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弥生の河に言の葉が流れる

弥生の河に言の葉が流れる>掲示板

公開 メンバー数:7人

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  • from: yumiさん

    2010年09月30日 10時29分03秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第八章〜・14・

    「そこまでにしたらどうかしら?」
    「ち、智里(ちさと)っ!」

     友梨(ゆうり)は妹の声を聞き、慌てて昌獅(まさし)の肩を押し離れていった。

    「い、いつから……。」
    「始めからに決まっているでしょ。」

     呆れるように言う、智里に友梨は羞恥で顔を赤く染める。

    「……ううう…。」
    「お姉ちゃんって恥なんてものないのね、こんな公衆の面前で抱き合うなんて。」
    「だ、だって。」
    「はあ、こんな姉の妹だなんて事実どっかに捨ててきたいわ。」

     智里は首を横に振り、冷めた目で姉を見た。

    「後悔するのだったら、全てを終えてからにして。」
    「智里?」
    「こんな所でわたしたちは立ち止まれないの。」
    「……。」
    「それに、今回はうまくいったのだから、その経過なんて後で考えればいいでしょ、「終わりよければ全てよし」って言うでしょ。」
    「……でも。」
    「どうせ、すべて悪いのはあの変態、お姉ちゃんたちが悔やむ必要も、悲しむ必要も無いわ。」

     何の情も感じさせない智里の物言いに友梨は彼女に怒りを覚えた。

    「何よっ!」
    「あら、怒るの?」
    「当たり前よ、あんたには情ってものは無いのっ!」
    「あるわよ、一応。」

     智里は何が可笑しいのかクスリと笑った。

    「それがあって、何が変わるというの?」
    「何が言いたいのよ。」
    「分からないの?」

     智里は先程まで笑っていたのが嘘のように冷め切った目で友梨を見た。

    「今回情の所為で、昌獅さん、勇真(ゆうま)さんは戦闘要員であるはずなのに、動かなかった。」
    「それは…。」
    「その所為で、本来なら数分で終わった戦いがかなり長引いた上に、お姉ちゃん、貴女が傷だらけになった。」
    「私の事なんてどうでもいいのよ。」
    「あら、そんな怪我でよく言うわ。」

     智里は乱暴に友梨の腕を掴んだ。

    「――っ!」
    「ほら、こんなにもボロボロ。」
    「智里…。」

     友梨はこれ以上智里が何も言わない事を願いつつその名を呼んだが、彼女はそれを意図的に無視した。

    「昌獅さん、どうして、お姉ちゃんを守らなかったの。」
    「智里っ!」
    「貴方は何の為にその力を使うの。」
    「智里っ!!」
    「貴方は何度同じ過ちを繰り返すというの。」
    「――っ!」

     昌獅の瞳に怯えが映し出され、友梨は反射的に智里を殴った。

    「なっ!」

     智里にしては珍しく、素っ頓狂な声をあげ、友梨はハッと自分のしでかした事に一瞬顔を青くさせるが、先程までやっていた智里の行為を思い出し、自分に活を入れる。

    「いい加減にして。」
    「何でかしら、お姉ちゃん。」
    「あんたは間違っている。あんたは大切な人を簡単に傷付けていいと言っているのよ。」
    「そんな事は言ってないわ。」
    「言っているっ!」

     友梨は智里に挑むように睨み付けた。

    〜つづく〜
    あとがき:私はワードで打ってから、こちらに載せているんですが。誤字があれば、あちらも間違っているんですよね〜。だけど、今回…いや、前々回のお話で「冒涜」という字を難しい方にしといたら、文字化けにあいました。…あ〜、びっくりしました。

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    マナ

  • from: yumiさん

    2010年09月29日 14時32分55秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第八章〜・13・

    「昌獅(まさし)…ごめんなさい。」

     突然謝り出した友梨(ゆうり)に俺は驚きを隠せなかった。

    「何で…謝るんだ?」

     むしろ自分の方が謝るべきだ。
     何せ、偽者だとはいえ、自分でやっつける事のできない、「姉」と戦わせてしまったのだ。
     なのに、彼女は眼を伏せ、謝罪の言葉を繰り返す。

    「なあ、友梨…こっちを見てくれ。」
    「や…。」

     俺は友梨に近付き、彼女の手首を掴んだ。だが、彼女はそれから逃れようと悲鳴に近い声を上げ、暴れ始める。

    「離してっ!」
    「駄目だ。」
    「……昌獅。」
    「頼む…ちゃんと、理由を言ってくれ…。」

     俺は友梨の肩口に自分の額を押し付けた。

    「俺は…何でお前が謝るのか…分からない…。」
    「……。」
    「本当なら…俺が謝るべきなのに。勝手に訳わかんない事で謝らないでくれ…。」
    「私が…………だよ。」
    「はあ?」

     俺はこいつの言っている言葉が聞き取れず、聞きなおした。

    「私が止めをさしたんだよっ!」

     俺はその一言でこいつの抱えている罪悪感を理解した。

    「友梨…。」
    「ごめんなさい…。」
    「友梨。」
    「ごめんなさい。」
    「友梨っ!」

     俺が怒鳴り、彼女は怯んだ。

    「ま…さし?」
    「その言葉をこれ以上言うな。」
    「でも……。」
    「お前がやらなければ、俺たちはやられていた。」
    「そんな…事…。」
    「ある。」

     俺は真剣な目で彼女を見詰める。

    「あるんだよ…。」
    「……。」
    「俺はお前に全てをやらせようとした…。」
    「本当なら、俺か勇真(ゆうま)が決着をつければよかったのに…。」
    「そんな事…。」
    「俺はお前の優しさに付け込んで、酷い事をさせた…。」

     俺は先程よりも強く彼女を――友梨を抱きしめた。

    「悪い…。」
    「昌獅……。」

     友梨は微かに震える手で、俺を抱きしめ返した。

    「……ありがとう。」
    「……。」

     俺は彼女の言葉に驚き、彼女の顔を見ると友梨は目に涙を溜め、微笑んでいた。

    「「ごめん」は言わしてくれないんでしょ?だから、「ありがとう」。」
    「……友梨。」
    「だから、昌獅も…謝るんじゃなくて、「ありがとう」って言って。」
    「ん。友梨、サンキュウな。」

     俺は彼女が求めるまま、謝罪の言葉じゃなく、感謝の言葉を述べた。
     このまま、時が止まればいいと思った。
     悲しみと憎しみが薄らぎ、この腕にあるのは安堵と優しさだけだった。
     だが、幸せなど、あっという間に壊れるものだ、そして、今回も例に漏れなかった。

    〜つづく〜
    あとがき:さてさて、もう少しで終わりそうなんですが…、なかなかうまくいきません。

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  • from: yumiさん

    2010年09月28日 10時00分35秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第八章〜・12・

    「……何で…。」

     友梨(ゆうり)の目がこれ以上ない程大きく見開かれる。

    「何で……。」
    「……凄いわね…。」

     奈津美(なつみ)は目を細め、そして、己の腹を見下ろす。

    「……友梨…遅くなった。」
    「何でっ!」

     友梨は今自分の目にしている光景に目を疑った。

    「昌獅(まさし)っ―――――――!」

     昌獅はいつの間にか奈津美の背後に回りこみ、奈津美の背から刀を突き刺した。
     刀は奈津美の体を貫き、腹から銀色に光る刃が飛び出ていた。

    「……消えろ、偽者…。」

     昌獅は感情の篭らない目でそう言い放つ。

    「……偽者ね…。」

     奈津美は急に狂いだしたかのように笑い出した。

    「そうね、貴方たちにとってわたしは偽者…でも、わたしにとっては「わたし」がオリジナルなのよ。」
    「…だが、偽者は偽者だ。」
    「そう思いたいだけなのね、「昌獅」。」
    「――っ!」

     本物の奈津美のように名を呼ばれ、昌獅の顔に罪悪感、悲しみ、恐れが浮かぶ。

    「「昌獅」…痛い…、お願い、それを抜いて……。」

     友梨はこの瞬間彼の気持ちをもてあそぶ、それに怒りを感じた。
     先程まではそれには怒りを感じていなかった。ただ、それを作った【ルーラー】に対してだけの怒りだった。

    「く……。」

     昌獅は反射的に刀を抜こうとした右手を左手で阻止した。

    「……貴女も…あの変態と同じなのね。」
    「……何の事?」
    「人の気持ちを踏み躙る。」
    「……友梨?」

     昌獅はどこか、友梨に縋るような目で彼女を見た。
     友梨は彼が辛いのだと悟った。
     それもそうだろう、彼女だって、妹たちや友人たちがこうして、完全に敵に回れば躊躇する。
     第一ステージの時…美波(みなみ)の場合は今回と違った。あの時は美波を取り戻せる、唯一の手段だった。
     だが、今回は全く異なる、彼女はもう既に亡くなっている。死者を冒涜する事を【ルーラー】はしでかし、さらに、生きている人の心を傷つけた。

    「許さないっ!」

     友梨はナイフを素早く投げ、それらで奈津美の心臓部位と眉間に向かって投げた。

    「………マ…サカ…。」

     奈津美の口から発せられるのは先程とは違う機械の声だった。

    「…ワタシ…ガ…ヤラレ…ル…ナンテ…。」

     友梨は無表情のままそれを見る。

    「あんたが悪いのよ。」
    「……。」
    「あんたが、昌獅や勇真(ゆうま)さんの気持ちを踏み躙った。」
    「……。」
    「それが、私の怒りの導線に火をつけた…。」

     完全に機能が停止しているのか、奈津美の瞳に光がなくなる。

    「貴女が…本物の奈津美さんと同じだったら、私だって、戦えたとは思えない。」
    「友梨?」
    「だって、本物は…勇真さんへの愛や…昌獅への家族愛があったはずだから…、部外者の私が傷つけることが出来ない。」
    「……。」
    「偽者だから…私はこれを傷つけることが出来た…。昌獅…ごめんなさい。」

     唐突に謝ってきた友梨に昌獅は目を剥いた。

    〜つづく〜
    あとがき:ああ、昨日は本当に予想外だったな〜、まさか、二万人記念になるとは…。本当に驚きです。

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  • from: yumiさん

    2010年09月27日 10時00分05秒

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    星色の王国

    ・1・

     海に面するこの国――レナーレ。この国が今回の話の舞台である。この国には三人の姫がいた。
     だが、この国の後継者は長女ではなく次女の少女であった。
     これは、そんな姫たちとその親しい者たちの織り成すお話――。

    「チ〜サ〜ト〜。」
    「何かしらお姉様。」
    「うん、今度私たちの国に何処だったか、使者がくるんでしょ?」
    「ええ。お姉様フォークを口に銜えないのっ!」
    「あだっ…。」

     行き成り投げつけられた木の実にユウリは避ける事ができず、それを額にモロにぶつけた。

    「う〜…。」

     額を擦る姉を横目にチサトは小さく溜息を吐いた。

    「お姉様……。」
    「何よ?」
    「ミナミ、遅いわね。」
    「……。」

     ユウリはチサトから流れだす、凍りつくような殺気にゾクリと鳥肌を立てた。

    「だ、大丈夫でしょ?」
    「何が?」
    「……あの子の行く所はどうせチサトは調べきっているんでしょ?」
    「ええ、勿論よ。」

     チサトはナイフをドスリと肉に突き刺す。

    「でも、それとこれとは話が別……。」
    「え〜と…。」
    「だって、あの子は無断で行っているでしょ?わたしたちには一切話さない。未だにばれていないと思っている天然娘よ。」
    「別にいい――。」

     般若のような顔で睨むチサトにユウリは固まる。

    「何か?」
    「な、何でもありません!」
    「そう、それならいいけど。」
    「………あ、私そろそろ行かないと…。」
    「また、稽古?」
    「うん、ごめんね。チサト。」
    「仕方がありませんわね。」

     チサトはもう慣れているのか小さく溜息を吐いただけで殺気を放たない。因みに始めの頃はしょっちゅう殺気を放ち、ユウリの寿命を縮めていた。

    「行ってくるわ。」

     ユウリは出入り口に置いてあった荷物を持って逃げ出すようにその場を去った。
     しばらく走っていたら、見覚えのある人影を見かけ、足を止める。

    「ミナミ?」
    「ふえっ?」
    「――っ!」

     ミナミはユウリの声に反応し、ビクリと体を揺らし、壁から手が離れた。

    「〜〜〜っ?あれ、痛くない?」
    「…あんたね〜…。」

     ミナミの下から声が聞こえる。

    「ふえ?」
    「重いっ!早く退いて!!」
    「お、お姉様っ!?」

     そう、ミナミが落ちた瞬間ユウリは自分の体をミナミの落下地点に滑り込ませ、何とか彼女を守ったのだが、受け止めるのが精一杯でユウリはミナミの下敷きになってしまったのだ。

    「あんたね、一体こんなとこで何やっているのよっ!」
    「……。」

     黙り込むミナミにユウリは小さく溜息を漏らす。
     本当はユウリもミナミが今まで何処に行っていたのか知っていた。

    「………。」

     いつまでも黙り込みそうなミナミにユウリは折れた。

    「仕方ないわね。今日は聞かないわよ。」
    「ユウリお姉様…。」
    「ミナミ早く着替えなさいよ。」
    「え?」
    「チサトカンカンよ。」
    「ふえ!?」

     ミナミは今にも泣き出しそうな顔でユウリを見るが今回ばかりはユウリは彼女に手を貸す気はなかった。

    「悪いけど、ちゃんと怒られなさいよ。」
    「ゆ、ユウリお姉様〜〜。」
    「あんたが悪いんでしょ。」

     ユウリは軽くミナミの頭を小突いた。

    「まあ、食事抜きにされたんなら後で何か夜食を持っていくから、それで許してよね。」
    「……う〜。」

     不満そうな表情を浮かべるミナミにユウリはただ苦笑を浮かべる事しか出来なかった。

    「さ〜て、私はちょっと稽古に行って来るわ。」
    「え?今から?」
    「うん、今朝はちょっとバタバタしてて時間が取れなかったら。」
    「そうなの?」
    「うん、じゃ、ミナミはチサトに怒られてらっしゃいな。」
    「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」

     片手を挙げさっさとこの場を立去るユウリにミナミは不満そうな声を上げたが、ユウリはそれを無視する。



    「……う〜ん、この時間じゃ誰も居ないよね〜。」

     背伸びをしてユウリは広い練習場を見渡す。
     いつもは屈強な兵がひしめき合うのだが、今は時間帯が時間帯なのでユウリ一人しか居ないように思われた――。

    「何が誰もいないだ。」
    「きゃっ!」

     後ろから聞こえた声にユウリは思わず悲鳴を上げてしまった。

    「ま、ま、ま………。」
    「ちゃんと言葉を喋れよ。」
    「マサシ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

     ユウリは思わず後退りをして、マジマジとマサシと呼んだ青年を見上げる。

    「……さ〜て、お前はこんな時間に一体何しに来たんだ?」
    「稽古…。」
    「そ〜か……。」

     マサシは珍しく笑みを浮かべるが、彼の瞳は決して笑ってなどいなかった。

    「お前は馬鹿か!」
    「ふきゃっ!」

     耳が痛くなるほどの大声にユウリは反射的に耳を塞ごうとするが、マサシはそれを許さなかった。

    「お前は何も分かってないだろうがっ!!」
    「ま、マサシ…。」

     ユウリは顔を引き攣らせ、少しでもマサシから距離を置こうとするが、彼はそれを許さなかった。

    「お前はな、一応王位継承権は捨てたが、それでも、この国の姫なんだぞっ!」
    「……な、何の事かな〜?」
    「……しらばっくれるな。」

     マサシは引く気配を見せない、なので、ユウリは自分から折れるしかマサシから逃れる方法は無いと思った。

    「ごめん、ごめん、そうだよね〜。」
    「……本当に分かっているのか?」
    「え、うん、そりゃ、この国の姫として一人で出歩くのは良くないよね〜。」
    「……理由は?」
    「王女として暗殺や誘拐はつきものだから、一人で行動してはいけない。」
    「……。」

     マサシは黙り込む、ユウリはそれが正解のためだと思ったが、実際は彼の中で渦巻く感情を制御するためだったとは知る由もなかった。

    「帰るぞ。」
    「え、え、え……。」

     無理矢理引きずるマサシにユウリは長靴を地面に食い込ませ、意地でも引っ張られないようにした。

    「……ユウリ…。」
    「だって、私今日は走り込みとか柔軟とかしかやってないんだよ。」
    「十分だ。」
    「どこがよ、素振りをしないといけないでしょうが。」
    「……。」
    「マサシ、まさか、私が女騎士になるのがまだ不満な訳?」
    「……。」

     黙り込むマサシにユウリはそれが肯定の意味を含んでいる事に気付いた。

    「いい加減にして。私は騎士になりたかったのっ!」

     そうユウリは物心ついた時から、騎士になりたがった。だけど、周りは王女だからと止めさせようとしたが、ユウリの妹であるチサトの御陰で彼女は念願の騎士になったのだ。

    「なのにあんたまでそれを否定するのっ!」

     マサシとユウリは幼馴染だった。
     そして、マサシはユウリのその言葉をずっと聞いていたのだ、そして、ようやくユウリが念願の騎士見習いになった時、彼はユウリに強く当たってきた。

    「私だって遊びじゃないのよっ!」
    「……。」
    「なのに、なのに、何であんたは分かってくれないのよっ!!」

     マサシは微かに顔を歪めたが、ユウリはその事に気づかない。

    「俺の力の下にいる時点で、俺はお前を認めない。」
    「マサシ。」

     ユウリは怒りを宿した瞳でマサシを睨みつけた。

    「私はあんたよりも確かに弱い、だけど、私だって、ちゃんとした将軍なのよ。」

     そう、ユウリは自分一人の力で、将軍の位まで昇ったのだ。

    「……お前を将軍にしたのは間違いだった。」
    「なっ!」

     ユウリの怒りはとうとう限界を達した。

    「マサシの…マサシの馬鹿っ!」

     ユウリは勢いよくマサシに飛び蹴りを食らわし、そのまま逃げ去った。



    「あの馬鹿…、本気でやりあがって…。」

     マサシは微かに痛みに顔を歪める。

    「……だが、俺の方がもっと大馬鹿者か……。」

     ユウリが血反吐を吐くほど努力をしていた事を知っている、だけど、マサシは今まで一度も彼女が騎士になる事を肯定した事がなかった。
     騎士になれば、おのずと戦に出るようになる。
     この国は他の国に比べ平和といえる。この百何十年という月日の間戦は起こらなかった。
     だけど、いつかは平和が崩れるとチサトもマサシも分かっていた。
     この国はかなり豊かな国で他の国から見れば喉から手が出るほど欲しいだろう、だけど、実際手に入れようとするのは大変だ。
     チサトはそれを見越して先手を打っていたし。それに、念のために別の計画も進めている。
     しかし、いくらチサトが手を尽くしてもどうしようもない事もある、その時、ユウリが死んでしまったり、怪我を負ったりすれば間違いなくマサシは理性を失うだろう。
     鬼神化したマサシはきっと、誰からも怖れられる。まあ、それは彼自身どうでもいい事だったが、もし、怖れる人の中にユウリがいれば間違いなく、マサシは壊れるだろう。
     ……今はそんな果てしない未来を考えるよりも今現在にマサシは目を向けた。

    「………もっと、言葉を選ばなければ行けなかったのにな…。」

     前髪を掻き上げ苦笑を浮かべるマサシは不意に顔を上げた。
     淡い光を放つ星々にマサシは無意識に一つ一つの星に自分と周りを当てはめていく。
     丁度マサシから見ればかなり上の方にある、淡く薄い青の星はチサト。
     その斜め下にある淡い黄色の星はミナミ。
     チサトと当てはめた星の右横にある真っ白な光はユーマ。
     ミナミと当てはめた星のすぐ左にある煌々とした紅い星は彼女とよくあっている商人の息子。
     真ん中に位置する青とも白ともいえる光を放つのはユウリ。
     そして、マサシは自分の星を見つけられないでいた。
     赤や黄色なんて、自分らしくない、白や青のように自分は穏やかではない、そんな自分にあう星がなく、ふっとそれもいいかとマサシは笑った。

    「どうせ、俺はユウリの側に居てはいけない人間だからな。」

     マサシはそう言うと、ただ一人、昔を思い返した。
     昔を――。
     あの時出会わなければ良かった……。そうすれば、傷つけずに済んだのに……。

    「出逢わなければ、よかったのにな……。」

     あの瞬間から、マサシの世界は変わった。
     騎士になる、そして、国の為に働くという考えが、彼女を、ユウリを守りたいと思うようになった。

    「そうすれば…俺は屑のまま終わったのにな…。」

     守りたいと思った瞬間から、強くなりたい。何者にも負けない力が欲しいと思った。
     だから、マサシは己の限界まで訓練を続けたし、今の地位に居る。
     だけど、彼女は…守られるだけの女性ではなかった。
     マサシが鍛える間、彼女もまた強くなろうとした。
     彼女は妹や国を守るために剣を握った。

    「……永遠に、俺たちは交われないのか…。」

     始めのうちは確かに交わっていたが、最近では離れ離れになる。思想が違うのだ…。
     マサシはユウリを守りたい。
     ユウリは自分を犠牲にしても他人を守りたい。
     それだけなのに、二人の距離は大きく開いていった。

    「……こんなにも……。」

     マサシは空に…ユウリを思わせる星に手を伸ばすが、星は遠く彼の手には収まらない……。

    「こんなにも、お前を想っているのにな……。」

     マサシは苦笑を浮かべ、そん場から立去った。
     こうして、この国の話の運命は進んでいく。動き始めた歯車は止まる事を知らない。

    あとがき:いや〜、思ったよりも早く20000人記念になりました。今回の話も、お嬢様パロと同じで、拍手がなかったら、続きを載せないつもりです。
    さてさて、30000人記念はリクエストに応えるものにしたいです。(お嬢様パロと王国パロが続けば、次のパロが載せれないのが理由です。それまでにどちらかが終わればいいんですが、多分、いや、絶対に無理です。)
    例えば両思いなら「×」で、片思いなら「→」で書いていただければ嬉しいです。リクエストしていただけるのなら、何でも構いません。パラレル、未来、過去(本編に載せないやつなら載せられます。)
    何か、読んで見たいモノがあれば遠慮なく申し出てくださいっ!
    なければ、30000人記念はスルーするかも…。

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    マナ

  • from: yumiさん

    2010年09月27日 09時47分09秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第八章〜・11・

     友梨(ゆうり)は智里(ちさと)と涼太(りょうた)が最後の蜘蛛をやっつけた事には感謝するが、それと、これとは話が別で、無茶をしでかした妹に腹を立ててもいた。

    「智里、これ以上無茶をしないで!!」

     友梨はそう言うと、奈津美(なつみ)の攻撃を受け流した。
     彼女はその動きを予想していなかったのか、簡単に体勢を崩した。
     友梨は一瞬反撃に出ようと思ったが、すぐに、自分の中で警鐘が鳴った。

    「――っ!」

     友梨は一瞬手を止めて正解だと悟った。
     奈津美が体勢を崩したのはわざとだった、もし、友梨があのまま攻撃していれば彼女の腕はなくなっていた事だろう。
     奈津美の手には鋭利な刃物が握られていた。

    「…油断ならないわね。」
    「それは。お互い様でしょ?」

     奈津美はクスリと微笑んだ。

    「…わたしにしたら、貴女の方が貴女の周りのどんな人間よりも油断なら無いわ。」
    「貴女は…誰?」

     友梨は挑むように彼女を睨んだ。

    「…さあ、分からない…。」
    「……。」
    「わたしは作られしモノ…、だから、名はない。」
    「やっぱり…。」

     友梨は苦虫を噛み潰したような顔をした。

    「…もう一つ、貴女は何故始めに「昌獅(まさし)」、「勇真(ゆうま)」と言ったの?」
    「主が言ったから。」
    「あの変態…。」

     友梨はもし、目の前に【ルーラー】が居れば絞め殺したいと目で訴えるほどの怒気を露にする。

    「……それで、質問は終りかしら?」
    「ええ。」

     友梨は顔を引き締め、残る武器を確認する。
     彼女が持っているのはナイフが計三本。たったそれだけだった。

    「……いざ…。」
    「勝負っ!」

     二人は同時に攻撃を仕掛けた。
     友梨は持っていたナイフの中で一番長いものを選び、それを繰り出し。
     奈津美は素手で彼女の頭を狙った。

    「く…。」

     友梨は命の危険を察知し、身を屈め、寸前の所で奈津美の攻撃を避けた。

    「あら…。」

     奈津美は友梨が避けた瞬間に目を細めた。

    「甘いわね。」

     その一言と共に奈津美の蹴りが炸裂する。

    「くあっ!」

     友梨は反射的にガードするが、彼女の体は簡単に吹き飛んでしまった。

    「……降参する?」

     奈津美は目を細め、腹を抱え蹲る友梨を無情に見下ろす。

    「誰が……。」

     友梨は怒りという炎をその目に宿し、睨みつける。

    「誰が降参するものですかっ!」

     体をゆっくりと起す瞬間、友梨は小さなナイフを一本彼女の目に向かって投げた。

    「そう…。」

     奈津美は首を傾げ、友梨の放ったナイフを避けた。

    「それなら、死ぬ?」
    「……誰が…っ!」
    「…あら、困ったわね。」
    「全然困らないわ。貴女が負ければねっ!」

     友梨は自らの体を無理矢理起し、奈津美に蹴りを入れる。

    「……まあ。」

     奈津美の感嘆の声がその場に響く。

    〜つづく〜
    あとがき:ああ、まさか、今日に…20000人突破するなんて、予想していませんでした。嬉しい誤算です。

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  • from: yumiさん

    2010年09月26日 14時24分02秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第八章〜・10・

     動けない…。
     あいつが傷付いているのに…俺は…俺たちは動けなかった。

    「お姉ちゃん!」

     あいつの妹が叫ぶ、そして、あいつの友梨(ゆうり)の攻撃をことごとくその身に受ける蜘蛛に向かって走りこんだ。

    「何をっ!」

     友梨が妹の無茶な行動に瞠目する。
     だが、妹の方は友梨と違い無茶や無謀な事を決してしない。
     案の定、妹の方に誰もが目を奪われていたが、いつの間にか蜘蛛の背後に回りこんでいた涼太(りょうた)がそれをのこぎりで切りつけた。
     俺は一瞬あんなものを何処で手に入れた、と思ったが、どう考えてもあの妹が何かしでかしたんだと思った。

    「…馬鹿!無茶をしないで!!」

     友梨は「姉さん」の攻撃を受け止め、叫んだ。

    「あら、手こずっていたのは何処の誰かしら?」
    「ぐ……。」
    「お姉ちゃん、これで、それを倒せるでしょ?」
    「……智里(ちさと)。」

     友梨は妹が珍しく自分の為に動いてくれたのかと思い、普通なら嬉しそうな顔をするだろうが、あの妹だ、友梨は反射的に怪訝な顔をした。

    「……何を考えているの?」
    「あら、親切でやったとは思わないの?」
    「思わない。」

     即答する友梨に妹は面白くなさそうな表情を浮かべた。

    「あら、わたしをそんな嫌な子だと思っているの?」
    「……。」

     もし、ここで肯定すれば、間違いなく後から彼女の報復するのだと分かっているのか、彼女は黙っていた。

    「まあ、そんな事はどうでもいいわ。」

     妹はそう溜息を一つ吐いて、何故か俺たちの方を冷ややかに見た。
     俺はその視線を受け、背筋が寒くなった。
     妹は俺の目がしっかりと自分を見ている事を知っているのか、声を出さずにこう言ってきた。

    (役立たずのあんたたちに任せるほど、わたしは、お人よしじゃないわよ。昌獅(まさし)さん、貴方にお姉ちゃんは渡す訳にはいかない。)

     俺は彼女の言葉が本気だと分かっていたが、体が動かなかった。
     姉と…戦うなんて、たとえ、偽者でも出来ない。
     それはあいつも一緒なのか、俺と同じ目で「姉さん」を見ていた。
     嫌…違う、俺以上に傷ついたような、苦しんでいるような目で「姉さん」を見ている。

    「……くそっ…。」

     俺は情けない事に体が震えていた。
     何も出来ない…。
     俺は…無力だ…。
     あいつを…友梨を守りたいと思っているのに…何故…。
     何故…敵に向かってその刀を振り下ろせない…。

    「情けねぇ…。」

     俺の力は何のためにある…。
     大切なものを守るためじゃないのか……。
     そう分かっているのに、俺は…動けない。
     俺は…俺は…また、同じ過ちを繰り返すのか…。
     嫌だ…嫌なのに…。
     俺は動けないでいる……。
     頼む…動いて…くれ…もう、失いたくないんだ………。

    〜つづく〜
    あとがき:まさくん(昌獅)の葛藤は大きい、でも、彼には守りたいものがあるはずだから、何とか立ち直って欲しいな。
    さて、昨日に20000人記念の小説を、10月1日くらいになると申しましたが…どう見ても、9月中に載せれそうです。

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  • from: yumiさん

    2010年09月25日 11時37分44秒

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    「お嬢様の危険な日常・執事の憂鬱」
    ・8・

    「……あの馬鹿…。」
    「チサト…。」

     頭を抱えるチサトに姉のユウリは軽く睨んだ。

    「リョウタくんがいるんなら、大丈夫だと思うけど…。」
    「申し訳ありません、お嬢様方…。」

     マサシはかなり怒りを殺した表情でそう言った。

    「マサシ…。」
    「……。」

     心配そうな表情なユウリにマサシはそっぽを向く。

    「…はー…、お姉様、お姉様はしばらくマサシと一緒に居てください、わたしが表に出ます。」
    「チサト…。」
    「その方がよろしいでしょ。」
    「ありがとう…。」

     ユウリは弱弱しく微笑んで、執務室から出て行った。その時、入れ替わりにユーマが入って来たのでチサトはスッと目を細めた。

    「あら、もう来たの?」
    「はい。」
    「意外に早かったようね。」
    「そうですね、後数時間はかかるかと思いました。」
    「そうね。」

     チサトは同意し、ユーマに手を伸ばす。

    「どうぞ、こちらです。」

     ユーマは盆の上に載せられた手紙とペーパーナイフをチサトに手渡す。

    「………………ふっふふふ…。」

     手紙にざっと目を通したチサトは急に笑い出した。

    「……。」
    「ユーマ。」
    「何でしょう、お嬢様。」
    「すぐさま、六百万円を用意して。」
    「分かりました。」

     ユーマは特に何も言う事がないと思ったのか、すぐに返事をした。

    「そうそう、そのトランクはお姉様にお渡してくださいね。」
    「…いいのですか?」
    「勿論ですよ。タカダ家の者に手を出した落とし前は、わたしかお姉様がやるのよ。」
    「……友梨お嬢様と智里お嬢様のお間違いではないでしょうか?」
    「あら、言うようになったわね、ユーマ。」

     ギラギラと肉食動物のように瞳を輝かせるチサトにユーマは小さく溜息を漏らした。

    「手加減はしてあげてください。」
    「あら、敵と判断した人間には容赦はしないのよ。」
    「……。」
    「だって、わたしの身内に手を出した時点で死刑と同類、でも、人を殺すなんてそんな堂々とするのはわたしの流儀に反しますしね。」

     ふふふ、と笑うチサトは黒かった。

    「まあ、毒草を後ほどお送りするから、それが、わたしの仕返し、なんと軽い事でしょう…。でも、お姉様が代わりに報復してくださいますよね?」

     楽しげに微笑むチサトだが、目は笑っていない。

    「さて、早く用意してくださいね。ユーマ。」
    「分かりました。」

     ユーマはようやく部屋から出て行き、その瞬間にチサトのまとう空気が一変する。

    「………あんな小物に掴まるだなんて…。」

     チサトは容赦なく殺気を放つ。

    「減棒…決定ね。ユーマ、マサシ、リョウタ。」

     チサトは近くにあった紙と羽ペンを持ち殴り書くように羽ペンを動かす。

    「……………まあ、リョウタは仕方がないか…、相手は複数だと聞くし…、でも、わたしたちを守ると言うのなら、それなりの成果を見せて欲しいわ。」

     チサトは外を睨みつける。

    「わたしたちは常に狙われている。」

     ずっと昔から…。

    「いつ、いかなる時も、死と隣り合わせ。」

     物心つく前から…わたしたちは――。

    「それを守ると言うのなら、貴方がたも命を懸けなさいよ。」

     戦士だった。

    「さて、わたしはお姉様の為に煙幕でも作りましょうか。」

     チサトはスッといつもの表情に戻る。

    「わたしたちは、わたしは…、わたしたちの家族を守る…。」

     チサトが立ち上がるのと同時にノックが聞こえた。

    「誰?」
    「チサト?私ユウリよ。」
    「お姉様?」

     先程出て行ったユウリにチサトは不思議そうに言った。

    「入るよ?」
    「どうぞ。」
    「……。」

     ユウリはほんの少し戸惑いがちに入ってくるが、その目は真直ぐにチサトを捉えていた。

    「お姉様どうされたのですか?」
    「ミナミの場所が分かったのね。」
    「ええ。」
    「チサト、大丈夫?」
    「何がでしょうか、お姉様。」

     ユウリは微かに悲しげに顔を歪めた。

    「ごめんね。」
    「……訳が分かりませんわ。」
    「…あんたばっかりに、押し付けてごめんね…。」
    「……今回はお姉様だけの所為ではありませんわ。」
    「それでも……。」

     ユウリは微かに目を伏せた。

    「いつも負担を背負っているのはチサトだから。」
    「……。」
    「だから、たまにでいいの、弱音を吐いて。」
    「……吐いても、事態は変わりません。」
    「そうかもしれないね。」

     ユウリは穏やかに微笑み、チサトの頭を軽く撫でた。

    「だけどね、胸に仕舞い込むのはとても苦しい事よ、だから、たまには私に見せてもいいのよ。私は貴女の姉だから……。」
    「お姉様…。」
    「チサトは良くやっているわ。」
    「……。」

     チサトは歯を喰いしばり泣かないが、それでも、ユウリはほんの少し彼女の心が軽くなった事を悟った。

    「無理をしてはダメよ。」
    「ええ、分かっていますよ。わたしが、わたしたちが倒れれば意味がありませんものね。」

    あとがき:何と美しい姉妹愛…でもチサトは黒い…。黒すぎるよ〜。何でこんな子になってしまったの〜!?

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    マナ

  • from: yumiさん

    2010年09月25日 11時32分58秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第八章〜・9・

     涼太(りょうた)はそれを見ているだけしか出来なかった。
     友梨(ゆうり)は何度も立ち上がり、その度に突然現れた女性に向かって走り出す。

    「止めて…友梨お姉ちゃん…。」

     美波(みなみ)は直視できないのか、その手で自らの目を塞いでいた。

    「……あの馬鹿男ども…。」

     智里(ちさと)は自分が無力だと痛感しながら、ギロリと男たちを睨んだ。

    「……。」

     昌獅(まさし)と勇真(ゆうま)はまるで金縛りにあったかのように身じろぎ一つしない。

    「くぁっ……。」

     声の方を見ると友梨が地面にうつ伏していた。

    「――っ!」
    「お姉ちゃんっ!」
    「く…。」

     三人は目を見開いたり、顔を背けたりとそれぞれの反応を見せる。

    「何で…何で…。」

     美波は地面にへたり込み、涼太は彼女を無理やり立たせる。

    「美波、座るな。」
    「リョウくん……。」

     美波は涙目で涼太を見た。

    「どうして…いつも、友梨お姉ちゃんばっかり痛い思いをしなくちゃいけないの?」
    「……。」

     涼太自身は友梨の怪我を負っているのはあまり見た事がなかったが、それでも、ひょんな事で彼女のむき出しの腕から傷跡を見た事があった。
     あの時は怪我をしたのか、と思うだけだったが、こうして、実際彼女が怪我をするのを見て、涼太は【ルーラー】を憎んだ。

    「…守るんじゃなかったのかよ…クソ昌獅…。」

     涼太は唸るようにそう言い、昌獅を一瞥した。

    「…本当に…。」

     隣から聞こえる静かで冷たい声音に、涼太は反応する。

    「智里…先輩?」
    「本当に…お姉ちゃんを大切にすると誓ったじゃない…。絶対に…もう二度とお姉ちゃんと会えないようにしてやろうかしら?」

     冗談とも本気とも取れるような表情を浮かべる智里に、涼太は本能的に彼女が言っているのは本気だと悟った。

    「恐え…。」

     もし、自分が美波を泣かせたり傷つけたりすれば、間違いなく智里は同じ様な事を言う気がして、涼太は他人事のように聞こえなかった。

    「……涼太くん。」
    「何だ?」
    「あの蜘蛛をわたしたちでやっつけましょう。」
    「はあっ!」

     物凄くさらりと怖い事をいう智里に涼太は目を剥いた。

    「だって、あいつがいるから、お姉ちゃんは敵が二体居るのに、一人で戦っているのよ。」
    「…だが…。」
    「あの二人が使えないんじゃ、わたしたちが動くしかないでしょうが。」
    「……。」

     涼太は友梨に美波を守れと言われているので、どうしても、智里の意見を聞き入れる事が出来なかった。

    「あら…わたしに逆らうの?」

     絶対零度の声音に涼太は全身を震わせた。

    「……ふふふ、別にそれでもいいのよ。」

     智里は笑みを浮かべるが、その目は冷え切っていた。

    「分かりました、やります…。」
    「あら、そう、ありがとうね。」

     涼太はこうして、智里と蜘蛛退治に掛かる事になった。

    〜つづく〜
    あとがき:ちーちゃん(智里)恐いですね〜…。さて、さて、20000人記念まであと少し。私の予想では10月1日前後になりそうです。

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  • from: yumiさん

    2010年09月24日 15時59分06秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第八章〜・8・

    友梨(ゆうり)はさっと周りを見渡し、敵が彼女一人じゃない事に苦虫を噛み潰したような表情をした。

    「お姉ちゃん。」
    「智里(ちさと)、あんたは自分の身は自分で守れる?」
    「…それくらいやるわ。」
    「そう…。」

     友梨はホッとしたような表情を一瞬浮かべたがすぐに、顔を引き締めた。

    「涼太(りょうた)くん、美波(みなみ)を見てて。」
    「友梨先輩?」
    「昌獅(まさし)や勇真(ゆうま)さんなら、きっとどんな状態でも自分の身を守れると思う、だから、私は一人戦うわ。」

     友梨はナイフを構え、地面を蹴った。

    「はあっ!」

     ナイフを振るい、近くの巨大な蜘蛛を切りつける。
     本当なら悲鳴をあげ、逃げたかったが、今の状況で弱音は吐けなかった。

    「このっ!」

     友梨は蜘蛛の吐き出した糸に捉まり顔を歪ませる。

    「お姉ちゃん。」
    「大丈夫。」

     友梨はナイフを捉まった手に投げ渡し、器用に糸を切り裂いた。
     友梨には余裕などなかったが、それでも、妹たちには弱っている所を見せたくないのか、友梨は笑みを無理矢理浮かべる。

    「絶対に…負けない……。」

     友梨はナイフを投げ、蜘蛛の目に突き刺さした。
     蜘蛛が一瞬怯んだ隙に友梨は一気に蜘蛛を一体撃退した。

    「後、二体と……。」

     友梨は目を横にやり、ただ立っている女性を見た。
     先程から、彼女は一切動いていない、それどころか、禍々しい顔で勇真と昌獅の反応を楽しんでいる。

    (…歪んでいる…。)

     友梨は怒りで顔を歪める。

    (絶対に、あの二人の思い出を穢したあの変態を許さないっ!)

     友梨は二人の話を聞き、奈津美(なつみ)がどんなに素敵な女性かと思った。それなのに、それなのに、あの【ルーラー】はそれを穢したのだ。

    「はああああああああっ!」

     友梨は先程とは段違いの迫力であっという間に二体目の蜘蛛を戦闘不能にさせた。

    「……。」

     友梨が二体目の蜘蛛を倒した瞬間、奈津美はスッと視線を勇真たちから離し、じっと友梨を見た。
     友梨はその時、背筋が凍りついたように感じた。

    「……何…。」
    「貴女…邪魔ね……。」

     奈津美はスッと友梨を指差し、その瞬間生き残っていた唯一の蜘蛛が友梨に向かって糸を吐いた。

    「なっ…。」

     友梨は寸前の所でそれを飛んで避けるが、敵の方が一枚上手だった。
     友梨の着地地点にいつの間にか、奈津美がいた。

    「ウソッ。」

     友梨は空中で何とかバランスを取り直そうとするが一足遅かった。
     奈津美は友梨に容赦ない蹴りを見舞った。

    「お姉ちゃんっ!」
    「友梨お姉ちゃん!」
    「嘘だろ…。」

     友梨の心配する声が届くが、友梨は怒りで満ちた目で奈津美を睨む。

    「……さすが…、昌獅のお姉さんだった人を模した物ね。」

     友梨は体を無理矢理起す。幸いにも骨に異常はなかった。

    「…だけど…偽者なんかに、私は負けない…。」

     友梨は戦意剥き出しの目で奈津美を睨みつけた。

    〜つづく〜
    あとがき:ああ、ゆうちゃん(友梨)傷だらけですね〜…。ああ、お嫁に行けない…いや、あいつなら、貰ってくれるか〜?

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  • from: yumiさん

    2010年09月23日 12時45分48秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第八章〜・7・

    「まあ、まあ…二人ともそこまでに…。」

     止めようとする勇真(ゆうま)の御陰で智里(ちさと)の注意が逸れた。

    「そうね。」
    「「――っ!」」

     刹那、友梨(ゆうり)と昌獅(まさし)は何かを感じたのか同時に振り返った。

    「昌獅…。」
    「ああ。」

     昌獅は背負っていた刀を抜き、友梨は小さなナイフを数本抜いた。

    「……油断するなよ。」
    「勿論よ。」

     完全に戦闘態勢に入った二人をよそに、智里はニッコリと微笑んでいる。

    「本当に暇を作らないのね、あの変態は。」
    「……智里お姉ちゃん恐い。」
    「いや、こいつが恐いのは今に始まった事じゃないと思うが、美波(みなみ)。」
    「何か言ったかしら?このチビ餓鬼。」
    「――っ!」

     涼太(りょうた)は智里に言い返そうと口を開こうとするが、絶対に口では勝てない事を知っていたので、口を結局閉ざした。

    「さて、敵さんが来たようね。」
    「涼太くん、智里、美波を守って、私と昌獅……勇真さんが攻めるから。」
    「分かりました。」
    「あら、随分わたしと口調を変えるわね。」
    「……。」
    「涼太くん、そう丁寧に言わなくて大丈夫よ、私たちは戦友だから。」
    「分かった。」

     これ以上智里の機嫌を損ねたくない涼太にとって友梨の申し出はありがたかった。

    「涼太くん、本当に妹たちを頼んだわよ。」
    「ああ。」

     友梨が前に出た瞬間、敵は姿を現した。

    「嘘っ…。」
    「まさか…っ!」
    「何故…だ…。」

     友梨、昌獅、勇真は敵を見た瞬間凍りついた。友梨は呆然と、昌獅は己が持つ刀を強く握り、勇真は絶望にも煮た悲痛な声を出した。

    「お姉ちゃん、知り合い?」
    「……私は直接には知らない。」
    「どういう意味?」

     智里は眉間に皺を寄せ、残る二人も不思議にしていた。

    「彼女は……もうこの世にいないはずなのに。」
    「……。」
    「……何で…。」
    「お姉ちゃん簡単に説明して。」
    「あの人は昌獅のお姉さんで勇真さんの恋人だった人。日部奈津美(にちべなつみ)さん。彼女は亡くなっている。」
    「……そう、こんな世界に幽霊なんてものは存在しない。」

     智里は目を細め、そっと呟く。

    「これは――。」
    「あの変態の仕業、でしょ、智里。」
    「ええ、馬鹿な姉でもそれくらいは分かるのね。」
    「馬鹿はよけいよ。」
    「そうかしら?」

     姉妹が口げんかをしている間、奈津美によく似た少女はその口を開いた。

    「昌獅…勇真…。」
    「――っ!」
    「――嘘だろ…。」

     昌獅と勇真は彼女の声を聞き、凍りついた。

    〜つづく〜
    あとがき:さてさて、あの変態さんの悪巧みはうまくいくでしょうか?

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