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from: 21世紀さん
2009年07月19日 10時55分26秒
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マル激トーク・オン・ディマンド更新しました
マル激トーク・オン・ディマンド更新しました。
http://www.videonews.com
■マル激トーク・オン・ディマンド 第432回(2009年07月18日)
やっぱり日本にも保守政党が必要だ
ゲスト:杉田敦氏(法政大学法学部教授)
<プレビュー>
http://www.videonews.com/asx/marugeki_backnumber_pre/marugeki_432_pre.asx
自民党政権が、いよいよ土壇場を迎えているようだ。
東京都議選の惨敗で、このままでは次期衆院選での敗北が必至という状況を迎えなが
ら、自民党内ではいまなお内輪揉めが続き、窮余の一策さえ打ち出せないでいる。そこ
にはもはや、半世紀にわたり日本を治めてきた長期政権政党の姿は見いだせない。
しかし、より深刻なのは、自民党が自らの政党としてのアイデンティティを見失って
いるかに見えることだ。この期に及んでも、党内から聞こえてくる声は、誰の方がより
人気があるかといった表層的な議論ばかりだ。政権交代のチャンスをうかがう民主党は
政策面、とりわけ安全保障政策面での党内不一致が取り沙汰されることが多いが、自民
党に至っては伝統的保守政党なのか、小泉改革に代表される新自由主義政党なのか、は
たまた何か別の物なのかさえ、定かではなくなってしまっている。これではもはや政党
の体を成していないと言っても過言ではないだろう。
1955年の保守合同で保守勢力としての歩みを始めた自民党だが、そもそも自民党が政
治的な意味で保守政党だったと言えるかどうかは再考を要する。再配分を主張する勢力
は政治学的にはリベラルもしくは社民勢力と呼ばれ、保守の対局に位置づけられるが、
政治学者の杉田敦法政大学法学部教授は、自民党は自らが政治基盤を置く農村への再配
分を主軸とした政策を実行してきた政党であることから、世界でも特殊な「再配分保守」
という位置づけになるという。
戦後直後の日本はまだ農村社会であり、自民党は農村に政治的基盤を置き、農村開発
を通じて再配分を行うことで国民の広汎な支持を獲得してきた。その後、高度経済成長
とともに、自民党は池田内閣の所得倍増計画に見られるような、市場重視の伝統的保守
主義に軸足を移していくが、市場経済がもたらす利益は公共事業によって農村に還元す
るという再配分政策だけはその後も続いた。政治思想的には伝統的保守を標榜しながら、
実際は再配分政党であり続けたことが、自民党の特色だった。
しかし、農産物の自由化や大型店舗法改正などアメリカからの規制緩和要求が強まる
中で、農村の疲弊は避けられないものとなる。その後1990年代の低成長時代に入ると、
そもそも地方に最配分するための財源が底をつき始め、自民党型再配分政治の統治モデ
ルがいよいよ立ち行かなくなる。
そこに登場したのが自民党をぶっ壊すをスローガンに颯爽と登場した小泉元首相だっ
た。国民の高い支持に支えられた小泉政権は、自民党の伝統的な利益再配分政治を一掃
し、新自由主義へと舵を切った。それが功を奏し、自民党は少なくとも一時的に農村政
党から都市政党への脱皮に成功したかに見えた。しかし、小泉政権の新自由主義的政策
は、それまでの再配分で「一億総中流」と言われるほど所得の平準化が進んでいた日本
で所得格差を急拡大させ、公的補助の削減によってセーフティネットからこぼれ落ちる
困窮層を急拡大させた。小泉政権以後の自民党政権では、改革の負の面が一気に吹き出
し、構造改革路線も立ち行かなくなる。しかし、かといって今更農村政党に戻ることも
できず、自民党は政策的には「八つ裂き状態」(杉田氏)に陥ってしまう。
その間隙をついて、それまで必ずしも方向性が定まっていなかった民主党は、小沢一
郎代表のもと、再配分に主眼を置いたリベラル政党としての方向性を固めていく。また、
農家の戸別所得補償制度などを主張することで、小泉改革の下で自民党が置き去りにし
た農村票を丸々奪うことに成功する。
しかし、自民党が迷走するのも無理からぬ面があった。保守というからには保守すべ
き対象が問われる。冷戦下の保守勢力が保守すべき対象は日米同盟であり、自由主義経
済であることは自明だった。しかし、今日の日本の保守勢力が保守すべき対象が何であ
るかについてコンセンサスを得ることは、決して容易ではない。
来る総選挙の結果、民主党政権が誕生した場合、日本では事実上初めてのリベラル政
権の誕生ということになる。人間の理性を過度に信じ、正しい政策を行えば必ず社会は
良くなると過信する傾向があるリベラル政権には、対抗勢力として、伝統や慣習の中に
蓄積された叡知を信頼する保守政党が必要だ。自民党が保守政党として再興し、民主党
政権の暴走をチェックするとともに、有権者に別の選択肢を提示することは、日本の議
会制民主主義の安定のためにはどうしても不可欠だ。
政権交代がいよいよ現実味を帯びてきた今、日本の保守政党に求められる条件とは何
かを、杉田氏と考えた。
<今週のニュース・コメンタリー>
・河野外交委員長 密約で政府答弁の変更求める
・都内タクシー 車載カメラの映像を警察に提供へ
<関連番組>
■マル激トーク・オン・ディマンド 第391回(2008年09月27日)
自民党システムの終焉
ゲスト:野中尚人氏(学習院大学教授)
■マル激トーク・オン・ディマンド 第331回(2007年08月03日)
データから見えてくる「やっぱり自民党は終わっていた」
ゲスト:森 裕城氏(同志社大学法学部准教授)
■マル激トーク・オン・ディマンド 第307回(2007年02月16日)
西部邁流、保守主義のすすめ
ゲスト:西部邁氏(評論家・秀明大学学頭)-
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コメント: 全121件
from: 21世紀さん
2012年05月26日 19時41分12秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第579回(2012年05月19日)
エネルギーデモクラシーのすすめ
ゲスト:植田和弘氏(京都大学大学院経済学研究科教授)
今夏に予定されるエネルギー基本計画の見直しを控え、新しい日本のエネルギー政策のあるべき姿を議論している総合資源エネルギー調査会基本問題委員会の議論が大詰めを迎えているが、どうも様子がおかしい。エネルギー政策の大きな枠組みを議論するはずのところが、従来の枠組みの中で電源種別のシェアをいかに微調整するかの議論に終始しているようにしか見えないのだ。
エネルギー基本計画は日本のエネルギー政策の基本的な枠組みを決めたもので、現行の計画は2010年6月に閣議決定されていたが、2030年にエネルギー需要の50%を原発で賄う目標などが含まれていたことから、先の原発事故を受けて基本問題委員会が組織され、抜本的な見直しが行われていた。
この委員会の大きな目的は、エネルギーを通した新たな日本の社会像を議論することだった。しかし、委員会は委員長と事務局側によって定量的な議論に押し切られ、その未来像をどう描くか、という議論に踏み込むには至っていない。
経済学者で、同委員会の委員長代理を務める京都大学大学院の植田和弘教授は、「基本問題委員会の基本問題」を指摘し、現在の委員会の議論への不満を隠さない。
植田氏は、そもそも日本はエネルギー政策の決め方を議論しなければならなかった。これまでのエネルギー政策の決め方には透明性がなく、市民が議論に参加できるような枠組みも存在していなかったからだ。これはエネルギー政策に限った問題ではないが、とりわけエネルギー政策は原発を続けるかどうか、節電をどこまで求めるかなど、市民生活への影響がとても大きな分野だと言っていい。それだけ自分たちに大きな影響を与える分野の政策に、その当事者である市民が全くと言っていいほど関与できないのはおかしいと植田氏は指摘する。
基本問題委員会にしても、そもそも委員の構成もあらかじめ経済産業省によって委員長の三村明夫新日鉄会長をはじめとするエネルギー関係の利益代表によって大半が占められているため、植田氏や環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長らが議事進行の進め方や議題の設定方法に異議を申し立てても、多勢に無勢で押し切られてしまっている。
日本では長らく、電力を大量に消費する重厚長大型の産業の発展こそが豊かさをもたらすという、新興工業国的な発想が支配的だった。実際にそれで高度経済成長を達成することもできた。しかし、経済が成熟期に入り、脱工業化が求められる時代になっても、高度成長の成功体験があまりにも強かったためか、特に官界、財界はその発想から抜けることができないでいる。そのため、次の時代のエネルギーのあり方を議論する基本問題委員会においても、原子力産業の利益代表や重厚長大産業の利益代表らが議論を支配してしまっている状態なのだ。
産業型の大規模な電力供給システムを構築したことで、産業は安定的な電力を享受できたかもしれないが、一般の市民は、電気というものは、料金さえ払えば無尽蔵に出てくるものとの錯覚を持つようになってしまった。植田氏はそもそも有限な資源であるエネルギーは、宇沢弘文氏が言うところの「社会的共通資本」であることを前提に考えるべきだと言う。有限な資源を公平・公正、かつ安定的に配分するためには、入会地や漁場のように市民が自治的に参加する「コモン・プール」として管理される必要があると植田氏は言うのだ。公共性が高いという理由で電力を国策に委ねると、官僚統制や情報独占が生まれ、その結果、利権が生まれて非効率になるし、市民の側にも電力を自分の問題として受け止めることができないため、例えば節電のような発想が自主的には生まれてこなくなる。
また、次の時代の電力を考える上では、持続可能性、世代間の公平性、地域の再生の3つの条件を原則とすべきだと植田氏は言う。自ずと、再生可能エネルギーを中心とした小規模分散型ネットワークの構築が柱となるが、そこでもこれまでのように政府や企業に「お任せ」にするのではなく、地域の住民が参加する形で新しい仕組みを構築していくことが重要だと植田氏は強調する。
原発事故を契機に、日本社会では少しずつではあるが、市民がエネルギー問題を自分の問題として捉えるエネルギーデモクラシーの息吹が見られる。次世代のエネルギー政策の枠組みを議論している総合資源エネルギー調査会基本問題委員会委員長代理の植田氏を迎え、日本がエネルギーデモクラシーを達成するために今何をしなければならないかなどを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
(藍原寛子さんの福島報告は、今週はお休みいたします。)
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自由貿易を考えるシリーズ2
TPPは「社会的共通資本」を破壊する
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プロフィール
植田 和弘うえた かずひろ
(京都大学大学院経済学研究科教授)1952年香川県生まれ。75年京都大学工学部卒業。83年大阪大学大学院工学研究科博士課程修了。工学博士。経済学博士。京都大学経済学部教授などを経て97年よ り現職。総合資源エネルギー調査会基本問題委員会委員長代理、調達価格等算定委員会委員長、国家戦略室需給検証委員会委員、大阪府市エネルギー戦略会議座長を務める。著書に『環境と経済を考える』、共著に『国民のためのエネルギー原論』など。
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from: 21世紀さん
2012年05月13日 21時45分23秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第578回(2012年05月12日)
大統領選でフランスが選んだものとは
ゲスト:山田文比古氏(東京外国語大学教授)
フランスの新しい大統領が決まった。10人が立候補した4月22日の第1回投票では過半数を獲得する候補者が出なかったため、5月6日に上位2候補による決選投票が行われた結果、第1回投票でも1位だった社会党のオランド氏が現職のサルコジ大統領の得票を上回り、当選を決めた。フランスでは故ミッテラン大統領以来、17年ぶりの社会党政権の誕生となった。
大局的に見れば、今回のフランスで起きた政権交代劇は、リーマンショックに端を発する世界金融危機後、先進各国で新自由主義的政策を掲げていた現職ないし政党が敗れたのと同じ構図の中にあると見ることができるだろう。しかし、元駐仏公使で東京外国語大学教授の山田文比古氏は欧州、特にフランスの特殊事情として、もう一つの危機の存在の影響が大きかったことを指摘する。
フランスは2008年の第1の金融危機については、他の先進諸国と比べると、大きな政策変更や構造改革を行わずに乗り切ることができた。サルコジ大統領の新自由主義政策の下で、企業の社会保障費負担の軽減や年金の支給開始年齢引き上げといった社会のセーフティネットが削られる前に金融危機に見舞われたことで、従来からフランス社会に存在していた分厚い社会保障制度が危機の経済的影響を一部吸収することができたからだ。
その後、ギリシャの財政問題に端を発する欧州経済危機がフランス社会を襲ったため、二度目の危機でフランスは大きなダメージを受けたと山田氏は指摘する。
第2の危機の後、ドイツのメルケル首相と緊密な連携をとりながら緊縮政策へと大きく舵を切ったサルコジ政権の評価をめぐっては、フランス国内外で違いがあると山田氏は言う。市場を含む外部の目は、サルコジ政権の構造改革が不十分だったと見る。しかし、今回の大統領選挙を通してフランス国民が示した意思は、構造改革・緊縮財政政策自体への反発だったと山田氏は指摘する。フランス国民が「古き良き時代のフランス社会モデル」への回帰を望み社会党のオランド候補を後押ししたと言うのだ。
社会党政権の誕生と同時に、今回の大統領選挙では、第1回投票で「極右」「極左」政党候補が大健闘し、合わせて3割を超える票を得て、3位、4位に入った。これらの候補者への支持は、社会党と国民運動連合という左右の2大政党を支持しない社会層の存在を示唆する。特に「極右」と言われるマリアーヌ・ルペンの躍進は、フランスの右派の間で、国家や主権を対外的に強く主張する伝統的ドゴール主義的主張が弱まっていることと関係しており、金融危機などで痛手を受けた反サルコジ派の低学歴若年層などが、こうした「極右」候補の下に結集する傾向があるのだと言う。
サルゴジ大統領の緊縮政策を批判して政権を奪取したオランド新大統領ではあるが、ほどなく現実路線に転換し緊縮策を進めざるを得なくなるだろうと山田氏は見る。しかし、その一方で、そのような政権運営を行った場合、右派のみならず左派の間でもオランド氏への不満や失望が拡がる可能性もある。いずれにしても、難しい政権運営が待っていると言えそうだ。
常に米英のアングロサクソン的グローバル化路線とは一線を画してきたフランスが、先の大統領選で何を選択したのかを、社会学者の宮台真司と哲学者の萱野稔人が山田氏とともに考えた。
(藍原寛子さんの福島報告は、今週はお休みいたします。)
今週のニュース・コメンタリー
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郷原信郎氏が大坪元特捜部長の弁護人に就任
ゲスト:郷原信郎氏(弁護士・関西大学特任教授)
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「原発ゼロで電気料金が2倍に」は本当か
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マル激トーク・オン・ディマンド 第320回(2007年05月18日)
フランス大統領選が露呈したグローバル化の現実
ゲスト:萱野稔人氏(津田塾大学国際関係学科准教授)
プロフィール
山田 文比古やまだ ふみひこ
(東京外国語大学教授)1954年福岡県生まれ。80年京都大学法学部卒業。83年フランス国立行政学院(ENA)外国人特別課程卒業。80年外務省入省、外務省欧亜局西欧第一課長、駐フランス公使などを経て2012年退官。08年より現職。著書に『フランスの外交力』、共著に『ヨーロッパの政治経済・入門』。
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from: 21世紀さん
2012年05月10日 22時36分29秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第577回(2012年05月05日)
神保哲生のチェルノブイリ報告
終わりなき原発事故との戦い
史上初のレベル7原発事故からこの4月で26年目を迎えたチェルノブイリの最新情報を、神保哲生が取材報告する。
チェルノブイリ原子力発電所では、今も事故を起こした4号機から放射能が漏れ続け、それを押さえ込むための懸命の作業が26年経った今も続いていた。石棺はコンクリートが経年劣化を起こし、放射能が外部に漏れる恐れがあると同時に、巨大な石棺自体に倒壊の恐れが出てきたため、今度は更に巨大なドームで石棺を上から覆う工事が計画されていると言う。
しかし、爆発炎上した4号機の核燃料は依然として取り出すことができていない。損傷を受けた原子炉から核燃料を取り出し、安全な場所に保管しない限り、本当の意味で原発事故は収束したとは言えないのだ。
また、チェルノブイリから飛散した放射性物質による健康被害も、26年経って、むしろ原発事故由来の疾病の発生が増えているという。しかも、ウクライナでは事故の4年後から子供の甲状腺ガンの発生が始まったが、驚いたことに事故から26年が経っても、まだガンの発生が年々増え続けているという。
更に、四半世紀が経っても、食の放射能汚染が収まる気配を見せない。原発周辺の村では、今でも1万ベクレルを超えるキノコや野生動物の肉が発見されているという。
26年目を迎えたチェルノブイリの今を、神保哲生が現地の取材映像とともに報告する。
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2012年05月02日 22時47分24秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第576回(2012年04月28日)
原発大国から地熱大国へ
ゲスト:村岡洋文氏(弘前大学北日本新エネルギー研究所教授)
日本は天然資源に乏しい国と言われて久しいが、実は日本には世界有数の天然資源がある。それが地熱だ。環境学者のレスター・ブラウン氏はかつてビデオニュース・ドットコムのインタビューで、活発な火山帯に属し強度の地震が多発する日本には原発は適さない発電方法だが、その裏面として、地熱発電には絶好の条件が揃っていると指摘し、まったくその逆を行く日本のエネルギー政策を訝った。
実は日本はアメリカ、インドネシアに次いで世界第3位の地熱源を保有する地熱大国なのだ。ところが、実際の地熱発電量を設備容量で見ると、日本は現在世界で第8位に甘んじており、こと地熱発電量では人口が僅か30万余のアイスランドにさえも遅れをとっている状態だ。しかも、地熱のタービン技術に関しては、富士電機、三菱重工、東芝などの日本メーカーが、世界市場を席巻しているにもかかわらずだ。
なぜ、これほどの資源に恵まれ、世界最先端の技術も有していながら、これまで日本で地熱発電は進まなかったのか。長年、地熱開発研究に携わってきた弘前大学北日本新エネルギー研究所の村岡洋文教授によると、日本で地熱発電が遅れた理由は明らかに国の政策が影響しているという。2度のオイルショックの後、日本でも一時、地熱発電を推進する政策が取られたことがあった。しかし、1997年に地熱は「新エネルギー」から除外され、その後、地熱の技術開発に対する公的支援も完全にストップしてしまう。結果的に、過去約15年の間、日本での地熱研究は完全に停滞してしまった。
村岡氏はその背景として、景気後退による財政難と同時に、政府による原発推進政策があったとの見方を示す。出力が安定的なためエネルギーのベースロードを担うのに適している地熱は、ベースロードを原発で賄うエネルギー政策を選択した政府にとって、不要かつ邪魔な存在だったというのだ。
また、日本の地熱源の多くが、開発が禁じられている国立・国定公園内に集中していることも、地熱開発の足かせとなった。
しかし、今年3月27日、環境省自然環境局通知により、国立・国定公園内の開発制限が緩和され、公園内の地熱発電所の設置が可能になった。また、4月25日には経産省の委員会が、地熱によって発電された電気の買取価格が1.5万kW以上の発電所で1キロワット時あたり27.3円、買取期間も15年とする案が出され、それがそのまま実施される可能性が高まっている。上記の2つの条件が揃えば、日本でも地熱発電が15年ぶりに大ブレークする可能性があると、村岡氏は期待を寄せる。
地熱発電に対して慎重な姿勢を見せる温泉組合との調整というハードルが残るが、村岡氏は、地熱発電の温泉への影響はほとんど皆無と言ってよく、今後、温泉組合側にも利点のある温泉発電の普及などを通して、この問題も次第に解決されていくとの見通しを示す。
世界有数の地熱大国である日本で地熱開発が進めば、太陽光や風力のように天候に左右される他の自然エネルギーと異なり、24時間安定的に供給が可能な自前のエネルギー源を持つことができる。村岡氏は日本がその潜在力をフルに活かせば、地熱発電は原発に代わる電源となり得ると言う。
日本の地熱研究の数少ない権威の一人である村岡氏を迎え、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が地熱発電の可能性について議論した。
(藍原寛子さんの福島報告は、今週はお休みいたします。)
プロフィール
村岡 洋文むらおか ひろふみ
(弘前大学北日本新エネルギー研究所教授)1951年山口県生まれ。75年山口大学文理学部卒業。77年広島大学大学院理学研究科博士課程前期修了。理学博士。工業技術院地質調査所、新エネルギー・産業技術総合開発機構、産業技術総合研究所地熱資源研究グループ長などを経て2010年より現職。IEA地熱実施協定日本代表。共著に『日本の熱水系アトラス』など。
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2012年05月02日 22時45分37秒
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マル激トーク・オン・ディマンド 第575回(2012年04月21日)
今こそ電力の自由化を進めよう
ゲスト:高橋洋氏(富士通総研経済研究所主任研究員)
政府は先週末、関西電力管区内の需給逼迫を理由に大飯原発の再稼働に踏み切り、地元自治体との交渉を始めた。関電が出してきた需給データによると、この夏最大で20%もの電力が不足する可能性があるという。しかし、何とかして原発を再稼働させたい関電が出してきたデータだけを元に、原発を再稼働させて本当にいいのだろうか。
実は、政府は電力会社が出してきた需給情報の信憑性を精査する術を持っていないため、電力会社の主張をそのまま受け入れるしかないのだという。ことほど左様に、地域独占体制の下、電力会社はやりたい放題やってきたし、独占がそれを可能にしてきた。しかし、そろそろ地域独占の本当のコストを再考すべき時に来ているのではないか。
東京電力が企業などの電気料金を4月から平均17%値上げする計画を発表すると、自治体などの大口の需要家の間で、PPS(特定規模電気事業者)と呼ばれる事業者から安価な電力を調達しようという動きが広がった。実は日本の電力市場は「部分自由化」されていることになっている。しかし、PPSの総電力需要に占める割合は僅か1.9%に過ぎない。実際はPPSの参入が可能になってからすでに10年以上が経っている。にもかかわらず、なぜPPSのシェアは一向に増えないのか。
世界各国の電力市場の動向に詳しい富士通総研経済研究所の高橋洋氏は、日本の電力市場の自由化は先進国の中でも最も遅れていると言う。現在の「部分自由化」も非常に限定的なもので、しかもPPSに対して様々な厳しい制約条件が課されているために、長らく地域独占を享受してきた圧倒的に強大な電力会社との間で競争が生じるような状態とはほど遠い。例えば、電力会社はPPSに対してインバランス料金というものを課すことが認められているため、PPSは電力の需要と供給のギャップを30分単位で均衡させなければならないが、これは規模の小さいPPSにとってはとても大きな負担となっている。
電力自由化に反対する論者は、自由化をすれば安定供給が脅かされ停電が頻繁に起きると主張する。しかし、高橋氏はそうした主張にはまったく根拠がないと言い切る。海外の事例では、かえって自由化によって電力システムの安定度が高まる場合もあることを示しているからだ。
現在の日本における電力自由化の最大の欠陥は、発電部門と小売部門が部分的にでも自由化されているのにもかかわらず、送配電部門が開放されず、依然として地域独占の電力会社が保有し続けていることだと高橋氏は言う。電力をユーザーに供給する上で必ず必要になる送配電網が、電力会社によって独占されている限り、新規参入企業は発電部門に参入しても、小売り部門に参入しても、送配電の段階で電力会社によって有形無形の妨害を受けることになる。
送配電部門を他の分野と分離して、中立的な事業者による運営に切り替えない限り、日本の電力市場に本当の意味での競争は生まれない。よって、世界で最も高いと言われる電気代も下がらないし、電力会社のサービスも向上しない。そして、何よりも、3.11の事故以来再三再四指摘されてきた、情報の隠蔽体質や政治力を駆使した政府への影響力の行使、とりわけ原発の再稼働や推進が止むことはないだろう。
電力事情をより透明で健全なものに変えていくためにも、そしてユーザーに本当の意味での選択肢を提供するためにも、今こそ電力の自由化、とりわけ発送電の分離を進めるべきではないか。
政府の有識者会議で発送電分離を強く訴え続けている高橋氏をゲストに迎え、日本の電力システムの問題点とその改革の方途について、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。
プロフィール
高橋 洋たかはし ひろし
(富士通総研経済研究所主任研究員)1969年兵庫県生まれ。93年東京大学法学部卒業。99年タフツ大学フレッチャー大学院修士課程修了。2007年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。ソニー勤務、内閣官房IT担当室主幹、東京大学先端科学技術研究センター特任助教などを経て09年6月より現職。経済産業省総合資源エネルギー調査会委員、大阪府市特別参与を兼務。著作に『イノベーションと政治学 情報通信革命<日本の遅れ>の政治過程』、『電力自由化』、共著に『国民のためのエネルギー原論』など。
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第574回(2012年04月14日)
中国の熾烈な権力闘争にわれわれは何を見るか
ゲスト:葉千栄氏(東海大学総合教育センター教授・ジャーナリスト)
まさに三国志さながらの劇的な権力闘争だった。3月15日中国直轄市重慶トップの薄熙来が突如解任された。4月10日には中国共産党中央委員会政治局委員としての職務も停止され、次世代のリーダーの一人と目されていた大物政治家薄熙来の完全失脚が決定的となった。今や大国となった中国での突然の政変に、世界は息を呑んだ。
中国は秋の共産党大会で、事実上の国家元首である党総書記に習近平が就任することが確定していると見られ、一般には平穏な権力委譲が行われると考えられていた。ところが、今回の事件はその水面下で、熾烈な権力闘争が繰り広げられていたことが、図らずも露わになった。
中国政治というと毛沢東や〓(トウ)小平をはじめとする最高権力者個人が、強力なリーダーシップで国政をコントロールするというイメージがある。しかし、中国政治に詳しい東海大学の葉千栄教授によれば、現在の中国の政治体制は9人の共産党中央委員会政治局常務委員を中心とした集団指導体制をとっており、この9人が政治を支配している。そのため、13億人のトップに君臨するこのポストを巡って、熾烈な権力闘争が繰り広げられているというのだ。そして、今回の薄熙来の失脚劇は林彪の亡命劇や毛沢東婦人江青ら四人組事件に匹敵する、近代中国史における大事件だったと葉氏は評する。
葉氏は、今回の事件の背景に中国社会の将来像を巡る路線争いがあったと言う。そして、薄熙来の失脚は、彼の掲げたビジョンが権力の中枢部によって明確に否定されたことを意味する。薄は重慶市党委書記長として「唱紅(ツァン・ホン)」や「打黒(ダーヘイ)」と呼ばれる運動を指導し、絶大な人気を誇った。それらの運動は、急速に超大国へと駆け上がった中国社会の裏側で巣くう不正や汚職に対する庶民の憤りを代表するものだった。それは貧しいながらも正義が貫かれていた毛沢東時代へのノスタルジーをかきたて、薄は地方都市の英雄となった。しかし、それは党最高指導部の逆鱗に触れることとなった。温家宝首相は薄煕来が重慶市書記から解任される前日に、「文化大革命のような歴史的悲劇が繰り返される可能性がまだ存在する…これまで長きにわたって、重慶市の歴代の政府と広大な人民大衆は、改革建設事業のために多くの努力を注いできた。それは明らかな成果を生んでも来た。しかし、現在の重慶市(中国共産党)委員会と(重慶市)政府は必ず反省しなければならない」と発言し、激しく薄を批判している。
薄熙来は失脚したが、急速な経済成長によって生じた様々な歪みに対する国民の不満を背景に、薄が英雄ばりの支持を集める様を目の当たりにした共産党の指導部は、今後、〓(トウ)小平以来中国が邁進してきた経済成長一辺倒の「先富」路線に一定の見直しを余儀なくされるだろうと葉氏は言う。
屈指の中国エキスパートである葉氏と、文化大革命以来の粛正ともいわれる薄熙来の失脚劇から見えてくる中国政治のダイナミズムと、そこに日本のわれわれが何を見るべきかを、ジャーナリストの青木理と社会学者の宮台真司が議論した。
プロフィール
葉 千栄よう せんえい
(東海大学総合教育センター教授・ジャーナリスト)1957年上海生まれ。82年上海戯劇学院卒業。同年上海人民芸術劇院の俳優となる。85年来日。92年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。香港の政治経済誌『亜洲週刊』日本特派員、東海大学助教授を経て、2012年より現職。著作に『リアル・チャイナ!』、『チャイナビッグバン』など。
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2012年05月02日 22時42分04秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第573回(2012年04月07日)
12年目にして見えてきたこと
2001年の番組開始以来12年目に入ったマル激。
当初のマル激はゲストを呼ばず、神保・宮台の2人がその週のニュースから様々な論点を見付け出して論じるスタイルだった。12年目の節目に、久しぶりにゲスト無しのオリジナルスタイルのマル激をお送りしたい。
巷では原発の再稼働や消費増税など、一年前に起きたあの震災や原発事故がまるでなかったかのように、ビジネス・アズ・ユージュアル(これまで通りの通常営業)が続いている。実際、今われわれが直面する問題のほとんどすべては、3・11よりずっと以前からわれわれが抱えていた問題であり、また以前から繰り返しマル激でも取り上げてきた問題だった。
マル激では当初は問題の核心やその背後にある構造を見極めることにエネルギーと時間を費やしてきたが、回を重ねるごとにそれだけでは何も変わらないと痛感するようになった。そして、それ以来、できるだけ手の届くところ(アームズレングス)で取っ掛かりを見つけるよう心がけてきた、つもりだった。しかし、実際は573回目の放送を迎えた今回にいたっても、それができているとはとても思えない。
むしろ、何が問題かはわかっているのに、そしてその処方箋も数多く提示されているのに、問題は一向に解決されず、事態が改善しないのはなぜなのか、そのための最初の取っ掛かりさえ見つけられないほど、われわれが放置してきた問題はわれわれのシステムにビルトインされ、システムの一部となってしまったのかもしれない。
おまかせ主義から脱却し、社会の諸問題を自分の問題として捉え、自分にできることからやっていく、民主主義の基本ともいうべき「参加と自治」の姿勢そのものは間違っていないはずだ。しかし、それを実践するための取っ掛かりがなかなか見つからなければ、いい加減いやになってくるのも無理はないだろう。
しかし、だからといって諦めるわけにはいかない。ゲーム版が壊れてしまっては、ゲームオーバーなのだ。これからのマル激は、これまでマル激が力を注いできたように、問題の本質とその背後にある構造をしっかりと見極めることを継続していくのと同時に、その解決の糸口となる「取っ掛かり」を見つけることを、新たな課題の一つに加えたいと思う。
これもまた、言うに易し。そう簡単にはいかないかもしれない。多分いかないと思う。しかし、11年前にまだ30代だった神保哲生と40代になりたての宮台真司の2人が、「結構日本やばいよね」、「社会死んでないか」、「世界がおかしい」、「メディア終わってるし」などの問題意識を共有し、そうした問題意識に働きかける手段を模索しようと暗中模索で始めたマル激は、これからも試行錯誤を続けていくしかない。
今週は12年目の節目を迎えたマル激が、12週年スペシャルと称して、特にテーマを決めず、今の日本と世界、そしてマル激がこれまで11年間かけて議論を続ける中で培ってきた問題意識を、神保哲生と宮台真司が自由に語り合った。
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2012年04月01日 17時02分11秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第572回(2012年03月31日)
5金スペシャル
3・11から1年+3週間
-今考えておかなければならないこと
ゲスト:津田大介氏(ジャーナリスト)、萱野稔人氏(哲学者)
5回目の金曜日に特別企画を無料放送する5金スペシャル。今回はジャーナリストの津田大介氏と哲学者で津田塾大学准教授の萱野稔人氏をゲストに、震災・原発事故から1年あまりが過ぎる中、あえて今、われわれが考えておかなければならないことは何かを議論した。
震災・原発事故から1周年にあたる3月11日、マスメディアは軒並み震災・原発事故の特集を組み、当時の映像や震災・事故直後に何が起きたのかを、検証する企画を発信した。ところが、それから一夜が過ぎると、マスメディア、特にテレビは前日の放送が嘘のように、震災や原発に触れることをパタッと止めてしまった。
震災そして原発事故は、様々な形で現在の日本が抱える病理や難問を浮き彫りにした。そしてその問題の多くは、震災よりも遙か以前から、日本が抱えていたにもかかわらず、解決できないまま、ずるずると引きずってきたものだった。
この災難を奇貨として、われわれはこの病理に立ち向かうことができるのか。それとも、問題を解決できないまま、破綻への道を突き進むのか。
この災禍を未来へとつなげていくために、今、われわれがやらなければならないことは何なのか。津田、萱野両氏と議論した。
今週は5金(5回目の金曜日)に当たるため、特別番組を無料で放送します。ニュース・コメンタリーと福島報告はお休みします。
プロフィール
津田 大介つだ だいすけ
(ジャーナリスト)1973年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒。99年有限会社ネオローグ設立、代表取締役に就任。 2003年よりジャーナリスト活動に入る。10年より早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師を兼務。著書に『Twitter社会論 - 新たなリアルタイム・ウェブの潮流』 、『情報の呼吸法』、共著に 『未来型サバイバル音楽論 - USTREAM、twitterは何を変えたのか』など。
萱野 稔人かやの としひと
(哲学者)1970年愛知県生まれ。03年パリ第十大学大学院哲学科博士課程修了。哲学博士。東京大学21世紀COE「共生のための国際哲学交流センター」研究員、東京外国語大学非常勤講師などを経て、現職。著書に『国家とはなにか』、 『新・現代思想講義―ナショナリズムは悪なのか』、共著に『最新 日本言論知図』など。
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2012年03月26日 22時01分42秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第571回(2012年03月24日)
タブーはこうして作られる
ゲスト:川端幹人氏(ジャーナリスト・『噂の真相』元副編集長)
どんな国にも触れてはならない話題はある。これを禁忌と呼んだり、タブーと呼んだりする。
タブーはポリネシア語で聖なるものを意味するtabuに語源があると言われ、本来は触れてはならない聖なるものや、その裏返しの触れてはならない穢れたもののことを指すものだ。
だから、本来タブーにはタブーたる由縁がある。しかし、日本の場合は本来の定義に当てはまるタブーは必ずしも多いわけではない。むしろ、もっと単純な、そしてやや恥ずかしい理由で、多くのタブーが生み出されているようだ。
「タブーに挑戦する」をスローガンに数々のタブーに挑戦してきた雑誌『噂の真相』の副編集長として、文字通り数々のタブーに挑戦し、実際に右翼団体の襲撃も経験した川端幹人氏は、日本のタブーには暴力、権力、経済の3つのパターンがあり、これにメディアが屈した時にタブーが生まれていると言う。
3・11以前は、原発がそんな日本的タブーの典型だった。川端氏は原発は先にあげた3つの類型の中では究極の経済的タブーだったと言う。地域独占を背景に電力会社が持つ絶大な経済力は、メディアもスポンサーも丸ごと飲み込んでいた。しかも、原発には年間1千億円を超える巨大な広告費などの絶大な経済力に加え、国策やエネルギー安全保障や核オプションといった、実態の見えない後ろ盾に支えられていると受け止められている面があり、電力会社側もメディアへの圧力にこれを最大限に利用した。結果として、原発を含む電力会社を批判することは、広告をベースに運営されるメディアにとっては、自殺行為以外の何物でもなかったと川端氏は言う。
実際、東京電力がスポンサーをしていたテレビ番組を見ると、日テレ系「ズームイン!!SUPER」、「情報ライブ ミヤネ屋」、「news every.」「真相報道バンキシャ!」、TBS系「報道特集&ニュース」、「NEWS23クロス」、「みのもんたの朝ズバッ!」、フジ系「めざましテレビ」、テレ朝系「報道ステーション」、など、その手の問題を扱う可能性のある番組に集中していることがわかるが、それもこれも、1974年以降、電気事業連合会(電事連)の中に設けられた原子力広報専門委員会で練られたメディア戦略に基づいたメディア懐柔策だった。
その他、電力会社のメディア操縦は、マスコミ関係者に投網をかけるように豪華接待攻勢をかけていたほか、マスコミ関係者の天下りの斡旋まで手を広げていたと川端氏は言う。
また、電力会社は経済力の延長で、天下りなどを通じて政界、経済産業省、検察、警察との太いパイプも持ち、これもまたメディアに対する睨みを効かせていた。
要するに原発タブーというのは、本来的な意味でのタブーでも何でもなく、単にメディア関係者が電力マネーによって根こそぎ買収され、それでも言うことを聞かないメディアには、訴訟を含めた強面の圧力をも持ってして押さえ込んだ結果に他ならなかったと、川端氏は言う。
最近では経済タブーの筆頭にあげられるものが、AKB48に関連した不都合な情報だと言う川端氏は、こうした経済タブーの他にも、ある種の伝統的なタブーに近いと思われているタブーも、その実態はもう少し残念な状態にあるとして、自らを含めたメディアの姿勢を批判する。例えば、皇室や天皇制に関するテーマは多くの場合タブーとして扱われる場合が多い。これは一見、タブーの定義である「触れてはならない聖なるもの」かと思われがちだが、さにあらずと川端氏はこれも一蹴する。日本でメディアが皇室や天皇制を批判することを控える理由は、右翼の街宣攻撃や実際に危害を加えられることを恐れた結果であって、現にメディア上では皇室をタブーとして扱っているメディア関係者の多くが、私的な場や打ち合わせの場では、平然と天皇制を批判したり、皇族を馬鹿にしたような台詞をはいていると、川端氏は指摘する。
実際、歴史的な経緯を見ても、戦後GHQの占領下では右翼の圧力を気にする必要がなかったために、皇室を揶揄したり批判する本や論説が多く登場した。しかし、1961年に雑誌『中央公論』が掲載した小説を理由に同社の社長宅が右翼青年に襲われ、お手伝いの女性が刺殺される「風流夢譚事件」などをきっかけに、皇族や天皇制を批判したり揶揄したりしたメディアに対する右翼の攻撃が日常化したために、皇室ネタはメディア上ではタブーとして扱われるようになったと川端氏は言う。
右翼に襲われて怪我をして以来、自分の筆が鈍っていることを感じ、結果的に噂の真相の継続を断念するに至ったという川端氏と、本来はタブーでも何でもないテーマが、広告圧力や暴力による脅威によって封殺されている日本のタブーの現状を議論した。
プロフィール
川端 幹人かわばた みきと
(ジャーナリスト・『噂の真相』元副編集長)1959年和歌山県生まれ。82年中央大学法学部卒。83年雑誌『噂の真相』編集部、85年同誌副編集長、2004年、同誌休刊にともないフリーに。著書に『タブーの正体』、共著に『Rの総括』『事件の真相!』など。
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2012年03月20日 18時25分52秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第570回(2012年03月17日)
年金問題の本質
ゲスト:鈴木亘氏(学習院大学経済学部教授)
年金が危ない。このままでは早晩破綻することがわかっているのに、誰も手を打とうとしない。野田政権が消費税増税という政治的なコストを払ってまで意欲を見せる「社会保障と税の一体改革」は年金問題の本質にはまったく切り込んでいない。
年金制度に詳しい学習院大学の鈴木亘教授によれば、本来950兆円ほど積み上がっているはずの年金積立金が、110兆円程度しか残っていない。しかも、年金は保険料を支払う労働人口の減少と受給する高齢者の増加のために、毎年赤字が膨らみ続けている。つまり、今も僅かに残った100兆円あまりの年金積立金を切り崩しながら運営されているため、今後、さらに少子高齢化が進めば、2030年代には積立金が枯渇し、年金が支払えなくなることが確実だと言う。
現行の年金制度は2004年に「100年安心プラン」などという触れ込みで改変され、国庫負担金も3分の1から2分の1に増額された。それが、あと20年と持たずに破綻が確実な状態にあると言うのだ。
しかし、さらに問題なのは、今回野田政権が提案している「社会保障と税の一体改革」は、現行の年金制度が抱える根本的な問題には何ら手をつけていないことだ。消費税を増税をして「社会保障と税の一体改革」なるものが断行されたとしても、はやり年金が2030年代には払えなくなることに変わりはない、と鈴木氏は言う。
年金問題の本質とは何か。鈴木氏は、政府は現行の年金制度を「賦課方式」などという言葉でごまかしているが、もともと賦課方式ではなかった。しかし、1970年代に給付を大盤振る舞いしたために、積立金が切り崩されてしまい、結果的に賦課方式のような形になっているだけだと指摘する。その大盤振る舞いによって生じた800兆の債務を確定させ、それを何らかの形で返済することで、年金を再び本来の積み立て方式に戻すことこそが、年金問題の本質だと言う。
現在の「疑似賦課方式」では、今後、少ない若者が多くの老人を支えなければならなくなる。その若者たちは、「1人の若者が1人の老人を支える」ぼどの重い負担を強いられた上に、自分たちが年金受給年齢に達した時には、自分たちが払ってきた保険料すら回収することすらできなくなる。年金は破綻が必至な上に、重大な世代間格差問題を抱えている。しかし、年金を従来の積み立て方式に戻すことができれば、人口の動態にかかわらず、自分が支払った保険料は老後、必ず受け取ることができるようになるし、少ない若者が多くの老人を支えなければならないなどという、世代間のアンフェアな分配も解消される。
鈴木氏は過去の大盤振る舞いのために消えてしまった総額800兆円からの年金積立金の欠損、つまり債務を埋めるためには、債務を年金会計から分離し、100年単位の時間をかけて税金によって補填していく方法しかないだろうと言う。
しかし、はたして今の政治に800兆の債務を解消して、一旦不作為によって賦課方式に陥ってしまった現在の年金制度を、再度、積み立て方式に戻すなどという大技が期待できるだろうか。800兆の債務を分離し、ぞれを税で返済するという話になれば、当然その大穴を作った厚労省の責任問題も浮上する。また、税方式に移行することになれば、年金の管理が厚労省から財務省に移ってしまうため、厚労省は何が何でもこれに抵抗してくるはずだ。
ということは、このような提案は、年金を管轄している厚労省からは、何があっても出てくるはずがない。経済財政諮問会議のような形で、厚労省外部からこのような年金改革案があがってくる枠組みを作り、さらに厚労省の徹底抗戦に遭いながらそれを断行するためには、想像を絶するほどの政治力が必要になるだろう。しかし、それができなければ800兆の債務はさらに大きく膨らみ続け、積立金が枯渇した段階で年金が払えないという事態を迎えることになる。
鈴木氏と、現在の日本の年金制度が抱える本質的な問題は何かを考えた。
プロフィール
鈴木 亘すずき わたる
(学習院大学経済学部教授)1970年兵庫県生まれ。94年上智大学経済学部卒業。同年日本銀行入行。98年退職。経済学博士。社団法人日本経済センター研究員、東京学芸大学准教授などを経て09年より現職。著書に『だまされないための年金・医療・介護入門』、『年金は本当にもらえるのか?』など。
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2012年03月12日 13時27分22秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第569回(2012年03月10日)
これからわれわれは3・11とどう向き合うか
ゲスト:本多雅人氏(真宗大谷派蓮光寺住職)
3月11日の大震災から1年が過ぎようとしている。メディア上では震災1周年特集企画が乱立しているが、復興も原発事故の収束も道半ば。このまま、この大きな節目を境に震災が急速に風化していく気配さえ感じられる。誰でも悲惨なできごとを脳裏から消し去りたいとの思いはあるだろうが、これだけの大きな震災と事故を、単なる過去の悲惨なできごとで終わらせていいはずがない。この震災が、これまでのわれわれのあり方の根幹を問う大切な教訓を多く与えていることだけは、まちがいないからだ。
この先われわれは3・11といかに向き合うべきかと考えるヒントを求めて、東京亀有の蓮光寺に本多雅人住職を訪ねた。
真宗大谷派の僧侶として親鸞聖人の教えを説く本多氏は、今回の震災は人知の闇を明らかにしたもので、直接被災したか否かにかかわらず、われわれはこの震災を、人間の無明性(わかったつもりになること)や人知の限界と向き合う機会としなければならないと説く。3・11は近代以降の科学万能主義と経済至上主義の考え方に疑問を投げかけたばかりか、今までそれをよしとしてきた人知のあり方そのものまで深く問われることになった。そして、原発に賛成か反対かを問う以前に、人間そのものが問われ、人間が根本的に抱える無明性の問題にまで深く切り込んでいかないと、この震災が露わにしたわれわれの問題の本質が見えなくなってしまうと考える。
親鸞聖人の教えに「自力作善(じりきさぜん)」がある。これは、自分が何とかできるとか、自分が何かをわかったつもりになってしまうことを指す言葉で、浄土真宗では誤った態度として戒められている。本多氏はわれわれの多くが自力作善に陥り、本当は何もわかっていないのに、すでにわかったこととして、自分の中に固定化した考えを知らず知らずのうちに作り上げていたのではないか。そして、その「わかっていたつもり」が、今の政治、経済、社会の状態を生み、そしてそれがこの震災によって打ち砕かれた状態にあるのではないかと指摘する。まずは、大震災と原発事故という大惨事を目の当たりにして、何が正しくて何が間違っているのか、何が救いで何が幸せなのかがよくわらからくなって動揺している自分と向き合わなければならないと言う。 本多氏が言う自分と向き合うとは、どういうことなのだろうか。人間はついついわかったようなつもりになり、自分の外に「正義」や「善」を作り出して、それにしがみついてしまう。しかし、その正義も所詮は自分が、あるいは人間が作ったものに過ぎない。それが本当の善なのか、それが本当の正義なのかどうなのか、本当のところは誰にもわからないはずだ。常に「自分は愚かである」という自覚が必要になる。自分が愚かであることを認めた上で、気がつけば自分を正当化することばかりに熱中している人知の愚かさに対して自覚的になることが大切なのだと本多氏は語る。
これは決して闇雲に人知を捨てろとか、自助努力を一切しなくていいということを意味するものではない。所詮自分は愚かな凡夫に過ぎないのだから、自力や人知だけで突き進むことには自ずと限界があるし、そこには危ない面があるということに、常に自覚的・自省的であれということだ。
本多氏は繰り返す。「とにかくわかったつもりにならないこと。所詮はご縁が決めることだから」と。そのご縁とは、この世には人知を超えた仏智があり、それはすべてをお見通しの上で「如来の智慧の眼」で私たちを見ている。それは原発や遺伝子組み換えのような科学技術についても言えることだし、物事の善悪の判断基準についても同じだ。愚かな凡夫に帰り、人間が設定した善悪を常に問い直すことで、初めて見えてくる、あるいは聞こえてくるものがあり、そこに新しい世界が開けてくると本多氏は言う。
これから3・11と向き合っていく上で、日本人の心に広く根ざした親鸞の教えを説く本多氏に、その見方、考え方のヒントをいただいた。
(藍原寛子さんの福島報告は、今週はお休みいたします。)
プロフィール
本多 雅人ほんだ まさと
(真宗大谷派蓮光寺住職)1960年東京都生まれ。1983年中央大学文学部卒。83年高校教員。2000年より現職。元親鸞仏教センター研究員。東本願寺同朋会館教導。宗祖親鸞聖人750回御遠忌企画運営委員。著書に『本当に生きるとはどこで成り立つのか』、共著に『人間といういのちの相』『今を生きる親鸞』。
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2012年03月04日 22時58分08秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第568回(2012年03月03日)
東電・政府は何を隠そうとしたのか
ゲスト:日隅一雄氏(弁護士・NPJ編集長)
火事で火が燃えさかる最中、とりあえず出火の原因究明や責任の追及は後回しにして、まず優先されるべきことは人命救助と消火になることはやむを得ない。しかし、起きた事故のスケールがあまりにも大きい場合、その収束に時間がかかるため、いつまでたっても原因究明や責任追及がなされないまま、事故そのものが風化してしまったり、世の中の関心がよそに向いてしまったりするリスクがある。
福島第一原発の事故も、そんな様相を呈し始めている。昨年の3・11からの1年間は、日本にとってはもっぱら起きてしまったことへの対応に追われる1年だった。しかし、大地震と津波で福島第一原発が全ての電源を喪失し冷却機能を失った時、政府および東京電力がその事態にどのように対応し、その時政府や東電内部で何が起きていたのかが十分に検証されたとは、とても言いがたい。
今週、民間の事故調査委員会の報告書が発表になった。主要な政府の関係者は事故調のヒヤリングに応じたため、報告書は事故直後の政府内部の動きやその問題点は詳細に指摘している。しかし、肝心の東電が協力を拒否したため、事故直後に東電内部で何が起きていたかについて、報告書ではほとんど何も触れられていない。
そこについては今後の政府並びに国会の調査委員会の報告に期待するしかないが、今回の民間事故調の報告書が触れていない問題がもう一つある。それは、東電や政府が事故への対応に追われる中、彼らが一体何を国民に伝えてきたかの検証だ。主権者たる国民に真実が伝えられないだけでも十分に大きな問題だが、今回の事故では、それが避難の遅れや不必要な被曝につながる可能性があり、直接命に関わる問題となっている。そこでは、果たしてわれわれはこの政府や電力会社に自分たちの命を預けても大丈夫なのかが問われることになる。
事故発生直後から東京電力や政府の事故対策本部の記者会見に日参して、政府・東電の嘘を追及してきた弁護士の日隅一雄氏は、政府・東電は事故発生直後から重大な嘘をつき、結果的に多くの国民を騙したばかりか、大勢の国民を不必要な被曝のリスクに晒したと批判する。
それは、例えば政府・東電内部では事故発生の翌日にはメルトダウン(炉心溶融)の可能性が高いことがわかっていながら、記者会見でそれを認めた審議官を繰り返し交代させてまで、国民に対して炉心の溶融は起きていないと言い続けたところに代表される。あれは、あからさまな嘘だった。
政府も東電も3月12日の段階で炉心溶融の可能性が高いことがわかっていた。原子力安全・保安院の中村幸一郎審議官は、12日の会見で炉心溶融の可能性が高いことを認めていた。しかし、政府はこの直後、中村審議官を記者会見の担当から降板させ、マスコミの厳しい追及を前にメルトダウンを完全に否定できなかった2人の後任の審議官も次々と交代させた上で、炉心溶融の可能性を明確に否定して見せる芸当を備えた西山英彦審議官を広報担当に据え、そこからはあくまでメルトダウンはしていないとの立場をとり続けた。
結局、政府・東電が炉心溶融を認めたのは5月12日で、事故から2ヶ月も経っていた。しかも、懲りない政府・東電は、「炉心溶融」を「燃料の損傷」とまで言い換えて、事故の実態をできるだけ小さく見せるような工作をしている。実際は燃料が溶けているばかりか、それが圧力容器から外に漏れ出す「メルトスルー」が起きていることがわかっていながら、それを「損傷」と言ってのけたのだ。
もし3月12日の時点で核燃料が外部に溶け出していることがわかっていれば、政府は直ちにより大規模な避難を実施しなければならなかった。溶融した核燃料が、原子炉内の圧力容器や格納容器を突き破り、大規模な水素爆発や水蒸気爆発が起きる可能性が高まっていたからだ。結果的に、事故発生直後はメルトダウンが起きていないことを前提とした避難措置しか取られなかったし、幸いにして、いや偶然、大規模な水蒸気爆発は起きなかったために、この嘘による被害は最小限に抑えられたかに見える。しかし、この嘘によって、どれだけの人が不要な被曝を受けたかは、当時はガイガーカウンターも普及していなかったため、はっきりとはわからない。いずれにしても多くの住民が間一髪の危機的な状況に晒されていたことだけは、今となっては間違いない。今回われわれはとてもラッキーだったようなのだ。
日隅氏は、政府・東電が嘘をついてまでこうした情報を隠そうとした理由として、それを認めなければならなくなると何十万人にも及ぶ大規模な避難が必要になるが、原発安全神話を前提とした避難態勢しか準備されていない日本では、政府はそれだけの避難を実際に行うことができない。そのため、それこそ政府が責任を問われる事態となる。そうなることがわかっている以上、情報を隠すことで、情報隠しの責を負う方が得策だと考えたのではないかとの見方を示す。特に情報隠しの場合は、隠されたという事実がばれにくいという、例の「鍵のかかった箱の中の鍵」問題があるため、「必要な避難をさせなかった」ことに比べると、逃げ道が多いのだ。
同じく放射性物質の拡散状況をモニターするSPEEDI(スピーディ=緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の情報が公開されなかったことについても、政府はあからさまな嘘をついている。最終的にSPEEDIのデータが公開されたのは4月26日だったが、まず事故後5日目の3月15日の段階で、スピーディが故障していたという嘘のリークを読売新聞に書かせている。今となってはこれはSPEEDI情報を非公開としたことが意図的なものだったことを示す重要な証拠となっているが、その時は政府部内の何者かが、後でSPEEDIを公開しなかったことの責任を問われることを恐れて、嘘の情報をリークしたものと見られる。実際はSPEEDIのデータが事故直後から外務省を通じてアメリカ政府には送信されていたことが明らかになっているし、政府の担当部内では事故直後からSPEEDIのデータは共有されていたのだ。
放射性物質の拡散状況をモニターし予想するSPEEDIのデータが、事故直後に公表されてれば、避難を強いられた原発周辺の住人たちが、わざわざ放射性物質が多く飛散している方向へ向かって避難をするようなことは避けられたはずだ。また、放射性物質が向かってきている地域では、あらかじめ避難をしたり、屋外での活動を控えたりするなどの対応が可能だった。一番肝心な時にSPEEDIは何の役にも立たなかった。そして、それはSPEEDI自体が悪かったのではなく、それを扱う政府部内のまったくもって官僚的な問題だった。
4月25日に、政府・東電の原発事故対策統合本部の事務局長を務める細野豪志首相補佐官(当時)が、それまでSPEEDIのデータが公表されなかった理由として、「パニックを恐れたもの」との見方を示した上で、謝罪をしている。その後、5月2日には、SPEEDIデータとして、5000部を超える画像データが公表され、それまでどれだけの情報が隠されていたかが明らかになっている。
他にも、実際には2006年頃から東電内部では、大規模な地震や津波が起きた際の危険性が検討されていたにもかかわらず、今回の震災を「想定外」のものとして、対応が遅れたことへの責任逃れをするなど、どうも「消火と人命救助」が優先されるべき事故直後の段階で、政府・東電内部ではすでに責任逃れのための工作が熱心に行われていたとしか思えない状況がある。
なぜ政府や東電は嘘をついてまで情報を隠したのか。なぜ重要な局面になると、政府は決まって情報を隠そうするのか。これは単なる責任逃れなのか、それともそこには何か別の行動原理があるのか。末期がんに冒されながら政府・東電の嘘を追及し続けた弁護士にしてインターネット新聞主宰者の日隅氏と考えた。
(藍原寛子さんの福島報告は、今週はお休みいたします。)
関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第380回(2008年07月12日)
メディア問題徹底討論
Part1・2 NHK裁判とマスゴミ問題
Part3 テレビニュースは本当に終わりませんか
ゲスト(Part1・2):日隅一雄氏(弁護士・NHK裁判原告代理人)
ゲスト(Part3):金平茂紀氏(TBSアメリカ総局長)
マル激トーク・オン・ディマンド 第300回(2006年12月22日)
マル激300回記念特別番組 2006年これだけは言わせろ!
福島第一原発事故
プロフィール
日隅 一雄ひずみ かずお
(弁護士・NPJ編集長)1963年広島県生まれ。87年京都大学法学部卒業。同年産経新聞入社。92年退社。96年司法試験合格。98年弁護士登録。NHK女性戦犯法廷番組改編事件や外務省沖縄密約事件の代理人をつとめる。2006年よりインターネット新聞「News for the People in Japan」編集長。著書に『マスコミはなぜ「マスゴミ」と呼ばれるのか』、共著に『検証 福島原発事故・記者会見――東電・政府は何を隠したのか』など。
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2012年02月26日 18時34分47秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第567回(2012年02月25日)
消費増税ではDoomsdayは避けられない
ゲスト:野口悠紀雄氏(早稲田大学大学院ファイナンス研究科顧問)
今回は縁起でもないがdoomsdayをテーマに選んだ。原発事故の時もそうだったが、日本の将来についても、考え得る最悪の事態を知っておいた方がいいと思うからだ。より正確に言えば、今回はもう少し前向きに「doomsdayを避けるためにわれわれにはどんな選択肢が残されているか」を考えてみたい。doomsdayとは本来は聖書の黙示録に示されたハルマゲドンのことで、世界の終末を意味するものだが、ここでは日本という国家が破綻する日という意味で使っている。そしてここでいう国家破綻とは、財政破綻のことだ。
相変わらず何一つ進展が見られない政治の閉塞が続いているが、こと消費増税については、野田政権は何が何でもそれだけは断行するつもりのようだ。そもそも野田政権がそこまでして消費増税にこだわる理由として、首相自身は日本の財政状態が待ったなしの状態にあることを繰り返し指摘している。
しかし、経済学者の野口悠紀雄氏は、仮にそうまでして5%の消費増税が断行されたとしても、その効果は2年ほどで消えてしまうと言う。首相が増税の理由としている財政再建は、5%の消費増税ではとても実現できないと言うのだ。
その理由はこうだ。そもそも5%の消費増税によって国庫に12.5兆円の増収があると言われているが、それが大きな間違いだと野口氏は言う。新たに国民が負担することになる5%=12兆5000億円のうち、1%分の2兆5000万円は地方消費税に回り、更に3割が地方交付税交付金として地方自治体に拠出されることが決まっているという。そのため、5%の増税によって新たに国庫に入る税収は、もともと7兆円足らずしかない。しかも、社会保障費の自然増が毎年少なくとも6000〜6500億円はあるため、仮に政府の期待通り2014年に3%、2015年に5%の消費増税が実現できたとしても、2年後の2017年には国債発行額は金額も加速度的な増加パターンも、いずれも現在の状態に戻ってしまうと野口氏は説明し、それを裏付ける具体的な試算も明らかにしている。どう見ても消費税の5%増税では、焼け石に水程度にしかならないというのだ。
野口氏は、もし消費税だけで財政の健全化を実現しようとすると、計算上は最低でも税率を30%にあげる必要があるという。そこで言う財政再建とは、ユーロ加盟国が要求されている財政健全化の水準のことで、具体的には公債依存度が一定程度に保たれ、持続的に増えていかない状況を指す。
無論、5%の増税でも七転八倒している日本で、30%の消費税など政治的に不可能だし、そもそもそこまでの大増税になれば、経済への影響も莫大となるため、税収が税率と比例しなくなってしまう。また、そこまで高い税率になれば、食品や医薬品などの生活必需品に低減税率を適用する必要が出てくるが、インボイスが制度化されていない現行の消費税制度では、それも実現不可能だ。
しかし、そう言って、何もしないとどうなるか。仮に5%の消費増税が実施されたとしても、その他の有効な手立てが取られなければ、日本の財政は2027〜28年にはdoomsdayつまり、破綻状態に陥ると野口氏はある試算に基づいた予見を示す。それは2027〜28年頃には国債の発行額が500兆円を上回ることが予想され、現在日本の国債を購入している金融機関の購入力がそのあたりで限界を迎えるからだと言う。5%の増税では15年後には日本はdoomsdayが避けられないというのが、野口氏の試算だ。
となると、財政を再建するために残る選択肢は2つしかない。増税以外の何らかの形で増収を図るか、歳出を削減するかだ。野口氏の試算では、税収が毎年2%程度増えるか、歳出を毎年2%程度減らすことができれば、10年後、20年後の公債依存度はほとんど上がらないと言う。経済成長による増収が最も望ましいことは言うまでもないが、それが直ちに期待できない現状では、歳出カットが不可欠になると野口氏は言う。
野口氏が不可欠な対応として提案するのは、社会保障費の削減だ。現行の制度では、様々な理由から高齢者が過分に年金をもらい過ぎていると野口氏は言う。しかも、そのかなりの部分は、厚生省(現厚労省)の計算間違いに原因があったのだという。まずは給付開始年齢を引き上げるなどして、年金に手をつけ、その上で、現在国が行っている社会保障の中で、公的な施策として行われなければならないものと、そうでないものを改めて見直す必要があると野口氏は言う。
野口氏は、そもそも年金や医療や介護は受益者がはっきりしているため、原理的には料金徴収が可能であり、公的に行う必然性が見いだせないものが多い。シビルミニマムとしての最低保障は必要だが、それ以上のものについては、公的な補助を再考する必要があると言う。
ただし、年金については、残念ながらもはや制度が破綻しているため、民営化することは不可能だと言う。しかも、現行の年金制度の積立金は2030年頃には枯渇するため、そこにも多額の公的資金の投入が必要になることは覚悟しておく必要があると警告する。
doomsdayを回避するためには構造改革、とりわけ歳出構造と産業構造の改革が不可欠と説く野口氏に、話を聞いた。
(藍原寛子さんの福島報告は、今週はお休みいたします。)
関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第475回(2010年05月22日)
なぜ日本経済の一人負けが続くのか
ゲスト:野口悠紀雄氏(早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授)
マル激トーク・オン・ディマンド 第269回(2006年05月24日)
私が重大犯罪の被告を弁護しなければならない理由
ゲスト:安田好弘氏(弁護士)
プロフィール
野口 悠紀雄のぐち ゆきお
(早稲田大学大学院ファイナンス研究科顧問)1940年東京都生まれ。63年東京大学工学部卒業。72年エール大学経済学博士号取得。64年大蔵省(現財務省)入省。主計局、一橋大学教授、東京大学先端工学研究センター長などを経て01年退官。スタンフォード大学客員教授などを経て05年より早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、10年より現職。著書に『世界経済が回復するなか、なぜ日本だけが取り残されるのか』、『消費増税では財政再建できない』など。
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2012年02月22日 20時47分22秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第566回(2012年02月18日)
分配社会のすすめ
ゲスト:波頭亮氏(経営コンサルタント)
アメリカのリサーチ会社ピュー・リサーチセンターが2007年に世界47カ国を対象に行った世論調査で、「自力で生活できない人を政府が助ける必要はあるか」との問いに対し、日本では38%の人が助ける必要はないと回答したそうだ。これは調査対象となった国の中でもっとも高く、欧州の先進国や中国、韓国などはいずれも10%前後だった。伝統的に政府の介入を嫌うアメリカでさえ、そう答えた人は28%しかいなかったという。
この調査結果を聞いた経営コンサルタントの波頭亮氏は、日本では「人の心か社会の仕組みのどちらかが明らかに正常でない」と考え、経営コンサルタントの目で日本のどこに問題があるかを分析し、独自の処方箋を考案した。
それが氏が著書『成熟日本への進路 「成長論」から「分配論」へ』で提案する分配社会のすすめだ。
波頭氏の主張は明快だ。少子高齢化が進む日本には、もはや大きな経済成長が期待できる条件が残されていない。にもかかわらず、政府は経済成長を目指した的外れな政策を採り続け、結果的に経済がほとんど成長しなかったばかりか、その間、国民所得は増えず、貯蓄率は下がり、貧困層は拡大し続け、結果的に社会不安ばかりを増大させてしまった。それが「困っている人がいても助ける必要はない」と考える人が世界一多い国になってしまった背景だと波頭氏は言う。
そして、これまでの成長を目指した政策に代わって波頭氏が提唱するのが、公正な分配政策だ。波頭氏は、これからは日本はいたずらに成長を追い求めるのではなく、すべての国民がほどほどに豊かさを享受できる成熟国家を目指すべきだと言う。そしてそれは、現在40%とアメリカに次いで世界最低水準にある税と社会保障の国民負担率を、イギリスやドイツ、フランス並みの50%に引き上げるだけで、十分に実現が可能だと言うのだ。
経済学者ではない、敏腕経営コンサルタントが提唱する重症日本の処方箋とはどのようなものか。ベーシックインカムの導入まで視野に入れた分配論を展開する波頭氏と、今日本がとるべき針路とは何かを考えた。
プロフィール
波頭 亮はとう りょう
(経営コンサルタント・(株)XEED代表)1957年愛媛県生まれ。1980年東京大学経済学部卒。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社主任研究員などを経て1988年独立、経営コンサルティング会社(株)XEEDを設立、代表に就任。著書に『フェッショナル原論』(ちくま新書)、『日本への進路-「成長論」から「分配論」へ 』(ちくま新書) など。
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2012年02月22日 20時45分52秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第565回(2012年02月11日)
リスク社会を生き抜くために
ゲスト:斎藤環氏(爽風会佐々木病院診療部長・精神科医)
昨年3月11日の地震・津波震災と原発事故は、多くの日本人の心に深い傷を残した。それはあまりにもひどい地震・津波被害の惨状やボロボロに壊れた福島第一原子力発電所の映像を目の当たりにした時の衝撃もさることながら、これまであたかも空気のように自分たちの日常を支えていた何かが壊れてしまったことからくる、喪失感や底なしの不安感といったものも含まれるにちがいない。
精神科医の斎藤環氏は、震災の精神的なショックの広がり方として、環状島モデルを紹介する。これは、実際の震災被害にあった中央と、震災から遙か遠く離れた地域では、人々は比較的冷静に状況を見ることができるのに対し、震災の周辺の人々が大きな精神的負担を感じることで、様々な異常行動を取る場合が多いことを指すのだそうだ。そのため、例えば買い占めや略奪のような災害時によく見られる反社会的な行為は、被災地よりもそこから少し離れた周辺で起きる場合が多いという。
斎藤氏は、自身が専門とする引きこもりのような症状も、震災直後の被災地では長い間引きこもっていた人たちが引きこもりから抜けだし、地域と一緒になって救援活動や復旧活動を行うことが多いが、しばらくして復旧が進み、日常が戻ってくると、また引きこもってしまう「災害ユートピア」現象も多く見られたと言う。
一方で、震災後、原発のあり方や放射能に対する対応をめぐって、原発推進・反対陣営の間で激しい誹謗中傷合戦が起きていることについても斎藤氏は、ベックの「非知のパラドクス」を紹介し、明確な答えのない「非知の(わからない)もの」に対して冷静に対処することの難しさを説く。
いずれにしても、この歴史的な大震災が、日本人の心理に大きく影響を及ぼしていることは間違いないだろう。
好む好まざるに関わらず、既にわれわれが「リスク社会」という人類史上特異な社会環境の中で生きていることが明らかな以上、この際そこでのわれわれ自身の立ち居振る舞いをあらためて冷静に見つめ直してみることは、決して無益ではないだろう。精神科医の斎藤環氏と、リスク社会とどう向き合うべきかを考えた。
リスク社会: ドイツの社会学者ウルリヒ・ベック氏が1986年の著書『Risikogesellschaft -(リスク社会。日本語訳タイトルは『危険社会』)』の中で打ち出した概念。チェルノブイリ原発事故の発生を受け、その無差別的な破壊力が、致命的な環境破壊を増殖させる社会のメカニズムを分析し、現代社会を、富の分配が重要な課題であった産業社会の段階を超えて、危険の分配が重要な課題となる「リスク社会」であると論じた。「近代が発展するにつれ富の社会的生産と平行して危険が社会的に生産されるようになる。貧困社会においては富の分配問題とそれをめぐる争いが存在した。危険社会ではこれに加えて次のような問題とそれをめぐる争いが発生する。つまり科学技術が危険を造り出してしまうという危険の生産の問題、そのような危険に該当するのは何かという危険の定義の問題、そしてこの危険がどのように分配されているかという危険の分配の問題である。」(『危険社会』 p.23)
関連番組
マル激トーク・オン・ディマンド 第236回(2005年09月30日)
猿でもわかるオタク入門
ゲスト:斎藤環氏(精神科医)
プロフィール
斎藤 環さいとう たまき
(爽風会佐々木病院診療部長・精神科医)1961年岩手県生まれ。86年筑波大学医学専門学群卒。90年同大大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。87年爽風会佐々木病院医師を経て、98年より現職。専門は思春期・青年期の精神病理学。著書に『博士の奇妙な成熟ーサブカルチャーと社会精神病理』『ひきこもりから見た未来』『キャラクター精神分析』など。
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2012年02月05日 14時39分01秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第564回(2012年02月04日)
東大話法に騙されるな
ゲスト:安冨歩氏(東京大学東洋文化研究所教授)
「東大話法」なるものが話題を呼んでいる。東大話法とは東京大学の安冨歩教授が、その著書「原発危機と東大話法」の中で紹介している概念で、常に自らを傍観者の立場に置き、自分の論理の欠点は巧みにごまかしつつ、論争相手の弱点を徹底的に攻撃することで、明らかに間違った主張や学説をあたかも正しいものであるかのように装い、さらにその主張を通すことを可能にしてしまう、論争の技法であると同時にそれを支える思考方法のことを指す。
「人体には直ちに影響があるレベルではありません」「原子炉の健全性は保たれています」「爆発することはあり得ない」等々。3・11の原発事故の直後から、われわれは我が耳を疑いたくなるような発言が政府高官や名だたる有名な学者の口から発せられる様を目の当たりにした。あれは何だったのか。
さらに、人口密度が高い上に地震国であり津波被害とも隣り合わせの日本で、少し考えれば最も適していないことが誰の目にも明白な原子力発電が、なぜこれまで推進されてきたのか。一連の政府高官や学者の言葉や、最も原発に不向きな日本で原発が推進されてきた背後には、いずれもこの東大話法があると安冨氏は言う。今日にいたるまで原子力村が暴走してきた理由、なぜがわれわれの多くが原発の安全神話を受け入れてしまっていた理由、そしてわれわれが原発を止めることができなかった理由を考える上で、東大話法は貴重な視座を与えてくれる。
安冨氏は東大話法の特徴を1)自分の信念ではなく、自分の思考に合わせた思考を採用する、2)自分の立場の都合のよいように相手の話を解釈する、3)都合の悪いことは無視し、都合のよいことだけ返事をする、4)都合のいいことがない場合には、関係のない話をしてお茶を濁す、5)どんなにいい加減でつじつまの合わないことでも自分満々で話す、6)自分の問題を隠すために、同種の問題を持つ人と、力いっぱい批判する、7)その場で自分が立派な人間だと思われることを言う、8)自分を傍観者と見なし、発言者を分類してレッテル貼りし、実体化して属性を勝手に設定し、解説する、など20の項目にまとめ、そのような技法を駆使することで、本来はあり得ない主張がまかり通ってきたと言う。そして、その最たるものが、原発だと言うのだ。
実際、このような不誠実かつ傍観者的な論理は原発に限ったものではなく、今日、日本のいたるところで見受けられる。しかし、それが東大ではより高度なレベルで幅広く行われているという理由から、安冨氏は自身が東大教授でありながら、あえてこれを東大話法と名付けたそうだ。
東大話法の最大の問題は、いかなる問題に対しても、あくまで自らを傍観者としての安全な場所に置いた上で、自分という個人が一人の人間としてその問題についてどう思っているのかという根源的な問いから逃げたまま、自分の社会的な立場からのみ物事を考え、そこから発言をしているところにある。そこには人間としての自分は存在しないため、人間としてはあり得ないような論理展開が可能となってしまう。当然、その論理は無責任極まりないものになる。そして、そのような人間としてあり得ないような論理を正当化するためには、その問題点や矛盾点を隠すための高度な隠蔽術が必要になる。そのような理由から、東大話法が編み出され、洗練されていったと安冨氏は言う。
安冨氏は、東大話法の存在を知り、その手の内を理解することで、東大話法に騙されなくなって欲しいと言う。そうすることで、日頃から違和感を感じながらも、まんまと東大話法の罠に嵌り、おかしな論理を受け入れてしまっている様々な問題について、自分本来の考えをあらためて再確認することが可能になるかもしれない。
しかし、それにしてもなぜ東大話法なるものが、ここまで跋扈するようになってしまったのだろうか。現在の日本が多くの問題を抱えていることは言うまでもないが、その多くについてわれわれは、必ずといっていいほど「誰かのせい」にしている。そして、その論理を説明するために、実は自分自身に対してまで東大話法を使って自分を納得させてはいないだろうか。東大話法を知ることで、自分もまた無意識のうちにそのような論理を振り回していることにより自覚的、かつ自省的になることも可能になるはずだ。
東大話法に騙されることなく、「自分の心の声を聞け」と訴える異色の東大教授安冨氏と、東大話法とその背景を議論した。
今週のニュース・コメンタリー
•議事録未作成問題が意味するもの
•エネルギー関連有識者会議続報
原子力規制庁が機能するための条件とは
プロフィール
安冨 歩やすとみ あゆむ
(東京大学東洋文化研究所教授)1963年大阪府生まれ。86年京都大学経済学部卒業。京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。博士(経済学)。住友銀行勤務を経て、京都大学人文科学研究所助手、ロンドン大学滞在研究員、名古屋大学情報文化学部助教授、東京大学東洋文化研究所教授。09年より現職。著書に『生きるための経済学』、『原発危機と東大話法』など。
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2012年01月29日 18時02分36秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第563回(2012年01月28日)
だから消費税の増税はまちがっている
ゲスト:高橋洋一氏(政策シンクタンク「政策工房」会長・嘉悦大学教授)
いよいよ消費税増税が決まってしまいそうだ。野田佳彦首相は今週始まった通常国会冒頭の施政方針演説で、消費税増税の方針を明確に打ち出した。自民党も元々消費税増税を主張していたことから、「与野党協議」という名の国対裏取引によって消費税増税が実現するのは、永田町を見る限りは時間の問題と受け止められているようだ。
確か、財政事情や少子高齢化による人口構成の変化などで、何らかの増税は避けられないとの説が幅を利かせている。実際マル激でも、これまでそのような主張を多く紹介してきた。しかし、一見、常識的に見えるこの主張に何か問題はないのかを考えるため、消費税増税の必要性を真っ向から否定している元財務官僚の高橋洋一氏に、なぜ氏が消費税増税が間違っていると主張しているかについて、じっくり話を聞いてみることにした。
高橋氏が消費税増税に反対する理由は明快だ。
まず、増税の前にやるべきことが山ほどあるはずなのに、それがまったくできていないこと。社会保険料も10兆円単位で取り損ないがあることがわかっているのに、それも手当をしていないし、ほとんどの法人がまったく税金を払っていない現状もそのままだ。民主党の公約だったはずの納税者番号制度や歳入庁を設立し、消費税インボイスなども導入して、まずは公正・公平な税と社会保険料徴収の仕組みを作ることが先決だと高橋氏は言う。それが改善されるだけで毎年20兆円前後の歳入増となり、消費税増税による増収以上の効果がもたらされる。それに、そもそもそれをやらずに、投網をかけるように全国民に広く徴税をする消費税を上げるのは、不公平この上もない。
また、同じく増税の前にやるべきこととして、政府の資産売却や天下り特殊法人の整理も手つかずのままだ。そこに毎年血税が注入されるでたらめな歳出構造を放置したまま増税などを行っても、穴の空いたバケツに水を入れるようなものだし、当然、国民の不満は募る一方だ。
それにも増して優先されるべきこととして、高橋氏は金融政策によって名目成長率をあげるマクロ政策の実施が必須だと言う。名目成長率をあげれば財政収支が改善することは、過去のデータが明確に示している。日本と並びインフレ目標の設定を拒否してきたアメリカが今週2%のインフレターゲットを設定したことを見てもわかるように、金融政策による名目目成長率の引き上げは、「ボーリングのヘッドピン」(高橋氏)の位置づけ。これをやればすべての問題が解決するわけではないが、これを外すとストライクは不可能になるという意味で、日本はまだやるべきことを全然できていないと高橋氏は言う。
しかし、それにしても、もしそこまで明確な解があるならば、なぜ政府や日銀はそれを実行しないのだろうか。これについて高橋氏は日銀にインフレに対する極端な警戒心があることもさることながら、本当の問題は高橋氏の古巣でもある財務省にあるという。インフレターゲットが設定されマクロ政策によって名目成長率が引き上げられると、財政が健全化してしまうかもしれない。「財政が健全化すると財務省は増税ができなくなってしまう」(高橋氏)ため、財務省自身がそれを望んでいないし、それ故に、財務省の手のひらの上にのった状態にある民主党政権では、政治の側からもそういう主張は出てこないというのだ。
一見一般人には理解しがたい論理だが、あれだけ財政健全化を声高に主張する財務省の真意は、実は財政再建そのものではなく、それを謳うことで実現する「増税」の方にあるのだと言う。それは増税こそが、税の特例措置を与える権限強化を通じて、財務省の省益や財務官僚の私益につながるからに他ならないと高橋氏は言い切る。つまり、今回の消費税引き上げでも財政再建にはほど遠いことが次第に明らかになりつつあるが、それこそが財務省の真意なのであって、そう簡単に財政健全化などされると増税する口実を失ってしまい、財務省にとっては不都合になるというのが、一連の増税論争の根底にある「財務省に乗っ取られた民主党政権」問題の本質だと言うのだ。
財務省の手口を知り尽くした元財務官僚で、安倍政権下で財務省とガチンコ勝負を戦った高橋氏に、此度の消費税増税論争の根本的問題を聞いた。
今週のニュース・コメンタリー
•法的拘束力のない国民投票に意味はあるか
•エネルギー関連有識者会議続報
議論が核燃料サイクルに戻ってしまう理由
プロフィール
高橋 洋一たかはし よういち
(政策シンクタンク「政策工房」会長・嘉悦大学教授)1955年東京都生まれ。78年東京大学理学部数学科卒業、80年東京大学経済学部卒業。07年千葉商科大学大学院政策研究博士課程修了。博士(政策研究)。80年大蔵省入省後、理財局資金企画室長、98年〜01年プリンストン大学客員研究員、06年首相補佐官補(安倍内閣)などを経て、08年退官。東洋大学経済学部教授を経て、09年政策シンクタンク「政策工房」を立ち上げ会長に就任。10年4月嘉悦大学教授に就任。著書に『消費税「増税」はいらない!』、『数学を知らずに経済を語るな!』など。
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第562回(2012年01月21日)
われわれはどこから来て、どこへ向かうのか
ゲスト:篠田謙一氏(国立科学博物館人類史研究グループ長)
われわれ人類は10万年という単位の時間に責任が持てるのだろうか。
福島第一原発の事故で原発の是非をめぐる議論が活発に交わされるようになったが、原発が存続する限り原発から出る使用済み核燃料は、10万年程度は地下で保管しなければならない。また、原発の副産物プルトニウム239の物理的半減期は2万4000年、核燃料に用いるウラン238にいたっては45億年だ。
今、こうした万単位、あるいは億単位の時間を議論するわれわれが一体何者なのかを考える上で、今週のマル激ではわれわれ人類の起源に思いを馳せてみることにした。これから10万年の間、放射性物質を地下保管しなければならないことを前提に原発を続けるということは、10万年前のネアンデルタール人が、現代の人類にまで影響が及ぶ行為を選択することと同じだ。少なくともそのスケール感を認識した上で、10万年単位でわれわれ人類がどこから来て、どこに向かっているかを考えてみた。
10万年前といえば、まだネアンデルタール人がヨーロッパにいた。今の人類よりも脳の体積もずっと小さく、骨格もまだ猿人の名残を残す旧人だ。同時に、アフリカで20万年前頃に登場したとされるわれわれ現生人類の祖先である新人ホモ・サピエンスがアフリカからの脱出を図り始めたのも10万年前頃だったそうだ。700万年から1000万年くらい前に類人猿から枝分かれした人類は、猿人から原人、旧人へと進化を遂げ、この頃ようやく地球上に登場してきたのが新人と呼ばれるホモ・サピエンスだった。現代のわれわれ人類と同等の知能をもったホモ・サピエンスは、おそらく冒険心からか、あるいは環境の変化によってやむなく、出アフリカを選択し、そこから人類は地球上に広がっていった。この時アフリカを脱出したホモ・サピエンスの数は一説によると150人程度だったという。
実は最近のDNA解析技術の進歩で、DNAを辿っていくと、今地球上に生きている現生人類はすべて15万年〜20万年前にアフリカに生まれた「ミトコンドリア・イブ」と呼ばれる一人の女性の子孫であることが明らかになっているそうだ。細胞のミトコンドリアDNAを辿っていくことで、20万〜15万年ほど前にアフリカで生まれた人類は、10万年前頃から各地に広がり始め、そして、おそらく4〜3万年前に日本に初めて新人が渡ってきたということだ。
人類はハプログループと呼ばれる遺伝子パターンの違いからグループ分けをすると、4つのグループに分けられる。これは今われわれが考える人種や民族とは大きく異なる。そして、4つのグループのうち3つはアフリカのみに存在する遺伝子パターンをもったグループで、残りの1つのクラスターの中に、アフリカの一部とアジア、ヨーロッパ人が含まれる。
更にその遺伝子パターンを細かく分類していくと、日本人は東アジアに多いハプログループD、環太平洋に広がるハプログループB、マンモスハンターの系譜のハプログループA、北方ルートで日本に渡ってきた人たちの系譜であるハプログループN9など、ヨーロッパ人の系統であるハプログループHVなど、概ね20種類くらいのグループに分けられる。つまり、同じような日本人の顔をして日本語を話す同じ日本人同志でも、実際は遺伝子的にはかなりの差異があり、ハプログループDの日本人のDNAはハプログループAの日本人よりもむしろ東アジアの人々のそれに近く、逆にハプログループAの日本人は、DNA的には他の日本人よりもカムチャッカ半島に住むロシアの人々により近いという。
肌の色や言語といった人間の形質は、その地域の気候や自然、地理的条件によって時間をかけて形成されてくるものだが、人間をDNA的世界観で見直してみると、そこにはまた違った顔があることに気づく。ゲストの篠田謙一国立科学博物館人類史グループ長によると、肌の色や体型、言語といった、これまでわれわれが人間を識別する上でもっとも重視してきた特性の違いは、数千年単位で出てくるものだが、DNA解析によってあらためて人間を万年単位で見直してみると、また違ったものが見えてくるという。
これはよく言われる日本人が単一民族かどうかについても、新たな視点を提供してくれるかもしれない。実際DNA解析が可能になり人類アフリカ起源説がかなりの精度で証明されるまでは、北京原人やジャワ原人など、それぞれの地域で類人猿から進化した人間がその地域に定住したとされる人類複数起源説が大まじめで唱えられていたという。これがある時代において、人種の差異が絶対的なものであることを強調したい人たちにとっては、非常にありがたい説だったことは想像に難くない。
しかし、これは逆に考えると、例えば同じ日本人でも分子生物学的にはつまりDNA的世界観に立てば、単一と言えるような共通性は持たないが、そのばらばらな遺伝子をもったわれわれが、長い年月を経て一つの共通の文化を獲得したことの価値も改めて再評価できる。実際は分子生物学的にはバラバラなわれわれ、つまりこれまで思っていたほど画一性が自明ではないわれわれ日本人が、後天的にこのような共通の文化で新しいグループを形成することに成功したと考えると、それがいかに貴重な、そして場合によっては守っていかなければならないものなのかを痛感せずにはいられない。
いずれにしても今われわれが失ってはならない視点は、言語や文化、ひいては肌の色や体格といった肉体的な特性でさえ、ここ数千年の間に起こった変化にすぎず、現生人類20万年の歴史、あるいは日本人の4万年の歴史からみれば最後の最後に生じた、言うなれば枝葉末節な変化に過ぎないということだろう。
数万、数十万年のスケールで人類や日本人の起源を研究してきた篠田氏と、人類や日本人がこれまで歩んできた道を探った上で、これから行き先がどうあるべきかを考えた。
今週のニュース・コメンタリー
•SOPAから見える新旧メディアの質的な違い
•エネルギー関連有識者会議続報
推進派も反対派も主張の真意が問われ始めた
プロフィール
篠田 謙一しのだ けんいち
(国立科学博物館人類史研究グループ長)1955年静岡県生まれ。1979年京都大学理学部卒業。医学博士。佐賀医科大学助教授などを経て現職。著書に「日本人になった祖先たち」(NHKブックス)、共著に「骨の辞典」など。
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2012年01月15日 18時44分39秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第561回(2012年01月14日)
原発事故の裁判所の責任を問う
ゲスト:井戸謙一氏(弁護士・元裁判官)、海渡雄一氏(弁護士)
「被告は志賀原発2号機を運転してはならない」
2006年3月24日、金沢地裁の井戸謙一裁判長は、被告北陸電力に対し、地震対策の不備などを理由に、志賀原発2号機の運転停止を命じる判決を下した。しかし、日本で裁判所が原発の停止を命じる判決は、後にも先にもこの判決と2003年1月の高速増殖炉もんじゅの再戻控訴審の2度しかない。それ以外の裁判では裁判所はことごとく原告の申し立てを退け、原発の継続運転を認める判決を下してきた。また、歴史的な判決となったこの2つの裁判でも、その後の上級審で原告は逆転敗訴している、つまり、原告がどんなに危険性を主張しても、日本の裁判所が最終的に原発を止めるべきだと判断したことは、これまで唯の一度もなかったのだ。
水掛け論になるが、もしこれまでに裁判所が一度でも、原発に「待った」の判断を下していれば、日本の原発政策はまったく違うものになっていたにちがいない。その意味で日本では裁判所こそが、原発政策推進の最大の功労者だったと言っても過言ではないだろう。
それにしても、なぜ日本の裁判所はそこまで原発を擁護してきたのだろうか。
原発訴訟を数多く担当してきた弁護士の海渡雄一氏は、過去の原発訴訟でいずれも「専門技術的裁量」と呼ばれる裁判所の判断が、原告の前に立ちはだかった壁となったと指摘する。
専門技術的裁量とは、原発のように高度に専門的な分野では、裁判官は技術的な問題を正確に判断する能力はない。そのため、裁判所は基本的には専門家の助言に基づいて行われている政府の施策を尊重し、そこに手続き上、著しい過誤があった場合にのみ、差し止めを命じることができるというもの。過去の裁判で、原発の耐震性や多重事故の可能性などが争点にのぼっても、裁判所は常にこの専門技術的裁量に逃げ込むことで、原発の本当の危険性を直視することから逃れてきた。
また、女川原発訴訟の最高裁判決で、原発に関する情報を国や電力会社側が独占しているとの理由から、原発の安全性の立証責任は国や電力会社側にあるとの判断が示されているにもかかわらず、それ以降も裁判所はその判断基準を無視して、常に危険性の証明を原告側に求めてきた。
要するに、裁判所としては基本的に政府や電力会社の言い分を信じるしかないので、もし原告がどうしても原発が危険だというのであれば、それを具体的に証明して見せるか、もしくは行政の手続きに著しい不正や落ち度があったことのいずれかを証明しない限り、原告には一分の勝ち目もないというのだ。
その基準が唯一逆転したのが、冒頭で紹介した2006年の志賀原発差し止め訴訟だった。この裁判で裁判長を務めた井戸氏は、原告が提示した原発の耐震性に対する懸念に対して、被告の北陸電力が十分な安全性の証明ができていないとの理由から、原発を止める歴史的な判決を下している。しかし、この訴訟も上級審では原告の逆転敗訴に終わり、結果的に原発訴訟での原告の連敗記録をまた一つ更新してしまった。
その後弁護士に転じた井戸氏は、過去の原発訴訟で最高裁が原発の停止につながるような判断を政策的な配慮からことごとく避けてきたため、それが下級審にも影響していると指摘する。国策でもある原発政策に、裁判所は介入すべきではないとの立場からなのか、原告が有利に見える場合でも、裁判所は専門技術的裁量だの危険性の立証責任を原告側に課すなどして、最終的には原告の申し立てを退け、原発の運転継続を後押ししてきた。
その集大成とでも言うべき浜岡原発訴訟では、裁判所自ら原子炉が断層の真上にあることや、近い将来この地域で大規模な地震が起きる可能性が高まっていることを認めておきながら、「抽象的な可能性の域を出ない巨大地震を国の施策上むやみに考慮することはさけなければならない」として、あくまで国の政策に変更を求めることを拒否する姿勢を裁判所は見せている。
ちなみにこの裁判で原告側が、地震によって2台の非常用ディーゼル発電機が同時に故障する可能性や、複数の冷却用配管が同時に破断する可能性などを指摘したことに対し、中部電力側の証人として出廷した斑目春樹東京大学教授(当時)は、「非常用ディーゼル二個の破断も考えましょう、こう考えましょうと言っていると、設計ができなくなっちゃうんですよ」「ちょっと可能性がある、そういうものを全部組み合わせていったら、ものなんて絶対に造れません」と証言している。そして、その後原子力安全の総責任者である原子力安全委員長に就いた斑目氏のもとで、2011年3月11日、福島の第一原子力発電所でまさに複数の非常用ディーゼルが故障し、複数の冷却用配管の同時破断が起きたことで、メルトダウンに至っているのだ。
「原発訴訟では原告側の証人を見つけることが常に最も困難な作業だった」と過去の原発訴訟を振り返る海渡氏は、3・11の事故以降、原発訴訟に対する裁判官の態度が変わってきたという。これまで原告が主張するような重大な事故はまず起こらないだろうと高を括っていた裁判官も、福島の惨状を目の当たりにして、ようやく目が覚めたのかもしれない。
しかし、これまで原発を裁判所が後押ししてきたことの責任は重い。なぜ日本の裁判所は政府の政策を覆すような判決から逃げるのか。歴史的な原発停止判決を下した元判事の井戸氏と数々の原発訴訟の代理人を務めてきた海渡氏と、原発事故の裁判所の責任とは何かを考えた。
今週のニュース・コメンタリー
•乗り物事故の刑事裁判を再考すべき時ではないか
•若者のセックス離れは「イタさ」回避のあらわれ?
プロフィール
海渡 雄一かいど ゆういち
(弁護士)1955年兵庫県生まれ。79年東京大学法学部卒業。81年弁護士登録。日本弁護士連合会(日弁連)刑事拘禁改革実現本部事務局長、国際刑事立法対策委員会副委員長、共謀罪立法対策ワーキンググループ事務局長などを歴任。2010年より日弁連事務総長。著書に『原発訴訟』、『監獄と人権』など。
井戸 謙一いど けんいち
(弁護士・元裁判官)1954年大阪府生まれ。79年東京大学教育学部卒業。同年、神戸地裁判事補、甲府地裁、福岡家裁、大津地裁、金沢地裁、京都地裁、大阪高裁などで判事を歴任。2011年退官、同年より現職。
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from: 21世紀さん
2012年05月28日 15時27分02秒
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「Re:マル激トーク・オン・ディマンド更新しました」
マル激トーク・オン・ディマンド 第580回(2012年05月26日)
財務省はいかにして政権を乗っ取ったのか
ゲスト:江田憲司氏(衆院議員・みんなの党幹事長)
増税に命をかけるとか言っている野田政権は、一体何を考えているんだろう。そのように感じている人は多いのではないだろうか。もしかするとその感覚は野田政権に限ったものではなく、政治全般に対してかなり以前から抱いていたものかもしれない。
本来であれば民主的なプロセスを通じて有権者であるわれわれが設置した政府であるはずの政権が、なぜかわれわれの方を向いていない。そして、それではどこを向いているかと言えば、どうやらいつも財務省を見ているということのようなのだ。
国会では5月17日から「社会保障と税の一体改革」なる法案が審議入りしている。しかし、われわれ国民の多くがより関心を持つ社会保障の改革案など、何も出てきていない。早い話が消費税を5%にあげるための増税案を審議しているだけなのだ。それもこれも政治の全体が、財務省の意図に沿って進んでいる。野田政権は財務省が作ったと揶揄されることが多いが、残念ながらそれは本当のようなのだ。
橋本政権の総理秘書官として財務省と激しく渡り合った経験を持つみんなの党の江田憲司幹事長は、財務省は今国会で消費税増税法案を通過させるために、ありとあらゆる権謀術数を駆使しているという。そして残念なことに、その多くが野田政権の下では功を奏しているという。
まず、財務省は増税を実現するために、日本経済の危機を演出するのが得意だと江田氏は言う。最近よく耳にする財政危機論や将来世代へのつけ回し論など、多少でも経済を勉強すればその嘘に簡単に気がつくはずの情報でも、財務省は政治家や言論人、マスメディアなどを通じてそれを巧みに流すことで、簡単に世論を操作してしまう。もはや日本全体が財務省のマインドコントロール下にあると言っても過言ではないと江田氏は言うのだ。
しかし、なぜ一省庁に過ぎない財務省が、そこまで権力を手中に収めることが可能なのか。江田氏は、財務省傘下にある国税庁の査察権の強大さが、十分に理解されていないと指摘する。有力政治家であればあるほど金銭関係で弱みを持つ人が多い。このことが財務官僚に付け入る隙を与えていると江田氏は言う。実際に江田氏はその力によって、本来行われるべき改革が潰されてきた実態を、何度も目撃していると言う。
さらに、財務省には組織をあげて省益を守るための「裏部隊」があり、他の省庁とは比較にならないほど強い鉄の結束で、政治家やメディアなどに対するロビーイングを行う高い能力もノウハウも、そしてその仕組みも備わっているというのだ。ほとんどの政治家は、こうした硬軟取り合わせた攻撃に抵抗できず、籠絡されてしまう。
政治主導を掲げて政権交代を果たした民主党だったが、官僚に対する抵抗力の弱さから、民主党政権で官僚の影響力はかえって強まってしまったと江田氏は言う。橋本内閣総理秘書官時代にかつての大蔵省改革に取り組み大蔵官僚らと対決した経験から、財務省にとって野田首相を消費税増税に政治生命を賭けるというまでに思い詰めさせるのは赤子の手をひねるほど容易であっただろうと言う。実社会での経験に乏しいまま国会議員となり総理にまで登りつめた野田氏には省庁のような巨大組織をマネージメントする能力が備わっていない。しかも同様のことが歴代の民主党総理にも言え、それが民主党の最大の欠点となっていると江田氏は分析する。
しかし、財務省主導の政治というのは、早い話が経理部がすべてを支配している会社のようなもので、既存の社会的配置の中で最適な解を見出すことには優れているかもしれないが、そこから新たな価値やイノベーションは生まれてこない。財務省が政権を乗っ取った状態が続く限り、今まさに日本が求められているものは生まれてこないと江田氏は指摘する。
最終的には政治が財務省を抑えるしかないが、それを実現するためには、財務省の手口を知り尽くしたスタッフを配置した上で、政治家は国税がどれだけ探ろうが埃一つでないほど身ぎれいにしていなければならないことを強調する。
今話題の大阪維新の会との選挙協力についても注目されるみんなの党幹事長の江田氏に、財務省支配の実態とその力の源泉、そしてそれを乗り越えるために何が求められているかなどについて、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が聞いた。
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•エネルギー関連有識者会議続報
あり得ない原発35%案が最後まで残る本当の理由
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ゲスト:高橋洋一氏(政策シンクタンク「政策工房」会長・嘉悦大学教授)
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原発震災を防げなかった本当の理由とは
ゲスト:古賀茂明氏(経済産業省大臣官房付)
マル激トーク・オン・ディマンド 第418回(2009年04月11日)
これ以上霞ヶ関の専横を許してはいけない
ゲスト:江田憲司氏(衆議院議員)
プロフィール
江田 憲司えだ けんじ
(衆院議員・みんなの党幹事長)1956年岡山県生まれ。79年東京大学法学部卒業。同年通商産業省入省。橋本通産大臣秘書官(村山内閣)、橋本内閣総理秘書官などを経て98年退官。2002年衆院初当選。09年より現職。著書に『愚直の信念』、『財務省のマインドコントロール』、共著に『「脱・官僚政権」樹立宣言』など。
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