシャたちの目の前に姿を現したのだった。
濁流。
コンクリートの破片や砂礫、流れ木を飲み込んだ土色が、その名の如く、堰を切ったように押し寄せてくる。飛沫を連れて轟き渡る瀑音に、ライジャー達と揉み合っていた共和国ゾイドの群れもじりじりと後退した。
『北と東、ダムの駐留部隊を黙らせて、水門に爆弾を仕掛けるので時間を食ってしまってね。でもこの流れに乗れば、シーパンツァーなら一気にウラニスクまで行けるはずだ。ロブーシン団長、コクピットへ移ってください』
「おまえらはどうすんだ、えぇ少尉!」
ガンナーシートから半身を乗り上げたロブーシンが怒鳴った。
トビチョフ川は岸壁を抉り、その勢いと水嵩とを増していくばかりである。コクピットのキャノピーを開いてサーシャが立ち上がっても、ライジャーが二度と振り返ることはなかった。
「少尉、どうしてあなたがそこまでしなくちゃいけないの!?」
『中央山脈を越えたとき、僕の魂は死んだ。けれど、僕はまだ生きている。僕はまだ戦える。戦って戦って戦い続けて、いつか必ず、僕はあの雪の下に置いてきた魂を取り返しに行くんだ。そうだろう、サーシャ』
悲壮という言葉を、これほどサーシャは憎んだことはない。
傷だらけのライジャーの背中を美しく染め上げているのは、そうとしか言いようのない凄絶な決意に他ならないからだ。
けれども――とサーシャは思う。
どんな状況でも、人は「あした」とか、「いつか」とか、ここではない「どこか」を夢に見る。いずれは「いま」という、無慈悲な時計の歯車に飲み込まれ、決してたどり着く事のできない世界に、それでも心を託してしまう。
幼き日に見た、そして失われゆく故郷の風景であれ、見知らぬ街、これから出会うかもしれない誰かの横顔であれ、そこにはどんな恐ろしいゾイドをけしかけられても、譲ることのできない何かがあるからだ。
母はいない。ティマリーも、カミンスキも逝った。
でも、わたし達はまだ生きている。
まだ戦える。
「できるわ。少尉なら、きっと」
進もう、ここから先へ。
力をこめて答えながら、サーシャは操縦桿を握り締める。
達者でな、と祈るように呟いたロブーシンがその巨体をシートの後ろへ滑り込ませた後、キャノピーは閉ざされ、再びの暗がりの中、コンソールと正面のディスプレイが蛍火を灯した。
『ありがとう、サーシャ。この流れの先に、よき出会いがあらんことを』
「あなたの魂に、神の御加護のあらんことを」
別れは、言わなかった。
サーシャは操縦桿を押し込んだ。
鋏を大きく振りかざし、シーパンツァーが濁流へと身を躍らせる。
その真上を飛び越えたストラウス少尉機が、共和国軍の進攻部隊と交戦状態に入ったのはほぼ同時のことだ。
振り返ることはなかった。
それからの高速戦闘隊のことを、サーシャは知らない。
およそ10ヶ月後、中央大陸からひとつの国が消滅した事を告げるラジオの声を、粉雪が舞い落ちる占領下のウラニスクで耳にするだけである。
ライジャーはゼネバス帝国の旗の下に生まれ落ちた、史上最後の戦闘機械獣となった。
ただ、コクピットにいたサーシャは決して見ることはかなわなかったが。
シーパンツァーがトビチョフの流れへ飛び込んだとき、その頭上に虹がかかっていた。
大きな弧を描いて飛んだ少尉のライジャーは、7色の橋を渡って、はるか空の彼方を目指しているように見えたかもしれない。
了
(20090120)
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堀田功志、 RYO、