「Re:事件」
現場発：８度ＳＯＳ　命守れず／県警間連携に不備／長崎・西海のストーカー殺人
　長崎県西海市の山下美都子さん（５６）、久江さん（７７）が自宅で殺害された事件は、筒井郷太容疑者（２７）によるＤＶ（ドメスティック・バイオレンス）、ストーカー行為から家族殺害にエスカレートした構図が浮かび上がる。また、その暴力は元交際相手だった山下さんの三女（２３）だけでなく、筒井容疑者の実家にも及んでいたとみられ、現場は長崎、千葉、三重の３県に点在する。両家は度々警察に通報していたが、事件は最悪の結果となった。その経過に警察の連携不足も垣間見える。【釣田祐喜】

　千葉県警によると、筒井容疑者は千葉県に住んでいた三女とインターネットの交流サイトで知り合い、交際。しかし筒井容疑者が暴力を振るうようになり、三女が交際を断っても居座り、その暴力は三女の全身にあざが残るほどだったという。

　激しい暴力に対し、三女の父誠さん（５８）は１０月２９日を皮切りに今月６日まで計５回、３県警に相談。１２日には千葉県警に被害届を出した。筒井容疑者の両親も計３回、相談したり通報している。

　だが、事件２日前に筒井容疑者が実家で暴れた後、行方不明になったことは、三重県警桑名署が千葉県警習志野署に連絡したものの、山下さん夫婦の自宅がある長崎県警には連絡がなかった。長崎県警捜査幹部は「電話一本入っていれば……」と悔やむ。

　捜査関係者によると、筒井容疑者は実家を出た後、三重県内のネットカフェに滞在し、福岡市を経てＪＲとバスで１６日に現場に着いていた。

　長崎県警によると、筒井容疑者は調べに「家族を狙ってやった」などと供述。県警は、筒井容疑者が三女との交際を遮断され、次第に家族への恨みを募らせたとみている。

　交際相手への暴力は「デートＤＶ」と呼ばれる。デートＤＶ防止に取り組む一般社団法人「ｎｏｔｉｃｅ」（千葉県）の竹内由紀子代表理事によると、ＤＶ加害者は、自分から交際相手を引き離そうとする家族をも恨み、危害を加えるケースがある。

　９９年の桶川女子大生ストーカー殺人事件で刺殺された猪野詩織さん（当時２１歳）の母京子さん（６１）も、自宅への嫌がらせ電話や夫を中傷する手紙を受けた。「精神的に追い詰められた。何かあればすぐ飛び出せるように、パジャマは着ずに恥ずかしくない格好で寝ていた」と振り返る。「それでも事件後、警察から『まさか殺されるとは思わなかった』と聞いた。警察には最悪の事態を考える想像力を持ってほしい」と捜査のあり方に注文した。

2011年12月24日

12/24 02:31
毎日新聞