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from: きびもあさん
2008年11月08日 22時14分35秒
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『日々と八千代』2
窓から見える空はとても白く、刷り硝子で蓋をしているようだった。
少年は、もう中身が変わることがない母親のタンスから、服を取り出した。
ワンピースやブラウスやカーディガンなどを、何枚も重ねる。
自分の服はもう着れるものが無く、
部屋で寝ている男の服では大き過ぎる。
付けっぱなしのテレビと唸るようなイビキが鳴り響く。
酒の汚泥にまみれた部屋を後にし、
少年は外に出た。
臭気に満ちた空気は一変し、
スネや頬や唇や、
カサカサと血が滲んでいる肌にヒリヒリ風が染みた。
上着だけは暖かかった。
喉元に蟲が湧く。
殴りたい
叫びたい
笑いたい
死にたい
空に身を投げ出したくなるような衝動。
絶望ではなく、高揚で。
皮膚の下で動くもの全てを粘土のイメージで、
少年はその蟲を抑える。
硝子の空気は喉元の蟲を白く宙に連れ出し、
胸の粘土を振動させた。
-END-
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