くまこが家出してから三日になる。
“箱入りくま”だったので少し心配しはじめた今日、郵便受けにハガキが届いた。

「前略

ニューヨークは今とても過ごしやすい気候です。宿の近くのイーストビレッジでは何人かの友達がでました。そしてなぜか私は黒人の兄ちゃんたちにすごくモテます、昨日はピザをおごってもらいました。

家を飛び出したとき、心細くなってすぐ家に帰ろうと思っていたところ、バス停でこれからニューヨークへ行くという女の子に会いました。女の子はとにかく体ひとつでニューヨークへ行ってそれからどうするか決めると言いました、それを聞いたとき私は「なんて自由で大胆な発想なんだろう！！！」と感心しました。
そして気がついたとき私は彼女のかばんの中にいました、彼女も連れができて安心した様子でニューヨークへ着いてからの彼女なりの作戦みたいなものを教えてくれました。彼女はとても素直で純粋な感性の持ち主で彼女ならここニューヨークでうまくやっていけると思います、そう願っています。

ここに来て二日が経ちました。確かにニューヨークは素敵なところですが私の場所ではないと思います、かと言ってこれからどこへ向かうのか自分でもわかりません、東西南北どの方向にでもいけるような気がします。だたひとつハッキリしているのはこれからしばらく気の向くままに進んでいこうと思っていることです、いろんな人に出逢って様々な情報を手に入れて自分で自分の行く道を決めていこう！．．．と決心しました。きっと彼女の影響なのかもしれませんね。

一週間前の自分を思い出すと今とのギャップがまるで夢のようです、それと同時にこれから自分の身に起こることを考えると身震いします、でも心配しないでください！思っていたよりも人々は親切で“くま差別”も今のところ受けていません。

最後に「おたまじゃくしぃ」って言って本当にごめんなさい。ここまでの道中そのことが頭から離れませんでした、私も動転していたんだと思います、ごめんなさい。

では、またお便りいたします。お体に気をつけて、そのときまでさようなら。　くまこ」


度肝を抜かれたとはこのことを言うんだろう、きっと。
あのくまこがニューヨークにいるってことがすごく信じられないのに．．．プラス彼女はしばらく帰ってこないみたいだってことはもっと驚き桃木山椒の木だ。ずっと一緒にいたのに彼女にこんなガッツがあったなんて知らなかった、正直にビックリ。パスポートとかどうしたんだろう？聞きたいことはいっぱいあるけど、ここはひとまず見守ってあげようと思う。あの小さな体で精一杯頑張ってるんだから．．．（涙）。

I miss you...くまこ