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弥生の河に言の葉が流れる

弥生の河に言の葉が流れる>掲示板

公開 メンバー数:7人

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  • from: yumiさん

    2011年02月28日 15時28分15秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十一章〜・2・

    「所構わずイチャつくのはいい加減止めたら?」
    「……。」

     いつの間に現れた智里(ちさと)に友梨(ゆうり)は視線を向けた。

    「別にイチャついてはいないけど?」
    「自覚ないのね。」

     溜息を吐く智里に友梨はムッとするが、彼女が来た理由に思い至り、溜息を吐いた。

    「で、どう思う?」
    「何処からどう見ても罠ね。」
    「だよね…。」
    「でも、乗るわよね?」
    「勿論よ。」

     クスリと笑う智里に友梨は肩を竦めようとしたが、昌獅(まさし)が邪魔で肩を竦める事が出来なかった。

    「ま〜さ〜し〜。」
    「……。」
    「いい加減退いてくれる?」
    「嫌だ、つったら?」
    「……え〜と、お腹に強烈な蹴りと一発?」
    「……。」

     友梨なら本気でやりかねない事に昌獅は溜息を一つ吐き、彼女から退く。

    「よかった素直で。」
    「……。」

     昌獅は複雑なのか、表情をやや強張らせている。

    「んで、邪魔もんの高田(たかだ)妹は何の用だ?」
    「あら、聞いていませんでしたか?」
    「ああ、友梨の腕が温くてな。」
    「なっ!」
    「……ふぅ…。」

     昌獅の爆弾発言に友梨は顔を真っ赤にさせ、智里は冷めた目で溜息と一つ吐いた。

    「どうやらお姉ちゃんの頭が湧いた訳じゃなく、昌獅さんの頭が湧いているようね。」
    「…憎たらしい奴だな。」
    「褒め言葉かしら?」
    「……さすが、魔王だな。」
    「……。」

     無言で睨む智里に昌獅は友梨を抱き寄せた。

    「悪いが、俺の頭が湧いた訳じゃなく、只単にこいつを好きなだけだ。」
    「……それが湧いたと言うんじゃないのかしら?」
    「ふん、全然違うな。」

     友梨はこの二人の戦いを黙ってみている事も辛くなってきたのか、昌獅の腕からキョロキョロと視線を動かした。

    「何やってるんだ?」
    「うみゃ…。」

     パジャマ姿の涼太(りょうた)と美波(みなみ)が出入り口に立っていた。

    「こんな夜中に…。」

     欠伸を噛み締め、涼太は眠い為かこの騒ぎにうんざりしているのかは分からないが、目付きが悪くなっている。

    「ごめん、起こした?」
    「…ん〜。」

     素直に謝る友梨に涼太は表情を和らげるが、智里と昌獅に向ける視線はかなり冷ややかなものだった。

    「友梨先輩だけの所為じゃないですから。」
    「…ごめんね、涼太くん、美波。」
    「うみゅ〜…。」

     日本語を喋らない美波に友梨は苦笑を浮かべながらそっと昌獅の腕から抜け出し、自分の肩に掛けていたカーデガンを美波の肩にかけてあげる。

    「…これで、勇真(ゆうま)さんがいたら、全員そろっちゃうわね。」
    「ごめん、起きてるよ。」
    「えっ!いつから?」
    「智里ちゃんが来た時からかな?」
    「…ごめんなさい。」

     全く勇真の気配に気付かなかった友梨は肩を落とした。

    あとがき:6万まであと1000人を切りました〜。
    昌獅の性格はだんだん崩れてきておりますね〜。

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  • from: yumiさん

    2011年02月27日 10時32分21秒

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    「星色の王国」
    ・23・

     リョウタは目の前の少女を睨んだ。

    「オレを呼んだ理由を聞かせてもらおうか?」
    「あら、このわたしに対してそんな口を聞くの?」
    「お前が何者だろうが、ミナミの姉だろうが、オレには関係ねぇからな。」
    「……。」

     チサトは目を細める。それは氷を思わせる微笑だった。

    「貴方が…いいえ、正確には貴方の家が裏を握っていなかったら、わたしは容赦なく貴方を潰せたのにね?」
    「ふん、そのくらいの脅し、毎日聞いてるぜ。」
    「……。」
    「オレらの家はなりあがりが継げるほどお気楽じゃねぇからな。だから、毎日が揉まれまくって、この通りの性格だ。」

     リョウタは自分がかなりやばい遣り取りをしている、と分かっていたが、それでも、引く事はしたくなかった。

    「さてと、雑談はここまでだ。そろそろ本題に入ったらどうだ?」
    「…嫌味なガキね。」
    「へ〜、姫がそんな汚い言葉を吐いていいのかよ?」
    「……。」

     チサトは眉根を寄せる。

    「あんたみたいなガキに口答えされるなんて屈辱……。」
    「ふん、こっちはこっちでてめぇみたいな女は嫌いだ。」
    「……。」
    「……。」

     互いに互いを睨み付け合う、それはまるで天敵のように仲が悪かった。

    「こんなんじゃ、日が暮れるな……。」
    「そうね。」

     二人はこれ以上言い争いをしていると本当に日が暮れると思い、まだまだ言い足りなかったが、本題に入った。

    「最近、何か可笑しな動きを感じない?」
    「ああ、確実に何かが動いている…そんな気がする。」
    「だけど、それが何なのか、全く調べがつかない。」
    「こっちの裏情報でも同じだ、本当は何もないんじゃないかと疑いたくなるが、残念ながら何もないっていう事はないんだな。」
    「あら、何か知っているの?」
    「オレの母の勘がそう言っているそうだ。」

     何の根拠もない、とリョウタは肩を竦めるが、その目は決して疑っているような目をしていなかった。

    「……そう、あの「月蓮華(げつれんか)」を統べる人が、そう言っているのね?」
    「ん。」

     リョウタは鋭い目付きのまま頷いた。

    「因みに母の勘は今まで一度も外した事がねぇからな、だから、今回の件は外れて欲しいが、多分無理だろうな。」
    「そう、早急に手を打たないといけないようね。」

     クスリと笑うチサトにリョウタはこいつに逆らってはいけない、と本能的に察するが、それでも、ミナミと一緒に居たい以上逆らうしかないのだと覚悟を決めた。

    「ミナミを巻き込むなよ。」
    「あら。」

     釘を刺すリョウタにチサトはくすくすと笑っているが、その目は決して笑っていなかった。

    「国の一大事に姫が巻き込まれないと思うのかしら?どの時代でも女は捕虜とされたりするわよ?」
    「そうさせるな、と言っているだけだ。」
    「……無理ね。」

     リョウタは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

    「あの子は幼いとはいえ、この国の姫、この国を助けるために犠牲となるのはこの国の王族の役目だから。」
    「……。」
    「貴方は赤の他人、いいえ、庶民が口出しすること事態間違っているのよ。」
    「煩せぇ……。」

     リョウタは唸るように言う。その目は獣のように鋭く、しかし、理性がしっかりと宿る瞳だった。

    「オレはあいつを守る、たとえ、てめぇを敵に回しても。」

     チサトを敵に回すという事は、この国の全てを敵に回すという事だ。その事を知っているからこそ、リョウタは自分の命に代えてもミナミを守ると言ったのだ。

    「……あのヘタレもあの姉にそれくらい言ってのければ良いのにね。」
    「はあ?」
    「何でもないわこっちの――。」

     チサトが言葉をとめた瞬間、一人の男性が入って来た。

    「マサシ。」

     噂をしたら何とやら、とチサトは思ったが、その顔には全く表れておらず、いつもと変わらない仏頂面だった。

    「お話のところ申し訳ありません。」

     凛とした声が響くが、その表情はかなり強張っていた。

    「……何が起こったの?」
    「侵入者のようですが、全くその足が掴めませんでした。」
    「そう、貴方でも無理だったのね。」

     チサトはマサシがその年の割にしっかりしている事を知っていた。だから、今回の侵入者を捕らえられない事は敵が強大な何かだと察した。

    「…何かが起こり始めているんじゃなくて、もう既に起こっているようね。」
    「……。」
    「あ〜、面倒な事になったな。」

     リョウタはぼやくように言うが、その目は好戦的で口元には笑みすら浮かんでいた。

    「マサシ。」
    「はい。」
    「客人に悟られずに。」
    「それは既に遅いです。」
    「……。」

     チサトは有能すぎる部下も考え物ね、と思いながらマサシに別の指示を飛ばす。

    「それならば、姉に知らせてきなさい。」
    「御意。その時にあちらの騎士も連れて行っても構いませんか?」
    「…仕方ないわね、今は一人でも多くの手が欲しいわ。」

     使えるものなら客でも使えというチサトにマサシはなれているのか平然とした顔をしているが、何も知らないリョウタは呆れ顔をした。

    「御意。」
    「お前も大変だな。」

     思わずリョウタが呟いた言葉にマサシは一瞬がだ苦い顔をした。

    「…………仕事だからな。」
    「……まあ、頑張れよ。」

     苦労しているのは自分だけじゃないのだとリョウタは心から思ったのだった。

    あとがき:王国パロのリョウタくんはどの話のリョウタくんよりも強かですね…。
    やはり、母親の教育の賜物でしょうかね…?

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    マナ

  • from: yumiさん

    2011年02月27日 10時25分30秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十一章〜《遊園地パニック》・1・

    「あ〜、眠い……。」

     友梨(ゆうり)はソファに寝そべり、クッションを胸に抱いて、本当に眠そうな声を出す。

    「そんなに眠かったら寝たらどうだ?」

     友梨の顔を覗き込むように昌獅(まさし)が穏やかな視線を彼女に向けた。

    「ん〜、でも、何か起きそうな気がする……。」

     時間は夜の十一時、いつもの友梨ならさっさと寝ている時間だが、何故だか今日は何かが起こりそうな気がして寝てはいけないと思ったのだ。

    「……。」
    「昌獅もそうでしょ?」
    「……まあな。」

     昌獅もまた何かの予感を覚えたのか、友梨の側にいた。それはまるで、姫を守る騎士のように側にいた。

    「……来ないと良いんだがな。」
    「うん……。」

     そうそううまくいかないのが現実であり、友梨と昌獅はそれを嫌って言うほど身にしみていた。
     丁度昌獅が友梨の髪に触れよとした瞬間それは邪魔するように鳴った。

    「来た…。」
    「ああ。」

     二人はうんざりとしたように溜息を同時に吐いた。

    「やっぱり、勘は侮れないわね…。」
    「つーか…、あいつの行動が分かりつつある自分がかなり嫌だ。」
    「うん、そうよね……。」

     二人は互いに顔を見合わせ、意を決したのか同時に携帯を開いた。

    《やあ、疲れはとれたいかい?
     まあ、取れなくてもこちらは困らないし、別に構わない、むしろ疲れていた方がこちらに有利だね。
     さてさて、今回のステージは遊園地だ。
     朝7時に電車を動かしてあげるから、その電車に乗ってくれ、因みに、それに乗りそこねたら、ゲームオーバーだから、気をつけてくれ。
     それでは、健闘を祈る。》

    「……。」
    「……。」
    「ねぇ。」
    「ん?」
    「これ、ぶっ壊してもいい?」

     友梨は己の携帯を左右に振り物騒な笑みを浮かべている。

    「…流石に、それはヤバイだろう。」
    「まあ、そんなんだけどね。」

     苦笑を浮かべる昌獅に友梨は黒い冷笑を浮かべる。

    「だって、ムカつくじゃない。」
    「まあ、そりゃ…な。」
    「どうして、私がこんな目に遭わないといけないのよ!!」
    「……。」
    「あ〜、腹立つ!!死んでしまいたい!!」
    「なっ!」

     昌獅は友梨の叫びに目を見張った。

    「そうすれば、こんな目に遭わない――。」
    「馬鹿いっているんじゃない!」
    「きゃっ!」

     唐突に肩を掴まれ、友梨は昌獅に押し倒される。

    「まさ――。」
    「死ぬなんていうな、たとえどんな事があっても、死ぬなんていうなよ……。」

     友梨はようやく自分の失言に気付き、気まずい思いをした。

    「ごめん…。」
    「頼むから…お前だけは俺の前から消えないでくれ……。」
    「ごめんね、ごめんね、昌獅…。」

     友梨は大きな子どものように縋りつく昌獅の頭をそっと撫で、彼が落ち着くまでそのまま動かなかった。

    あとがき:作者が思った事を友梨ちゃんに言わせてしまい、昌獅に怒られた気もしますね〜…。どんな人だって心配する人はいるでしょうね、それが、家族なのか友人、はたまた恋人、どんな人にも心配してくれる人はいるのでしょうにね……。

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  • from: yumiさん

    2011年02月26日 09時43分01秒

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    「お嬢様の危険な日常・執事の憂鬱」
    ・30・

    「う………ううう。」
    「……。」

     泣き出したユウリにマサシは俯いた。
     恐がらせた、マサシはそう思った……。

    「馬鹿、マサシ。」

     唐突な罵りの言葉にマサシは驚いて顔を上げた。

    「………なんで、なんで、そう自分を責めるのよ!」
    「…ゆう…り?」
    「馬鹿、馬鹿、馬鹿!」
    「……。」

     泣きながら睨みつけるユウリにマサシは彼女が自分を恐がっていない事を悟った。

    「お前……。」
    「何で早く言わなかったのよ!」
    「えっ…。」
    「言ってくれたら、マサシのご家族の弔いをちゃんと出来たのに…、今更かもしれないけど、いいのかな……。」
    「ゆ、ユウリ?」

     マサシはユウリが何を言っているのか分からなかった。

    「何?マサシ?」
    「お前……俺の家族はお前の領地の人間でもないし、貴族でもないんだぞ。」
    「それが?」
    「……弔いだなんて…。」
    「だって、大切な人はいつまでも心に残ってくれるもの…その感謝の気持ちやら色々を込めて弔いをしないと。」
    「……。」

     マサシはユウリの貴族らしくない所に惹かれていたが、まさかここまで全く貴族らしくないことをしてくれるのかと、胸が苦しくなった。

    「だって、マサシの家族だもん……。」
    「ユウリ。」
    「マサシの両親がいたからマサシは生まれることが出来た、そして、マサシのお姉さんがいたから、マサシはマサシらしく育ったんだから。」
    「……。」
    「だから、いくら感謝しても足りないよ……。」

     マサシはユウリを抱きしめた。

    「ありがとう……。」

     擦れた声にユウリはそっとマサシを抱きしめ返した。

    「マサシ貴方は頑張ったよ。」
    「……。」

     マサシはユウリの髪に顔を埋め、そっと目を閉じた。

    「だから、ここでは気を張り詰めないで、私が側に居るから、ずっと、側に居るから、だから、我慢しないで、辛くなったら言って。」
    「……ユウリ。」
    「私は貴方を信じているし、貴方に信じてもらえるような人間になりたい。」

     ユウリの真摯な言葉にマサシは嬉しかった。

    「ねぇ、マサシ。」

     ユウリの静かな声がマサシの耳朶をくすぐる。

    「約束して。」
    「……。」

     マサシはそっと腕を緩め、ユウリの髪に埋めていた顔を離した。

    「人を無闇に殺さないで。」
    「……。」

     マサシの目が伏せられる。

    「無理なのは重々承知、だけど、裁きを受けるべき人を殺すのはその人に逃げ道を作ってあげていると思うの……。」
    「……。」
    「私は生きて罪を償って欲しい、だから、お願い人を殺さないで。」
    「……。」
    「マサシ……。」

     不安げな瞳がマサシを射抜く。

    「分かった。」
    「本当に?」

     ユウリはまだ心配そうな表情をしている、だからなのか、マサシは穏やかな笑みを浮かべ、そっとユウリの髪を撫でた。

    「俺が出来る限りはする……。」
    「マサシ。」
    「出来るだけ感情的になって人を殺さない、心を殺さない。」
    「約束よ。」

     ユウリはマサシの言葉を聞きながら、眠気と戦った。
     いつもなら寝ている時間で、しかも、今日、ユウリは監禁されたのだ、疲れていない方が可笑しい。
     ユウリが眠気と戦っている事を悟ったマサシはそっとユウリの肩を掴み、彼女をベッドに横たえる。

    「寝ろ。」
    「でも……。」
    「いいから寝ろ。」

     無理矢理ユウリを寝かしつけようとするマサシに、ユウリはクスリと笑った。

    「……何だよ?」
    「ありがとう、マサシ。」

     ユウリは大人しく横になりながらマサシに微笑みかける。

    「大好きだよ。」

     マサシが硬直する中、ユウリは言いたいだけ言って、夢の世界へと旅立ったのだった。

    「…反則だろ。」

     口元を手で隠し、マサシは自分の頬に熱が集まるのを感じた。

    「…爆弾落しやがって…。」

     マサシは恨みがましそうに幸せそうに眠るユウリを睨みつけた。だが、その顔があまりにも真っ赤でいつも以上に幼い容姿をしていた。

    「……なぁ、ユウリ。」

     マサシはそっと右手を伸ばし壊れ物を扱うように優しい手つきでユウリの髪を梳いた。

    「お前は俺が好きだと言ったら、お前は受け止めてくれるのか?」
    「…ん……。」

     まるで返事のようなタイミングにマサシは苦笑を漏らした。

    「お前な……。」

     マサシはユリの髪を一房掬い上げ、そっと唇を寄せる。

    「自惚れるぞ……。お前が好きだからな、ユウリ。」

     マサシは想いを言の葉に乗せ、名残惜しそうにユウリの髪を離す。

    「いつか、いつか…この事を言えたらいいのにな……。」

     身分違いの恋にマサシは苦笑を浮かべる。絶対にかなわない恋。
     自分はただ静かに嫉妬する事しか出来ない。

    「さて、こいつに恋文を出した奴らを血祭りにするか……。」

     物騒な事を呟き、マサシはユウリの部屋から出て行った。

    あとがき:素直ですね〜マサシ…王国パロもさっさとユウリとくっつけば…終わってしまいますね(話しが)…。

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    マナ

  • from: yumiさん

    2011年02月26日 09時38分05秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十章〜・88・

    「…はぁ…。」

     友梨(ゆうり)はベランダの手すりに凭れかかり、溜息を一つ零す。

    「……どうしたんだよ?まだ夜が明けてねぇぞ?」
    「昌獅(まさし)…。」

     少し前に帰ってきたので、昌獅の髪と友梨の髪に水滴がついていた。

    「寝ないのか?」
    「う〜ん…寝ないというか、眠れない……。」
    「そうか。」

     昌獅は手に持っていた毛布を友梨の肩にそっと掛けた。

    「昌獅?」
    「風邪引くなよ?」

     その言葉を聞いた友梨の口元にそっと笑みが広がった。

    「大丈夫、昌獅こそ大丈夫?水の中に入ったのでしょ?」
    「俺は平気だ、あんな事で風邪引いてたまるかよ。」
    「……。」

     友梨の表情にやや陰りが出来、昌獅はその変化にちゃんと気付き、彼女を後ろから抱きしめた。

    「何だよ?」
    「昌獅は無茶しすぎだよ?」
    「…んな事――。」
    「ある、だって、倒れたんでしょ?私の所為で……。」

     昌獅は苦虫を噛み潰したような顔をした。どうしてあの時倒れてしまったのかと苛立った。
     だけど、あの時は彼の体力の限界だった訳で、彼がもう少し自分の事に気を使っていたら回避でき出来ていたかもしれない。その事が友梨にとって悲しかった。

    「お前の所為じゃねぇよ。」
    「……。」
    「お前の所為じゃねぇ。」

     ぎゅっと強く抱きしめられ、友梨は胸が苦しくなった。

    「だけど…。」
    「今回のこれは自業自得なんだ…、だから、お前が気に病む事ないんだ。」
    「……。」

     友梨は何も言えなかった。もし、自分がまだ自分を許せないと昌獅が知ったのなら、彼はきっと溜息を吐きながら悲しい表情をするだろう。
     彼の悲しげな表情を見たくはなかったので、友梨は黙る事しか出来なかった。

    「昌獅…。」
    「ん?」
    「倒れそうなら、休んでね。」
    「……ああ。」

     昌獅は友梨が譲歩してくれた事を悟り、苦笑を浮かべる。

    「お前こそ、休めよ?」
    「……大丈夫よ、私は昌獅よりも疲れていないし、それに、眠れないかな……。」
    「……。」
    「何か、今眠ったら悪夢を見そうなの。」

     子どもみたいでしょ、とおどけて笑う友梨がはかなく見え、昌獅は友梨を強く抱きしめる。

    「悪夢を見そうなら、一緒に寝てやろうか?」

     一瞬何を言われたのか友梨には分からなかったが、昌獅の目が何とも言えない光を宿したので、首を大きく横に振った。

    「いい!結構です!」
    「……。」

     あまりの拒絶のされ方に昌獅は苦虫を噛み潰したような顔をした。

    「まあ、いいけどな。」

     昌獅はこれ以上友梨といたら間違いなく彼女の妹が睨みを利かせてくるような気がしたので、名残惜しいが彼女から離れた。

    「寝坊しても構わないからな。」

     昌獅はただ去るのはやっぱり惜しいと思ったのか、自分を見上げる友梨の前髪を掻き上げ、そっとその額に唇を寄せた。

    「なっ!」
    「悪夢を見ないおまじない。」

     さらりとそんな事を言って昌獅はその場から立去った。
     一人残された友梨の頬が真っ赤に染まり、拗ねたような声音でこう言った。

    「昌獅の馬鹿…本当に眠れないじゃない。」

     一人夜風に当たる友梨は自分の熱が冷めるまでベランダに突っ立ったままだった。そして、長かった夜が明けたのだった。

    〜第十章完・第十一章につづく〜
    あとがき:やっと十章が終わりました。長かったです…。
    最近自分が生きていていいのかと考えるようになってしまい、少々弱っていますね。自分に自信が無い時、正直どうすればいいのか分かりませんね…。誰かに自分の気持ちをぶち明けたい気もしますが…迷惑ですよね〜…。

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  • from: yumiさん

    2011年02月24日 12時07分22秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十章〜・87・

    「で、何時まで抱き合っているつもりなの?」
    「――っ!」
    「なっ!」

     唐突な声に友梨(ゆうり)は思わず昌獅(まさし)を突き飛ばし、昌獅は突き飛ばされた衝撃か、それか声をかけた人物の登場に驚いたのか素っ頓狂な声をあげた。

    「ち、ち、ち、ち、ち、智里(ちさと)!!」
    「ちが五つ多いわよ。」
    「だ、だって。」
    「次はだが一つ多い。」
    「……。」

     冷静な突っ込みを入れる智里に友梨は肩を落す。

    「あんた何時からいたの?」
    「さあ、何時からでしょうね?」
    「……。」

     声を出す気力もなくなった友梨は肩を落す。

    「もう、いいわよ……。」
    「あら、本当にいいの?」
    「いいわよ。」

     もうこれ以上何もする気が起きない友梨はその場に座り込んだ。

    「……お〜い、昌獅大丈夫か?」

     涼太(りょうた)の心配そうな声に友梨が顔を向ける。

    「あ……。」

     先程突き飛ばされた昌獅は運が悪いのか壁に頭をぶつけ、気絶していた。

    「いやあああああっ!昌獅!!」

     友梨は慌てて昌獅に駆け寄り、彼が怪我をしていないか確認する。

    「……。」
    「しっかりして〜〜っ!」

     責任を感じているのか友梨は昌獅を揺すぶる。

    「……あの…。」

     遠慮がちに声をかける涼太に気付く事無く、友梨は昌獅を更に揺すぶる。

    「……気絶させておいて…この仕打ちはないだろう…友梨……。」
    「昌獅……。」

     昌獅は恨めしげに友梨を見た。だけど、その目はやはり優しく、友梨だから許してやると目で言っていた。

    「ごめんなさい。」
    「しゃあねぇな。」

     クシャリと友梨の頭をそっと撫で、昌獅は友梨の髪に自分の頭を寄せる。

    「今回だけだぞ。」
    「……うん。」
    「……どう見ても今回だけじゃないと思うけどね。」
    「――っ!」
    「……はぁ…。」

     冷めた声に友梨は体を強張らせ、昌獅は溜息を一つ吐いた。

    「邪魔すんなよ。」
    「あら、邪魔なんかしていないわ。」
    「どうだか。」

     二人の間に居る友梨は生きた心地がしなかった。そんな友梨の気持ちを知ってか知らずか、二人はまだ続ける。

    「あら、わたしはそんな暇人じゃないわよ。」
    「はっ、友梨と俺との間に入る時点で十分暇人だよ。」
    「あら、わたしの目の前で勝手にいちゃつくバカップルが悪いんでしょ?」
    「ち、智里!」
    「ふん、バカップルの何処が悪い。」
    「ま、昌獅!!」

     二人の遣り取りに友梨は可哀想なほど顔を真っ赤にさせる。
     そして、その言いあいが終わるまで始終ずっと友梨は顔を真っ赤にさせられていたそうな……。

    あとがき:やはりといいますか…智里ちゃん登場…、う〜む、この話のカップルの敵は【ルーラー】ではなく智里ちゃんの気がします…。

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  • from: yumiさん

    2011年02月22日 11時22分00秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十章〜・86・

    「…ねぇ。」

     軽く服を引っ張られ、昌獅(まさし)は自分の腕の中に居る愛おしい存在を見下ろした。

    「何か…濡れていない?」
    「ん……あ〜〜〜〜〜〜。」

     昌獅は己が濡れている事をすっかり忘れており、今更ながら友梨(ゆうり)から離れようとしたが、彼女はそれを許さなかった。

    「それに…髪が焦げている気がする。」
    「……。」

     妙に鋭い友梨に昌獅は苦笑を漏らす。

    「あ〜、それはだな……。」
    「……そう言えば、智里(ちさと)が無茶していると言ってたような……。」
    「……。」

     昌獅はやや顔を引き攣らせ、心の中で智里に向かって毒づく。

    「本当?」

     口元に笑みを浮かべている友梨を見下ろし、昌獅は彼女が怒っている事を悟った。

    「あ〜、それはだな……。」
    「本当の事ですか?」
    「……。」

     昌獅は誤魔化す事が出来ないと悟った。これは白状しないと間違いなく友梨は怒って口をきいてもらえないかもしれない。

    「まあ、本当と言えば…本当だな。」
    「ふ〜ん……。」

     目を細める友梨に昌獅はびくつく。

    「そう、本当なのね。」
    「…友梨さん?」
    「何かしら、昌獅さん。」
    「……。」
    「……。」

     昌獅は友梨が切れているのだと悟った。それは間違いなく自分が引き起こした事なので…どうすることもできない。

    「悪い……。」
    「あら、私は謝って欲しいんじゃないのよ?」
    「……。」
    「で、どういう風に無茶したの?」

     満面の笑みを浮かべる友梨ははっきり言って不気味だった。いつも以上の迫力のある笑みに昌獅は顔を引き攣らせる。

    「あ〜、それはだな……。」
    「昌獅?」

     小首を傾げる友梨だったが、その迫力はかなり恐ろしいものがあった。

    「はい、喋ります……。」

     惚れた弱みなのか、それ以前の問題なのか昌獅は友梨に起爆装置の場所や自分が経験した事を包み隠さず話した。

    「……。」
    「……。」

     黙りこくる友梨を恐る恐るというように見下ろす昌獅はある意味滑稽だが、本人とっては笑い話ですまない。

    「馬鹿。」
    「返す言葉もありません……。」
    「私に無茶するなとが言うくせに自分には無頓着じゃない。」
    「だがな……。」
    「私のためだというんだったら、もっと自分の事を大事にして!」

     真剣な瞳に見詰められ、昌獅は何も言う事が出来なかった。
     友梨は大切で、自分の命よりもずっと大切だから、昌獅は彼女を守りたいと思う。しかし、友梨は守られるだけの少女じゃなかった。
     自らも前線に赴き、戦う。
     そんな少女だから彼は友梨を守りたいと思う、だけど、少しくらい大人しくしとけ、と思うのも事実である。

    「分かったよ。」
    「本当に?」

     まだ疑う友梨に昌獅は彼女の頭に自分の手を乗せた。

    「ああ、お前の寿命を縮めないように努力する。」
    「……絶対よ。」

     震える肩に昌獅は力強く抱きしめた。

    あとがき:調子を崩すといえば、今週の日曜日貧血(?)を起こしてしまいました。本当に久し振りでやばかったです。
    しかも、お出かけしていたんですね…まあ、近所ですけど、そこで血の気が引くような、独特的な感覚で「やばい」と思って急いで家に帰りました…。
    自転車に乗りながら、坂道で視界がやばくなり、信号ではもう色さえも分からない状況…、それなのに、よくもまあ、無事に家につけたと感心しますね〜…。

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  • from: yumiさん

    2011年02月21日 11時42分35秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十章〜・85・

    《おや、おや、完全に解除されたようだね。
     今回のゲームはここまでだ。
     次も楽しませてくれ。
     このわたしの掌でどのように踊り狂うかな?》

     昌獅と友梨はこのメッセージを見て互いに眉間に皺を寄せた。

    「本当に嫌な人。」
    「ああ。」
    「……昌獅。」
    「ん?」

     友梨はそっと爆弾から手を離した。
     何も起こらない事を確認した友梨はそっと顔を上げた。

    「ありがとう。」
    「……。」

     今にも泣きそうな顔に昌獅は手を伸ばした。

    「泣けよ。」

     昌獅がそう言うが友梨は首を横に振った。

    「泣かない。」
    「……。」
    「昌獅。」
    「何だ?」
    「好き。」
    「……。」

     昌獅の瞳が大きく見開かれる。

    「好きなの、貴方が。」

     凛とした表情の友梨の瞳に昌獅は飲み込まれそうになる。

    「多分、あの雨の日から…私は貴方が好き、認めたくなかったけど……。」
    「友梨。」
    「失恋したばっかりなのに、もう新しい恋をしていたなんて、自分でも信じられなかった…、だけど…、大切なの。」
    「友梨。」
    「貴方が大切なの、好きで、好きでどうしようもないの……、貴方が傷付くのも見たくないし、護ってあげたい。」

     友梨は昌獅に縋りつくようにその身を昌獅に預けた。

    「貴方の苦しみも分かち合いたいの……。」
    「友梨。」
    「貴方はひたすら私に…ううん、色んな人に隠すから…、私だけには見せて、お願い…お願い、昌獅。」
    「……。」

     守りたいと思った女性は友梨が初めてで昌獅はどうすれば良いのかと頭を悩ませた。

    「俺は……。」
    「私を好きだと思うのなら…一人で溜めないで、私を想うのなら話して…私は貴方が苦しむのをこれ以上見ていられない……。」

     昌獅はそっと手を伸ばし、友梨の背を撫でた。

    「友梨……。」

     昌獅は友梨が苦しくはならない程度に抱きしめ、そっと、彼女の耳元に口を持っていく。

    「お前だって抱え込むなよ。」
    「……。」

     友梨はゆっくりと顔を上げ昌獅の瞳を見た。

    「俺だってお前が一人で溜めているのも、苦しんでいるのも見たくないんだ…。」
    「…約束できない。」
    「……だろうな、俺だってそうだ。」

     お互いが自分の性格を理解しており、互いのためならきっと我慢し続ける事くらいできるだろうが、互いにそんな事を望んではいない。

    「約束はできないが、努力はする。」
    「……うん。」
    「友梨も努力はしてくれ、俺だってお前が心配なんだからな。」

     友梨はそっと目を閉じ、昌獅のやや早めの鼓動を聞き、自分たちは生きているのだと実感した。

    あとがき:やっと友梨ちゃんの告白。長かった…うん、昌獅の告白は十章の1からだとして…、長かった。

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  • from: yumiさん

    2011年02月20日 11時37分36秒

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    「星色の王国」
    ・22・

     時間は少し遡って、ユウリがフローリゼルたちと廊下を歩いていた頃、こちらもまたマサシが客を部屋に案内していた。

    「はぁ…。」
    「何ですか、幸薄いジャック。」
    「おい、誰が幸薄いだ。」
    「君ですよ、君。」
    「うがあああああっ!」

     完全に壊れかける一歩手前のジャックに対し、ルシスは涼しい顔で腹違いの弟を虐める。

    「好いた女性一人を落せないなんて、男の恥じですよ。」
    「つーか、この中で彼女いるのてめぇだけじゃねぇかよ。」
    「それがどうしましたか?」
    「カイ兄はどうなるんだよ!」
    「兄さんは別ですよ、兄さんには幸せになってほしいので慎重で構わないんですよ。」

     ニッコリと微笑むルシスは氷のように冷たかった。

    「変な女性に引っかかりでもしたら困りますし、それに、兄さんの相手はやはり僕たちの目でちゃんと見ないといけませんからね。」
    「……。」

     今更だが、この兄の恐ろしさを思いしたような気がした。

    「……んあ?」
    「……。」
    「……これは…。」
    「……マサシ。」
    「ああ。」

     気配に聡い五人は何かを感じ、代表としてマサシとカイザーが窓から外を見た。
     目を凝らし、遠くを見る。
     変わったところはない、だが、流石に誰か一人だけならば気のせいですむだろうが、五人が感じ取ったのだ。

    「どうする?」
    「……取り敢えず、俺は戻って、チサト様にこの事を伝えてくる。」
    「分かった。」
    「その時に、反対側の塔に入れるか許可を貰う、しばらくかかるはずだ。」
    「ああ、もし変化があれば伝える。」
    「頼む。」
    「分かった。」

     マサシはきびきびとした動作で先程までいた部屋へと戻っていく。

    「兄さんどうします?」
    「……そうだな。」
    「こんな時にリディが居ればな〜。」

     暢気な事を言うジャックにルシスは笑みを浮かべる。

    「兄さん。」
    「ん?」
    「ジャックを偵察にやればいいんですよ。」
    「だが……。」

     渋るカイザーにルシスは笑みを深める。

    「大丈夫ですよ、一応こいつでも並みの人たちよりは強いですし、死ん――いえ、何でもありませんよ。」

     本音の一部を聞いてしまったジャックは顔を強張らせる。
     ルシスは家族に甘い、だが、それに当てはまるのはカイザーとリディアナだけだ。残りの父はどちらかと言えば嫌い、二人の母はある意味守られるだけの人じゃないし苦手だ、そして、ジャックは彼直々に鍛えたものだから、たとえ死んでも何とも思わないだろ。

    「ルシス。」
    「はい。」

     静かな声音にルシスは兄を見る。

    「悪いが、少し風を感じられる場所に行く。」
    「……兄さんがやる事じゃないと思いますが……。」
    「いいんだ、それに、リディアナの協力も得たいし、注意を促しておきたいからな。」
    「分かりました。早く戻ってきてください。」
    「ああ。」

     カイザーは目元を和らげ、廊下を歩き、バルコニーを見つけ、そこから外に出る。

    「……。」

     目を閉じ、風を感じる。
     温かな風、自分たちがいた場所では今は冬だったので、凍りつく風じゃなく温かな風に違和感を覚えた。

    「そりゃ、国が違えば環境も違うよな…。」

     小さく苦笑するカイザーは一陣の風を捕まえる。

    『風よ、その力を宿し我が妹に言伝を――リディアナすまないが、俺と一緒に風読みを始めてくれないか?今しがた変な気配がした、だから、頼む…。』

     カイザーたちの大陸では五つの国が存在しており、その中で風の加護の地、水の加護の地、火の加護の地、地の加護の地、そして、草木の加護の地がある。
     その中でカイザーたちの国アルテッドは草木の加護が強い国だが、カイザーたちにはそれぞれ違う国の血が流れている。
     父は地の加護を受けた国の現国王の兄に当たる人物で地の加護を得ている。
     カイザーとリディアナの今は亡き母親は風の加護の地の生まれで、元皇女の姫君だった、しかし、許嫁候補でもあった父親の出奔に付き合い、アルテッド国まで来たのだった。
     ルシスの母は水の加護を受けた国の生まれの皇女で、父親の許嫁候補の一人でカイザーたちの母とは仲が良く、それは旦那さんよりもカイザーたちの母を大切にするほどだった。
     ジャックの母は火の加護を受けた国の皇女で、父親の許嫁候補の一人でルシスの母と同じくカイザーたちの母親とは仲が良かった。
     そして、その血はしっかりとカイザーたちにもしっかりと受け継がれていた。
     カイザーは地の加護を強く継いでいるが、それでも、母の血もあり風の加護も受けている。
     ルシスは母親の水の加護が強すぎるのか、父親の地の加護は全くなかった。それはジャックやリディアナも一緒で、ジャックは火の加護だけを、リディアナは風の加護だけを持っている。

    『兄様?』
    『リディアナか?』
    『ええ、何がどうなされたんですか?』

     風を通じて二人は離れた場所から会話する。因みにそんな事が出来るのはカイザーとリディアナだからできる事だった。
     もし、ルシスやジャックだったなら言葉を聞くだけで、返事など出来ないのだった。

    『先程怪しい気配があった、そっちには異常は無いか?』
    『ありません。』
    『そうか…杞憂で済めばいいんだがな…。』
    『兄様は嫌な予感がするんですか?』

     心配げなリディアナの声にカイザーは苦笑する。

    『ああ、外れて欲しいと思うが…こればっかりはな……。』
    『兄様。』
    『リディ始めようか?』
    『はい。』

     二人の兄妹はそれぞれの場所で怪しい気配を探った、しかし、彼らの力でも先程の気配を感じ取る事は出来なかった。

    あとがき:思ったより早くカイザーとリディアナちゃんの力をお見せできましたね…。この話は一体いつになれば本格的に動き始めるのか…と頭を悩ませます…。

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    マナ

  • from: yumiさん

    2011年02月20日 11時29分00秒

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    「ダークネス・ゲーム」
    〜第十章〜・84・

    「……あの変態…。」

     友梨(ゆうり)は苦々しそうに顔を歪めた。

    「こんな所でこんな問題を出す?」

     友梨は爆弾のパネルを見ながら唾を吐きたくなった。
     どうする事もできないもどかしさが友梨の中で渦巻く。

    「……しかも、こんな問題……。」

     怒りを顕にする友梨の瞳はギラギラと怪しい光を宿していた。

    《最後の問題だ
     このゲームの勝者はこのわたしかな?それとも君たちの勝ちか、はたまた一人だけつぶれ、引き分けか?
     さあ、一体どれになるだろうか?》

    「……勝者は私たちよ。」

     友梨は歯軋りをしながら、その画面を睨んだ。

    「絶対に昌獅(まさし)が来てくれるんだから。」

     友梨は絶対に信じられる存在を思い浮かべ、外を見た。

    「昌獅……。」

     その時、友梨の耳にはブレーキのかかる音がした気がした。

    「……。」

     幻聴かと始めは思った。
     だけど、そんな警戒する友梨の冷静な部分とは裏腹に、心が確かに叫んでいる。

    「昌獅?」

     遠くで廊下を走る音がする。
     友梨は確信した。

    「………来てくれた。」

     友梨の目から一筋の涙が零れ落ちる。
     次の瞬間、友梨の目に愛おしい昌獅の姿が映った。

    「昌獅!」
    「友梨!」

     ほんの少ししか離れていないというのに、懐かしく感じる低い声に友梨は思わず手を離しそうになる。
     だが、それよりも早く昌獅は友梨を抱きしめた。

    「…まさ…し?」
    「悪い、遅くなった。」

     友梨は懐かしい彼の匂いに頬を緩める。

    「大丈夫よ、私は……。」
    「すまない…。」
    「謝らないで…、それよりも。」

     友梨はこのまま昌獅に抱きしめてもらいたいと思ったが、理性が早く解除しろと煩かった。

    「分かっている。」

     昌獅も名残惜しげだったが、それでも、彼女の解放が優先だと思ったようだ。

    「……絶対、殺す。」
    「昌獅…。」

     昌獅は画面を見た瞬間眉間に皺を寄せ、そして、低い声で唸った。

    「これで仕舞いだ。」

     昌獅は自分たちの勝利に触れ、そして、画面が暗転した。

    「……。」
    「……。」

     何も起こらない事に友梨と昌獅は互いの顔を見合わせる。

    「大丈夫なの?」
    「さあな、どう見ても俺たちの勝利には変わらないんだからな。」
    「でも……。」
    「誰が、好き好んで友梨を犠牲にするもんか。」

     苦々しそうに顔を歪める昌獅に友梨は目を見張る。

    「昌獅……。」
    「これ以上お前の負担なんか与えたくねぇ。」

     昌獅はそっと包み込むように友梨を抱きしめた。

    「…ありがとう。」

     友梨はそっと目を伏せ、昌獅に凭れかかった。

    あとがき:友梨ちゃん無事救出…、長かった…。
    もう二月が終わるまであと少し…嫌だな…。就職活動うまくできていないのに…。

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