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from: yumiさん
2012年01月31日 11時07分37秒
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「『さよなら』のかわりに―紅葉を―」
秀香(しゅうか)はふとカレンダーを見て、征義(まさよし)があと三日でいなくなる事に気づいた。
元の生活にようやく戻れるはずなのに、何故か、秀香はそれを寂しく思った。
征義の弟――洸太(こうた)と出会ってから、征義の行動は少し収まった、多分洸太が征義に色々言ってくれたお陰だと秀香は考えていた。
「……。」
秀香は本を抱え、そして、図書室に向かうとまるで、あの時に戻ったかのように、征義が同じ席で、寝ていた。
秀香はゆっくりと征義に近づき、彼の肩を揺する。
「先生、風邪引きますよ。」
何故自分がこんな事をしているのか、秀香は分からなかった。
自分はこの人が嫌いではなかったのか。
否、嫌いではない、苦手なだけで、嫌いではない。
自分はこの人を避けていたのではなかったのか。
それは自分を暴かれそうで怖かった。
何故自分がここにいるのか分からず、秀香が征義から手を離そうとした瞬間、強く彼に手を捕まれた。
「えっ。」
「秀香……。」
「……。」
自分の名を口にされ、秀香の中にある何か壊れそうになった。
「や……。」
「秀香?」
「ヤダ……ヤダ……。」
秀香の頬から一筋の涙が零れ落ち始めた。
「どうしたんだ?」
優しい低い声に追いついていく自分が酷くいやだった。
逃げ出したいのに、捕まれた手が心地よくて逃げ出せない。
さまざまな矛盾が生まれ、秀香は理解してしまった。
自分はいつの間にか、この男に惹かれてしまったのだと。
そのきっかけを生んでしまったのは、間違いなく、カレンダーを見てしまったあの瞬間からだった。
「どうして、私の前に現れたんですか……?」
「……。」
「会わなければ、こんな気持ちにならなかった……、貴方との別れで悲しいとは思わなかった…、貴方をもっと知りたいとは思わなかった、何で、何で貴方は私の前に現れたのよ……。」
秀香は涙で濡れた目を征義に向けた。
「確かに、教育実習生である「本城(ほんじょう)征義」とはお別れだ。」
「……っ…。」
「だが、お前との関係は教育実習生と生徒ではなく、ただの男と女として付き合える。」
「先生?」
「あと、二日ある。その後でまた、会おう。その時は、俺はただの征義だ。」
「……はい。」
秀香はこの今の関係は終わるが、また別の関係が生まれる事に歓喜した。
「少しずつ、知っていこう……俺もお前もまだまだ話したりないからな……。」
「はい。」icon
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from: yumiさん
2012年01月30日 11時16分27秒
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「『さよなら』のかわりに―紅葉を―」
近くのスーパーで特売の品を買った二人は近くの公園にいた。
「ありがとう……あっ、名前聞いてなかったわね。」
「洸太(こうた)です。」
「コウタくんね、どんな字?」
「さんずいの光で「洸」で太いで、「太」です。」
「私は辻秀香(つじ しゅうか)、秀香は秀でて香るで「秀香」よ。」
「秀香さんですね。」
「ええ。」
少年は秀香の顔を見て小さく微笑んだ。
「お人よしなんですね。」
「そうかしら?」
「そうですよ、見ず知らずのこんな不良そうな男に興味を持つなんて。」
「……多分、ある人の事が似ていると思ったのよ。」
「ある人?」
秀香はそのある人を思い浮かべ、言葉を紡ぐ。
「自己中心的で、本当に私の気持ちなんて考えなくて、勝手にずかずか入ってくる自分勝手な人。」
「何か、オレの兄貴と似ているかも。」
「そうなの?」
「ああ、兄貴はさ、昔から器用で結構女性にもてたんだけど、自分勝手な行動をしてわざと女性を近づけないようにしていたんだ。」
「……。」
「オレは小さい時、何で兄貴がそんな事をするのか、分からなかった。だけど、最近になって、兄貴がようやく見えてきたんだ。」
洸太の言葉に秀香はじっと聞いていた。
「兄貴は人が苦手だったんだ。特に瞳が濁った人間が。兄貴の周りに寄ってくる女は結構自分に自信があって、他人を平気で蹴落とす奴が多かったんだ。本当はそんな女が少数なのにな……。」
洸太は兄を考えているのか何処となく痛みを堪えるようなこんな顔をしていた。
「だけど、最近ようやく兄貴の前に澄んだ目の奴が現れたみたいで、兄貴は生き生きしているんだ……。まあ、方向性がかなり間違っているような気がするけど……。昔の全ての女性を否定していた時よりはよっぽどマシだと思うんだ。」
「……。」
「きっと、征(まさ)兄が会ったのはあんたみたいな人なんだろうな。」
「えっ……。」
秀香は驚いた顔をした。
それは洸太に褒められたからではなく、彼の口から漏れた兄の呼び名からだ。
「…………貴方の苗字って、まさか……本城(ほんじょう)…とか?」
「ん?よく分かりましたね。」
洸太が頷き、秀香は頭を抱えた。
「ど、どうしたんだよ。」
「何なのよ……。」
「……。」
「貴方の…お兄さんって、教育実習で来ている、本城征義(まさよし)さん。だよね?」
「……まさか、征兄言っていたのは。」
「……。」
「……。」
二人はまさかの接点を見つけ、黙り込む。
「…世間は狭いと言うが、本当なんですね。」
「そうね。」
「秀香?」
「………。」
「………。」
聞き覚えのある声に二人が振り返ると、そこにはスーツ姿の征義がいた。
「お前反対方向だろう。」
「お〜い、征兄。オレは無視かよ」
「あっ?何でお前がここにいるんだよ、つーか、何で秀香の側にお前がいるんだよ。」
「……本当に秀香さんしか見えていないんだな。」
呆れたように肩を竦ませ、洸太は秀香を見る。
「本当に面倒なものに惚れられたな。」
「そうね。」
「…………何なんだよ、お前ら二人で。」
「……私は帰るわね。」
「気をつけて。」
「洸太くん、ありがとうね。」
「いえ、こちらこそありがとうございます。そして、兄貴が色々と迷惑をかけてすみません。」
秀香は本当に征義と洸太が兄弟なのかと疑いたくなった。
「ううん、大丈夫……多分…。」
「……何かあれば相談しに来てください…、メールアドレス教えてください。」
「うん、いいわよ。」
二人は互いの携帯電話を取り出し、メールアドレスを渡す。
「本当に兄貴が変な事をやらかしたら言ってくださいね。」
「うん、ありがとう。」
秀香は穏やかな笑みを浮かべた。
「おい、洸太、何人の彼女に何をやってるんだよ。」
「…征兄、こいつはお前の彼女じゃない、だろっ!」
「本城先生、私は貴方の彼女じゃない、でしょっ!。」
同時に叫ぶ二人に征義は眉を寄せるが、二人は征義を睨み続けていた。icon
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from: yumiさん
2012年01月27日 09時50分56秒
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「『さよなら』のかわりに―紅葉を―」
秀香(しゅうか)は自宅に帰る前に少し買い物をするためにいつもの通学路ではない道を歩いていた。
「今日は確か卵の特売があるから、それと、トイレットペーパーも安いからそれも買っておきますか。」
まるで、主婦みたいな事をいう秀香なのだが、両親が二人とも外に出ているのでどうしても秀香が買い物などをするようになってしまうのだ。
一度兄に任せた事もあったのだが、間違えて高いものを買ったり、自分の家では不評の商品を買ったりと散々な事になった事があるのだ。
「ふぅ。」
秀香は小さく溜息を吐き、空を見上げる。
「あの人は一体何なのかしら……。」
秀香はあの教育実習生を思い出し、顔を顰める。
「………はぁ、毒されているわ。」
秀香は重い足を動かす、この時、彼女は前を見ていなかったので、一人の男子学生とぶつかった。
「きゃっ!」
「あっ、悪い。」
少年は体勢を崩した秀香の腕を掴んだ。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう……。」
秀香は少年の耳にピアスホールがあるのを見て、あまりいい顔をしなかったが、少年の目を見てそれを改める。
少年の目は真っ直ぐで、見た目だけならば少々不良の分類に入るだろうが、彼はきっとそんな馬鹿な事をしない人間だと、そう思わせるほど純粋で強い目をしていた。
「……悪い、ちょっとむしゃくしゃしてて前見てなかった。」
「ううん、私もちょっとよそ見してたし。」
「……あれ、その制服って。あの女子高の制服か?」
「ええ。貴方は公立高校みたいね。」
「……え〜と…高一じゃ、ないよな?」
気まずそうな顔をする少年に秀香は小さく笑った。
「違うわ、高校三年よ。」
「やばっ、すみません。」
意外にも少年は真面目な方で、秀香に謝った。
「別にいいわよ、言葉を直さなくても。」
「駄目です。こういうのしっかりやってないと。」
見た目とのギャップを感じ、秀香は思わず笑い出した。
「ふふふ、偉いわね。」
「そりゃそうですよ。オレの友人とかって不良に分類される奴らが多くて、こういった事をちゃんとやってないと、マジで煩い大人が多いし。」
「そうね。」
「はぁ、あんま兄貴とかに迷惑かけたくないと思ったのに、かけちまうしさ。」
溜息を吐く少年に秀香は思わず、この少年の話を聞いてみたいと思ってしまった。
「よければ相談に乗ってあげましょうか?」
「……。」
少年は怪訝な顔をし、秀香はニッコリと微笑んだ。
「後でちょっと特売に付き合って欲しいの。」
冗談半分で秀香が言うと、少年は口角を上げ笑った。
「いいですよ、どうせ、暇ですし。」
「ありがとう。」icon
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from: yumiさん
2012年01月26日 10時05分32秒
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「『さよなら』のかわりに―紅葉を―」
秀香(しゅうか)はこの日も不機嫌な表情で図書室にいた。何故なら目の前に嫌な奴がいるからである。
「何でここにいるんですか。」
「何処にいようが、俺の勝手だろ?」
「ええ、確かに貴方の勝手ですが、何で私の行く先々に貴方がいるんですかっ!いい加減うざいですっ!」
「へ〜、お前でもうざい、とか言うんだな。」
「当たり前です。」
秀香は征義(まさよし)を睨みつけ、ドンと彼の前に本を置いた。
「返却でお願いします。」
「ああ。」
慣れた手つきで征義は返却の手続きをする。
「それじゃ、私はこれで。」
「ちょっと、待て。」
今すぐにでも立ち去ろうとする秀香に征義はその手を掴んだ。
「何ですか、急に。」
「お前……、また何かあったのか?」
「……。」
秀香の眉間に皺が寄る、だけど、その表情は今にも泣き出しそうな、そんな顔だった。
「別に何にもありません。」
「……嘘だろう。」
「何もないって言ったら、何もないっ!」
礼儀正しい、秀香の仮面が剥がれ落ち、苦痛を耐える秀香の表情(かお)が現れた。
「秀香……。」
「いい加減にして、私は別にこのままでいいの、だから、余計な事は考えないで。」
「……無理だ。」
「何でよ、私にとってはただの先生、それ以上もそれ以下もないっ!」
「お前はそうだか、俺はそうじゃない。」
「それは貴方の勝手でしょ!」
秀香は何とか征義の手から逃れようともがくが、男の力には敵わなかった。
「ああ、確かに俺の勝手かもしれないが。」
まるで野生の獣を目にしたように秀香はその目を大きく見開き、怯えたような顔を浮かべた。
「俺は気になったら、知るまで絶対にそれを諦めないんだよ。」
「――っ!」
絶対に教えない、と思っている秀香だが、もし、ここで黙ったままなら自分の身に危険が及ぶ気がした。
「わ、分かりましたから…離してください。」
秀香は不本意だったが折れた、そのお陰でいつもの彼女の優等生面が戻った。
「……。」
どこかそれが面白くないのか、征義は顔を顰め、そして何かを思いついたのか、不敵な笑みを浮かべた。
「ヤダ。」
「なっ!」
秀香の漸く戻った優等生の仮面が再び剥がれ落ち、征義は満足そうに微笑んだ。
「やっぱその生意気な顔がいいな。」
「へ、変態っ!」
「変態とは酷いな、傷つく。」
征義はそのまま秀香の手を強く掴んだ。
「ひっ…痛っ…。」
食い込んでいるのではないのかと思うほど征義の手が秀香の華奢な手首を強く握りこんだ。
「は、離して……。」
「んじゃ、話せよな。」
「……別に…ただ教科書がボロボロにされていただけです。」
「……。」
征義の目に怒りの炎が宿り、秀香はやはり言わなければよかった、と後悔をする。
「何で黙ってるんだ。」
「言っても無駄ですし、原因の一つの貴方に言われたくはありません。」
「……どういう事だ。」
ついつい言葉を滑らした秀香に征義は食いついた。
「…………。」
秀香は疲れていたのか、征義を睨み、そして、彼を責めるような口調で話し始めた。
「貴方は女性から見れば魅力的に映るんですよ、それで、貴方が私にちょっかいをかけるから、それが彼女たちに気に食わないんです。」
「……。」
「だから、もうこれ以上私にちょっかいを出さないでください。お遊びなら別の子に――。」
秀香の言葉を征義は己の口を使って黙らせる。
「――っ!」
秀香は征義の胸を叩くが、彼は全く応えていないのか、秀香を離す気がなさそうだった。
「冗談で。」
「……。」
「冗談でこんな事が出来るわけないだろうっ!」
痛みを我慢するように征義は顔を顰め、そして、秀香を抱きしめる。
「マジなんだよ。」
「せ、先生?」
「頼むから……遊びとか言わないでくれ……。」
まるで大きな子どものように見え、秀香は本気で戸惑い始める。
「…………秀香。」
征義が秀香の目を覗き込んだ、その瞬間、まるで見ていたかのように征義の携帯がけたたましく鳴った。
「……誰だよ。」
征義は携帯を開き、中を見ると弟の名前が表示されていた。
「……なんだよ。」
征義は近くの壁を蹴り、そして、電話に出る。
「はい、何だよ。」
『機嫌悪ぃな。』
「ああ。しょうもない用件なら即刻切るからな。」
『はぁ、悪い、征兄。』
急に謝りだす弟に征義は怪訝な顔をする。
「何だよ、急に。」
『明日オレの学校に来てくれないか?』
「……。」
『呼び出しくらった。』
「はぁっ!」
今まで不良と思われている弟だが、今まで本人の説教はあったが、身内の呼び出しだけは全くなかったので、征義は本気で驚いていた。
「お前何をやらかしたんだよ。」
『……はぁ、オレの荷物に変なものを入れられてて、それが荷物検査の時にばれたんだよ。』
「……。」
『不可抗力だ。』
何とも弟らしい理由に征義は頭を抱えた。
「因みに何を入れられた?」
『……ろ…本だ。』
「あっ?」
最初の言葉が聞こえなく、征義が聞き返すと、弟は羞恥の為が次は怒鳴り、その声は近くにいた秀香の耳にも届いた。
『エロ本だよっ!何度も言わせんなこのクソ兄貴っ!』
「……おい。」
征義が弟に話しかけようとするが、無情にも電話は切られてしまった。
「はぁ……。」
「……。」
征義は溜息を吐く中、突き刺さる視線を感じ振り返るとそこには軽蔑したような目で睨む秀香の姿があった。
「おい、秀香。」
「……。」
征義が近づくと秀香はその分だけ逃げる。
「……。」
「……あいつの名誉の為に言っておくが、さっきの言葉はあいつの悪友が面白半分に入れた品物だ。」
「……。」
秀香はまだ信じられないのか、征義を睨み続けている。
「…頼むから信じてくれ。」
「……分かりました。」
あまりにも真剣に言うので、この件だけは秀香は信じてみようかと考える。
「……まぁ、弟に会えばお前なら分かってくれるかもな。」
「えっ?」
征義はそう言うと、そっと秀香に手を差し出した。
「お前なら、多分その澄んだ目で分かってくれる。」
自信満々に言う征義に秀香は怪訝な顔をした。icon
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from: yumiさん
2012年01月15日 10時58分17秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・125・
「涼太(りょうた)もっと気をつけろよな。」
友梨(ゆうり)の真っ青な顔を見ながら昌獅(まさし)は溜息と共に言葉を漏らす。
「しょうがないだろう、こっちの方が手っ取り早いし、何とかなると思ったからな。」
「はぁ、まぁ、次はあいつらがいないところでやれよな。」
昌獅は可哀想なほど顔を真っ青にさせる友梨と美波(みなみ)を見て肩を竦めた。
「だけどな、あれしか方法はなさそうだったし。」
「まあな、俺でも多分飛び降りていただろうしな。」
「だろ?」
「でも、これ以上友梨を心配掛けるんならいくらお前でも容赦しないぜ。」
「分かってる、つーか、自分だって友梨先輩を心配させているんだから気をつけろよな。」
涼太は、今回は確かに心配を掛けたのは自分だが、常日頃から考えると自分よりも昌獅の方が絶対に友梨を心配させているように思った。
「俺は特権だ。」
「……。」
涼太は思わず友梨に同情した。
「……オレは絶対にこんな奴にならない。」
そんな事を胸に決め、涼太は昌獅を睨んだ。
「おい、昌獅。」
「何だよ。」
「ほら、これ向こうに持って行けよ。」
涼太は自分の右の手に持っていた紫色の珠を昌獅に差し出し、友梨たちの方を見る。
「いいのかよ。」
「ああ、ちょっとオレは近くのベンチに行く。」
「休憩かよ。」
「悪いか、オレの心臓はお前なんかよりずっと繊細なんだよ。」
「はっ、あんなところから飛び降りる神経の持ち主が何を言っているんだか。」
呆れたように言う昌獅だったが、その目はどこか涼太を心配しているように見えた。
「昌獅、意地悪いわないの。」
いつの間にか近寄ってきた友梨に昌獅は軽く睨む。
「何だよ、あいつの心配か?」
「心配というか…不憫というか……。」
友梨は心底哀れんでいる目を涼太に向け、続いて美波を見た。
「うん……やっぱり不憫かな。」
友梨の言いたい事を理解してしまった昌獅は肩を竦めた。
「分かったよ、善処する。」
「ありがとう。」
流石に好きに人に振り向いてもらえない上に、誰かにからかわれるのは誰だって不憫に思うだろう。
「やっと残り一個だね。」
「ああ。」
「それにしても、橋がヒントだったよね。」
「ああ。」
「池とかに落ちたりして。」
「……頼むから洒落にもならないから、落ちるなよ。」
「失礼な。」
昌獅は友梨ならば必死になって池に落ちてもヘラヘラと笑っていそうなので、げんなりとする。
「頼むから、少しは大人しくしてくれ。」
「悪いけど、大人しい私は私じゃないわよ。」
「こっちの身にもなれ。」
「ふ〜ん、無茶をするのは私だけじゃないと思うけど?」
友梨のふてくされたような表情に昌獅は苦笑した。
「俺もと言いたいのか?」
「違うと言い切れるの?」
質問をすれば、質問で返され、昌獅は頭を掻いた。
「お前ほどじゃないと思うが。」
「私にすればここいいる誰よりも危なっかしいわよ。」
「俺から言えばお前が一番危なっかしくて目が離せねぇよ。」
第三者の目からすれば、この二人のどっちも危なっかしいと思われるのだが、残念ながらいつも突っ込む智里(ちさと)が無視を決め込んでいるので、誰も突っ込まない。
「昌獅が一番よっ!」
「いいや、お前がっ!」
二人の痴話喧嘩は激しくなるばかりだった。
あとがき:お久しぶりです。
本日は美波ちゃんの誕生日なので載せました。美波ちゃんおめでとうごさいます。
さてさて、次はいつになるやら…。icon
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from: yumiさん
2012年01月05日 12時16分03秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・124・
涼太(りょうた)は深呼吸を繰り返し、そして、昌獅(まさし)と勇真(ゆうま)の準備が終えるのを待つ。
「涼太。」
昌獅の言葉に涼太は頷いて助走をつける。
「……っ!」
勢いよく左足で地面を蹴り、右足で昌獅と勇真の手を蹴った。
その時、昌獅と勇真は微かに来る痛みを堪え、涼太を飛ばす。
「……。」
「やったっ!」
「すごい。」
下から歓声が聞こえ、涼太は自分が目的の屋根に着地した事にようやく気づく。
「……うまくいくもんだな……。」
涼太はホッと息を吐き、そして、器用に屋根を歩く。
少し急な坂になっている目的の場所に向かう涼太は緊張していた。
いつ、敵が現れるのか分からない現状に、涼太は気を抜くつもりはなかったが、まさか、着くまでに何もないのは拍子抜けだった。
「何だ…こんな単純でいいのか?」
涼太はしゃがみこみ、それを拾い上げる。
「……そういや、どうやって降りればいいんだ?」
涼太は紫色の珠を手にし、自分が先ほどいた地面を見て顔を強張らせる。
「思ったより…高いな……。」
下から上を見る時も、少し高いと思ったが、上から下を見ればより恐怖が彼の中で生まれたのだった。
「涼太、あったか?」
「ああ、あった。」
「それは本当に本物かしら、結構簡単に取ったように見えたけど。」
「……。」
智里(ちさと)の冷ややかな声音に涼太は知らず知らずの内に険しい顔を作る。
「お前、オレに怪我を負わしたのかよ。」
「あら、そんな風に聞こえたかしら?」
「……。」
わざとらしい智里に涼太は睨みつけるが、智里は惚けたような表情をした。
「……涼太くん、降りれそう?」
「…ちょっと厳しいです。」
やっとまともな事を言ってくれた友梨(ゆうり)に涼太はホッとした。
「怖いよね…私も前に二階くらいの高さから落ちたけど、気絶しちゃったよ。」
「……。」
何か怖い事を耳にしたような気がした涼太だったが、さすがにそれを聞く勇気がなかったので、彼はそれを聞き流した。
「う〜ん、智里、何かいいものない?」
「持っている訳ないでしょ、まるで、四次元空間を持っているような事を訊かないでくれるかしら?」
「……。」
本当は持っているのではないのじゃないかと、友梨は思うのだが、それを口にすれば絶対に智里が煩いと思い黙っている。
「どうせ、あの高さだと死にはしないわ。」
「それでも。」
「まぁ、最悪骨折、あのクソ餓鬼なら多分擦り傷一つつかないと思うけど。」
それは智里が涼太を信頼しているから出る言葉なのか、それとももっと別の所から来ている言葉なのか友梨には判断できなかった。
「本当に…分からないわ。」
「あら、何が?」
「……。」
友梨は溜息を吐いて上を見ると涼太は何か決意したのか、微かに笑みを浮かべていた。
「涼太くん?」
「リョウくん?」
美波と友梨は同時に涼太の名を呼ぶと彼は屋根を蹴り、重力によって落下した。
「なっ!」
「ひゃっ!」
驚く二人だったが、涼太は智里の予想通り傷一つ負う事無く無事に着地したのだった。
あとがき:お久しぶりです…、本当はもう少しストックが溜まってから載せようかと考えていたんですが…本日は智里ちゃんのお誕生日…、本日載せないと怖い気がしたので、載せ……って、智里ちゃんに失礼ですよね(苦笑)。
まあ、呪われ……いえいえ、何でもありません。
取り敢えず智里ちゃんお誕生日おめでとうございます。icon
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