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  • from: 庵主さん

    2010年10月05日 18時30分05秒

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    能の伝説と物語「西行」第六回

    道のべに清水流るゝ柳かげしばしとてこそ立ちどまりつれ
    新古今集、山家集

    西行がとりわけ桜を愛したことから、西行庵にある老木の桜を題材に能「西行桜」が世阿弥によって作られました。室町後期になって、観世信光(1435〜1516)は、西行が那須芦野で詠んだこの歌の柳を主題にして、能「遊行柳」を創作します。むろん、大先達世阿弥の名曲「西行桜」を意識したものであることはいうまでもありません。とかく比較対照されやすい西行ゆかりの名曲二曲。故観世栄夫師は「(西行)桜より、(遊行)柳は強く」と、芸の秘訣を近藤乾之助師に語ったとか。
    今回は「遊行柳」をご紹介しましょう。


    ■能 遊行柳(ゆぎょうやなぎ)
    【分類】三番目物(鬘物)
    【作者】観世小次郎信光
    【主人公】前シテ:老翁、後シテ:老柳の精

    あらすじ

    遊行柳 相模国(神奈川県)藤沢の清浄光寺(遊行寺)の遊行上人一行が念仏勧進して白河の関を越えたところまで来ると道が幾筋かに分かれている。
    広い道を行こうとすると、老人が現れ、先代の遊行上人も通った道だと昔の街道を教え路傍にある名木「朽木の柳」に案内した。
    上人は朽木の柳のたたずまいを見て謂われをたずねると
    「昔、西行法師が、道のべに清水流るる柳かげ、と詠んで以来、今の世までも語り傅えられた名木である」
    と教え、上人に十念を授けられるとそのまま柳の陰に姿を消してしまうのであった。
    上人は所の人に朽木の柳のいわれを聞き、読経し、念仏を唱え月の冴え渡る中、仮寝の床につく。やがて烏帽子狩衣の典雅な姿の柳の精が白髪の老人となって現れ、上人の十念によって草木の身ながら成仏出来たことを喜び、さらに柳にまつわる和漢の故事を語り、報謝の舞を舞うが、「とてもその身は朽木の柳、風に漂うように倒れ臥す…」と見て上人の夢は破れ、ただ柳の古木が残るだけであった。

    この能は、本来なら優美な舞を女に舞わせる「三番目物」に準じた曲。しかしシテは朽木の柳の精であり、装束・面は神体のいでたちである。閑寂な情趣の中に品位をもった、優美とはまた異質の美しさを作り出している。

    「隣忠秘抄」に、「西行桜の対の能にて位甚だ大事なり。茲にかようの習ありという事はなし、只一番の大意を一番の習とす。上手、年功の外、若輩のせざる能なり」とあり、この能の狙いを的確に言い当てている。

    また戦国期、松永貞徳「戴恩記」によれば、諸芸に通暁した細川幽斎が打った「遊行柳」の太鼓を聞き、当時、太鼓方第一人者であった金春又右衛門が感動のあまり涙を流したという。

    作者、観世信光は、「船弁慶」「安宅」「道成寺」などショー的要素の強い作品を意欲的に作った能作者である。晩年世阿弥の閑雅幽玄の世界に触発されて、この能を作ったといい、世阿弥の自信作、老体の桜の精をシテにした能「西行桜」を意識した作品だといわれる。
    世阿弥の理路整然とした作風に対し、この能は和漢の故事や詩歌・教典が、物語の展開に脈絡なくつづられているようにも思われる。一つ一つの事柄はそれぞれ味わい深く、例えばサシからクセにかけての展開のように、理解を超えた複合味の感銘を覚えるのだ。

    遊行聖は時宗の僧。時宗の開祖一遍上人は鎌倉中期の人で、熊野権現の啓示を受け「南無阿弥陀仏決定往生六十万人」と書いた名号札を配って遊行した。歴代の法主も、これに習って全国を巡教し念仏勧進。これを遊行と呼び、遊行上人、遊行宗、遊行寺の名が生まれた。

    『奥の細道』で芭蕉は、この地を訪れ

    田一枚植えて立ち去る柳かな

    の句を残した。西行ゆかりの柳の下にたたずんで思わず時を過ごしてしまったとの感懐で、西行の「しばしとてこそ」を「田一枚植えて」に具象したという。
    二つの歌と句をならべて鑑賞する時、一本の老柳を介して五百年の時間を、詩魂は一瞬にして飛び越え、感応しあうのだ。

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