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弥生の河に言の葉が流れる

弥生の河に言の葉が流れる>掲示板

公開 メンバー数:7人

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from: yumiさん

2011年10月18日 12時10分39秒

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『さよなら』のかわりに―貝殻を―

去年の夏、沙梨(さり)は大切な人を失った。彼は優しく強く、だけど、呆気なく亡くなってしまった。沙梨は叔父夫婦と従妹の綾(あや)とその義弟である誠(まこ

 去年の夏、沙梨(さり)は大切な人を失った。
 彼は優しく強く、だけど、呆気なく亡くなってしまった。
 沙梨は叔父夫婦と従妹の綾(あや)とその義弟である誠(まこと)と一緒に、彼を失った海岸に遊びに来ている。

「…沙梨…本当に大丈夫?」

 事情を知っている綾は心配そうに沙梨の顔を覗き込んだ。

「大丈夫よ。」
「……。」

 少し顔色の悪い沙梨に綾は心配になる。

「……おい、綾っ!」
「…ほら、呼んでいるから行っていいわ。」
「……。」

 綾はまだ何か言いたげだったが、義弟であり、今では恋人である誠に呼ばれ、しぶしぶ綾は彼女から離れていった。

「…………。」

 沙梨はジッと海を見る。
 その目は悲しみに満ちていて、彼女ほどの美女がいるというのに誰も声をかけようとはしなかった。
「………さん…。」
 沙梨は亡くなったその人の名を呟いた。
「…どうして、私を置いて逝ったんですか?」
 物悲しい声が風に乗って、空へと消えた。

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from: yumiさん

2011年11月21日 10時12分55秒

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「『さよなら』のかわりに―貝殻を―」
「広人(ひろと)〜。金貸してくれ。」

 男友だちの第一声に広人は顔を顰めた。

「お前な、会って行き成り金の話かよ。」
「だってさ、おれの彼女がくるんだけど、持ち合わせがねぇんだもん。」
「……なんで金が要るんだ?今日は大学祭じゃなく、オープンキャンパスじゃねぇか。」
「帰りに絶対近くの雑貨に寄ってあれこれ強請られるからだ。」
「……。」

 自身満々に答える友だちに広人は肩を落とし、財布から札を数枚抜き取った。

「ほらよ。」
「サンキュー、今度何か奢るよ。」
「…奢るより先に借金を返せよな。」
「……覚えてやがったか…。」
「当たり前だ、一年前に貸した千円、三ヶ月に貸した五千円、きっちり利子つけて返してもらうからな。」
「……因みに利子は?」
「一月に一パーセントだ。」
「……うげ…妙に現実的な金額だな。」
「当たり前だろ、こっちだって苦学生だ。」

 広人はそう言いつつも相手が絶対に返してくれないと、冷静な部分で考えている事を彼は気づいていなかった。

「苦学生が何で今回のオープンキャンパスに出てんだ?」
「バイト代が出るんだよ。」
「安っぽい?」
「…しょうがないだろう、図書カードでも何でも貰えるんならその方がいいからな。」
「……。」

 彼は肩を竦めた。

「…お前時間はいいのか?」
「ん?」

 何となく思いついた言葉を口にした広人だったが、その言葉に友人は助けられたような、急かされたような微妙なものになった。

「あっ…。」

 漏れた声に続いて彼の顔が可哀想なほど真っ青になった。

「やべっ、殴られるっ!」
「……。」

 どんな凶暴な彼女だと心中で呟き、広人は彼の背を押した。

「んな、叫んでいる場合か?それなら、さっさと足を動かした方がよっぽど現実的だろう。」
「そ、そうだな。」

 彼は硬直からようやく抜け出し、走り出そうとして、急に足を止めた。

「……?」

 広人は彼が立ち止まった理由が分からず、首を傾げた。

「サンキュー、マジで金返すし、何か奢るからな。」
「……。」

 広人は声を殺し、微かに笑った。

「ああ、期待せず待っとくさ。」
「んじゃ、またな。」
「ああ。」

 軽く手を振り、彼を見送った広人は空を見上げた。

「沙梨(さり)さん、元気かな?」

 見上げた空は青く、どこまでも続いていていた。
 この空は何処かにいる沙梨にもきっと続いているはずだが、それでも、広人はそれだけじゃ満足していなかった。

「……逢いたい。」

 そんな言葉を呟いた瞬間、背後から微かな音が聞こえ、振り返ると二人の女子高生高校生がいた。

「「えっ。」」

 片方の女子高生と広人の声が重なった。

「沙梨さん…。」
「広人さん……。」

 この出会いは偶然なのか必然なのか分からなかったが、それでも、今の広人には関係なかった。

「会いたかった。」

 広人は人の目など全く考えず、沙梨を力いっぱい抱きしめた。

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