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  • from: 21世紀さん

    2009年07月17日 23時32分58秒

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     大前研一 『 ニュースの視点 』

    2009/7/17  #271
    今週の〜大前研一ニュースの視点〜
     『日本の外交センスが招いた混乱
          〜北方領土返還交渉から考える』

    ■┓日本の外交センス〜ロシア・台湾
    ┗┛北方領土問題〜2島返還基本に交渉
    ―――――――――――――――――――――――――――

    ●ロシアとの交渉停滞。完全に日本の「お手つき」だ

     先週、日本の外交センスについて疑いたくなるようなニュース
     が続いて耳に入ってきました。この北方領土問題の停滞と、台
     湾での「斎藤代表発言」による混乱というニュースから、日本
     の外交テクニックに欠けているものは何かを考えてみたいと思
     います。

     10日、ロシアのメドベージェフ大統領は、日本との北方領土交
     渉に関し「1956年の日ソ共同宣言が、唯一法的根拠がある。日
     ロはこれを中心に協議しなければならない」と述べ、9日の日
     ロ首脳会談でも麻生太郎首相に説明したことを明らかにしまし
     た。

     このニュースは、日本の「外交センスの酷さ」を露呈したもの
     だと私は思います。そもそも今年の2月頃には、ロシア側は「3.5
     島返還」という独創的な答えを用意していたと言われています。

     ところが、外務省OBである谷内氏の発言により日本国内の反
     発が強まってしまい、5月にプーチン首相が来日したときには、
     「3.5島返還」の案を持ち出せない状況になっていました。

     その間に麻生首相による「歴史的には日本の領土である」とい
     う問題発言が飛び出し、さらにはそれを衆議院で可決すると
     いう非常識な事態に発展しました。

     それに対し、激昂したロシア側は、「日本が歴史認識を改めない
     のならば、北方4島返還の交渉そのものを禁じる」という法案を
     成立させてしまった、というのが現在の状況です。

     一言で言えば、「最悪」です。日本が非常識な対応を取らなけれ
     ば、メドベージェフ大統領と麻生首相の間で「3.5島返還」で
     決着していたと思います。

     それが1956年の日ソ共同宣言にまで後退して、「2島返還」で
     おしまいになってしまったのです。

     今回のメドベージェフ大統領の発言を聞いていると、「2島返還。
     That’s it(それでおしまい)」という認識を強く感じます。

     1956年以降、一時期は「2島先行返還、2島継続協議」という話し
     合いにまで発展したこともありましたが、今は「継続協議」とい
     う言葉は完全に消えてしまいました。

     これほど外交感覚・外交センスが欠けているとは、さすがに私
     も呆れ果ててしまいます。実効支配をしている相手に対して
     「わが国の固有の領土」などと決議しても、外交交渉上、何の
     意味もありません。あまつさえ、それを衆議院で決議するなど
     というのは非常識に過ぎます。

     北方4島は「4島完全返還じゃなければ話にならない」などと
     いうことから交渉を始めようとするセンスが、他国との交渉す
     るにあたって、そもそもずれているのだと理解してもらいたい
     と強く思います。

     そんなことを言っているから、結局は「2島だけ」で終わって
     しまうのです。物事には順序があります。特に外交にはこのこ
     とが顕著に当てはまります。正しいプロセスを進めていくため
     には、センスも必要です。

     今回の一連の日本側の対応によって、日ロ関係はおかしくなっ
     たと私は思います。これは完全に日本側のお手つきです。そし
     て、簡単には修復し得ないでしょう。

     麻生首相は、「経済的に支援する」という奥の手を出せば何とか
     なると思っているようですが、今のロシア経済から考えれば、
     余計なお世話です。

     今後ロシアとの関係修復が望まれますが、これまでの両国間の
     交渉の経緯を知らない人が出てくると問題は解決しないでしょ
     う。今の状況を作り出したのは、日本側の過失であるというこ
     とを認識し、慎重な対応を取ってもらいたいと願っています。


    ●斉藤代表の発言は、外交センスに欠ける

     またこの外交におけるセンスと言う点では、先日の朝日新聞
     (7月5日付)で報道されていたニュースにも目が止まりました。
     残念ながら良い意味ではなく、「日本政府の外交音痴を物語るニ
     ュース」として、私は注目しました。

     日本政府の台湾窓口、交流協会台北事務所の斎藤正樹代表が孤
     立の憂き目にあっています。

     きっかけは、今年5月斎藤代表が「日本がサンフランシスコ平
     和条約で台湾の領有権を放棄した後、台湾の地位は未確定」と
     発言したことに台湾側が反発しているもので、その後2ヶ月間、
     馬英九総統ら政権幹部は斎藤代表と面会せず、同席も避けるな
     どの「報復措置」を講じているとのことです。

     この斉藤氏なる人物が一体何を考えているのか、私には全く理
     解できません。これまでに中国公使、カンボジア大使、ニュー
     ジーランド大使を歴任しているので、全くの無知というわけも
     ないでしょうから尚更です。

     サンフランシスコ平和条約が締結された時代には、中国大陸で
     は、蒋介石の中華民国(国民党)と、毛沢東の中華人民共和国
     (共産党)の間で激しい内戦が生じ、結果として、共産党が中
     国大陸を征服し、国民党を台湾に追い込んだ形になって、双方
     が両岸で対峙する状況になっていました。

     ただ、外交のプロセスとしては、当時のサンフランシスコ平和
     条約の当事者は国民党だったと言えると思います。

     これは「戦争の当事者」という意味からも説得力があるでしょ
     う。その国民党が今は台湾にいるわけですから、すでに国際的
     には「決着」しているというのが常識です。

     それをこの期に及んで「帰属が未確定」などと発言するのは、
     「今の台湾政府は台湾に逃げ込んだ亜流の政党であり、違法政
     府だ」と指摘しているも同然です。斎藤氏の発言の意図がわか
     りません。

     斎藤氏が個人的にどのような歴史認識を持つかは自由ですが、
     交流協会の代表という立場にある間は心の中に留めておくべき
     です。

     台湾は「世界で最も“親日”的な国」の1つです。なぜそのよ
     うな国に対して、自らの立場もわきまえずに歴史を引っ掻き回
     すようなことをするのか、理解に苦しみます。

     相手の国の歴史や事情を理解し、デリケートな問題には細心の
     注意を払う努力が求められます。

     さらに言えば、日本政府もなぜこのような人物を代表として派
     遣したのか、大いに反省してもらいたいところです。

     斎藤氏はすでに外務省を退官している身です。日本政府は、台
     湾との窓口である交流協会台北事務所の代表のポストを、より
     台湾の事情に通じた人に任せる配慮が足りなかったのではない
     でしょうか。

     外務省OBの捌け口の1つというような認識を持っているなら、
     即刻改めてもらいらいと思います。斎藤氏自身も、そして彼を
     登用した日本政府も、しっかりと問題を受け止めていただきた
     いと思います。



            以上

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