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from: yumiさん
2010年05月17日 12時59分28秒
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ダークネス・ゲーム
〜第一章〜・1・《ゲーム・スタート》
「ただいま〜。」
「ただいま。」
二人の姉妹が同時に家のドアをくぐった。
二人とも制服姿で、ブレザーだがその形が違った。
二人の中で少し背の高い方で、ショートカットの少女はネクタイととれとおそろいのチェックのスカートが特徴で、もう一人の少女は眼鏡を掛けており、真直ぐで肩まである髪に、ワインレッドのリボンと紺色のベストとスカートが特徴だった。
「それにしても、智里(ちさと)も一緒に帰るなんて、珍しくない?」
ショートカットの少女がもう一人の少女、智里に話しかけ、彼女は小さく頷いた。
「確かに、珍しいよね。」
「あ〜、お腹すいた〜!」
ショートカットの少女、友梨(ゆうり)は叫ぶように言い、智里はそれを見て呆れている。
「確かにお腹は空いているけど、そこまでやる?」
「やるよ!」
「……あれ?」
急に立ち止まった智里に友梨は訝しげに彼女を見た。
「どうかしたの?」
「何か静かじゃない?」
「……。」
友梨は耳を澄ませ、智里が言うように確かに、いつもなら聞こえてくる末の妹や母、父の声が聞こえてこなかった。
「……どっか出かけるって言ってたっけ?」
友梨は眉間に皺を寄せ、尋ねると、智里は首を横に振った。
「わたしは聞いていないよ。」
「だよね……。」
ますます訳が分からなくなった、友梨はひとまず靴を脱ぎ捨て、中に入っていった。
「誰も居ないの!?」
友梨は真直ぐに家族が集うリビングに向かい、その後を智里が追う。
「お母さん?お父さん?美波(みなみ)?居ないの〜?」
友梨はヒョッコリと少し開いた扉から、中を覗き込むか、その部屋には誰も居なかった。
「……智里…。」
「お姉ちゃん…。」
二人は互いの顔を見合わせ、その顔には不安が浮かんでいた。
「「おかしいよ(ね)。」」
同時に同じ言葉を言う二人だったが、中に入る勇気だけはなかった。
「…ねえ、お姉ちゃん。」
「何?」
「机の上に乗っている料理、どう見ても、食べかけよね?」
智里が指摘するものを友梨は見詰め、強張った顔で頷いた。
「うん…そうだね。」
食事の最中で両親や美波が居なくなるなんて、今までそんな事がなかった二人は、「家族に何かが起こったのではないか」と思った。
「取り敢えず中に入ろう?」
「……。」
何の言葉を発しない智里に友梨は意を決し中に入っていった。
〜つづく〜
あとがき:今週中にまた続きを載せたいです。-
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マナ、
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コメント: 全361件
from: yumiさん
2012年05月31日 14時29分41秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・142・
「まあまあ、二人とも落ち着いて。」
今にも怒鳴りあいを始めそうな友梨(ゆうり)と昌獅(まさし)の間に勇真(ゆうま)が割り込んだ。
「……。」
「……。」
二人は黙って睨み合い、そして、同時に顔を逸らした。
「……喧嘩するほど仲がいいのは分かったから、こういう時は止めてくれないかな?」
「――っ!」
「……。」
勇真の言葉に友梨は羞恥で顔を赤く染め、昌獅は特に感情を感じさせない目で勇真を睨んでいた。
「はぁ、友梨ちゃんの言うとおり一度やってみようか、どうせノーヒントだしね。」
「はい。」
それぞれ六人は珠を持った。
赤は勇真が持ち、橙と黄色は昌獅、緑は友梨、青は智里(ちさと)、藍色は涼太(りょうた)、紫は美波(みなみ)が受け持つ事になった。
本当は美波と涼太の順番は逆になるかと思われたが、友梨の気遣いによってこの順番になった。
「それじゃ、嵌めるぞ。」
「分かってる。」
「ええ。」
「「……。」」
「はーい。」
昌獅の声に、それぞれが反応し、そして、ほぼ同時に皆がはめ込んだ。
「「「「「「……。」」」」」」
固唾を呑む六人に突然軽快な音が流れる。
パンパカパーンっ!
「「「「「「……。」」」」」」
「…なんだよこれ。」
「さ、さあ?」
怪訝な顔をする昌獅に友梨は顔を引きつらせる。
『おめでとう、今回のゲームも君たちの勝ちのようだ。だけど、次のゲームはそう簡単にクリアをさせないよ。』
上から流れる機械音に友梨たちが顔を顰める。
「呆気なく終わったわね。」
『次はゲームオーバーにさせるために本気を出すから、それでは諸君また次の機会に。』
「「「「「「……。」」」」」」
「何なの…一体。」
呆れたような声を出す友梨に昌獅は顔を顰めたまま溜息を吐く。
「俺が知るか。」
「まあ、取り敢えず、終わったようでよかったね。」
「本当に終わったのか?」
「大丈夫だよ、きっと。」
「……さっさと家に帰ってお風呂にでも入りたいわ。」
それぞれ、思い思いの言葉を吐き、そして、今回のゲームは呆気なく幕を閉じた、しかし、この後次のゲームがどうなるかなんて、この時の面々は分かっていなかった。
そして、友梨は大きくくしゃみをする。
「おいおい、友梨、風邪引くなよ。」
「引かないわよっ!」
そういう友梨だったが、残念ながら風邪を引いてしまったのだった。
あとがき:一週間ぶりです。何か私生活がうまくいかず、少々苛立っていますが、それでも、今は前を向いていきたいと思っています。
まだまだ落ち着くまで時間がかかるかもしれませんが、今後も見捨てないでください。
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from: yumiさん
2012年05月24日 10時57分47秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・141・
階段を上りきり、そして、例のくぼみのある場所までたどり着いた。
「涼太(りょうた)くん。ここ?」
「はい。」
「確かに、この珠が収まりそうな大きさね、でも、どれをどうやって埋めればいいのかしらね。」
【ルーラー】の事だから間違いなく正しい置き方をしない限りはゲームをクリアする事ができない事は目に見えて分かっていた。
「…………さて、どうしましょうか?」
智里(ちさと)はぐるりと見渡し始める。
「まずは何かヒントがないか探して見ないかい?」
勇真(ゆうま)の言葉に涼太は首を横に振る。
「残念ながら、この辺りは一度友梨(ゆうり)先輩と一緒に探した。」
「そうか…。」
「ねぇねぇ、適当に埋めてみるのは?」
さも名案とばかりに言う美波(みなみ)に昌獅(まさし)は溜息を吐く。
「お前馬鹿か?」
「ふぇ?」
「もし、何か仕掛けがあって間違えればドカンとかだったら、どうするつもりだ。」
「……ご、ごめんなさい。」
「おい、昌獅、言いすぎだぞ。」
しゅんと項垂れる美波を可哀想だと思い、涼太が怒鳴るが、昌獅は蔑んだ目で彼を睨んだ。
「俺は本当の事を言ったまでだ。」
「……。」
「もし、何かあってからじゃ遅いからな。」
「そうかもしれねぇが、もっと言い方とかあるだろう。」
言い争う二人に美波はおどおどとし始め、刹那、その双肩に手が置かれる。
「私に任せて。」
疲れからか少しかすれた声で話す彼女は昌獅の後ろに気配を殺して立つ。
「……。」
丁度昌獅と向き合っている涼太は彼女の姿を見て軽く目を見開く。
彼女はそっと口元に人差し指をそえ、涼太に黙るよう指示をして、口元を歪めた。
「昌獅、いい加減にしなさいっ!」
そう言って、彼女――友梨の踵落としが見事に決まった。
「〜〜〜〜っ!友梨っ!」
痛みで顔を歪ませる昌獅に友梨は不敵に笑った。
「私の気配に気づかないなんて、まだまだね。」
「……いつの間に起きたんだ。」
「今さっきよ。」
「……体は?」
「大丈夫……と言いたいけど、正直もう限界。」
昌獅の目から嘘は言えないと判断した友梨は素直に言った。
「友梨。」
「大丈夫よ、ほんの少しだけ試したい事があるの。」
「何だよ。」
「このくぼみに入れる順番は多分、赤、橙、黄色、緑、青、藍色、紫の順番だと思うの。」
「何でだよ。」
顔を顰める昌獅に友梨は小さく微笑む。
「虹って結局はグラデーションでしょ?つまりはそれに違和感がないように配置されている。」
「……そうかもしれないが。」
「それに美術の時間で赤、赤みの橙、黄みの橙、黄、黄緑、緑、青緑、緑みの青、青、青紫、紫、赤紫…って習ったでしょ?」
「ああ、確かにそんなんがあったな。」
友梨と同じ中学の昌獅はそれに覚えがあるのか頷いた。
「多分、虹も同じでしょうね。だけど、どっちが上だったけ?」
「……。」
友梨の発言に昌獅は胡乱な目つきで彼女を見た。
「しょうがないでしょ、私まともに虹を見た事がないんだもん。」
昌獅の言いたい事が分かったのか、友梨は昌獅に噛み付くように言った。
あとがき:さてさて、一週おきに載せたいところですが、中々話が浮かばないので出来る限りにしか頑張る事が出来ません。
それでも、気が向いたら見に来てください。
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from: yumiさん
2012年05月17日 11時13分27秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・140・
「美波(みなみ)大丈夫か?」
心から心配そうに顔を覗き込む涼太(りょうた)に美波はニッコリと微笑む。
「大丈夫だよ……。」
まだ呼吸が荒く、涼太はもっと早く智里(ちさと)に声を掛ければよかったと後悔をした。
「もし、辛かったら言えよな。」
「大丈夫だよ。」
「美波の大丈夫はあまり当てにならない。」
「そんな事ないよ。」
軽く拗ねる美波に涼太は彼女の大丈夫は友梨(ゆうり)よりは髪の毛一本ほどマシだとしか認識していない。
それはある意味正解だろう。
ただし、友梨ならば自分の体調を知りながら無理をするのだが、美波の場合、あまりの鈍さで自分の疲れ具合をうまく把握できていないのだ。
それはどちらがマシなのか、誰にも分からないが、見ている人にとってはどちらもはらはらするものがあるだろう。
「……お前な、もっと自分の体を知れよ。」
「知っているよ。」
「いいや、知らない。」
美波の事でついつい意地になってしまう涼太は美波の機嫌に気づいていない。
「知っているってばっ!」
「……。」
美波が怒鳴り、ようやく涼太は自分がまたやってしまった事を悟った。
「……悪い。」
罰が悪そうな顔をして、謝る涼太に美波は軽く目を見張った。
「リョウくん…。」
「オレはお前が辛そうな姿を見たくないんだ。」
「……。」
「だから、ほんの少しでも違和感を覚えたら、何でも言って欲しい、たとえどんなに小さな事でも、何でも話して欲しいんだ。」
「…リョウくん。」
表情はどこか落ち着いている涼太だが、その瞳は何かを焦っているような色を宿していた。
「何度言ってもお前が聞き入れてくれないのは分かっているけど、それでも、オレはお前が無茶をするたび、何回も同じ言葉を言うだろう…。」
「リョウくん。」
「ごめんな、美波。」
謝る涼太に美波は頭を振った。
「ううん、リョウくんが心配するのも当然だよね、仲間だもんね。」
「……。」
涼太は弟の次は仲間なのかと思い小さく落ち込む。
いつになったら、彼は美波に一人の男としてみてもらえるのだろうか、それは残念ながら誰も知らない事だ。
「……。」
ほんの少し現実逃避をしていた、涼太だったが、昌獅(まさし)の言葉で現実に戻る。
「お前ら、休憩は終わりだぞ。」
「ああ、分かった。」
「はい。」
二人は立ち上がり再び階段を上り始めた。
涼太は今度こそ美波に気を配りながら気を張り詰めてみていた。
昌獅はそれを横目で見ながら溜息を吐いた。
「やっぱり、血は争えないか。」
妙なところで似ている姉妹に昌獅は自分の背中で寝ている少女を思った。
あとがき:大変お久しぶりです。さてさて、今日は確か私がサイトを立ち上げた記念すべき日でしたよね?
と、聞かれても困る方が多いと思いますが、申し訳ありません。
二年とは物凄い早いですが…ダークネスまだ終わっていません。一体何年かければ気が済むのでしょうね?
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from: yumiさん
2012年04月24日 10時26分47秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・139・
「お姉ちゃんなら寝てるわよ。」
「……。」
あまり聞きたくなかった声を聞き、昌獅(まさし)は眉を寄せた。
「何よ、その顔は人が親切に教えてあげたのにね。」
「…お前の親切なんて鳥肌が立つな。」
「……。」
智里(ちさと)は眉を寄せ、そして、何かを思いついたの形のよい口元を歪めた。
「あら、それじゃ、親切じゃなくて、余計なお世話な話をしようかしら?」
「……。」
昌獅は本気で嫌そうな顔をする。
「お姉ちゃん、思いっきり気絶したように寝ているわよ。」
「……。」
昌獅から友梨の顔が見えないが、智里の言葉でこの表情をありありと思い浮かべた。
「本当にこんなになるまで我慢するなんて、こっちの面倒を考えて欲しいわよ。」
「おい、いくらこいつがお前の姉でそれ以上言えば黙っていないぞ。」
「何が黙っていないのかしら?」
「……。」
唇を噛む昌獅に智里は鼻で笑った。
「貴方だってわたしと同じ事を思っていたでしょうに。」
「それは…。」
「思っていないと言い切れるの?」
智里の言葉に昌獅は顔を顰めた。
「ほら、思ったのでしょ?」
「……。」
「お姉ちゃんが無理をするのを見たくないくせに、何を強がっているのだか、本当に馬鹿な人よね。」
「……うっせぇ…。」
昌獅はどうせ智里には口では勝てないのだと分かっているからか、唸るようにその言葉を言った。
「まあまあ、智里ちゃん。そこまでにしたらどうかな?」
流石にこれ以上は見ていられなかったのか、勇真(ゆうま)が二人の間に立つ。
「友梨ちゃんは頑張っているんだし、昌獅だってそれを見ているのは心苦しいだろう、これ以上言うのは酷だよ。」
「あら、わたしは真実を言っているだけですし、それに、お姉ちゃんの無茶は今始まった事じゃありませんから。」
「……。」
勇真は微苦笑を浮かべ、智里の言葉を聞き流す。
「どうせ、そこのヘタレもお姉ちゃんに対しての不満があるでしょうから、それを言いやすくしてあげているだけです。」
「……。」
昌獅の事だからたとえ不満があっても寝ている友梨ちゃんに堂々と言わないだろう、言えたとしても、きっと彼は二人っきりでないと言わないだろう。
「まあ、このヘタレが何も言わないので、今のところはここまでにしましょう。」
「……。」
勇真はホッと息を吐く。
「ちょっといいか。」
少し言いずらそうに声を掛けてきたのは涼太(りょうた)だった。
「何かしら?」
「休憩が欲しいんだが…。」
冷たい智里の視線を無理やり無視して、涼太はそう言った。
「何でかしら?」
「……。」
涼太はこっそりと自分よりもゆっくりと歩き、そして、肩で息をする少女を見る。
「……分かったわ。」
涼太の言いたい事が分かった智里は溜息を吐いた。
「ほんの少しですけど休憩を取りましょうか。」
その言葉で美波(みなみ)が心のそこからホッとし、その場に座り込んでしまった。
あとがき:大変お久しぶりです。13万人を突破しましたので本日現れました。もうすぐ、このサークルを開いて二年(?)となります。早いものです。
大変申し訳ないのですが、もうしばらくこちらに顔を見せないと思います。私の気分しだいで載せるかもしれませんが、少し心にも余裕が無いのでもうしばらくかかると思います。
それでは来てくださった方々本当にありがとうございます。
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from: yumiさん
2012年03月24日 10時02分09秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・138・
ようやく着替え終わった友梨(ゆうり)と昌獅(まさし)が合流して、そして、全員がゆっくりと階段を上っていた。
「………。」
「……おい、友梨。」
急に昌獅に声を掛けられた友梨は不思議そうな顔をする。
「……お前具合が悪いだろう。」
「……。」
友梨は昌獅の言葉に思わず、舌打ちをしそうになった。
「…ずぶ濡れだったからな。」
「大丈夫よ。」
微笑む友梨に昌獅は眉を寄せる。
「何処が大丈夫何だよ。」
「大丈夫だから、大丈夫。」
「……。」
昌獅は、友梨は気づいていないのかと、毒づきたくなった。
そう、友梨は気づいていないのだが、彼女の顔は紙のように真っ白になっている。それは今にも倒れてしまいそうなほどだった。
「……。」
友梨の顔色には全員気づいているが、こうやって言うのは昌獅だけだった、皆分かっているのだ。いくら止めても友梨は絶対に止めない事を――。
「……分かった。」
そう言うと何故か昌獅は友梨に背を向け、腰を落とした。
「昌獅?」
「背中に乗れ。」
「えっ!」
友梨はこれ以上ない程目を大きく見開いた。
「友梨、乗れ。」
「私重いから。」
「重くてもかまわない。」
「……何か…それ失礼じゃない?」
「知るか、乗れよ。」
何とも情緒のない言葉に友梨は不機嫌になりつつも、昌獅の背をじっと見た。
「………だけど。」
「前にあいつの…勇真(ゆうま)の背には乗れたのに、俺のは乗れないというのか?」
「いや…そういう訳じゃ…。」
「ならなんだよ。」
「…あの時とは事情が異なるし……。」
「……。」
確かにあの時、友梨は怪我を負っていた。
「あん時は怪我だが、今回だって十分背負われても可笑しくない。」
「だけど…。」
「さっさと乗らねぇと横抱きだぞ。」
「……………大人しく乗ります。」
友梨は自分が俗に言う「お姫様抱っこ」をされる想像をしてしまい、そちらの方が昌獅の負担に考え、大人しく彼の背に乗った。
「疲れたら言ってね。」
「お前一人どうって事ない。」
「……。」
昌獅の言葉に友梨は嘘だと思ったが、それでも彼の気持ちを汲んで黙り込んだ。
「ごめんね。」
「こういう時はありがとうだろ。」
「……うん、ありがとう。」
友梨は昌獅の呼吸を聞きながら目を瞑った。
「お前はもっと俺を頼れよな。」
「……。」
昌獅の言葉に友梨は頷く事はなかった。何故なら彼女は疲れと、昌獅の温もりのお陰で眠ってしまったのだ。
あとがき:三月二十七日は友梨ちゃんの誕生日ですね。その日に載せられるか分からないので、早めに言っておきます。
「友梨ちゃんっ!誕生日おめでとうっ!」
それでは今日はこの辺で。
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2012年03月17日 10時37分49秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・137・
「友梨(ゆうり)。」
昌獅(まさし)が声を掛けると友梨は顔を上げた。
「ほら、少しでも拭け。」
「えっ、でも…。」
友梨はタオルに書かれている文字を読み、顔を顰める。
「大丈夫だ、お勘定はちゃんと済ましているそうだ。」
「……。」
友梨は胡乱な目つきで昌獅を見て、続いて、智里(ちさと)を見た瞬間、彼女の顔は青ざめた。
「う、うん…。ありがとう。」
昌獅は友梨が何を見たのか悟り、大人しくタオルと袋を渡した。
「……うーん。」
友梨は困ったような顔をして、そして、智里に向かって手招きをした。
「何かしら、お姉ちゃんわたしを呼びつけるなんて、いい度胸をしているわね。」
不機嫌全開の智里に友梨は引きつった笑みを浮かべる。
「わ、私ちょっとトイレで着替えてくる。」
「ああ、そういう事ね、まぁ、お姉ちゃんの肌なんて誰も見たくはないと思うけど、見苦しいものを見せられるよりはマシよね。」
「……。」
あまりにも酷い言葉に友梨は怒りを通り越して、呆れた。
「あんた、本当に私が嫌いなのね。」
友梨は苦笑をして立ち上がった。
「別にお姉ちゃんが嫌いなわけじゃないんだけどね。」
智里の呟きはあまりにも小さく誰の耳にも届く事はなかった。
「それにしても、本当にお姉ちゃんたちは濡れ鼠ね。」
「仕方のない事だよ。」
智里の呟きに反応したのは勇真(ゆうま)だった。
「まあ、お姉ちゃんがどじだからあんな甲冑お化けに突き飛ばされたんですけどね。」
「手厳しいね。」
「当然じゃありません?そうじゃなければあのヘタレだけが濡れていたのにも関わらず、自分まで濡れる事はありませんから。」
「……。」
勇真は友梨の性格上そうなるのはまずないな、と考えていた。そして、それを表情から読み取った智里は肩を竦める。
「確かに、勇真さんが思うようにお姉ちゃんは自分から飛び込んだでしょうね。」
「……そうだよね。」
智里の言葉に勇真は頷く。
「本当に黙ってみてればいいんですけど、馬鹿みたいに動き回るんですよね。」
「…馬鹿って。」
「当然じゃありません、黙っていても大差ない事をあの姉は自ら手を出して、毎回、毎回お姉ちゃんの行動で迷惑を被るのはこっちですから。」
「迷惑ってほどじゃないけど。」
「甘いです。」
智里は冷めた目で勇真を睨んだ。
「勇真さんはお姉ちゃんを知らないからそんな暢気な事を言えるんです。」
「……。」
「掃除を手伝えば、部屋の角にゴミが残っているし、徹底して食器を洗ってもご飯粒が残っているし。」
「……。」
勇真は智里の言葉にそれはあまりにも日常的な事過ぎて、今回みたいな大雑把にやっても大丈夫な事には当てはまらないと思われた。
「友梨ちゃんも頑張っているんだし、これ以上言うのは酷だと思うよ。」
「あら、わたしは真実を言ったまでです、それに誰が注意をしないとあの姉はいつまでも自分の悪い所を把握しませんから。」
「……。」
誰もが欠点を持っている、それを注意するのは確かに大変であるのだが…、智里の場合何かが違うように思われた。
「……ああ、小姑みたいなものかな。」
少し考えて口に出た言葉が智里の耳にも届いたのか、智里はジロリと勇真を睨んだ。
「何か言いましたか?」
「いや…なんでも……。」
「……。」
言葉を濁す勇真に智里は胡乱な目つきで彼を見ていたのだが、すぐに興が冷めたのか、空を見上げる。
「それにしても、ずいぶん時間がかかったわね。」
「そうだね。」
空を見上げれば、もう一番星が出るほど、薄暗くなろうとしていた。
「これが終わる頃には完全に夜になっているわ。」
「……。」
智里の言葉に勇真は苦笑した。
「何でこんなにも面倒くさい事をわたしがやらなければならないのかしら。」
智里の最もな呟きは風に乗って消えた。
あとがき:明さん、リクエスト、お願いします。ホワイトデーをかなりすぎてしまって、ちょっとやばいかな〜。とか思っているのですが…何かいいネタください。何せ、ここに載せているキャラが多すぎて、なかなかプレゼントに出来る話が思い浮かびませんので…はい。失礼します。
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2012年03月16日 10時49分44秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・136・
友梨(ゆうり)と昌獅(まさし)はようやく水の中から脱出していて、友梨はあまりの寒さからかがたがたと震えていた。
「大丈夫じゃねぇよな。」
「大丈夫よ……。」
気丈にも微笑む友梨だが、昌獅にとってはかなり痛々しいものがあった。
「無理するな。」
「してないわよ。」
「……。」
昌獅は自分の服が濡れていなければ友梨に渡すのだけれど、と思った。
「はぁ、それにしても、私たちって水難の相でも出てるのかな?」
「何だよ、急に。」
「だってさ、あの日も雨が降っていてずぶ濡れだったし、前の爆弾事件だって昌獅ずぶ濡れで、今だって二人揃ってずぶ濡れだから。」
「………。」
偶然と必然が入り混じって、昌獅は複雑そうな顔をした。
「はぁ、それにしても、智里(ちさと)たち遅いね。」
「そうだな。」
昌獅が相槌を打っていると、突然言い争う声が聞こえた。
「えっ、この声。」
「……。」
段々近づく怒声に友梨は驚き、昌獅は心底嫌そうに顔を歪めた。
「ねぇ、昌獅…。」
「……なんだよ。」
「何かあの子たちの間に入りにくい…。」
「安心しろ、俺もだ。」
「……。」
昌獅の言葉に友梨は安心するどころか不安そうな顔をした。
「全然大丈夫なように思わないんですけど。」
「涼太(りょうた)と高田(たかだ)妹その二の喧嘩なら何とかなりそうだか…まさか、高田妹その一と勇真(ゆうま)なんてな…。」
「本当に……。」
怒鳴りあう美波たちと違い、智里たちの喧嘩はにこやかにやられ、どこか恐ろしく感じるものがあった。
「……なんか凄まじいわね、このメンバーって。」
「そうだな……。」
改めて周りを見れば、こんなちぐはぐな面々で良くぞここまでやってこれたのだと感心した。
「くしゅっ!」
「……はぁ。」
友梨の小さなくしゃみを聞き、昌獅はガシガシと後ろ髪を掻き、行きたくないが、ある人物の元へと足を向けた。
「おい、高田妹その一。」
「何かしら、ずぶ濡れヘタレ。」
「……。」
昌獅は震える拳で今にも智里に殴りそうだが、ギリギリのところで耐える。
「…何か…何か拭くもんとかあるか?」
怒りを押し殺しそう智里に尋ねると彼女はクスリと笑った。
「あら、それが人にものを頼む態度?」
「……。」
絶対に自分をからかって楽しんでいると分かっていても、今ここで友梨に風邪を引かせるわけにもいかないので、自分のプライドを押し殺す。
「持っていたら、貸してくれ。」
「……。」
智里は呆れた顔をし、そして、昌獅に袋を二つとタオルを二枚投げた。
「……お前、それ、どこから。」
「ちゃんとお金を払って貰って来たわ。」
「……。」
よくよく見れば服はこのテーマパークの袋に入っていた。
「つまり…これって。」
「だから、お金をちゃんと払ったといったじゃない、普通の価格よりも半額以下ですけど。」
「……。」
昌獅は少し前の自分よりよっぽど性質が悪いのではないかと考える。
「で、使うの?使わないの?」
「……。」
昌獅はまた友梨が怒ると思ったが、今来ている服よりも何倍もマシだと考え、その袋とタオルを友梨の元に運んだ。
あとがき:ダークネスの話を打ち始めてかなりの時間が経ったのに、話の中はゆっくりとしかすすんでいませんね。本来なら友梨ちゃん大学二年に上がるはずなのに……。遅いですよね〜。
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・135・
「……友梨(ゆうり)先輩たち大丈夫かな?」
「大丈夫よ。」
涼太(りょうた)の言葉に智里(ちさと)が反応する。
「……。」
何でそんな事が言い切れるのかと、涼太が怪訝な顔をすると、智里は鼻で笑った。
「こんな手を込んだ事をして、どちらかといえば、最後に何か大きな仕掛けをする方があの変態らしいと思うけど?」
「……。」
「違うかしら?」
智里の言葉はもっともな言葉で、涼太は思わず納得してしまいそうになった。
「だけど、最後の仕掛けって何だよ。」
「何でしょうね。」
「……。」
智里の言葉に涼太は脱力した。
「分からないのかよ。」
「分からないわよ。」
「……。」
「あの変態が何を考えているかなんて知りたくもないし、知る気もないわ。」
智里の言葉に近くで会話を聞いていた勇真(ゆうま)が苦笑する。
「まあ、智里ちゃん落ち着いて。」
「あら、わたしは十分すぎるほど落ち着いているわ。」
「ははは……。」
勇真は乾いた笑いを浮かべ、友梨たちのいる方を見た。
「昌獅(まさし)が側にいるから大丈夫だと思うけど、心配だね。」
「そうかしら?」
「本当は智里ちゃんだって、心配なんだろう?」
「誰が?」
智里はやや苛立った目つきで、勇真を睨んだ。
「智里ちゃんの愛情は屈折しているからね。」
「愛情なんてものは持ち合わせていないわ。」
「ははは、そうかな?」
「……。」
涼太は二人の会話から少しでも遠ざかるために歩調を緩めた。
「なんつー会話をしているんだよ、この二人……。」
「リョウくん。」
「ん?」
服を軽く引っ張られ、涼太は声のする方に顔を向けた。
「美波(みなみ)?」
「勇真さんって、あんな性格だったけ?」
「……。」
どうやら鈍い美波でさえ、気づくくらいに変化し始めている勇真に涼太は苦笑する。
「まぁ、そうだな……。」
「う〜ん?」
適当にはぐらかす涼太に美波は小首を傾げた。
「美波。」
「何?」
「お前ただでさえ、歩くのが遅いんだから、喋らず歩けば?」
「――っ!リョウくん、酷いっ!」
「酷くねぇよ。本当の事だろ。」
「ぶ〜。」
子どものように頬を膨らませる美波に涼太は微苦笑を浮かべる。
「ほら。」
涼太は美波に手を差し出すが、美波はそれを睨んだだけだった。
「何よ。」
「手を出せよ。」
「だから、何で。」
「手を引いてやるよ。」
「あたしより、背の低い人に手を貸してもらわなくても大丈夫です。」
美波の言葉に涼太の額に青筋が浮かぶ。
「てめぇの身長とオレの身長はそんなに差がねぇだろうがっ!」
「三センチ違うもん。」
「三センチなんてあっという間だっ!」
珍しく声を荒げる二人はだったが、早足で目的地にちゃんと向かっていたのはさすがだろう。
あとがき:本日はホワイトデーなのですが、何も出来なかった…。うーん、去年の私は凄いと思います。よくイベント小説を書けた。
この先がどうなるかなんて分かりませんが、色々頑張っていきたいです。
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from: yumiさん
2012年03月10日 11時02分35秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・134・
「――っ!……〜〜〜〜〜〜っ!」
息が出来ないのか、友梨(ゆうり)は昌獅(まさし)の胸を押すが、彼は気づいていないのか、そのままだ。
等々、友梨は我慢の限界なのか昌獅の頭を殴った。
「ぐっ!」
うめき声を上げ、昌獅はようやく友梨を手放し、友梨は肩で息をする。
「はぁ…はぁ…私を殺す気っ!」
「い、いや…つーか、鼻で呼吸しろよ。」
「こんな長いのは初めてよっ!」
「…つまり、息をずっと止めていたのか、そりゃ、苦しいはずだ。」
「馬鹿、馬鹿っ!」
顔を真っ赤にして怒鳴る友梨に昌獅は呆れる。
「お前、もっと手加減しろよ。」
「無理。」
「……。」
友梨の言葉に昌獅は顔を顰める。
「何で無理なんだよ。」
「だって、昌獅が変な事をする限りは私だって恥ずかしくってこうなるわよっ!」
「……。」
いつか友梨がこういった事になれる事を切に願うが、残念ながら友梨のそういったところはマシにはなるのだが、どんなに年を重ねてもなくなる事はないのは、今の昌獅が知る由もない。
「はぁ……。」
「溜息を吐きたいのはこっちよっ!」
怒鳴る友梨に昌獅はどうしたものかと、頭を掻いた。
「友梨。」
「もっと、こういった事には興味ないって、感じだと思ったのに……なんでこんな人なのよ……。」
「……。」
嘆く友梨に昌獅はとうとうかける言葉が思いつかず、黙り込んだ。
「……。」
「はぁ、もう、何でよ……。」
「……。」
「絶対に、清いお付き合いから始めるものよね……、交換日記とかさ……、せめて、手を繋ぐにしても…一ヶ月……キスだったら一年くらいかけてさ……。」
何とも古風な考え方をする友梨に昌獅は頭が痛くなった。
「お前な…。」
「いや…キスだって、結婚前までしてはいけないような……。」
呆れてものが言えない昌獅に友梨はぶつぶつと呟き続ける。
「……いい加減にしろっ!」
「へっ?」
「お前な、そんなんじゃ、俺の理性がもつわけないだろうがっ!」
「な、何よ、理性ってっ!」
「俺はお前が欲しいんだよ。」
「――っ!」
何とも直球な言葉に友梨は顔を真っ赤にさせる。
「変な意味じゃないが、それでも、好きな奴に触りたいと思うのは自然な事だろうがっ!」
「……。」
ジトリと睨む友梨に昌獅は己の発言を少し悔いた。
「はぁ……、お前は古風すぎだ。」
「結婚前の女性は純潔を護らないといけないのは当たり前でしょ。」
「……。」
昌獅は本気で自分は結婚するまで、友梨に触れる事ができないのかと、頭を抱えた。
「まぁ、結婚前、とは言わないけど、責任が持てるまでは絶対に純潔は護りたいと思っているよ。」
「責任って?」
「うーん、大学卒業?」
「…せめて、高校卒業。」
「分かった、百歩譲って成人まで。」
「って、お前の誕生日は完全に成人式終わってからじゃねぇかっ!」
「そうよ。」
胸を張る友梨に昌獅はそこまで自分の理性が保つのか、怪しく思った。
あとがき:昌獅頑張れ…、多分友梨は手ごわいぞ。
そういえば、最近受けた簿記の3級の試験合格しました。
さくらさくメールというので得点を見たら百点中九十六点でした。すごく嬉しかったんですけど、前に一度受けたので、少し悔しく思いました。
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from: yumiさん
2012年03月08日 11時09分53秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・133・
昌獅(まさし)は自分が一体なんで水中に潜らないといけないのかと眉間に皺を寄せた。
少し前も、友梨(ゆうり)を助けるために暗い水底に向かって潜っていった。そして、今回は唯一つのガラクタを拾うために潜っている。
(……何でだろうな…。)
前回はかなり必死になったが、今はそれほど必死ではなかった。
そして、昌獅は赤い珠を見つけ、それに手を伸ばした。
(…ああ、友梨が危険に晒されていないからか……。)
自分の必死さが違うのは友梨が今元気で自分の側にいるからの安堵からのもので、前回は友梨が側にいない上に彼女の命は危険に晒されていたのだ。
だから、真剣さが全く異なるのは当たり前だ。
(…あいつはもっと真面目にとか、いいそうだけど、俺が必死になれるのはきっと、お前の所為なんだよ…。)
昌獅は自分が必死になるような状況になるのはもう二度とない事を心から願った。
友梨が傷つくのはもう二度と見たくない。
友梨が悲しむのはもう二度と見たくない。
友梨が崩れるのはもう二度と見たくない。
昌獅はそう思いながら水面から顔を出した。
「昌獅?」
顔を出した昌獅の顔がどこか悲しそうで、友梨は心配そうな顔をした。
「大丈夫だ。」
「……疲れたんなら、休む。」
「いや、これで、終わるんだ。」
「そうだけど。」
友梨はどこか無理をしているように見える昌獅を心配するが、昌獅は微笑むだけで、首を横に振る。
「急がないと、お前の妹が煩いだろ?」
「……私が側にいるから。」
「……。」
「側にいるから…、一人で抱え込まないで…。」
友梨の言葉に昌獅は涙が出そうなほど嬉しく感じたが、今はそんな時じゃないので必死でポーカーフェイスを作る。
「大丈夫だ。」
「……。」
昌獅は友梨の手を引いた。
「行くぞ。」
まだ、友梨は昌獅が心配だったが、これ以上何を言っても彼は聴いてくれないと思い、仕方なく頷いた。
「馬鹿…昌獅。」
友梨の呟かれた言葉は昌獅の耳にも届いていたが、何もいう気がならなかった。
「……友梨。」
「何?」
しばらく泳いでいると、ようやく昌獅が話し出す。
「お前は俺が護るから。」
「……。」
「だから…。」
友梨は思わず、昌獅の頬を殴った。
「なっ!」
「馬鹿昌獅っ!私だってあんたを支えたいのよ、護られるだけじゃ嫌よ。」
「友梨?」
「あんたは私なんかで本当にいいのっ!もっと護るのにふさわしい子だっているかもしれないのにっ!」
何を急に言い出すのかと昌獅は目を丸くさせた。
「私なんて可愛くないし、意地っ張りだし、全然、昌獅にふさわしくないんだよ。」
「…誰がそんな事言った。」
「誰も言わないけど、私はそう思うのよっ!」
「お前を選んだのは他ではなくて、俺だ。」
「それが気の迷いなのよっ!」
「何処がだよっ!」
「私なんかっ!」
「――っ!」
昌獅は唇を噛み、そして、噛み付くように友梨の唇を奪った。
あとがき:はぁ、火曜日辺りから花粉症の所為か鼻水やくしゃみが止まりません…つらいです…はぁ。
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from: yumiさん
2012年03月04日 11時12分05秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・132・
「おい、高田(たかだ)妹その一。」
「何かしらヘタレ一号。」
「………お前らはさっさとあの場所に言っとけ。」
「あら、珠はいいの?」
「さっき、落ちた時偶然だが赤い珠が水の底にあった。」
「そう、分かったわ。」
友梨(ゆうり)は昌獅(まさし)に抱えられながら、顔を上げた。
「本当に?」
「ああ、お前は見なかったのか?」
「……誰かさんが自分の胸に押し込んでいたので、見えませんでしたが?」
「ああ、そうか。」
さらりと聞き流す昌獅に友梨は頬を膨らませる。
「ちょっとは悪いと思ってよ。」
「何でだよ。」
「呼吸できなくてかなり苦しかったんだよ。」
「それは悪かったな。」
「気持ちが篭ってない。」
イチャモンをつける友梨に昌獅は溜息を吐いた。
「これ以上どうすればいいんだよ。」
「もっと誠意を持って謝ってよね。」
「誠意ね……。」
昌獅は半眼になり、友梨を見下ろす。
「……もう、いい、離して。」
「やだ。」
「何でよっ!さっさと珠を取りに行かないと駄目でしょ?」
「……お前おぼれないか?」
「……何よそれ。」
怒りでふるふると震える友梨に昌獅は溜息を吐いた。
「ここ、かなり深いからな。」
「平気よ、私だって泳げるわよ。」
「ふーん、てっきり俺にしがみついているから怖いのかと思った。」
「違うわよ。」
友梨は昌獅を睨み、そして、思いっきり突き放す。
「――っ!」
思ったよりも痛みを覚えた昌獅は思わず顔を顰めた。
「あんたが悪いんだからね。さっさと取りに行ったらどう?」
「……はぁ、分かったよ。」
昌獅は溜息を一つ吐き、そのまま水中に潜っていった。
友梨はそれを見送り、自己嫌悪に陥る。
「本当に…我ながら可愛くない……。」
何で素直にありがとう、と感謝の言葉を言えなかったのか。
「……こんなんじゃ、いつか愛想つかされる。」
友梨は肩を落とし、水中にいる昌獅が早く戻ってくる事を願った。
「そういえば……泳ぐのはまあ、苦手じゃないけど…こんな深いところにいるなんて小さい頃で浮き輪を使っていた時以来だよね……。」
友梨はようやくここで昌獅の気遣いに気づく事が出来た。
彼は普通のプールでも足がつくところが多いので、友梨がそういった経験が少なければパニックを起こすのではないのかと危惧していたのだ。
「……本当に私にはもったいない人だな。」
友梨の胸にほんの少し闇が落ちるが、それは消える事の出来ない闇。
闇は一生彼女に付き纏う、それを消す事が出来ないのだ。
彼女が自分を蔑む限り、闇は付き纏う、それは彼女の愛する人でも消せない闇……。
あとがき:そういえば、昨日はひな祭りでしたね。今年は人形すら出さなかったので、忘れていました。
ダークネスは本当に何処までいくんでしょうね…。そろそろ終わってもいいのに。
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from: yumiさん
2012年03月03日 10時55分14秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・131・
友梨(ゆうり)と昌獅(まさし)は何とか敵を倒しきり、橋の上にいた。
「どう?」
「……確実に入ってみないと分からないな。」
「そうか……。」
友梨は橋の縁から身を乗り出すが、昌獅がそれを止める。
「昌獅?」
「お前、何をしでかす気だ?」
「えっ?あははは。」
「この水の中に入ろうとしただろう。」
「えへへ。」
「えへへ、じゃねぇ、さっきから何度も言うが、お前は大人しくここで待っていろ。」
「……私も何度も言っているけど。私だって手伝いたいのよ。」
真剣な表情で友梨は昌獅を睨んだ。
「お前の気持ちも分かるが、お前貧血で倒れただろう。」
「貧血と水に入るのは別問題よ。」
「お前なっ!」
この時友梨と昌獅は完全に油断していた敵を全て倒したと思ったのだが、残念ながら一体だけ生き残っていた。
その一体はゆっくりと友梨と昌獅に近づき……。
「友梨先輩危ないっ!」
丁度戻ってきた涼太(りょうた)が叫ぶがすでに遅く、甲冑は友梨を橋の上から突き落とした。
「友梨っ!」
昌獅は友梨の後を追うように自ら橋の上から飛び降り、すぐに友梨を捕まえ彼女を抱え込む。
昌獅は水の中に沈み、すぐに空気を吸うために顔を水面から出す。
「……はぁ、はぁ、友梨大丈夫か?」
「ごほっ、ごほっ…大丈夫。」
どうやら水を飲んでしまった友梨は咳き込みながら返事をする。
「……まずいな。」
「どうしたの?」
「どうやって上に戻るか…。」
周りを見渡すと残念ながら上に戻れるような場所はなかった。
「友梨先輩っ!昌獅っ!大丈夫か!」
上から声がして、上を見ると橋の縁から身を乗り出す涼太がそこにいた。
「大丈夫だ。」
「涼太くん、そっちに残っていたあの甲冑の人形は?」
「……智里(ちさと)先輩が投げたトリモチ弾が聞いて身動き一つとらない。」
「「……。」」
友梨と昌獅は同時に顔を見合わせ、自分たちが努力したあの出来事は何だったのかと、肩を落とした。
「お姉ちゃん、生きているかしら?」
「生きているわよ。」
「…ちっ。」
上から舌打ちする音が聞こえ、友梨は純粋に自分を心配してくれる姉妹は美波(みなみ)くらいしかいないのではないかと思った。
「智里…もっという事はないの?」
「そうね、このままその北に行けば上がる場所があるみたいよ。」
「…そうなんだ。」
「まぁ、自力で頑張ってね。」
珍しくいい情報をくれる智里に友梨は少し感動を覚える。
「それにしても、お姉ちゃんはどじね。」
「……。」
「あんな殺気だらけの敵に遅れをとるなんて。」
「……。」
友梨は小さく肩を落とす。
「あんたは優しい言葉一つかけてくれないのね。」
「それがわたしでしょ?」
「……。」
よー―――く、友梨も理解していたが、それでも、友梨は実の妹の言葉に落ち込んだのだった。
あとがき:三月にはいりましたね〜。早いです。
さてさて、私がやっているもう一つのサイトで「風の舞姫」という話が完結しました。よければ見に来てください。
https://sites.google.com/site/mishengnocangqiong/home
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from: yumiさん
2012年02月29日 11時49分29秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・130・
友梨(ゆうり)は近くにあったゴミ入れを引っつかみ、それを甲冑に向かって投げつけた。
「……はぁ、はぁ…本当にきりがない。」
「大丈夫か?」
橋から少し離れた場所に二人はいた。
甲冑の人形と対峙する内に徐々に離れていったのだ。
「どうする、昌獅(まさし)。」
友梨は投げれるものか、武器の変わりになるものを探す。
「どうするも、こうするも橋に戻らねぇとな。」
「うん。」
友梨はふとある一体が武器を持っている事に気づき、そいつを蹴飛ばし、一瞬の隙を狙いその武器を奪い取った。
「……お前、本当になれてきたな。」
「当然でしょ。」
呆れる昌獅に友梨は苦笑する。
「そうでもしないとうまく生きていけないんだもん。」
「……日常に戻ってからそんな事を続けてると警察に捕まるぞ。」
「平和になればこんなスキル勝手になくなるわよ。」
友梨の言葉に昌獅は肩を竦める。
友梨ならば何かあった瞬間に今回みたいな乱闘を引き起こしそうに感じた。
「何か、酷い事考えているでしょ?」
「んな、訳ないだろ。」
「どうでしょうね。」
友梨と昌獅は確実に甲冑人形の数を減らしていった。
「……あれ?」
「どうした。」
「橋の下一瞬何か光ったように思ったんだけど……。」
友梨の言葉に昌獅は顔を顰める。
友梨の見間違い、という事もあるが涼太(りょうた)の一件があるので、少しの手がかりを軽視できないでいた。
「橋の下って、如何考えても水の中だよな。」
「うん。」
「……お前、入る気か?」
「当たり前でしょ?」
当然と言うように胸を張る友梨に昌獅は思わず頭を抱えたくなった。
「かなり深いと思うが?」
「大丈夫よ。」
「お前体調が良くないんだろうが。」
「そうだけど、一人よりも二人の方がいいでしょ?」
「……。」
頑な友梨に昌獅はどう諦めさせるか考えるが、残念ながらいい考えが浮かばなかった。
「まぁ、あそこにたどり着く前にこいつらを何とかしないとね。」
「ああ。」
友梨の言葉に頷き、昌獅は一体の甲冑を切り伏せる。
「探すにしても橋の上から飛び込まないと意味がなさそうだしな。」
「うん。」
「それじゃ、友梨行くぞ。」
「ええっ!」
二人は気合を入れなおし、敵の数を確実に減らしていく。
「昌獅、後ちょっとだね。」
「ああ。」
この珠を手に入れれば、友梨たちは後は集めた珠を嵌めに行くだけで、今日のゲームは終わる。
終わりを目指し、友梨と昌獅は敵を倒していった。
あとがき:まだストックがあるのでちょっとずつ出していきますが、どこまで続くか本当に分かりません。
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from: yumiさん
2012年02月28日 15時04分17秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・129・
橋にたどり着いた面々はそれぞれ二手に分かれて最後の珠を捜し始めた。
因みにメンバーは友梨(ゆうり)、昌獅(まさし)、涼太(りょうた)の一グループでもう一つは智里(ちさと)勇真(ゆうま)美波(みなみ)のグループであった。
「友梨先輩、どうですか?」
橋から身を乗り出す涼太は近くで橋を叩く友梨に問いかけた。
「ん〜、ないな。」
「そうですか。」
「涼太くんは?」
「オレの方も全然です。」
「ん〜、ここに本当にあるのかな?」
「そうじゃなければ、どこの橋だよ。」
「知らないわよ。」
涼太との会話に割り込む昌獅に友梨は少しイラついていたのか、彼を睨みつけた。
「切れるなよ。」
「切れてません。」
「……。」
涼太は何で自分がこの二人の間にいるのだと、本気で頭を抱えたくなった。
「切れているじゃ――。」
「……。」
不自然に言葉をとぎらせる昌獅に友梨もまた何故か黙り込む。
「…昌獅?友梨先輩?」
二人は同時に立ち上がり、一点を睨む。
「……当たりなのかしらね?」
「どうだろうな、あの変態だからな。」
二人にだけしか分からない会話を始める友梨と昌獅に涼太は怪訝な顔をする。
「どうしたんだよ。」
「敵さんだよ。」
「それにしても、こんな数どうやって集めたのかしらね。」
「さぁな。」
「……。」
涼太ははじめ訳が分からなかったが徐々に何か重いものが歩くようなそんな音が聞こえ始めてきた。
「友梨先輩、この音って。」
「何でしょうね、まあ、一つだけ分かっているけど。」
「敵だな、間違いなく。」
臨戦態勢に入る二人に涼太は自分はどうするか決める。
「オレは美波たちに避難するように言ってきます。」
「ええ、頼むわ」
「勇真以外は正直足手まといだからな。」
涼太は昌獅の言葉を無視して、そして、走り出した。
「昌獅、この音…かなり重そうだけど、大丈夫?」
「正直、厳しいな。」
「…そっか。」
友梨と昌獅は今回の敵が今までよりも硬そうだと直感的に察していた。そして、その直感は見事に当たる。
敵が姿を現した時、友梨は思わず頭を抱えたくなった。
「何でなのよ。」
「甲冑の人形かよ。」
友梨の脳裏には思い出したくないあのロボットとの戦闘を思い出した。
「素手じゃ対処できないじゃない。」
「だな、はぁ、帰ったら手入れをしないとな。」
昌獅は刀を取り出し構える。
「友梨、お前は下がっていてもいいぞ。」
「そんな事私がすると思う?」
「しないな。」
自ら矢面に立つこの少女に自分から引き下がる事がない事を彼は理解していた。
「俺から離れるなよ。」
「分かっている。」
友梨が頷き、昌獅は近寄ってきた甲冑の人形に斬りつけた。
あとがき:『さよなら』シリーズは完結しました。
本来ならばそちらに書けばいいものを、何故かこちらに載せていますね。
こっちはいつまで続くのでしょうね、そろそろゴールが見えてもいいはずなのに…。
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from: yumiさん
2012年02月23日 14時40分39秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・128・
「あんたっていう人はっ!」
「何だとっ!」
言い争う二人の背後に二人はそれぞれ立った。
「は〜い、ストップ。」
「友梨(ゆうり)先輩落ち着いてください。」
勇真(ゆうま)は昌獅(まさし)を取り押さえ、涼太(りょうた)は身長差がかなりあったが、何とか友梨を取り押さえる事が出来た。
「……。」
昌獅は勇真をジロリと睨むが、友梨は我に返ったのか、罰が悪そうな顔をした。
「ごめんなさい。」
「いや、大丈夫だよ。」
「そうですよ、原因は昌獅ですから。」
「……でも。」
勇真も涼太も友梨が悪いとは思っていない、どちらかというか昌獅の方が悪いと思っている。
「そんなに気にするんなら名誉挽回すればいいんじゃないかな?」
「そうですね…。」
勇真の言葉にもともと責任感の強い友梨は頷いた。
一方、昌獅は面白くないのか仏頂面だった。
「………おい、てめぇら。」
「それじゃ、行きましょうか。」
低い声を出す昌獅を無視して友梨は明るい声を出した。
「昌獅、無駄だぞ。」
「うっせーっ!」
涼太の呟きに昌獅は怒鳴る。
「何でてめぇらは俺の邪魔をするんだよっ!」
「……昌獅が友梨ちゃんを引き止めるから悪いんだよ。」
「そうだ、さっさと終わらせたいのにこんな所で堂々と喧嘩するなんて時間の無駄だ。」
「……。」
二人の言葉に昌獅は黙り込むが、どこか面白くないのか、眉間に皺を寄せている。
「後で覚えていろよ。」
「……。」
「……。」
昌獅の言葉に勇真と涼太は顔を見合わせ、肩を小さく竦めた。
「こんな奴のどこがいいんだろうな、友梨先輩は。」
「まあ、人の好みはそれぞれだしね。」
「そもそも、友梨先輩は勇真の方が好きだったのに、何処を間違って昌獅になったんだろうな。」
「……友梨ちゃんの場合はどちらかと言えば、はじめから昌獅を意識していたよ?」
「……マジか?」
「ああ、ただ尊敬とかそういう感情を好きという事で、おれを見ていただけだしね。」
「ふ〜ん、つまり憧れを恋愛だと思っていたと?」
「そうだね。」
二人の言葉の言葉に昌獅の眉間の皺は限界まで増えているが、二人は気づいていないのか、まだまだ話しそうだった。
「本当に昌獅の何処がいいんだか。」
「そうだね。」
「おい、てめぇら――。」
我慢の限界で二人に突っかかろうとした昌獅だったが一人の少女の言葉で押し黙る。
「そこの三人、置いていくわよ。」
「あっ、ごめんね。」
「すみません。」
「……。」
友梨の言葉で三人はいつの間にか三人の少女がかなり遠い場所まで行った事に気づき慌てて追いかけた。
あとがき:久しぶりのあとがきですね、さてさて、本来なら『さよなら』のかわりシリーズを完結させるべきなのですが、今回は良い(?)お知らせがあり、こうして書かせてもらっています。
ついこの間、十二万人を突破しました。
皆様のお陰でここまでやってこれたと思います。今後ともよろしくお願いいたします。
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from: yumiさん
2012年02月03日 10時21分42秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・127・
「だから、あんたはっ!」
「何だと、お前だってなっ!」
友梨(ゆうり)たちの元に戻ってきた涼太(りょうた)と美波(みなみ)が見たのは痴話喧嘩をおっぱじめている友梨と昌獅(まさし)の両者だった。
「そもそもあんたは。」
「それをいうならお前なんて。」
「……。」
「……。」
しばらく友梨と昌獅の喧嘩を見ていた涼太だったが埒が明かないと思い、傍観している勇真(ゆうま)に話しかけた。
「二人を止めないのか?」
「ああ、涼太、もういいのか?」
勇真はやや涼太を心配そうに見るが、当の本人である涼太は嫌そうに顔を顰め、首を横に振った。
「いい訳ないだろう、それでもやらなければいけないし。」
「……。」
涼太を案ずるような目をする勇真に、涼太は肩を竦める。
「で、友梨先輩とあの馬鹿を止めなくていいのかよ。」
「う〜ん、こればっかりはね。」
勇真は苦笑しながら友梨と昌獅を見た。
「……いつもなら智里(ちさと)ちゃんが止めるんだけど、今回は彼女が止める気がないみたいだしね。」
「……。」
涼太は呆れた顔をして、チラリと智里を一瞥する。
何を考えているのか彼には分からなかったが、どうせあんまり良くない事を腹の内で考えているのだと涼太は考えた。
「本当にどうするんだよ、昌獅はともかく友梨先輩はな。」
「そうだね、昌獅はともかく友梨ちゃんはね。」
「ねぇ、ねぇ、リョウくん。」
大人しく涼太たちの話を聞いていた美波は涼太たちの言葉に疑問を持ち、涼太の服の裾を引っ張った。
「何だよ。」
「昌獅さんはともかく友梨お姉ちゃんは何なの?」
「……。」
涼太は半眼になり、溜息を吐く。
「あ〜、昌獅はともかく友梨先輩は結構役立っている…という話だ。」
「確かに、友梨お姉ちゃん結構役立っているもんね。」
「ああ。」
今までの友梨の活躍を思い出し、美波は納得したようだ。
「まあ、昌獅だって役立っているけど、友梨ちゃんの方が頑張っているような気がするんだよね。」
「で、体力とかも友梨先輩は女だし、そろそろ止めといた方が、後々いいかな、という話だ。」
「そうだね。」
美波、涼太、勇真は友梨たちを見た。
「さて、本当にどうしようかな?」
「……オレは馬に蹴られたくないぞ。」
「あたしもあんまり行きたくないな。」
「……。」
涼太と美波の言葉を内心では同意するが、それでは誰も止めに行かないと思い、勇真を意を決する。
「それじゃ、涼太行くぞ。」
「なっ!オレを巻き込むなよ。」
「仕方ないだろう、二人を引き離すためにはおれ一人では無理なんだからな。」
「……。」
勇真の言葉に涼太は肩を落とす。
「何でオレがこんな貧乏くじを引かなければならないんだよ。」
「……リョウくん頑張って。」
美波に応援されながら涼太はとぼとぼと友梨たちの方に歩いていった。
あとがき:昨日やっと『さよなら』のかわりに、の紅葉をを載せ終えました。本当にアレは大変でした。他のに比べれればまぁそんなに大変じゃないと勝手に思っていたのが運のつき。
秀香の過去に色々あって、しかもシリアス…、何でこんな事に…と何度遠い目をした事か…。でも、何とか終わってよかったです。
ダークネスは中々終わらないので、もう苦笑しか浮かびませんね。
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from: yumiさん
2012年02月01日 15時23分27秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・126・
「気持ち悪……。」
涼太(りょうた)あベンチに寝転がり、胃を押さえる。
どうやら思ったよりも緊張していたのと疲れが溜まった所為で、涼太の調子が崩れたようだ。
涼太が少しでもマシになる体勢になろうと体を動かそうとした時、小さな音が聞こえ、涼太はそっと目を開けた。
「リョウくん。」
声とその姿を同時に認識した涼太は目を見張った。
「美波(みなみ)……。」
「大丈夫?」
「ああ。」
まさか、美波が来てくれるとは思っても見なかった涼太は情けない姿を見せていると思い体を無理やり起こそうとする。
「起きなくて大丈夫だよ。」
「……。」
美波は体を起こそうとする涼太を何とか止めようと近寄るが、涼太は体を起こした瞬間、気分が悪くなったのかすぐにまた横になった。
「だ、大丈夫?」
「……ああ。」
先ほどは即答だったが、今回は何故か間があった。
涼太は自分の体が思ったよりも堪えてる事に今更ながらに気づいたのだった。
「くそ……。」
「大丈夫?」
「少しはそれ以外の事を言えよ。」
美波が自分を心配しているのは涼太だって分かっていたが、それでも、何度も何度も「大丈夫?」と聞かれれば嫌気が差す。
「ごめんなさい……。」
「……。」
涼太はしゅんと萎れた美波に自分が言い過ぎた事を悟るが、フォローできるほど今の彼には余裕がなかった。
「……美波。」
「…何?」
「手、貸せ。」
「えっ?」
急に涼太は美波の手を掴み、己の額に乗せた。
「冷たくて気持ちいいな。」
「リョウくん。」
「……悪かった。」
唐突に謝られ、美波はキョトンと首を傾げた。
「情けない姿を晒したり、八つ当たりした。」
「…リョウくん。」
「悪かった…お前は何にも悪くないのに。」
「……。」
「それどころか、オレを心配してくれたのにな…。」
「ううん……あたしもしつこかったから。」
涼太は目を瞑り、ある決意を深く心に刻む。
「絶対に……お前を悲しませない……。」
「えっ?」
涼太の呟きは低くどうやら美波には聞こえなかったようだ。
「何でもない…もう大丈夫だ……。」
涼太のまぶたが上がり、そこには決意と意地が篭った双眸があった。
「リョウくん…。」
「大丈夫だ。」
涼太はそっと美波の手を握り、体をゆっくりと起こす。
疲労や痛みが涼太を襲うが、それでも、彼女を護ろうと思う強い思いのお陰で彼は体を動かす事が出来た。
「リョウくん……。」
美波が自分を心配してくれている事を涼太も自覚していたが、それでも、彼は自分がしなければいけない事を考える。
「行こう、そして、早く終わらせよう。」
涼太はしっかりと己の足で立った。
そんな涼太を見て、美波はほんの少しだけ寂しく思ったのだった。
あとがき:別サイトに載せていたお話で「契」という話が完結したのでお知らせします。
因みに以下のサイトになります。興味があれば寄って行って下さい。
https://sites.google.com/site/mishengnocangqiong/home
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from: yumiさん
2012年01月15日 10時58分17秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・125・
「涼太(りょうた)もっと気をつけろよな。」
友梨(ゆうり)の真っ青な顔を見ながら昌獅(まさし)は溜息と共に言葉を漏らす。
「しょうがないだろう、こっちの方が手っ取り早いし、何とかなると思ったからな。」
「はぁ、まぁ、次はあいつらがいないところでやれよな。」
昌獅は可哀想なほど顔を真っ青にさせる友梨と美波(みなみ)を見て肩を竦めた。
「だけどな、あれしか方法はなさそうだったし。」
「まあな、俺でも多分飛び降りていただろうしな。」
「だろ?」
「でも、これ以上友梨を心配掛けるんならいくらお前でも容赦しないぜ。」
「分かってる、つーか、自分だって友梨先輩を心配させているんだから気をつけろよな。」
涼太は、今回は確かに心配を掛けたのは自分だが、常日頃から考えると自分よりも昌獅の方が絶対に友梨を心配させているように思った。
「俺は特権だ。」
「……。」
涼太は思わず友梨に同情した。
「……オレは絶対にこんな奴にならない。」
そんな事を胸に決め、涼太は昌獅を睨んだ。
「おい、昌獅。」
「何だよ。」
「ほら、これ向こうに持って行けよ。」
涼太は自分の右の手に持っていた紫色の珠を昌獅に差し出し、友梨たちの方を見る。
「いいのかよ。」
「ああ、ちょっとオレは近くのベンチに行く。」
「休憩かよ。」
「悪いか、オレの心臓はお前なんかよりずっと繊細なんだよ。」
「はっ、あんなところから飛び降りる神経の持ち主が何を言っているんだか。」
呆れたように言う昌獅だったが、その目はどこか涼太を心配しているように見えた。
「昌獅、意地悪いわないの。」
いつの間にか近寄ってきた友梨に昌獅は軽く睨む。
「何だよ、あいつの心配か?」
「心配というか…不憫というか……。」
友梨は心底哀れんでいる目を涼太に向け、続いて美波を見た。
「うん……やっぱり不憫かな。」
友梨の言いたい事を理解してしまった昌獅は肩を竦めた。
「分かったよ、善処する。」
「ありがとう。」
流石に好きに人に振り向いてもらえない上に、誰かにからかわれるのは誰だって不憫に思うだろう。
「やっと残り一個だね。」
「ああ。」
「それにしても、橋がヒントだったよね。」
「ああ。」
「池とかに落ちたりして。」
「……頼むから洒落にもならないから、落ちるなよ。」
「失礼な。」
昌獅は友梨ならば必死になって池に落ちてもヘラヘラと笑っていそうなので、げんなりとする。
「頼むから、少しは大人しくしてくれ。」
「悪いけど、大人しい私は私じゃないわよ。」
「こっちの身にもなれ。」
「ふ〜ん、無茶をするのは私だけじゃないと思うけど?」
友梨のふてくされたような表情に昌獅は苦笑した。
「俺もと言いたいのか?」
「違うと言い切れるの?」
質問をすれば、質問で返され、昌獅は頭を掻いた。
「お前ほどじゃないと思うが。」
「私にすればここいいる誰よりも危なっかしいわよ。」
「俺から言えばお前が一番危なっかしくて目が離せねぇよ。」
第三者の目からすれば、この二人のどっちも危なっかしいと思われるのだが、残念ながらいつも突っ込む智里(ちさと)が無視を決め込んでいるので、誰も突っ込まない。
「昌獅が一番よっ!」
「いいや、お前がっ!」
二人の痴話喧嘩は激しくなるばかりだった。
あとがき:お久しぶりです。
本日は美波ちゃんの誕生日なので載せました。美波ちゃんおめでとうごさいます。
さてさて、次はいつになるやら…。
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from: yumiさん
2012年01月05日 12時16分03秒
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「ダークネス・ゲーム」
〜第十一章〜・124・
涼太(りょうた)は深呼吸を繰り返し、そして、昌獅(まさし)と勇真(ゆうま)の準備が終えるのを待つ。
「涼太。」
昌獅の言葉に涼太は頷いて助走をつける。
「……っ!」
勢いよく左足で地面を蹴り、右足で昌獅と勇真の手を蹴った。
その時、昌獅と勇真は微かに来る痛みを堪え、涼太を飛ばす。
「……。」
「やったっ!」
「すごい。」
下から歓声が聞こえ、涼太は自分が目的の屋根に着地した事にようやく気づく。
「……うまくいくもんだな……。」
涼太はホッと息を吐き、そして、器用に屋根を歩く。
少し急な坂になっている目的の場所に向かう涼太は緊張していた。
いつ、敵が現れるのか分からない現状に、涼太は気を抜くつもりはなかったが、まさか、着くまでに何もないのは拍子抜けだった。
「何だ…こんな単純でいいのか?」
涼太はしゃがみこみ、それを拾い上げる。
「……そういや、どうやって降りればいいんだ?」
涼太は紫色の珠を手にし、自分が先ほどいた地面を見て顔を強張らせる。
「思ったより…高いな……。」
下から上を見る時も、少し高いと思ったが、上から下を見ればより恐怖が彼の中で生まれたのだった。
「涼太、あったか?」
「ああ、あった。」
「それは本当に本物かしら、結構簡単に取ったように見えたけど。」
「……。」
智里(ちさと)の冷ややかな声音に涼太は知らず知らずの内に険しい顔を作る。
「お前、オレに怪我を負わしたのかよ。」
「あら、そんな風に聞こえたかしら?」
「……。」
わざとらしい智里に涼太は睨みつけるが、智里は惚けたような表情をした。
「……涼太くん、降りれそう?」
「…ちょっと厳しいです。」
やっとまともな事を言ってくれた友梨(ゆうり)に涼太はホッとした。
「怖いよね…私も前に二階くらいの高さから落ちたけど、気絶しちゃったよ。」
「……。」
何か怖い事を耳にしたような気がした涼太だったが、さすがにそれを聞く勇気がなかったので、彼はそれを聞き流した。
「う〜ん、智里、何かいいものない?」
「持っている訳ないでしょ、まるで、四次元空間を持っているような事を訊かないでくれるかしら?」
「……。」
本当は持っているのではないのじゃないかと、友梨は思うのだが、それを口にすれば絶対に智里が煩いと思い黙っている。
「どうせ、あの高さだと死にはしないわ。」
「それでも。」
「まぁ、最悪骨折、あのクソ餓鬼なら多分擦り傷一つつかないと思うけど。」
それは智里が涼太を信頼しているから出る言葉なのか、それとももっと別の所から来ている言葉なのか友梨には判断できなかった。
「本当に…分からないわ。」
「あら、何が?」
「……。」
友梨は溜息を吐いて上を見ると涼太は何か決意したのか、微かに笑みを浮かべていた。
「涼太くん?」
「リョウくん?」
美波と友梨は同時に涼太の名を呼ぶと彼は屋根を蹴り、重力によって落下した。
「なっ!」
「ひゃっ!」
驚く二人だったが、涼太は智里の予想通り傷一つ負う事無く無事に着地したのだった。
あとがき:お久しぶりです…、本当はもう少しストックが溜まってから載せようかと考えていたんですが…本日は智里ちゃんのお誕生日…、本日載せないと怖い気がしたので、載せ……って、智里ちゃんに失礼ですよね(苦笑)。
まあ、呪われ……いえいえ、何でもありません。
取り敢えず智里ちゃんお誕生日おめでとうございます。
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from: yumiさん
2012年06月07日 11時31分56秒
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「ダークネス・ゲーム」
第十二章《罠》・1・
遊園地の事件が終わり、友梨(ゆうり)たちに短い休憩時間が訪れたのだが、友梨は先の事件で池に落ち、見事に風邪を引いてしまった。
「大丈夫か?」
「ごほ、ごほ…大丈夫に見える?」
「……。」
心配でできる限り看病する昌獅(まさし)に友梨は激しく咳き込みながら軽く睨んだ。
熱が高く、堰もひどい、本来ならばちゃんと医者に見せたほうがいいのだが、残念ながら今の状況でそれは叶わなかった。
「何か食べるか?」
「食欲…ごほ、ない……。」
「だがな……。」
何か胃に入れてから市販の薬を飲ませたい昌獅は顔を顰めた。
「…………………なら、ゼリーか、ヨーグルト……。」
「分かった。」
昌獅はすぐに立ち上がり台所に向かおうとするが、何かに引っかかったのか、服が後ろに引っ張られた。
「………………えっ?」
不思議そうに昌獅が振り返ると、彼は一点に目を奪われる。
友梨は熱で朦朧とした頭でなぜ彼がこんなにも驚くのか、不思議に思った。
「昌獅?」
「………友梨。」
「何?」
「離してくれないか?」
友梨は昌獅が何を言っているのか理解できなかった。
昌獅は溜息を一つ吐き、己の服を引っ張る友梨の手を指差した。
「………………あれ?」
無意識の行動によって、昌獅を引き止めていた事に、友梨は少なからず驚いていた。
「すぐ戻ってくるからな。」
昌獅は友梨の髪を優しく梳いた。友梨はその言葉を信じたのか、それとも自分の無意識の行動に恥ずかしくなったのか、昌獅から手を離した。
「ごめんね。」
「いや、平気だ。」
昌獅は友梨に微笑みかけ、そのまま温くなった水の入っている洗面器を持って部屋から出て行った。
シンと静まった部屋に一人残された友梨はふと疑問に思った事を口にする。
「何で…一緒に…池に落ちた…昌獅は…風邪引いて…いないんだろう?」
*
「昌獅さん。」
「おい、昌獅。」
年少組みの二人に呼び止められた昌獅は眉間に皺を寄せながら二人を見た。
「何だよ。」
早く戻りたいという空気を纏いながら昌獅はすごむが、残念ながら鈍感な少女、美波(みなみ)には通じなかった。
「お姉ちゃんの様子どうなんですか?」
「……。」
心から姉を心配している事は、昌獅だって気づいていたが、どうしても自分の感情を抑えられない昌獅はとげとげした物言いで、美波を責めた。
「平気な訳ないだろうが、夕方の冷たい池に落ちたんだぞっ!」
「……っ!」
美波はびくりと肩を震わせ、助けを求めるように涼太を見た。
「昌獅、苛立っているのは分かるが、こいつに当たるな。」
鋭い視線が睨み合う。
「友梨先輩だって今のあんたを見たら、怒るに決まっている。」
「……くそっ!」
昌獅は眉間に皺を寄せ、荒い足取りで出ていった。
あとがき:やっと第十二章です、長かった…。けど、まだ最後の章って訳じゃないので辛いです。
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