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  • from: 21世紀さん

    2010年11月20日 20時46分04秒

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    文藝春秋2010年12月号「赤坂太郎」より

    菅・仙谷の稚拙な「民公連携」作戦(2/2)
    「優先順位をつけてほしい」

     九月下旬、仙谷は公明党幹事長・井上義久に対し、政府が検討する追加経済対策への要望を尋ねた。腕利きの弁護士として知られた仙谷は、かつてピース缶爆弾事件で起訴された井上の親族の弁護を担当し、無罪を勝ち取った経緯がある。井上は仙谷に請われるまま、代表の山口の携帯電話番号も教えた。政権中枢が公明党トップの連絡先さえ知らないほど、民主、公明両党の関係は希薄だ。仙谷はこれに先立って創価学会幹部との接触を試みた際、学会広報室を通じて「正面玄関」から連絡を取ろうとし、周囲を呆れさせた。

     仙谷が対公明党・創価学会工作を担うのは、民主党でこれまで学会との窓口だった元代表・小沢一郎が検察審査会の議決で強制起訴されることになり影響力を低下させたことに加え、菅の交渉ルートがゼロに等しいからだ。

     だが、仙谷のアプローチにもかかわらず、公明党・創価学会側の動きは鈍い。十年間続いた自民党との連立政権の間、選挙協力関係が深まり、来春に統一地方選を控えて急旋回は不可能だからだ。参院選で党代表の山口が「菅政権にレッドカード」と連呼したため、民公連携に踏み切れば支持者が戸惑うことは確実。一〇年度補正予算案をめぐり民主、公明両党幹部が会談すると報道されるや、公明党本部には「レッドカードと言ったばかりなのに、もう方針転換するのか」と抗議電話が殺到した。

     民公接近の兆しに波紋が広がる中、両党の政調会長ら幹部による会談は相次いで中止。仙谷と学会幹部の極秘会談も延期された。十月一日朝、当時、民主党国対委員長代理だった牧野聖修が国会内の公明党国対部屋にドーナツを持って現れると、公明党側は受け取りを拒否。牧野が無理やり置いていったドーナツは、党職員が民主党国対に突き返した。あからさまな政権すり寄りには学会員の拒否反応が強く、民主党のラブコールを受け入れる見通しは立っていない。

    ■「俺も仙谷も創価学会とはダメだ」

     とはいえ、公明党が本音では政権復帰に前向きなのは間違いない。オウム真理教事件を受けて九五年に宗教法人法改正が浮上した際、池田の「防波堤」として当時の会長・秋谷栄之助が国会に参考人招致された恐怖感は、多くの学会員の記憶に残る。支持者や世論の抵抗感が徐々に薄れるのを待ち、統一地方選後には連立へ踏み出すとの見方は多い。九九年、自民、旧自由両党との連立政権に参加した時と同じ「熟柿作戦」だ。

     ただ、公明党は自自公連立発足前、数合わせに応じる見返りとして、小渕政権に地域振興券の実現を迫った。今回も、連携受け入れの条件に何らかの政策要求を突きつける可能性が高い。公明党の悲願である中選挙区制復活を持ち出すこともあり得る。だが「小選挙区制度の申し子」を自任する岡田は絶対拒否の構え。財政再建路線に傾斜する菅政権で、公明党型のばらまき予算が編成されることも想定しにくい。公明党が投げ込むであろう「高めのボール」に政府、民主党側がどう反応するかによって、協議は難航するかもしれない。

     政府は、秋の叙勲で元公明党委員長の政治評論家・矢野絢也に対し、旭日大綬章を内定した。矢野は元公明党国会議員に自宅から手帳などを奪われたとして、創価学会などを相手に損害賠償を請求。公明党・創価学会と敵対関係にある。公明党幹部に叙勲が打診されるケースは多いが、池田大作への遠慮から辞退するのが通例となっている。九六年に勲一等旭日大綬章を受けた元委員長・竹入義勝が例外だが、竹入も矢野同様、学会との関係は最悪だ。政府は「主要政党の党首を務めた功績」と強調するものの、公明党幹部は「明らかな挑発だ」と激怒。民事訴訟を理由に叙勲を渋った内閣府賞勲局に対し、仙谷が「被害者として訴訟を提起したのに、そんな馬鹿な話があるか」と強く働き掛けたのが真相だ。

     仙谷は野党時代、矢野を自身の勉強会の講師に招いたほか、昨年秋からは矢野の長男を公設第二秘書として雇っている。「矢野ジュニアを雇う度胸がある議員は俺ぐらいだ」と笑い飛ばす仙谷に、公明党・創価学会側は神経をとがらせる。公明党幹部は「一体、うちと組みたいのか、そうでないのか。どっちなんだ」と困惑。ねじれ国会で政権ががけっぷちにあることを忘れたかのような仙谷の動きは分かりにくく、今後の波乱要因だ。

    「俺も仙谷も創価学会とは駄目だ。しかし、このままではまずい」

     十月中旬、菅は周辺に危機感を漏らした。政権交代の大目標に向けて突っ走っていた頃、政敵として切り捨てるだけで済んだ公明党・創価学会の存在感にようやく気付き、歯がみする日々だ。

     菅は十六日、公邸に自民党の元首相・福田康夫を招いた。菅側近の首相補佐官・寺田学が、三菱商事勤務時代の先輩である福田の長男・達夫に依頼して実現した異例の会談だった。外交舞台に不慣れな菅が十一月の横浜APECに向けてアドバイスを受ける名目だったが、首相在任中、ねじれ国会で苦しんだ福田に大局的な立場から打開策の指南を仰いだとの観測も絶えない。かつて福田の鼻面を引きずり回した一人である菅にとって、これほど皮肉な巡り合わせはない。

     一方、自民党は十月二十四日の北海道五区補欠選挙で、小沢への強制起訴議決が追い風となり、民主党に勝利した。選挙戦では「政治とカネ」問題がクローズアップされた。自民党は民主党の「小沢隠し」に照準を合わせ、執拗に証人喚問を求める方針だ。そこには、政治資金問題に敏感な公明党と民主党の接近に楔(くさび)を打ち込む狙いもある。民主党執行部が小沢を国会に突き出す決断をすれば、党内を二分する小沢系と反小沢系による対立再燃は必至。応じなければ、菅がよりどころとしてきた世論の支持を失う。自民党にとって「王手飛車取り」の局面だ。

     菅は自ら小沢に引導を渡すどころか、対応を岡田に丸投げしてしまった。官邸「奥の院」で守りを固める姿には、舌鋒鋭く時の政府、与党に迫った往時の面影はない。政権浮揚の方策を見いだせず、八方ふさがりに陥りつつある菅。自民党政権末期から繰り返されている短命首相の系譜に連なる日は、そう遠くないかもしれない。 (文中敬称略)

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