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from: yumiさん
2010年09月27日 10時00分05秒
icon
星色の王国
・1・
海に面するこの国――レナーレ。この国が今回の話の舞台である。この国には三人の姫がいた。
だが、この国の後継者は長女ではなく次女の少女であった。
これは、そんな姫たちとその親しい者たちの織り成すお話――。
「チ〜サ〜ト〜。」
「何かしらお姉様。」
「うん、今度私たちの国に何処だったか、使者がくるんでしょ?」
「ええ。お姉様フォークを口に銜えないのっ!」
「あだっ…。」
行き成り投げつけられた木の実にユウリは避ける事ができず、それを額にモロにぶつけた。
「う〜…。」
額を擦る姉を横目にチサトは小さく溜息を吐いた。
「お姉様……。」
「何よ?」
「ミナミ、遅いわね。」
「……。」
ユウリはチサトから流れだす、凍りつくような殺気にゾクリと鳥肌を立てた。
「だ、大丈夫でしょ?」
「何が?」
「……あの子の行く所はどうせチサトは調べきっているんでしょ?」
「ええ、勿論よ。」
チサトはナイフをドスリと肉に突き刺す。
「でも、それとこれとは話が別……。」
「え〜と…。」
「だって、あの子は無断で行っているでしょ?わたしたちには一切話さない。未だにばれていないと思っている天然娘よ。」
「別にいい――。」
般若のような顔で睨むチサトにユウリは固まる。
「何か?」
「な、何でもありません!」
「そう、それならいいけど。」
「………あ、私そろそろ行かないと…。」
「また、稽古?」
「うん、ごめんね。チサト。」
「仕方がありませんわね。」
チサトはもう慣れているのか小さく溜息を吐いただけで殺気を放たない。因みに始めの頃はしょっちゅう殺気を放ち、ユウリの寿命を縮めていた。
「行ってくるわ。」
ユウリは出入り口に置いてあった荷物を持って逃げ出すようにその場を去った。
しばらく走っていたら、見覚えのある人影を見かけ、足を止める。
「ミナミ?」
「ふえっ?」
「――っ!」
ミナミはユウリの声に反応し、ビクリと体を揺らし、壁から手が離れた。
「〜〜〜っ?あれ、痛くない?」
「…あんたね〜…。」
ミナミの下から声が聞こえる。
「ふえ?」
「重いっ!早く退いて!!」
「お、お姉様っ!?」
そう、ミナミが落ちた瞬間ユウリは自分の体をミナミの落下地点に滑り込ませ、何とか彼女を守ったのだが、受け止めるのが精一杯でユウリはミナミの下敷きになってしまったのだ。
「あんたね、一体こんなとこで何やっているのよっ!」
「……。」
黙り込むミナミにユウリは小さく溜息を漏らす。
本当はユウリもミナミが今まで何処に行っていたのか知っていた。
「………。」
いつまでも黙り込みそうなミナミにユウリは折れた。
「仕方ないわね。今日は聞かないわよ。」
「ユウリお姉様…。」
「ミナミ早く着替えなさいよ。」
「え?」
「チサトカンカンよ。」
「ふえ!?」
ミナミは今にも泣き出しそうな顔でユウリを見るが今回ばかりはユウリは彼女に手を貸す気はなかった。
「悪いけど、ちゃんと怒られなさいよ。」
「ゆ、ユウリお姉様〜〜。」
「あんたが悪いんでしょ。」
ユウリは軽くミナミの頭を小突いた。
「まあ、食事抜きにされたんなら後で何か夜食を持っていくから、それで許してよね。」
「……う〜。」
不満そうな表情を浮かべるミナミにユウリはただ苦笑を浮かべる事しか出来なかった。
「さ〜て、私はちょっと稽古に行って来るわ。」
「え?今から?」
「うん、今朝はちょっとバタバタしてて時間が取れなかったら。」
「そうなの?」
「うん、じゃ、ミナミはチサトに怒られてらっしゃいな。」
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」
片手を挙げさっさとこの場を立去るユウリにミナミは不満そうな声を上げたが、ユウリはそれを無視する。
*
「……う〜ん、この時間じゃ誰も居ないよね〜。」
背伸びをしてユウリは広い練習場を見渡す。
いつもは屈強な兵がひしめき合うのだが、今は時間帯が時間帯なのでユウリ一人しか居ないように思われた――。
「何が誰もいないだ。」
「きゃっ!」
後ろから聞こえた声にユウリは思わず悲鳴を上げてしまった。
「ま、ま、ま………。」
「ちゃんと言葉を喋れよ。」
「マサシ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
ユウリは思わず後退りをして、マジマジとマサシと呼んだ青年を見上げる。
「……さ〜て、お前はこんな時間に一体何しに来たんだ?」
「稽古…。」
「そ〜か……。」
マサシは珍しく笑みを浮かべるが、彼の瞳は決して笑ってなどいなかった。
「お前は馬鹿か!」
「ふきゃっ!」
耳が痛くなるほどの大声にユウリは反射的に耳を塞ごうとするが、マサシはそれを許さなかった。
「お前は何も分かってないだろうがっ!!」
「ま、マサシ…。」
ユウリは顔を引き攣らせ、少しでもマサシから距離を置こうとするが、彼はそれを許さなかった。
「お前はな、一応王位継承権は捨てたが、それでも、この国の姫なんだぞっ!」
「……な、何の事かな〜?」
「……しらばっくれるな。」
マサシは引く気配を見せない、なので、ユウリは自分から折れるしかマサシから逃れる方法は無いと思った。
「ごめん、ごめん、そうだよね〜。」
「……本当に分かっているのか?」
「え、うん、そりゃ、この国の姫として一人で出歩くのは良くないよね〜。」
「……理由は?」
「王女として暗殺や誘拐はつきものだから、一人で行動してはいけない。」
「……。」
マサシは黙り込む、ユウリはそれが正解のためだと思ったが、実際は彼の中で渦巻く感情を制御するためだったとは知る由もなかった。
「帰るぞ。」
「え、え、え……。」
無理矢理引きずるマサシにユウリは長靴を地面に食い込ませ、意地でも引っ張られないようにした。
「……ユウリ…。」
「だって、私今日は走り込みとか柔軟とかしかやってないんだよ。」
「十分だ。」
「どこがよ、素振りをしないといけないでしょうが。」
「……。」
「マサシ、まさか、私が女騎士になるのがまだ不満な訳?」
「……。」
黙り込むマサシにユウリはそれが肯定の意味を含んでいる事に気付いた。
「いい加減にして。私は騎士になりたかったのっ!」
そうユウリは物心ついた時から、騎士になりたがった。だけど、周りは王女だからと止めさせようとしたが、ユウリの妹であるチサトの御陰で彼女は念願の騎士になったのだ。
「なのにあんたまでそれを否定するのっ!」
マサシとユウリは幼馴染だった。
そして、マサシはユウリのその言葉をずっと聞いていたのだ、そして、ようやくユウリが念願の騎士見習いになった時、彼はユウリに強く当たってきた。
「私だって遊びじゃないのよっ!」
「……。」
「なのに、なのに、何であんたは分かってくれないのよっ!!」
マサシは微かに顔を歪めたが、ユウリはその事に気づかない。
「俺の力の下にいる時点で、俺はお前を認めない。」
「マサシ。」
ユウリは怒りを宿した瞳でマサシを睨みつけた。
「私はあんたよりも確かに弱い、だけど、私だって、ちゃんとした将軍なのよ。」
そう、ユウリは自分一人の力で、将軍の位まで昇ったのだ。
「……お前を将軍にしたのは間違いだった。」
「なっ!」
ユウリの怒りはとうとう限界を達した。
「マサシの…マサシの馬鹿っ!」
ユウリは勢いよくマサシに飛び蹴りを食らわし、そのまま逃げ去った。
*
「あの馬鹿…、本気でやりあがって…。」
マサシは微かに痛みに顔を歪める。
「……だが、俺の方がもっと大馬鹿者か……。」
ユウリが血反吐を吐くほど努力をしていた事を知っている、だけど、マサシは今まで一度も彼女が騎士になる事を肯定した事がなかった。
騎士になれば、おのずと戦に出るようになる。
この国は他の国に比べ平和といえる。この百何十年という月日の間戦は起こらなかった。
だけど、いつかは平和が崩れるとチサトもマサシも分かっていた。
この国はかなり豊かな国で他の国から見れば喉から手が出るほど欲しいだろう、だけど、実際手に入れようとするのは大変だ。
チサトはそれを見越して先手を打っていたし。それに、念のために別の計画も進めている。
しかし、いくらチサトが手を尽くしてもどうしようもない事もある、その時、ユウリが死んでしまったり、怪我を負ったりすれば間違いなくマサシは理性を失うだろう。
鬼神化したマサシはきっと、誰からも怖れられる。まあ、それは彼自身どうでもいい事だったが、もし、怖れる人の中にユウリがいれば間違いなく、マサシは壊れるだろう。
……今はそんな果てしない未来を考えるよりも今現在にマサシは目を向けた。
「………もっと、言葉を選ばなければ行けなかったのにな…。」
前髪を掻き上げ苦笑を浮かべるマサシは不意に顔を上げた。
淡い光を放つ星々にマサシは無意識に一つ一つの星に自分と周りを当てはめていく。
丁度マサシから見ればかなり上の方にある、淡く薄い青の星はチサト。
その斜め下にある淡い黄色の星はミナミ。
チサトと当てはめた星の右横にある真っ白な光はユーマ。
ミナミと当てはめた星のすぐ左にある煌々とした紅い星は彼女とよくあっている商人の息子。
真ん中に位置する青とも白ともいえる光を放つのはユウリ。
そして、マサシは自分の星を見つけられないでいた。
赤や黄色なんて、自分らしくない、白や青のように自分は穏やかではない、そんな自分にあう星がなく、ふっとそれもいいかとマサシは笑った。
「どうせ、俺はユウリの側に居てはいけない人間だからな。」
マサシはそう言うと、ただ一人、昔を思い返した。
昔を――。
あの時出会わなければ良かった……。そうすれば、傷つけずに済んだのに……。
「出逢わなければ、よかったのにな……。」
あの瞬間から、マサシの世界は変わった。
騎士になる、そして、国の為に働くという考えが、彼女を、ユウリを守りたいと思うようになった。
「そうすれば…俺は屑のまま終わったのにな…。」
守りたいと思った瞬間から、強くなりたい。何者にも負けない力が欲しいと思った。
だから、マサシは己の限界まで訓練を続けたし、今の地位に居る。
だけど、彼女は…守られるだけの女性ではなかった。
マサシが鍛える間、彼女もまた強くなろうとした。
彼女は妹や国を守るために剣を握った。
「……永遠に、俺たちは交われないのか…。」
始めのうちは確かに交わっていたが、最近では離れ離れになる。思想が違うのだ…。
マサシはユウリを守りたい。
ユウリは自分を犠牲にしても他人を守りたい。
それだけなのに、二人の距離は大きく開いていった。
「……こんなにも……。」
マサシは空に…ユウリを思わせる星に手を伸ばすが、星は遠く彼の手には収まらない……。
「こんなにも、お前を想っているのにな……。」
マサシは苦笑を浮かべ、そん場から立去った。
こうして、この国の話の運命は進んでいく。動き始めた歯車は止まる事を知らない。
あとがき:いや〜、思ったよりも早く20000人記念になりました。今回の話も、お嬢様パロと同じで、拍手がなかったら、続きを載せないつもりです。
さてさて、30000人記念はリクエストに応えるものにしたいです。(お嬢様パロと王国パロが続けば、次のパロが載せれないのが理由です。それまでにどちらかが終わればいいんですが、多分、いや、絶対に無理です。)
例えば両思いなら「×」で、片思いなら「→」で書いていただければ嬉しいです。リクエストしていただけるのなら、何でも構いません。パラレル、未来、過去(本編に載せないやつなら載せられます。)
何か、読んで見たいモノがあれば遠慮なく申し出てくださいっ!
なければ、30000人記念はスルーするかも…。-
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マナ、
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コメント: 全29件
from: yumiさん
2011年05月08日 11時24分41秒
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「星色の王国」
・29・
「本当に面倒事ばかりが続くわね、ユーマ。」
チサトは凍りつくような冷たい目家臣を見る。
「そうかもしれませんが、アルテッドの方々が来られたのは面倒ではないと思いますが?」
「あら、十分に面倒よ?」
クスリと笑うチサトは悪女のようだとユーマ以外の家臣は思った。
「だって、もし怪我の一つでもさせてみれば、こちらの所為ですからね。後々の交易などで不利になるわ。」
「……。」
「まあ、あの武力をほんの少しばかりお借りできると思えば、ほんの少し助かりますが、それでもね……。」
憂いた目をするチサトにユーマは苦笑する。
「チサト様、そんなに難しく考えなくとも。」
「いいえ、わたしが考えなければあの愚姉、愚妹が動かないんですからね。」
「……。」
「それにしても、何でわたしの姉や妹なのにあんなにもボケボケとしているのかしら。」
「……。」
「まあ、百歩譲ってお姉様は武力で役立ってくれるとしても、あの天然娘はね。」
苛立ちの篭った瞳を一人の家臣に向ける。
「ひっ!」
「……。」
まるで蛇に睨まれた蛙ような家臣に他の家臣は同情の念の篭った視線をやる。
「さてさて、どんな仕掛けがあるのかしらね?」
「……。」
「ユーマ以外はしっかりと聞いておきなさい。」
「……。」
「近々、敵が攻めて来るでしょう。その時、わたくし、お姉様、ミナミはとある用事のためこの城からいなくなります。」
「えっ。」
「どうしてですか?」
「……わたくしたち王族の「王女」が捕虜になれば、この国は滅亡する。それだけは言っておくわ。」
「――っ!」
「何でですか。」
「貴方がたが知らないこの国の言い伝えとでも言っておきましょうか。」
「……。」
チサトが何を知っていて、自分たちが何を知らないのかと家臣は皆怯えた目で、自分よりも一回り以上幼い少女を見ている。
「わたくしが信じるのは自分と家族のみ。もし、わたくしの信頼を勝ち取りたかったら行動をしなさいな。」
チサトの鋭い視線に射抜かれる家臣を哀れみの目で見ているユーマは溜息とともに言葉を発した。
「一つよろしいでしょうか?」
「あら、何かしら?」
「なぜ、おれ以外なのですか?」
「……。」
チサトは何が可笑しいのか、クスリと微笑み、妖艶の笑みを浮かべた。
「分からないの?」
「全く見当もつきません。」
「わたくしは一応家族以外に信頼している方がいるわ。その中の一人なのよ、貴方は。」
「………。」
光栄なような光栄じゃないようなチサトの言葉にユーマはこっそりと苦笑を漏らす。
「おれはどうすればいいんですか?」
「さあ、自分で考えなさい。」
冷たく離すような言い方をするチサトにユーマは顔を引き攣らせる。
「まあ、貴方の知り合いのあの体力馬鹿と話し合えば良いんじゃなくて?」
「…マサシと?」
「これ以上はヒントも何もないわ。」
身を翻すチサトは扉の前に立つと優雅に振り返る。
「それでは解散です。皆さん先ほどわたくしが言った言葉を忘れないで下さいね。」
最後に見せた笑みは黒く、背後には般若の面が見えた。
「……。」
「……あの方を次の王位継承者としていいものか……。」
思わず呟かれた言葉にユーマは非難の眼差しをその男にやった。
「あっ…いや…。」
さすがに失言だと思ったのか男は言いつくろうとしたが、言葉がでない。
「あの方以上に国を思いやっている方はいらっしゃらない。」
「……。」
「あの方は確かにおれたちを振り回すような言動をしていらっしゃるが、それでも、あの方の中心は王家の方々と、この国なのだから。」
「……。」
「おれはあの方よりもこの国を思いやっている人を知らない。」
ユーマは胸の内でこっそりとこう呟いた「あの方よりもではないが、同等にこの国を愛し、そして、守って生きたいと思っている方がいる事を知っているがな。」と。
「………そうだな。」
「……ですね。」
ユーマの言葉に同意する同僚にユーマはホッと息を吐く。
「それでは、お先に失礼します。」
ユーマは頭を下げ、部屋から出て行った。
「さてと、マサシは何処にいるんだろうな。」
ユーマは頭を掻き、周りを見渡す。
「……それにしても、何が起ころうとしているんだろうな。」
何か自分の言葉に引っかかりを覚えたユーマは自分の言葉をもう一度頭の中で繰り返し、思わず否定の言葉が出た。
「………いや違うな。」
ユーマは顔を顰め、じっと前を睨んだ。
「起ころうとしているんじゃない、もうすでに何かが起こっているんだ。」
ユーマはこの先に一体何が起ころうとしているかなんか、全くといっていいほど分からなかった。
「………取り敢えず、マサシに会わないと意味が無い。」
そう言って、一歩踏み出した時、鳥の鳴く声が聞こえた。
「えっ?」
振り返ると一匹の鷹がこちらを見ていた。
「こいつは…。」
見覚えのある鷹にユーマは手を伸ばす。
鷹はなれた動作で、ユーマの腕に止まった。
「お前はあの子どもの鷹か?」
鷹は肯定するかのように鳴く。
「一体、何の為に?」
ユーマはその答えを示している手紙を鷹の足からそっと外し、その真っ白な紙に書かれた黒い字を見た。
あとがき:さてさて、起承転結の「起」で止まっていますね〜。早く「承」にうつりたいものです。
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明、
from: yumiさん
2011年04月20日 10時43分17秒
icon
「星色の王国」
・28・
「そういえば。」
先ほどまで黙って走っていた面々はマサシの言葉に走るスピードを落とした。
「どうかなさいましたか?」
「お前らの弟のジャック、だったか、そいつは何処に行ったんだ?」
「ああ、俺たちの部下に伝令を頼んだ。」
「…勝手な事されると、こちらも困るのだが。」
眉を吊り上げるマサシにルシスは鼻で笑った。
「おやおや、すみませんね。」
「……。」
「すまない、勝手だと思ったが、こっちにも一応気構えを作っておいた方が、後々の動きに影響があると思ったんだ。」
「…はぁ…。」
マサシは溜息を吐き、頭を掻いた。
「今度からは早めに教えてくれ、こっちに影響が出る。」
「分かった。」
「んで、あのムッとした男は?」
「ブラストですか、彼はふらりと消えましたね。」
「……。」
さらりと爆弾発言をするルシスにマサシは眉間に皺を刻み込んだ。
「ああ、多分、ジャックと共にいるだろう。」
「……それならいいが……。」
「大丈夫ですよ、あの男は僕達の部隊からでは「黒豹」と呼ばれていますから。」
「……何故に「黒豹」?」
マサシは器用に片眉だけを吊り上げる。
「その動き、戦闘スタイルですね。他には巨大な猫のように他人に中々懐かない上に、ひょろりと消えるような所ですね。」
「そうなのか…。」
「ええ、因みにチェレーノ、僕の彼女は「兎」だと言われますね。」
「まあ、確かに。」
マサシはあのおどおどとした少女を思い出し、苦笑する。
「知っているかもしれませんが、僕は「白鷹」と言われますね。」
「………。」
マサシは思わず「鷹に狙われた哀れな子兎」を思い浮かべてしまい、何ともお似合いな二人だと顔を引き攣らせる。
「ふ〜ん、それなら、あのキリリとした女と姫にもついているのか?」
「ええ、キリリとした女性はエルですね。彼女は「燕」です。」
「そうなのか?」
「ええ。」
「姫の方は白鳥です。」
「ふ〜ん。」
確かにどの動物も本人にぴったりのような気がして、マサシは頷いた。
「君達も似合いな動物があるかもしれませんね。」
「はっ、遠慮する。」
「そうですか?」
「まあ、ミナミ姫はリスあたりか?小動物系だしな。」
「そうですね、あの第二王女は狐…、意外に熊かもしれません……いや、もっと狡猾な動物の方が。」
「ルシス。」
かなり酷い事を言う弟をカイザーは嗜める。
「すみません、つい。」
「本当にあの姫とは馬が合わないんだな。」
「ええ、同属嫌悪ですから。」
「……。」
自分で言うかとマサシは呆れるが、それを口にすれば間違いなく攻撃が自分の方へ向けられることを理解していたので、黙っている。
「第一王女は馬ですかね、しかも一等いい馬でしょうね。」
「はっ、一等いい?」
ルシスの言葉にマサシは思わず鼻で笑った。
「あんな暴れ馬はそんな上等なものじゃない。」
「おや、暴れ馬でも最上級な馬もいるんですよ。」
「……お前たち、馬はもう決定事項なのか?」
「ええ。」
「だな。」
妙に息の合う二人にカイザーは苦笑を漏らした。
「そういえば、さっきの場所にいた少年は?」
「ああ、あいつは見習い商人です。」
「……。」
「……お抱えのですか?」
「いや、違う。」
ますます訳が分からない二人は顔を顰める。
「あいつ自身はただのミナミ姫の友人みたいな立場だな。」
「……友人か。」
「まあ、あいつ自身はそう思いたくないだろうがな。」
「成程ね。」
「……それは彼女に惚れているというのか?」
自分の事に関しては恐ろしいほど鈍感なカイザーだが、どうやら他人の色恋沙汰に関してはほんの少しばかりは鋭いのかもしれない……。
「……多分な。」
「そうか、身分差は辛いな。」
「そんな事はありませんよ、身分なんて関係ありませんよ。欲しいものを手に入れるには身分なんてものは障害なんかにはなりませんよ。」
黒い笑みを浮かべるルシスにマサシは顔を引き攣らせた。
因みに、ルシスの彼女であるチェレーノは平民である。本来ならチェレーノのような少女がルシスの彼女などにはなれるはずが無いのだが、この男はそんな身分差を障害とも思わず、叩き潰したようだ。
「僕は絶対に手放したりなんかしませんよ?どんな事があっても決してね。」
「……。」
「だれもが、お前のように強くはないんだがな。」
苦笑するカイザーはいたって普通だが、マサシはルシスの裏の言葉を読んでしまい、ゾッとした。
「身分なんてものは後世の愚かな人間が作ったシステムですからね。そんなものを打ち破るのは簡単であり、難しいんですよね。」
「ルシス?」
「ただ一人の人間が足掻いたとしても、石頭の連中が揃えば、そんな一人の意見は却下される。」
「……。」
「そう考えると、僕たちの国は幸せなのかもしれませんね、特に元からの身分なんて関係なく、上にのし上がれるんですからね。」
「「……。」」
「さて、チェレーノが怯えているかもしれませんし、行きましょうか。兄さん、マサシ殿。」
笑みを浮かべるルシスがこの時ばかりは一人の人間のような気がした。
あとがき:アルテッド国の皆さんは何となく当てはまる動物は想像できましたが…、ユウリちゃんたちがどのような動物にすれば良いのか分からなかったです(苦笑)。
皆さんはマサシたち男性人はどんな動物がぴったり来るでしょうか?出来れば教えてください。
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マナ、
from: yumiさん
2011年04月16日 14時30分34秒
icon
「星色の王国」
・27・
「……あの喧しいのは?」
戻ってきたマサシはジャックがいない事に気付き、顔を顰める。
「ああ、ジャックには伝令に行ってもらった。」
「………………頼むから、勝手な行動は止めてもらえないか?」
弱り果てたマサシにカイザーは苦笑し、ルシスは恐いほど冷たい目をしている。
「貴方がたに任せていて、こちらに害は一切無いというんですか?」
「……。」
「それならば、僕たちも考えましょうが、どう考えてもそれは無理な話でしょう。」
「……。」
「ですから、僕たちは動くんです。」
「……分かった。分かったが、勝手な行動は出来るだけ控えといてくれ。」
「さあ、どうでしょう。」
「……。」
マサシは眉間に皺を増やし、ルシスを睨んだ。
「僕たちは兄さんにしか従わない。他のヤツになんか従うはずが無い。」
「……それでも、ここは俺たちの領土だ。」
「まあ、そうでしょうね。もし、兄さんや姫に何かあれば、僕たちは容赦なく君たちの国を訴えるだろうね。」
「………それならば、この国の姫を害せば、俺たちも黙ってはいないだろうな。」
マサシの冷たい目にルシスはクスリと笑った。
「君は本当に正直者ですね。」
「……。」
「ですが、本心は隠すのですね。」
「何の事だ……。」
マサシは警戒心を強め、ルシスを睨んだ。
「君はこの国の「姫」でも「ユウリ」さんだけに執着しているようですね。」
マサシは苦虫を噛み潰したような表情をした。
「そんな訳――。」
「ありますよね?君の目を見ていれば分かりますよ。」
「……。」
マサシは「やはり、こいつは嫌いだ」と思った。人の深い部分を見抜き、そして、それを甚振るように暴く、それが、こいつのやり方だと思った。
「君はユウリさんだけを見る眼は他の姫を見るよりもずっと優しく、そして、ずっと苛立っている。」
「…れ…。」
「きっと、ユウリさんが一人で何でもしようとするのが原因でしょうね。」
「…まれ…。」
「君は厄介な女性に惚れ込んでしまったようですね。」
「黙れ!!」
とうとうマサシの堪忍袋の緒が切れたのか、彼は怒鳴った。
「はぁ…ルシス。」
カイザーは溜息を吐き、咎めるような目で弟を見た。
「人で遊ぶな、すまない、マサシ。」
カイザーはマサシに対し頭を下げた。
「兄さん……。」
「俺の弟が無礼を働いた。」
「……。」
マサシはカイザーが頭を下げた事で、ようやく冷静さを取り戻した。
「嫌……、こいつの戯言に本気になった俺も悪いからな……。」
「そう言ってもらえたら助かる。」
「………第二王女の許可を得たから、向こうの塔に行こう。」
「ああ、すまないな。」
「嫌。」
ルシスは二人の会話を聞きながら溜息を一つ吐く。
(この人も婚期を逃しそうだ。僕の周りの人はどうしてこんなにも婚期を逃しそうな人ばっかりなのだろうか。)
ルシスはある意味自国の将来を気にしている。
何せ、自国の姫であるフローリゼルは兄カイザーにご執心。
兄カイザーは長兄なのに、家を継ぐ気がほとんど無いのか、結婚など考えない…いや、多分父辺りが勝手にお見合いでもしたら否とは言わないだろうが……、間違いなく血を見ることになるだろう。
姫と将軍がそうなので、他の部下は中々結婚できない。
(せめて、今回の旅で何か変化が見られればいいんですけど、難しいでしょうね……。)
ルシスは小さく肩を落とした。
「ルシス。」
「すみません、考え事をしていました。」
いつまでもついてこない弟に怪訝な顔を向けるカイザーにルシスは苦笑する。
「申し訳ありません。」
「……大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫です。」
笑みを浮かべるルシスにカイザーは苦笑する。
「無理はするな。」
「分かっています。兄さんこそ無茶しないで下さいね。」
「……。」
「そうじゃなければ、姫も泣きますし、部下も色々と言ってきますでしょうね。」
「ルシス……。」
「ですから、兄さんは怪我一つなく、無事でいてくださいね。」
有無を言わせぬルシスの笑みにカイザーは溜息を吐いた。
「善処する。」
「是非そうしてくださいね。」
「…………すごいな。」
思わず、そんな言葉がマサシの口から漏れてしまうほど、二人の遣り取りは凄かった。
「凄くはありませんよ。」
「そうだな。」
「……。」
「いつもの事です。」
「……。」
さらりと将軍に文句を言う副官の青年にマサシは顔を引き攣らせる。
「さっさと行きましょう、何かが起こってからでは遅いですし。」
「そうだな、リディアナや姫を巻き込みたくないしな。」
「ええ、チェレーノは只でさえ、面倒事に巻き込まれる性質がありますからね、何とかしなくてはなりませんね。」
「……。」
何とも苦労しているのだな、と思うマサシだが、実際、自身ユウリが心配なので、どっこいといっても良いだろう。
「ジャックたちはどうする?」
「構いませんよ、あれが死んでも僕には関係ありませんし。」
「ルシス……。」
「冗談ですよ、兄さん『風』を使って伝言だけで十分でしょう。」
そうだな、と頷き、カイザーは素早く風に伝言を託した。
あとがき:毎回誰をスポットライトをあてようかとと悩みます。
ユウリちゃん、カイザーさん、チサトさん、ミナミちゃん、リョウタくん、本当にいっぱい居ますね〜。
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マナ、
from: yumiさん
2011年04月12日 13時11分20秒
icon
「星色の王国」
・26・
「……リディアナ?」
「そこにいたのか。」
「リディアナさん………ふあっ!」
「あ…こけた。」
見事に何もない所でこけるチェレーノにユウリは苦笑を浮かべながら手を貸した。
「大丈夫?」
「は、はい……すみません、お手を煩わせてしまって。」
「そんな事ないからね?」
ニッコリと微笑むユウリにチェレーノも自然と笑みを漏らした。
「ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
ユウリはいつの間にかいつもの騎士服に戻っていた、どうやら脱衣所に替えの服を用意していたようだ。
「リディアナ?顔色が悪いぞ。」
「……。」
「何かあったのですか?」
「……。」
エルとフローリゼルはリディアナの微妙な変化に気付いたのか、心配そうな顔で覗き込む。
「……。」
「何か起こっているようね。」
「えっ?」
「はぁ?」
「ふえ?」
「………………………さすが、姫騎士様ですね。」
ユウリの言葉にそれぞれ驚きを隠せないようでいたが、ユウリは凛とした表情で廊下の先を睨んだ。
「だって、この気配…馬鹿(マサシ)のものですからね。」
「……。」
まるで不本意と言うようなユウリにエルを除く全員が不思議そうな顔をする。
「分かるぞ、嫌いな奴の気配は何か直ぐに気づくんだよな。」
「そうなのよ、あの真っ黒な「ご」のつく虫と同じほどあいつの気配は分かるのよ!本当に嫌だわ!!」
ぞっとするユウリに対しエルを除く全員がそこまでいう「馬鹿」という存在の人に同情の念を覚えた。
「それにしても、何が起こったのかしら?」
ユウリの瞳に鋭い光が宿り、その目がリディアナに向けられる。
「……侵入者です。」
「……。」
リディアナはこれ以上隠し切れないと思ったのか、あっさりと答えた。
「ふ〜ん……。」
ユウリの口元に笑みが浮かぶ、その顔は好戦的でその顔つきはジャックを彷彿させるほどだった。
「成程ね……。」
「ユウリ殿?」
「エルさん。」
「はい、貴女がたの実力は?」
「チェレーノと姫を覗いたこの場にいる戦闘員では中の上、剣の腕前だけではね。」
「そう、私は上の下微妙ね。」
ユウリはクスリと微笑むが、その目は笑っていなかった。
「まあ、男性人がこっちに向かっているから大丈夫でしょうね。」
「悔しいが、その通りだ。」
二人は嫌いな男性をそれぞれ思い浮かべているのか、表情がいつもより硬い。
「……ジャックの事が本当に嫌いね。」
「……まあ…。」
「えっ…あの……。」
チェレーノがのんびりとした空気を打ち破るかのように話しかける。
「……よろしいでしょうか?」
「あっ、どうぞ。」
「ん。」
ユウリとエルがようやく普段の表情に戻り、チェレーノを促す。
「質問を一つ……。」
「……。」
「侵入者には……心当たりがありますか?」
「……。」
チェレーノの言葉にユウリは顔を顰める。その顔を見た瞬間チェレーノは可哀想なほど肩を震わせた。
「す、すみません!」
「あっ…、いや、貴女に怒ったんじゃなくて……。」
ユウリはチェレーノがあまりに必死で謝るものだから苦笑する。
「………すみません…。」
「だから…。」
あまりにも腰が低い少女にユウリは呆れるが、これ以上放っといても話が進まないと思い、言葉を繋ぐ。
「……侵入者の心当たりは山ほどあるわよ。」
「そうなのか?」
「……まぁ。」
「「……。」」
ユウリは溜息と共に言葉を吐き出す。
「ん〜、何処から話そうかしら。」
ユウリは自分の顎に指を添える。
「この国は他国に囲まれているのは分かるでしょ?」
「ええ。」
「この国は豊かで、貿易も盛んなの。でも、他国はこの国ほど豊かでも、貿易に専念している訳じゃないの。」
「「「「………。」」」」
四人はユウリの言葉に納得した。
「狙われるのも無理はないわね。」
「そうだな……。」
「でも……でも…。」
「歴史は繰り返される…そんな因果断ち切ってしまえば良いのに。」
それぞれの言葉にユウリは苦笑を漏らす。
「これでも、最近は落ち着いているんだけど、やっぱりね。」
「……。」
「だけど、ここは私の故郷だから、一生懸命守るわ。」
「ユウリ。」
「手助けさせてくれないか?」
「いいの?」
四人はユウリに向かって力強く頷いた。
「ありがとう、皆。」
あとがき:ユウリちゃん本当にいっぱい友だちが出来ましたね(ほろり)。
お嬢様パロやダークネスは本当に友人なんか出てこないですからね…。
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マナ、
from: yumiさん
2011年04月07日 14時39分06秒
icon
「星色の王国」
・25・
「何で、お前こんな所にいるんだよ……?」
チサトとの話しが終わったリョウタは部屋から出た瞬間、巨大な像に凭れかかりながら、寝ていた。
「つか…こんな所で普通寝るか?」
リョウタは張り詰めた気持ちが徐々に緩んでいる事に気付き、苦笑する。
「本当にお前といて飽きないな。」
手を伸ばし、ミナミの髪に触れようとした瞬間、パチリと黒曜石のような瞳が見えた。
「リョウくん?」
「……。」
「おわったの〜?」
目を擦り、まだまだ眠そうなミナミにリョウタは小さく肩を落す。
「お前、どんな所でも眠れる特技でもあるのか?」
「ふえ?」
「そんな特技なんかないよ〜?」
「……。」
涼太は半眼になりながら溜息を漏らしそうになるのを何とか堪える。
「まあ、どうでもいいが、ここにいていいのか?」
「ふえ?」
「…さっさと部屋に戻ったらどうだといっているんだ。」
「何で?」
この娘に危機感というものはないかと本気でリョウタは嘆きたくなった。
「お前な……。」
「?」
首を傾げる少女にリョウタは半眼になりながら、彼女の手を掴む。
「何?リョウくん?」
「…お前は…危機感がない。」
「ふえ?」
「こうして、オレがお前の手を掴んでいるのにも拘らず、振り払わない。」
「???」
ミナミはリョウタの言う意味が分からないのか何度か瞬きをした。
「オレは男だぞ。」
「そりゃ、リョウくんは女の子じゃないよ?」
「……。」
リョウタは頬を引き攣らせる。
そして、ミナミを教育しているヤツに怒鳴りたくなる。一体こいつにどんな事を教えているのかと!
「………………お前さ、男は危険だと思わないのか?」
「ふえ?」
「……。」
リョウタは半分切れているのか、勢いよく壁に無って手をつく、その時、風圧でミナミの髪が揺れる。
「リョウ…くん?」
「俺は男だぞ。」
「……?」
「まだ、分からないのか?」
リョウタは己の顔を近づけ、そっと、ミナミの唇に己のそれをくっつけようとするが――。
「気分悪いの?」
「……………………。」
リョウタは寸前の所で、顔を止める。
「リョウくん…。」
内心でリョウタは舌打ちし、ついでとばかりに唾を吐き捨てる。
「この鈍感娘。」
「ふえ?」
恨みがましく言うリョウタにミナミは小首を傾げる。
「どうしたの???」
「……てめぇの所為だよ。」
「ええっ?」
まだ分からないのかよ、と毒づきながらもリョウタは手を緩め、ミナミを解放する。
「気をつけろよ。」
「ふえっ?」
「いつでも、オレが駆けつけられる訳じゃない。」
「……。」
あまりにも真剣な目で訴えるリョウタにミナミは声を漏らす事すら出来なかった。
「オレにはオレの生活があり、お前にはお前の生活がある……。」
リョウタはミナミから徐々に離れていく。それが何となく寂しく思ったミナミは手を伸ばすが、リョウタはその手から逃れる。
「あっ……。」
「……オレは、お前の側にいる時だけはその手を取る。」
リョウタは自分の手をミナミの手に重ねる。
「側にいれば助ける、近くにいれば守る、だから、何かあれば、オレの名を呼んでくれ。」
「リョウくん。」
「オレはお前が望めば、オレからお前を守るし掴む。」
「…リョウくん?」
「オレはお前が――。」
好きだから、そういおうとした瞬間やはりというか邪魔者が出てきた。
「おい見つけたぞ。」
「あ〜、手間取らせて。」
「へっ?」
「……。」
何人かの兵士がリョウタとミナミを囲った。
「ほら、坊主帰るぞ。」
「……あの腹黒の仕業か……。」
リョウタはこの兵士たちを呼びつけた人物を悟ったのか、苦虫を百匹ほど噛み潰したような顔をした。
「……諦めるんだな。」
「無駄な抵抗はしないほうが良いぞ、命が惜しいのならばな。」
「……。」
兵士たちはリョウタに同情しているのか、彼の言葉を叱る人はなく、代わりに忠告をするだけだった。
「はぁ…ミナミ、またな。」
「うん、リョウくん、またね。」
満面の笑みを見せるミナミにリョウタは知らず知らずのうちに頬を緩めていた。
「………ああ、若いって良いな。」
「お前も十分若いじゃないか。」
「だがな、青春の時期は過ぎたからな〜。」
「あ〜、彼女欲しい!!」
リョウタとミナミの関係が微笑ましいのか、兵士は羨ましげな目で見るが、彼らは表面しか見ていないので、リョウタの真の大変さなど知る由もなかった。
あとがき:昨日はすみません、本当に落ち込んでいてものすごく暗いあとがきでしたね。不快に感じた人は本当にすみません。
ですが、私も人間なので落ち込む時があり、あんな文を書くときがあります。
自分だけが不幸という訳じゃないのに、自分は幸福なのに、それでも、ついついあんな文を書いてしまう、弱い自分に苦笑します。
取り敢えず、変な方向に行かないようには注意します。
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マナ、
from: yumiさん
2011年03月30日 10時13分25秒
icon
「星色の王国」
・24・
『兄様。』
『リディアナ?』
申し訳なさそうな声音のリディアナにカイザーは首を傾げる。
『ごめんなさい…、全く気配が辿れません……。』
『…ああ。』
カイザーはリディアナが気落ちしている事を感じ、穏やかな笑みを作るが、その顔はリディアナには見えていない。
『気にしなくてもいい。』
『兄様?』
『お前の力不足ではなく、今回の敵は隠れるのがうまいだけだ。』
フォローされているのだとリディアナは分かり、余計に気落ちしかける。
『俺だって分からない、多分、ここにいる奴らの中で一番気配を読む事が得意な俺でさえだ。』
『兄様も?』
『ああ。』
リディアナをはじめカイザーの弟妹はカイザーの気配を読む力は自国他国問わず、世界一だと認めている。そんな彼に読めないとはそんなにも敵は強大なのかとリディアナはぞっとした。
『兄様……。』
不安で声が震えるリディアナにカイザーは穏やかな声音を出し、彼女を落ち着かせようとした。
『大丈夫だよ。』
『兄様?』
『俺が守るから。』
『……。』
リディアナが遠くで目を見張っている事に気付き、カイザーは苦笑する。
『俺の大切な人間を傷付けさせたりはしない。』
『兄様。』
『絶対に。』
強い兄の言葉にリディアナは心から誓う。
この兄を守れる力が欲しいと。
昔からこの兄は優しい、それは敵に対しても、味方に対しても。
ただ、敵でも自分の大切な人間を傷つけようとすれば、彼のもつ鋭い牙が敵に向けられ、向けられた敵は一溜りもないだろう。
カイザーは二つ名の通り、獅子のような人物だと誰からも思われた。
獅子は百獣の王、カイザーは王としての器がある。ただ、彼自身はそうは思っていない。彼自身は平凡な強いて言うなら犬のようだと思っている。
ちっぽけな存在で、忠誠心が強い、そんな存在だとカイザーは思っているが、他の評価は全く違うのだった。
『兄様。』
『なんだい?リディアナ?』
『兄様はこのリディアナがお守りします。』
『リディ?』
『兄様は誰にも傷付いて欲しくないとお望みですが、そう思っているのは兄様だけじゃありません。』
リディアナの言葉にカイザーは苦笑を漏らし、妹と同じ事を言った弟(ルシス)を思い出した。
『ありがとう。』
昔同じ事を言われたカイザーはルシスに「すまない」と謝ったが、ルシスはこう言ったのだ。
――兄さん、こういう時は「ありがとう」で十分です。僕たちは兄さんの側にいる理解者であり、家族であり、それ以上の絆を持っている存在だから、だから、兄さん、兄さんは兄さんらしくいてくれるなら、僕たちはいつまでも兄さんの力になるよ。
「本当にお前たちには支えられている…。」
『兄様?』
風に声を送らなかったのにも拘らず、リディアナは敏感にカイザーが何かを言った事に気付いた。
『何でもないさ、リディアナ。』
『……本当にですか?』
『ああ。』
リディアナの声音からは納得した様子はないが、それでも、彼女はこれ以上カイザーを問う言葉を紡がなかった。
『兄様、これから、どうしますか?』
『そうだな……。』
カイザーはこれから何が起こるのか分からなかった、だから、リディアナに的確な指示を飛ばせないでいた。
『…取り敢えず、姫を頼む、許可を得たんなら俺たちが姫を守る。』
『…………兄様は、フローリゼル様をお好きなのですか?』
『……リディ?』
何を言い出すのか、とカイザーは思うが、リディアナの思いつめたような声音に思わず彼女の愛称を呼んだ。
『……ごめんなさい、何でもないんです。』
『……リディ?』
『……。』
カイザーは黙り込むリディアナと自分に言い聞かせるかのように口を開く。
『俺は皆好きだ。だから、姫も好きだし、リディアナも、ルシスも、ジャックも、母様たちも、父さんも好きだ。』
『……。』
『リディアナがそんな意味で言ったんじゃないことくらい、俺にだって分かるが、特別に思う異性はいないんだ。』
カイザーは心からの言葉を言い、リディアナはそっと息を吐いた。
『兄様……。』
リディアナはホッとしたような残念な心で呟いた。
『兄様、リディアナはいつでも、兄様の味方です。』
『ありがとう、リディアナ。』
カイザーが微かに微笑んだ瞬間、風が変わった。
『――っ!』
『兄様!』
「兄さん!」
「カイ兄!」
敏感に空気が、風が変わった事にカイザーを含めた彼ら兄弟は気付いたようだ。
「……一体何が…起こっているんだ……。」
カイザーは眉間に皺を寄せ、ぼそりと呟いた。
「……兄さん。」
「まあ、オレたちに攻撃するんなら、倍返しにしてやらないとな。」
兄を純粋に心配するルシスと、彼らしさを失わずにニヤリと不敵に笑うジャックにカイザーは笑みを浮かべる。
「そうだな。」
「最悪の事態にならないように考えなくてはなりませんね。」
「ああ。取り敢えず、注意を促すように隊の連中に言ってきてくれないか?」
「オッケー、それはオレがやってくる。」
ジャックは素早い動作で走り出し、残された二人は真剣な顔で互いの顔を見合う。
「ルシス、気を引き締めていこう。」
「はい、兄さん。」
あとがき:この前、アクセスのトータル数が6万5千人を突破しました。嬉しい限りです。最近滞りっぱなしでしたが、少しずつ書いて載せていきたいです。
まだまだ、定期的に載せられるかは定かではありませんが、もっと頑張りたいです。
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マナ、
from: yumiさん
2011年02月27日 10時32分21秒
icon
「星色の王国」
・23・
リョウタは目の前の少女を睨んだ。
「オレを呼んだ理由を聞かせてもらおうか?」
「あら、このわたしに対してそんな口を聞くの?」
「お前が何者だろうが、ミナミの姉だろうが、オレには関係ねぇからな。」
「……。」
チサトは目を細める。それは氷を思わせる微笑だった。
「貴方が…いいえ、正確には貴方の家が裏を握っていなかったら、わたしは容赦なく貴方を潰せたのにね?」
「ふん、そのくらいの脅し、毎日聞いてるぜ。」
「……。」
「オレらの家はなりあがりが継げるほどお気楽じゃねぇからな。だから、毎日が揉まれまくって、この通りの性格だ。」
リョウタは自分がかなりやばい遣り取りをしている、と分かっていたが、それでも、引く事はしたくなかった。
「さてと、雑談はここまでだ。そろそろ本題に入ったらどうだ?」
「…嫌味なガキね。」
「へ〜、姫がそんな汚い言葉を吐いていいのかよ?」
「……。」
チサトは眉根を寄せる。
「あんたみたいなガキに口答えされるなんて屈辱……。」
「ふん、こっちはこっちでてめぇみたいな女は嫌いだ。」
「……。」
「……。」
互いに互いを睨み付け合う、それはまるで天敵のように仲が悪かった。
「こんなんじゃ、日が暮れるな……。」
「そうね。」
二人はこれ以上言い争いをしていると本当に日が暮れると思い、まだまだ言い足りなかったが、本題に入った。
「最近、何か可笑しな動きを感じない?」
「ああ、確実に何かが動いている…そんな気がする。」
「だけど、それが何なのか、全く調べがつかない。」
「こっちの裏情報でも同じだ、本当は何もないんじゃないかと疑いたくなるが、残念ながら何もないっていう事はないんだな。」
「あら、何か知っているの?」
「オレの母の勘がそう言っているそうだ。」
何の根拠もない、とリョウタは肩を竦めるが、その目は決して疑っているような目をしていなかった。
「……そう、あの「月蓮華(げつれんか)」を統べる人が、そう言っているのね?」
「ん。」
リョウタは鋭い目付きのまま頷いた。
「因みに母の勘は今まで一度も外した事がねぇからな、だから、今回の件は外れて欲しいが、多分無理だろうな。」
「そう、早急に手を打たないといけないようね。」
クスリと笑うチサトにリョウタはこいつに逆らってはいけない、と本能的に察するが、それでも、ミナミと一緒に居たい以上逆らうしかないのだと覚悟を決めた。
「ミナミを巻き込むなよ。」
「あら。」
釘を刺すリョウタにチサトはくすくすと笑っているが、その目は決して笑っていなかった。
「国の一大事に姫が巻き込まれないと思うのかしら?どの時代でも女は捕虜とされたりするわよ?」
「そうさせるな、と言っているだけだ。」
「……無理ね。」
リョウタは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「あの子は幼いとはいえ、この国の姫、この国を助けるために犠牲となるのはこの国の王族の役目だから。」
「……。」
「貴方は赤の他人、いいえ、庶民が口出しすること事態間違っているのよ。」
「煩せぇ……。」
リョウタは唸るように言う。その目は獣のように鋭く、しかし、理性がしっかりと宿る瞳だった。
「オレはあいつを守る、たとえ、てめぇを敵に回しても。」
チサトを敵に回すという事は、この国の全てを敵に回すという事だ。その事を知っているからこそ、リョウタは自分の命に代えてもミナミを守ると言ったのだ。
「……あのヘタレもあの姉にそれくらい言ってのければ良いのにね。」
「はあ?」
「何でもないわこっちの――。」
チサトが言葉をとめた瞬間、一人の男性が入って来た。
「マサシ。」
噂をしたら何とやら、とチサトは思ったが、その顔には全く表れておらず、いつもと変わらない仏頂面だった。
「お話のところ申し訳ありません。」
凛とした声が響くが、その表情はかなり強張っていた。
「……何が起こったの?」
「侵入者のようですが、全くその足が掴めませんでした。」
「そう、貴方でも無理だったのね。」
チサトはマサシがその年の割にしっかりしている事を知っていた。だから、今回の侵入者を捕らえられない事は敵が強大な何かだと察した。
「…何かが起こり始めているんじゃなくて、もう既に起こっているようね。」
「……。」
「あ〜、面倒な事になったな。」
リョウタはぼやくように言うが、その目は好戦的で口元には笑みすら浮かんでいた。
「マサシ。」
「はい。」
「客人に悟られずに。」
「それは既に遅いです。」
「……。」
チサトは有能すぎる部下も考え物ね、と思いながらマサシに別の指示を飛ばす。
「それならば、姉に知らせてきなさい。」
「御意。その時にあちらの騎士も連れて行っても構いませんか?」
「…仕方ないわね、今は一人でも多くの手が欲しいわ。」
使えるものなら客でも使えというチサトにマサシはなれているのか平然とした顔をしているが、何も知らないリョウタは呆れ顔をした。
「御意。」
「お前も大変だな。」
思わずリョウタが呟いた言葉にマサシは一瞬がだ苦い顔をした。
「…………仕事だからな。」
「……まあ、頑張れよ。」
苦労しているのは自分だけじゃないのだとリョウタは心から思ったのだった。
あとがき:王国パロのリョウタくんはどの話のリョウタくんよりも強かですね…。
やはり、母親の教育の賜物でしょうかね…?
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マナ、
from: yumiさん
2011年02月20日 11時37分36秒
icon
「星色の王国」
・22・
時間は少し遡って、ユウリがフローリゼルたちと廊下を歩いていた頃、こちらもまたマサシが客を部屋に案内していた。
「はぁ…。」
「何ですか、幸薄いジャック。」
「おい、誰が幸薄いだ。」
「君ですよ、君。」
「うがあああああっ!」
完全に壊れかける一歩手前のジャックに対し、ルシスは涼しい顔で腹違いの弟を虐める。
「好いた女性一人を落せないなんて、男の恥じですよ。」
「つーか、この中で彼女いるのてめぇだけじゃねぇかよ。」
「それがどうしましたか?」
「カイ兄はどうなるんだよ!」
「兄さんは別ですよ、兄さんには幸せになってほしいので慎重で構わないんですよ。」
ニッコリと微笑むルシスは氷のように冷たかった。
「変な女性に引っかかりでもしたら困りますし、それに、兄さんの相手はやはり僕たちの目でちゃんと見ないといけませんからね。」
「……。」
今更だが、この兄の恐ろしさを思いしたような気がした。
「……んあ?」
「……。」
「……これは…。」
「……マサシ。」
「ああ。」
気配に聡い五人は何かを感じ、代表としてマサシとカイザーが窓から外を見た。
目を凝らし、遠くを見る。
変わったところはない、だが、流石に誰か一人だけならば気のせいですむだろうが、五人が感じ取ったのだ。
「どうする?」
「……取り敢えず、俺は戻って、チサト様にこの事を伝えてくる。」
「分かった。」
「その時に、反対側の塔に入れるか許可を貰う、しばらくかかるはずだ。」
「ああ、もし変化があれば伝える。」
「頼む。」
「分かった。」
マサシはきびきびとした動作で先程までいた部屋へと戻っていく。
「兄さんどうします?」
「……そうだな。」
「こんな時にリディが居ればな〜。」
暢気な事を言うジャックにルシスは笑みを浮かべる。
「兄さん。」
「ん?」
「ジャックを偵察にやればいいんですよ。」
「だが……。」
渋るカイザーにルシスは笑みを深める。
「大丈夫ですよ、一応こいつでも並みの人たちよりは強いですし、死ん――いえ、何でもありませんよ。」
本音の一部を聞いてしまったジャックは顔を強張らせる。
ルシスは家族に甘い、だが、それに当てはまるのはカイザーとリディアナだけだ。残りの父はどちらかと言えば嫌い、二人の母はある意味守られるだけの人じゃないし苦手だ、そして、ジャックは彼直々に鍛えたものだから、たとえ死んでも何とも思わないだろ。
「ルシス。」
「はい。」
静かな声音にルシスは兄を見る。
「悪いが、少し風を感じられる場所に行く。」
「……兄さんがやる事じゃないと思いますが……。」
「いいんだ、それに、リディアナの協力も得たいし、注意を促しておきたいからな。」
「分かりました。早く戻ってきてください。」
「ああ。」
カイザーは目元を和らげ、廊下を歩き、バルコニーを見つけ、そこから外に出る。
「……。」
目を閉じ、風を感じる。
温かな風、自分たちがいた場所では今は冬だったので、凍りつく風じゃなく温かな風に違和感を覚えた。
「そりゃ、国が違えば環境も違うよな…。」
小さく苦笑するカイザーは一陣の風を捕まえる。
『風よ、その力を宿し我が妹に言伝を――リディアナすまないが、俺と一緒に風読みを始めてくれないか?今しがた変な気配がした、だから、頼む…。』
カイザーたちの大陸では五つの国が存在しており、その中で風の加護の地、水の加護の地、火の加護の地、地の加護の地、そして、草木の加護の地がある。
その中でカイザーたちの国アルテッドは草木の加護が強い国だが、カイザーたちにはそれぞれ違う国の血が流れている。
父は地の加護を受けた国の現国王の兄に当たる人物で地の加護を得ている。
カイザーとリディアナの今は亡き母親は風の加護の地の生まれで、元皇女の姫君だった、しかし、許嫁候補でもあった父親の出奔に付き合い、アルテッド国まで来たのだった。
ルシスの母は水の加護を受けた国の生まれの皇女で、父親の許嫁候補の一人でカイザーたちの母とは仲が良く、それは旦那さんよりもカイザーたちの母を大切にするほどだった。
ジャックの母は火の加護を受けた国の皇女で、父親の許嫁候補の一人でルシスの母と同じくカイザーたちの母親とは仲が良かった。
そして、その血はしっかりとカイザーたちにもしっかりと受け継がれていた。
カイザーは地の加護を強く継いでいるが、それでも、母の血もあり風の加護も受けている。
ルシスは母親の水の加護が強すぎるのか、父親の地の加護は全くなかった。それはジャックやリディアナも一緒で、ジャックは火の加護だけを、リディアナは風の加護だけを持っている。
『兄様?』
『リディアナか?』
『ええ、何がどうなされたんですか?』
風を通じて二人は離れた場所から会話する。因みにそんな事が出来るのはカイザーとリディアナだからできる事だった。
もし、ルシスやジャックだったなら言葉を聞くだけで、返事など出来ないのだった。
『先程怪しい気配があった、そっちには異常は無いか?』
『ありません。』
『そうか…杞憂で済めばいいんだがな…。』
『兄様は嫌な予感がするんですか?』
心配げなリディアナの声にカイザーは苦笑する。
『ああ、外れて欲しいと思うが…こればっかりはな……。』
『兄様。』
『リディ始めようか?』
『はい。』
二人の兄妹はそれぞれの場所で怪しい気配を探った、しかし、彼らの力でも先程の気配を感じ取る事は出来なかった。
あとがき:思ったより早くカイザーとリディアナちゃんの力をお見せできましたね…。この話は一体いつになれば本格的に動き始めるのか…と頭を悩ませます…。
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マナ、
from: yumiさん
2011年02月13日 16時24分17秒
icon
「星色の王国」
・21・
「いいお湯加減ね。」
「でしょ?」
ユウリは思いっきり背伸びをして、笑みを浮かべる。
「この城の中で一番落ち着く場所なのよね〜。」
「ふふふ。」
「このお風呂場は一応王族専用だから入ってくる人はいないからすごく羽を伸ばせるのよね〜。」
「まあ、そうなの?」
「そりゃ、そうだ、こんな豪勢な風呂場に、一般人など入れる訳がない。」
「そうですよ、こんな…豪華な……。」
「うわっ!チェレーノ大丈夫!?」
あまりの贅沢さにチェレーノは気絶してしまった。
「だ、大丈夫?」
「平気だ、このくらいいつもの事だ。」
「そうなの?」
「ええ、そうね。」
そうなんだ、とユウリは感心し、ふとフローリゼルたちの体型のよさに目を引かれた。
「うわっ…細いと思ったけど…ここまで?」
ユウリの言葉にフローリゼルは不思議そうに首を傾げた。
「私なんか、傷だらけだし……食べ過ぎたら直ぐに…よけいな部分に肉がいくし……羨ましい……。」
「ユウリ?」
「あっ!ごめん!」
「……いえ?」
「わかるぞ、ユウリ殿の気持ちが。」
「へ?」
「女として、やはり姫のような体型は理想だと思う!」
力説するエルにユウリは共感を覚える。
「分かります!」
エルとユウリはがっしりと手を取る。
「あの白磁のような白い肌。」
「まったく傷のない珠のような肌!」
「あの太陽の光を織ったかのように見事な金髪!」
「女性らしいライン!」
「「羨ましい………。」」
「ユウリ、エル????」
全く理解していないフローリゼルは小首を傾げた。
「……何となく、分かるけど…あそこまで共感は出来ないな。」
「ううう……。」
チェレーノの手当をしているリディアナは静かに溜息を吐いた。
「まあ、兄様があのような体型が言いというのなら、努力はしますけど。」
「ううう……。」
リディアナはカイザーを思い浮かべ、まるで恋する乙女のように溜息を吐いた。
「ああ、本当に兄様が兄様じゃなかったらよかったのに……。」
一応は兄妹だと自覚しているのか、リディアナは静かに息を吐いた。
「あの……お二人とも??」
「エルさん!」
「ユウリ殿!」
「私たちは同士のようですね!!」
「ああ。」
「あの馬鹿な男がたとえ私の体型を侮辱しても――。」
「あの大馬鹿者がこの鍛え抜かれた体型で嫁にいけないと抜かしても。」
「「無視」」
「しましょうね!」
「しようではないか!」
「……あの…???」
完全に話しがずれている二人にフローリゼルは話しかけようとするが、二人は完全に自分たちの話しか聞こえていない。
「この前なんて私が剣の稽古をしていたらあいつ何を言ったと思います!」
「うむ。」
「あいつはですね「これ以上怪我をしたら嫁の貰い手なんかないぞ、行かず後家にでもなるのか?」って言ってきたんですよ!」
「何だと!」
「その前なんて、折角女官が焼いてくれた焼き菓子を食べていたら、「これ以上食うと豚になるんじゃないか?」とかも言ったんです!」
「女の敵だな!」
「そうですよね!」
「そうだ、そうだ。」
相槌を打つエルもまたユウリの言葉を聞き、自分に起こった事をふつふつと思い出す。
「こちらなんて、あの馬鹿者が「おい、お前これ以上青あざ作ると男が近寄らなくなるから、止めとけ。」とか抜かしたんだ!」
「うわ、酷い!好きで青あざなんて作らないのに!」
「だろ、他にも好物の揚げ菓子を食べていたら、ひょいっとこの手から奪ってこう言ったのだ「うわっすげえ油っぽい、よく食えるな…こんなもん。」とな。」
「あの脂っこさが美味しいのに!」
「同感だ。」
二人はそれぞれの憎い相手を思い出し、拳を震わせる。
「運動した後の菓子ほどうまいものはないのに!」
「栄養だって取らないといけないのに!」
「「あの無神経どもは!!」」
二人が怒鳴っている時、その二人の男は同時に殺気を感じ、身を震わせたのだった。
「「最低」」
「だよ!」
「だな!」
「……何か、仲良くなってしまったわね。」
いや、仲良くなった域を越して、完全に意気投合しているんじゃないか、とリディアナは突っ込みそうになるが、これ以上このメンバーに付き合っているのも面倒臭くなり、ふと、風が彼女を包んだ。
「……兄様?」
風は何かを伝えるかのように、リディアナの周りを漂い、そして、消えるのと同時にリディアナは風呂場から出て行った。
「……あら?リディアナは?」
「えっ?」
「…いないな……。」
ぐったりと横になっているチェレーノの近くにリディアナの姿はなく、フローリゼルをはじめとする三人は首を傾げたのだった。
あとがき:さてさて、ようやく物語が動き出しました(?)
本気でこの物語が終わるのか…分からなくなりますね…。
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マナ、
from: yumiさん
2011年02月06日 10時58分56秒
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「星色の王国」
・20・
「ごめんなさい。」
ユウリはフローリゼルたちだけになると頭を下げた。
「ユウリ?」
「……。」
「えーと……。」
「ふえ?」
四人はそれぞれの反応を見せる。
「妹が迷惑を掛けて。」
「そんな事ないわ。」
「そうだ、寧ろこっちの方が。」
「……でも、あの子がいなかったらきっと無難に終わったと思うし。」
「……それはこっちも同じかもしれないわね。」
「「「……。」」」
ルシスとチサトの冷戦を思い出したそれぞれは完全に顔を引き攣らせている。
「まさか、チサトとあそこまで相性の悪い人がいるなんて、想像もしていなかった。」
「そうね……ルシスもあそこまでなる人は滅多にいないわね。」
「そうだな、確か最近あいつがあのようになったのは。」
「チェレーノに言い寄ったあの変態王子でしょ?」
「ふえ?い、言い寄られた?いつですか?」
「「「「……。」」」」
ユウリたちはチェレーノの言葉を聞き、同時に溜息を吐いた。
「まるで、ミナミを見ているような子ね。」
「ルシスも可哀想に。」
「同感だ。」
「チェレーノがここまで鈍感だなんて…。」
「へ?へ?へ?皆さんどうされたんですか!?」
チェレーノ一人だけ分かっていないようだ。
「まあ、お互い様という事で。」
「そうね。」
「それが一番だ。」
「その方がいいね。」
「あ、あの?皆さん?」
チェレーノはまだ首を傾げているようだが、ユウリはそんな彼女を無視して部屋割りを考え始める。
「フローリゼルは一人部屋がいい?それとも、護衛を考えて何人かの部屋がいいかな?」
「どちらでも構わないけど……。」
「一応は護衛を考えて隣接した部屋なら構わないと思うが。」
「そう良かった。」
フローリゼルはどうやら一人部屋が良かったのか、ホッと息をはいた。
「それなら、私の部屋の隣からが空いてるから、そこが良いわね。」
「え?」
「だって、私騎士だもの、フローリゼルを守るわ。」
「ユウリ……。」
同じ姫であるというのにこんなにも凛としたユウリがフローリゼルには眩しく感じた。同時にユウリも同じ姫であるフローリゼルがこんなにも可憐で守りたいと思った。
「う〜ん、あっ、そうだ。」
ユウリは何かを思いついたのか、満面の笑みを浮かべる。
「皆でお風呂に入りませんか?」
「えっ?」
「「「お風呂?」」」
何で唐突にそんな事を言い出すのかとユウリ以外の四人は思った。
「部屋に案内するまでの廊下に大きな風呂場があるんです。」
「そうなの?」
「ええ、皆さんだって、汗をかいたでしょうし、疲れだって取ってもらいたいんで、良ければ、案内させてください。」
「ユウリ。」
「はい?」
「敬語に戻っているわ。」
「あっ、ごめんなさい、じゃなっかた、ごめん。」
ユウリは苦笑を浮かべ、何とか言いなおした。
「ふふふ、気をつけてね。」
「分かったわ、フローリゼル。」
あって間もないというのに二人はかなり仲良くなった。
「で、皆さんどうします?」
「行ってみようかしら?」
「姫様!」
「駄目かしら?エル?」
「そりゃ……。」
「あ、あの…別に構わないんじゃないでしょうか?」
「……チェレーノ!」
「そんなにカリカリしていると、皺が増えますよ。」
「リディアナ!」
ユウリはぼんやりとこの光景を見ていた。
「え〜と、いつも、こんな感じなの?」
「そうね、概ねは。」
「そうなの?」
「ええ、皆さん真面目ですけど、エルは頑固で、リディアナはある程度自分の欲を入れる、チェレーノは周りの空気を読んでいるんですよ。」
「へ〜……。」
「ちゃんと纏まっている時は纏まっているんですよ?」
「例えば?」
「カイザー。」
「……へ?」
意外な名前を出され、ユウリの頭が一瞬止まる。
「わたくしたちは皆カイザーに惹かれていますの。」
「……えっ…え〜と…。」
ユウリは鈍くなった頭で必死になって考え始める。
確か、リディアナとカイザーは兄妹であるはずで、カイザーの弟のルシスとチェレーノは恋人同士のはずで――。
「ふふふ、カイザーのファンといいますのかしら?」
「あっ、ああ…そういう意味何だ…。」
「まあ、それはチェレーノだけだったりしますけど。」
「へ?」
何気なく爆弾発言をされ、ユウリは再び凍りついた。
「え、えええええええええっ!」
「ふふふ……。」
混乱するユウリが絶叫する側でフローリゼルは微笑んでいた。
そして、その周りにはエルとリディアナが言い争いをしており、それをチェレーノが必死になって止めようとしている、という可笑しな光景があった。
あとがき:カイザーさんは人気者です、何せ…姫に実の妹、そして、副官…あ〜…あと男性にも人気なんですが、そこら辺はまだ書いていませんね……。
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yumi、
from: yumiさん
2011年02月03日 15時39分07秒
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「星色の王国」
・19・
「何とか止められないのか?」
リョウタは少し離れた所にいたジャックに話しかける。
「ああ?」
「あの二人だよ。」
「…ああ、無理だ、あんな風になったルシ兄を止められるのはカイ兄だけど、カイ兄は止める気がなさそうだからな……。」
「ふ〜ん。」
「そんで、お前んとこの姫さんはどうだ?」
「初対面だから知らねぇ。」
「ふ〜ん。」
ジャックは適当に相槌を打ち、「おやっ」と眉を上げた。
「何なんだよ?」
何か企みを感じたリョウタは眉間に皺を寄せる。
「いや、そろそろ終わりそうだな〜、と思っただけだ。」
「……。」
ジャックの言った意味が分からないリョウタはさらに眉間に皺を寄せた。
「見てりゃ分かるさ。」
「……。」
そして、それはジャックの言う通り、静かな冷戦は終わろうとしていた。
一人の少女がこの冷たい戦いを終わらすという行動をやってのけたのだった。
「る、ルシスさん……。」
チェレーノはルシスの服の裾を遠慮がちに引っ張った。
「……。」
ルシスを知らない面々はきっと彼は冷たい笑みで彼女を見るのだと思ったが、その予想に反してルシスは柔らかい笑みをチェレーノに向ける。
「何かな?」
「……ルシスさん、ここは自分の国じゃないんですよ、だから、喧嘩するのは止めてください。」
ルシスが自分を見た事によって、チェレーノは勇気付けられたのか、少し怒ったような顔をした。
「…分かっているつもりだけどな。」
「分かっていませんよ。」
苦笑を浮かべるルシスは先程チサトと冷戦を繰り広げていた青年に見えないほど、穏やかな表情を浮かべている。
「すげぇ……。」
「だな……。」
思わず感嘆の声を上げたのはリョウタとジャックだった。
「あのおっかねぇのを鎮めた……。」
「う〜ん、カイ兄だけじゃなく、チェレーノまで止められるようなったのか。」
ジャックは感心したように言った。
「「――っ!」」
刹那、二人は同時に殺気を感じた。
因みに殺気の方角は近いが、それぞれ全く異なる人からの殺気を感じた。
「……。」
「やべ……。」
二人は殺気の視線を辿った。
リョウタはチサトから、ジャックはルシスからの殺気を感じた。
「何かしら平民?」
「……。」
「……ジャック。」
「……悪い。」
黙り込むリョウタと反射的に謝ってしまったジャックは常よりも体が小さく見えた。
「帰り道は背中に気をつけなさいよ。」
「そうだね、ジャック久し振りに稽古の手ほどきをしてあげようかな?」
「「……。」」
チサトとルシスの迫力によって二人は黙り込んでしまう。
「……ふぅ…。」
突然溜息が聞こえたと思ったら、次には凛とした声がその場に響き渡る。
「お止めなさい!」
「……。」
チサトは冷めた目で声を出したユウリを睨みつけた。
「何かしら?お姉様。」
「お止めなさい、見っとも無いわ。」
「……。」
「上に立つ貴女がそんな姿を見せていていいのですか?」
ユウリはまるで自分がチサトよりも権力があるかのように振舞う。
「……お姉様にわたしにそこまで言う権限はあると思っておいでですか?」
「ええ、あるわ。」
ユウリは完全に切れているのか、目が据わっている。
「私は貴女の姉よ。」
「でも、わたしは国王代理。」
「それがなんなの?お客に対しそんな態度をとっている貴女の方が私よりも子どもよ。」
「あら?」
チサトの瞳が一気に冷える。
「そんな事を言うのはこの口ですか?」
チサトはまるで風のようにユウリの頬に手を伸ばそうとするが、流石は騎士。彼女の持ち前の反射神経によってチサトの攻撃を避けた。
「ちっ…。」
「ふん、いつまでも喰らうほど私は馬鹿じゃないわ。」
ついこの間まで喰らっていたような口ぶりをするユウリに近くにいたマサシは額に手を当ててこう呟いた。
「自慢する事じゃないだろうが……。」
呆れるマサシの言葉などユウリの耳には届いていなかった。
「……。」
「……。」
チサトとユウリは互いに睨み合い、そして、どちらともなく視線を外した。
「これで、開きにさせていただきましょうか?」
「そうね、フローリゼルたちも疲れている事ですからね。」
「お姉様。」
「ええ、私がフローリゼルたち女性人を連れて行くわ。」
まるで、先程の睨み合いなど嘘と言うかのように二人は息のあった会話を繰り返す。
「マサシ。」
「はい。」
「男性人の方はよろしくね、私は東の塔に行くから、貴方は西の塔でお願いね。」
「……。」
ユウリの言葉にマサシは小さく肩を竦めた。
「分かったよ。」
「それじゃ、よろしくね。」
ユウリは笑みを浮かべ、フローリゼル以外の女性を呼んだ。
こうして、チサトと出合ったアルテッド国の面々はチサトを侮ってはいけないと思ったのだった。
あとがき:日曜日に毎回載せていますが…やっと今日出来ました…、話進めなくてはなりませんね…。
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マナ、
from: yumiさん
2011年01月23日 13時06分20秒
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「星色の王国」
・18・
「ご苦労様、マサシ将軍。」
冷たい声音が頭上から聞こえ、マサシは首を垂れる。
「こんな鄙びた国までよくぞ、おいでくださいました。」
「ご歓迎していただき、心より喜びもうしあげます。」
凛とした声にチサトは口元に笑みを浮かべた。
「女の身で国を統べるもの同士、堅苦しい言葉は止めにしませんか。」
「ええ。」
フローリゼルはニッコリと微笑むそれは春を思わせる笑みだが、チサトは冬を思わせるような冷たい笑みだった。
「さて、わたしの名前はチサト、この国の第二王女であり、今この国を統べる国王代理です。」
チサトは上に立つ者の威厳を持っており、フローリゼルの国の騎士たちはこんな幼い姫がと驚きを隠せなかった。
「わたくしはフローリゼル、アルテッド国の姫です。」
「そして、後ろに控えるのは貴方の国の騎士、カイザー、ルシス、ジャック、リディアナですね。」
鋭い視線が三人の男性と、一人の少女を射る。
「……………ふぅ。」
緊迫した空気だったが、唐突にそれは消された。
「チサト、すごむのは止めなさい。」
凛とした聞き覚えのある声に、アルテッド国の者たちは戸惑いを隠せなかった。
「ゆ、ユウリ?」
「……。」
ユウリは先程の騎士の服装ではなく、女性らしいドレスを纏っていた。
「ごめんなさい、申し遅れました。」
ユウリは優雅にドレスを掴み、お辞儀をする。
「レナーレ国、第一王女、ユウリと申します。」
「えっ!」
「――っ!」
「嘘っ!」
「「「……。」」」
「マジかよ……。」
あまりの驚きようにユウリはそこまで意外だったのかと、苦笑を漏らした。
「第一王女といってもただの置物ですけどね、実際は国を守る騎士になっていますから。」
「そうなの?」
「ええ、自分で決めた事なので。」
「……。」
フローリゼルは目に見えて落ち着いてきた、そして、穏やかな笑みを浮かべた。
「それならば、余計に敬語はいらないわ、ユウリ。」
「……。」
ユウリは苦笑を浮かべるが、自分が王女だと知られた今ではそれでも構わないのかもしれないと思った。
「分かった、フローリゼルには負けるわ。」
小さく肩を竦めるユウリにフローリゼルはクスクスと笑った。
「ふふふ、嬉しいわ。」
「そんな大層な人物でもないけど?」
「あら、わたくしと対等に接してくれる方は貴重よ?」
「……まあ、そうね。」
ユウリも経験があるのか、苦笑を漏らす。
彼女自身も王女という立場の所為で、騎士となった当初は周囲の者に遠巻きにされていた、今でこそ彼女の実力を認め、多くの人が彼女についてくるが、それでも、王女という壁を壊したのはマサシだけだった。
ただ、彼もユウリを王女としてみる、それだけは、他の人たちと変わらない点であった。
「お姉様……。」
地獄の底から響いてくるような声音にユウリの肩が跳ねた。
「ち、チサト?」
「私語は止めてくださいますか?」
「……。」
「ここは公の場、お姉様が勝手にしてはいけないことくらい分からないの?それに……ミナミっ!」
ずっと壁の方にいたミナミは唐突に怒鳴られ小動物のように体を震わせた。
「貴女いつまでそのような格好をしているの!」
「だ…だって……。」
ミナミが着ているのはいまだ一般人の格好であった。だから、チサトが怒るのは無理ないのだが、般若のような顔で怒られるミナミは可哀想だろう。
「だってじゃないわ。」
「…ううう……。」
今にも泣き出しそうなミナミにチサトは更に畳み掛ける。
「貴女には王女であるという自覚はない訳?そんなんだから、いつまで経っても馬鹿なままなのよっ!」
「うわあああああん……。」
とうとう泣き出してしまったミナミにユウリは頭痛を覚えたのか頭を抱えている。
「ふんっ!」
鼻を鳴らすチサトに一人の者が笑った。
「……ルシ兄。」
唐突に笑い出したルシスにジャックはギョッとなる。
「ふははは……。」
「……うげぇ…壊れたか?」
「誰が壊れたんですか?」
冷たい目はチサトと同じかそれ以上の威力を持っている。
「貴女は素直じゃありませんね。」
「下々の者が何を言うのから?」
「……軽んじられたくないから、そのような言い方をするのでしょう?」
「何がかしら?」
チサトとルシスの冷たい目のにらみ合いが始まり、ユウリの胃がきりきりと痛み始めた。
「ううう…痛い……。」
「大丈夫ですか?」
「う…うん、ごめんね。妹が貴女の騎士にちょっかいを出して。」
「いえ、こちらこそ、ごめんなさい。」
フローリゼルとユウリは互いに隣に立ち、二人の様子を見守る。
「……止めなくてもいいのか?」
「ああ、大丈夫だろう。」
「……。」
「そっちは大丈夫なのか?姫なのに構わないのか?」
「俺が止められるんなら、始めから止めているさ。」
「そうか……。」
マサシとカイザーの会話はかなり落ち着いているようだったが、チサトとルシスの戦いは激しさを増していく。
しかし、それを止められるような勇者はこの場にはいない。
二人が鎮火するまで、ユウリたちは待つ事しか出来なかった。
あとがき:ああ、なんとも言えない冷戦が起こってしまったようです。あの二人が揃えば、どうなるのかな〜、と思っていた自分が懐かしい…。まさか、ここまで、周囲の人間を困らせるとは…想定外です。
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マナ、
from: yumiさん
2011年01月16日 12時11分46秒
icon
「星色の王国」
・17・
リョウタは一人ひとり目の前に立つ自分よりも年上の人を見た。
金の髪の優しげな風貌の女性。
ミナミに跪いた黒髪の男性。
銀の髪の男は始めのうちこそ驚いた表情をしていたが、今では凛々しい顔をしている。
なんともいえない表情で黒髪の男とミナミを交互に見る厳しい顔つきの女性。
その隣に立つ派手な赤い髪の男性、いや、少年と青年との狭間の男は小さく肩を竦めている。
黒髪の少女は呆然としており、黒髪の男性をただ見ていた。
その隣の鋭い眼の男は特に何にも感じないのか、そっぽを向いている。
一人、オロオロとしている三つ編みの少女が、こけた。
「きゃっ!」
「……。」
リョウタはそれを見て、どこかの誰かさんを思い出し、溜息を一つ吐いた。その瞬間凍りつくような冷たい視線を感じた。
「――っ!」
涼太は辺りを見渡すと、三つ編みの少女に手を差し出す銀髪の青年がリョウタを睨んでいた。
「……ああ。」
赤髪の青年が頭を掻き、困ったように笑った。
「悪いな小僧。」
「……。」
リョウタは青年を軽く睨んだ。
「オレは小僧じゃない、オレはもう十五だ。」
「……十分ガキじゃないかよ。」
「……。」
リョウタはピクリと頬を引き攣らせ、赤髪の青年を睨んだ。
「生意気なガキ――っ!」
赤髪の青年がそう言った瞬間、彼の後頭部を殴る女性がいた。
「貴様もわたしから見れば十分ガキだ!」
「いって〜っ!何すんだよ!」
「ふんっ、弱いものイジメをする貴様を成敗したまでだ。」
「……この…クソ女!」
赤髪の青年が霜呟くと彼を殴った女性は笑った。
「貴様は口が悪いようだな。」
「……。」
リョウタはこの女性の地雷を赤髪の青年が踏んでしまった事に気付いた。
「またですか。」
「こりないな。」
慣れているのか黒髪の青年も銀髪の青年もこの二人の喧嘩の間に入ろうとはしない。
「まあ、しばらくすれば――。」
「悪かった!」
「やっぱりな……。」
唐突に頭を下げる赤髪の青年を見て二人の青年は溜息を吐く。
「毎度同じ事を繰り返すのならば止めればいいのにな。」
「そうですよね。」
「うわっ!止めろ!」
リョウタはその光景を見て唖然とするしか出来なかった。
「問答無用!」
「うえっ!」
リョウタの横ではミナミが微かに震えている。その反応は当然といえよう。
何故なら一人の女性がある男に対して剣を振り回しているのだから。
「……尻に敷かれてんな。」
「ふえ?」
「何でもねぇ、お前には関係ねぇよ。」
不思議そうに首を傾げるミナミにリョウタは小さく溜息を吐いた。
「それにしても、こんな所でのんびりしてていいのか?」
「ふえ?」
「それ口癖か?」
呆れたような表情をするリョウタにミナミは口を尖らせる。
「もう!」
「今度は牛かよ……。」
「違うわよ!」
「まあ、冗談はこの辺にしといてだな。」
リョウタは何気なく入り口に近い扉を見詰めた。
「そろそろ――。」
「まだいたのか。」
「……ああ、マサシか。」
「……のんびりしすぎましたか。」
「うぎゃあああああああっ!」
唐突のマサシの登場にカイザーは笑みを浮かべ、ルシスは苦笑いをし、そして、とうとう剣を振り回す女性に捕まった赤髪の青年は悲鳴を上げた。
「……何をやっているんだ…。」
赤髪の青年を見たマサシは眉間に皺を寄せた。
「さあな。」
小さく肩を竦めるリョウタを一瞥したマサシは溜息を一つ吐いた。
「ミナミ様、まだそのような格好をしておいでですか……。」
「うっ……。」
ミナミはマサシが苦手なのか、リョウタの後ろに隠れた。
「貴女と、ユウリ様は本当に良く似ておりますよ。」
「ふえ?」
何故かそんな事を言うマサシの目は優しく、ミナミは不思議そうな顔をした。
「早く着替えてきた方がいいですよ、チサト様に何か言われますから。」
「…はーい。」
「……。」
暢気な返事をするミナミにマサシは頭痛を覚えたのか、彼は額に手を当てた。
「まあ、気にするなよ。」
「……お前も大変だな。」
ポンとマサシの肩に手を乗せたのはリョウタで、マサシはミナミに振り回され続けている彼に同情の念を覚えた。
「……まあ、慣れた。」
「……。」
おどけたように肩を竦ませるリョウタにマサシは苦笑を漏らす。
「まあ、俺たちは同類かもしれないな。」
「……お前もか?」
「ああ、俺もあいつに、あの女性(ひと)に振り回されているからな。」
「……。」
どこか嬉しそうな瞳をするマサシを見ながら、リョウタはこの男が一体どんな女性の尻に敷かれているのかが気になった。
「いつか会う事になるのかな?」
「なるな、絶対。」
苦笑を漏らすマサシにリョウタはその女性に早く会ってみたいと思ったのだった。
あとがき:尻に敷かれる男性人……私の話ではそんな男性が多いですね…昌獅(マサシ)然り、涼太(リョウタ)然り……。
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マナ、
from: yumiさん
2011年01月09日 11時32分49秒
icon
「星色の王国」
・16・
カイザーは静かに意識を回りに集中させ、危険が無いか探った。
「兄さん……。」
「ルシス。」
「大丈夫ですよ、危険はありません。」
「分かっている、つい癖が出た。」
「仕方ありませんよ、昔牢に入れられたんですからね、しかも無実で。」
カイザーは苦笑を浮かべ、ルシスもまた苦笑を浮かべているように見せているが、腹の中ではカイザーを閉じ込めた自分たちの従兄に当たるあの男を思い出し、心の中で何度も剣を突き刺した。
「兄様?」
「リディ?」
「兄様、心配事でもあるんですか?」
リディアナは真剣な顔で聞いてきた、もし、カイザーが何か言えば間違いなくそれを排除しそうな勢いであった。
「何でもないさ。」
カイザーは手を伸ばして、彼女の漆黒の髪をクシャリと撫でた。
「本当に?」
「ああ、もしあっても、お前たちがいるんなら何でも乗り越えられるさ。」
「………そうだね。」
リディアナはホッとしたかのように微笑んだ。
「あたしたちが兄様と共にいれば、間違いなく勝てるね。」
「ああ。」
「すみません、兄弟の仲を深めているのは分かりますが、皆が待っております。」
「あっ、悪い。」
「……ごめんなさい、ルシス兄さん。」
二人の兄と妹が揃って肩を落すものだから、ルシスが苦笑を漏らす。
「大丈夫ですよ、文句をいう者がこの隊にはいませんから。」
「だがな……。」
ルシスはニッコリと微笑んだ。
「大丈夫ですよ、そんな事を兄さんにいう人がいたら(嫌みったらしく)僕からお話しします。」
「……いや…、お前の手を煩わせるのは。」
「いいえ、大丈夫ですよこれは(僕ら兄弟を侮辱する人たちに対する地獄の)教育ですから。」
「……そうか。」
「ええ。」
この会話を聞いていたら間違いなく通常の会話に聞こえるが、腕を組んで壁にも垂れながら彼らの会話を聞いていたジャックなどは呆れていた。
「えげつねぇ……。」
「同感だ。」
ジャックの隣にいたエルがジャックの言葉に同意した。
「おっ、お前がオレの意見に同意するなんて珍しいな?」
「ふんっ、貴様がもっとまともならば、わたしだって否定しない。」
「そうなのか?」
「ああ、貴様がいつもフラフラといい加減なのがいけないんだ。」
「お前はいつもオレの事をそう見てたんだな?」
ジャックは顔を顰め、エルを恨みがましく睨んだ。
「それがどうした。」
「……はぁ、オレも人の事は言えないのかよ。くそっ、顔だけのルシ兄が羨ましいぜ。」
「ルシスさんは顔だけじゃありません!」
「はあ!」
突然現れたチェレーノにジャックは本気で驚いた。
「お、お前…いつのまに……。」
先程までフローリゼルと談笑していたチェレーノがいつの間にか怒りで顔を真っ赤にさせ、ジャックに突っかかってきた。
「訂正してください!」
「あっ…ああ。」
気迫に負けジャックは大人しく頷く事しかできなかった。
「ルシスさんは優しいです!わたしなんかの為に稽古をつけてくれますし、それに、いつもわたしが困っていると助けてくれます。」
「あ…ああ、そうだな(チェレーノ、てめぇだけだけどな…後カイ兄とリディ限定だけどな〜、他の連中には冷酷だしな……)。」
「何失礼な事を考えているのかい?」
「(げっ!)ルシ兄、何時の間に……。」
「今しがたですよ、ジャック。」
ジャックは思わず後退りし、兄から逃げようとするが残念ながら背後は壁だ。
「逃げれると思っているのですか?」
「……。」
ジャックの顔が引き攣る。
ルシスの邪悪な気がジャックを凍りつかせようとした瞬間、救世主が現れる。
「ふあっ!」
「お、おい…ミナミ。」
一人の少女が目を輝かせ、その隣では少年が少女を小突いた。
「……お前ら誰?」
「……。」
ジャックの疑問はここにいた全員が思ったものだが、こういう事だけには察しのいいカイザーは即座に膝を折る。
「に、兄さん?」
「…兄様?」
「カイザー?」
「カイ兄?」
「「将軍?」」
「……。」
驚くアルテッド国の面々を無視し、カイザーは顔を上げない。
「……え〜と、顔を上げてください。」
困ったような声を出す少女に隣の少年は呆れたように言った。
「お前な、仮にもこの国の姫だろうが……。」
「う〜…そうかもしれないけど……。」
「そうかもじゃなく、そうだろうが……。」
肩を竦める少年の言葉に、その場の全員(カイザーを除く)が凍りつく。
「こ、この国の姫って……貴女は…いや、貴女様は?」
「え〜と、レナーレ国、第三王女ミナミと言います。」
「……。」
「……。」
「……マジかよ。」
「こら、ジャック。」
「静かにしましょうよ…皆さん。」
「……。」
こっそりと話す面々に少年は深い溜息を吐いた。
「まあ、見えないだろうな……。」
幸いにも、失礼な事をさらりと言った少年を咎めるものはこの場所にはいなかった。
あとがき:まさか、こんなにも早くユウリちゃんとマサシ以外の人が出てくるとは…。意外ですね。
それにしても、リョウくん、あんたは凄いよ。この王国パロだけ(苦笑)。
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マナ、
from: yumiさん
2010年12月28日 09時46分11秒
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「星色の王国」
・15・
馬車が城の門をくぐり、そして、馬車が止まった。
「姫、お手を。」
「ありがとうございます、カイザー。」
フローリゼルは当然のようにカイザーの手を取り、優雅に馬車から降りた。
ユウリはその後を呆けた顔で見詰め、そして、自分の仕事は終わったのだと考え、次はどうしようかと首を傾げた。
「おいっ。」
「……。」
不機嫌な声につられ、ユウリもまた眉間に皺を寄せ、声を掛けてきた人物を睨んだ。
「何よ、マサシ。」
「何よ、じゃない、さっさと着替えて来い。」
「はあ?」
ユウリが怪訝な顔をするのも無理はないだろう、彼女にとっての正装は騎士の時の服装なのだから、汚れてもない服を着替えるなどと思ってしまう。
「どうしてよ。」
「……。」
「綺麗じゃない。」
マサシは半ばその答えを予想していたのだろうが、それでも彼女の口から聞くと溜息を漏らした。
「お前な、お前の正装はそっちじゃないだろうが。」
「……?」
「…本気で分からねぇのかよ。」
マサシは周りの人が自分たちを見ていない事を確認し、無理矢理ユウリの手を取った。
「なっ!」
「静かにしろ。」
大声を出すユウリにマサシは声を潜めて言った。
「……。」
騎士専用の城の正面の入り口ではない場所から、城の中に入ったユウリとマサシはようやく普通の声で話し始める。
「お前さっさとドレスに着替えて来い。」
「はあ?何でよ!」
「…チサト様の命令だ。」
重々しく言うマサシにユウリは顔を引き攣らせる。
「な、何で?」
「………「お姉様、貴女は王位継承権を捨てました身ですが、お姉様は王族、その立場をお分かりになりませんか?そうですよね、お姉様ならば分かりませんよね?」。」
マサシはチサトが自分に言った言葉を思い出し、棒読みでその言葉を言っていく。因みにその光景はかなり異様でユウリの頬がかなり引き攣っていた。
「「お姉様は他国の王族の方にちゃんとお会いしなくてはなりません、もし、そうなさらないのなら、きっと向こうはこちらが礼を尽くさないとお考えになりますわ、または、こちらが上からモノを見ている、と考え、今回のわたしの計画が台無しになります。」。」
「計画?」
「……。」
ユウリが疑問を口にするとマサシは用事が終わったと言わんばかりに、さっさと踵を返す。
「ま、待ちなさいよ!」
「……。」
「あんた、何か知っているの!?」
「さあな。」
マサシは何も言わず出て行った、ユウリは一瞬後を追うか迷ったがチサトの怒りを買う訳には行かないのでしぶしぶ自室へと向かった。
自室には今朝までにはなかった鮮やかなオレンジ色のドレスが置かれてあり、ユウリはマサシが言った事は嘘ではなかった、とようやく理解した。
「何でよ……。」
ユウリはドレスがあまり好きではなかった、着飾る事は一応女だから好きなのだが、動きにくいし、戦いにくいので出来るだけユウリはドレスを着ようとはしなかった。
だけど、今回ばかりは嫌だと言って突っぱねる訳にはいかなかった。
「仕方ないわね……。」
ユウリは溜息を吐いて自分のために用意されたドレスに手を伸ばす。
本来なら侍女か女官に着替えを手伝ってもらうのが普通だが、この国の姫は全員変わり者で、自分の事は極力自分でするのだ。
やってもらうことといえば、髪のセットや部屋の掃除やシーツなどを変えてもらう事、そのほかは出来るだけ彼女たちは自分でやっているのだ。
そして、一応ドレスを着たユウリは溜息と共に鏡の前に立った。
髪はぼさぼさで、顔には疲弊の色が窺えた。
これから長い間椅子に座り、髪をいじられるのだからそれは当然の事かもしれない。
ユウリは仕方なく呼び鈴を鳴らした、そして、待機いていたのかすぐに複数の侍女が入ってきて、ユウリは椅子に腰掛けた。
そして、それから一時間、ユウリは苦行に耐える羽目になる。
その御陰でユウリは一応人前に出られるような格好になり、侍女たちが教えてくれた奥の部屋へと足を進めた。
「もう…疲れた……。」
ぐったりとした表情のユウリは最初のうちこそそれを顕にしていたが、段々目的の部屋に近付くにつれ、表情が凛としたものへと変わった。
それもそうだろう、彼女だって一応は王族、そのように躾けられているのだ。
「さて、この服を見たフローリゼル様はどんな反応をするかしら?」
ユウリは苦笑しながらそっとあの美しい女性を思い浮かべた。
彼女なら自分の姿を見て驚くのか、それとも納得するのか、何となくそれを楽しみにしながらユウリはその足を速めていった。
「ふふふ、ちょっと楽しみだな〜。」
*
ユウリが一人楽しんでいる時、他国では――。
「機は熟した。」
一人の者がそう言い、ニヤリと笑った。
「あの国を手に入れる、さてさて、あの国の姫たちはどのように反撃してくるか、それとも、易々と手に入るか。」
レナーレは裕福な国だった、貿易も盛んで街は賑わい、そして、農作業も土地が良いのか実りが良かった。
だから、レナーレを狙う国は山ほどあった。
そして、チサトはそれを阻止する為に同盟を組んだり、色々な事をして国を守ってきた。
今回もまたフローリゼルたちの国と関係を持つために、力を注いでいた。
だが、彼女達の知らない内にそれは動き出していた。
そう、毒が回るように徐々にレナーレにその敵国のものが紛れ込み……そして――。
それに聡いと言われる、レナーレの第二王女――チサトでさえ気づいていなかった。
「さあ、宴の始まりだ。」
男はねっとりとした嫌な笑みを浮かべ、近くのボトルから穢れないグラスに血のように真っ赤なワインを注いだ。
「せいぜい、踊れ、そして、屈しろ、ふっはははは。」
男は高らかに笑った、そして、事態が動き出したのは三日後だった……。
その間…ユウリもチサトも誰一人、その前兆を気付けなかった。
あとがき:怪しい動きがありますね〜。でも、まだまだ序章、長くなりますね〜。さてさて、どんな話になるのでしょうか、作者にすら分かりません(笑)。
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マナ、
from: yumiさん
2010年12月22日 16時14分48秒
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「星色の王国」
・14・
ユウリはそっとカーテンを開け、外を見た。
「ユウリ?」
「あっ…、すみません、眩しいですよね?」
目を細めたフローリゼルにユウリは眩しいかと、勘違いし慌ててカーテンを閉めようとすると、フローリゼルはやんわりとその手を止めた。
「別に構いませんよ?」
「……あの…。」
「何かしら?」
「あのカイザーという人…強いんですか?」
フローリゼルは軽く目を見張り、そして、ゆっくりと微笑んだ。
「ええ、強いですわ。」
「…そう…ですか……。」
「ユウリ?」
「……私…、これでも将軍の位についているんです。」
「まあ。」
フローリゼルは本当に驚いているのか、口元を隠すように手を当てた。
「なんですけど……私、未だに分かっていないように思っているんです。」
「何をですか?」
「上に立つこと、そして、敵と自分の力量を見て尚且つ冷静に戦闘を見守ること。」
「……。」
「私…、正直人の上に立つような人間じゃないんです…弱いんです…心が……。」
ユウリはずっと溜めていたものが溢れるのを感じた、そして、その証拠に彼女の頬から一筋の涙が零れ落ちた。
「いつも、いつも…逃げてばっかり……。」
「ユウリ。」
「どうして…何だろう……。」
ユウリは膝に手を置き、その手は強く握られる。
「いっつもそう…、マサシは私を戦場に連れて行かない…、連れて行っても自分は矢面で戦い、私は後方の守りだけ……酷いよ。」
「ユウリ。」
フローリゼルはユウリの血の滲む手をそっと取った。
「わたくしも、辛いですよ…。」
「?」
「わたくしは戦う力を持ちません。」
「……。」
「だから、いつもわたくしは傷付くあの人を見ている事しか出来なかった。だけど、最近では、そうは思わなくなりました。」
ユウリはそっと顔を上げ、フローリゼルの澄んだ瞳を見詰めた。
「わたくしは、わたくしにしか出来ない事があります。」
「たとえば?」
「そうですね、わたくしの権力。もし、それが必要ならわたくしはそれを最大限に活用します。たとえ、その地位を望んでいなくとも。」
「……。」
「わたくしはあの人に守ってもらうだけでは駄目だから…、あの人に甘えていたら、それはあの人を本当に想っていない事だから。」
「……フローリゼル様…。」
「貴女は貴女らしく過ごせばいいし、それに貴女だけしか出来ない彼の守り方もあると思いますよ?」
フローリゼルは柔らかく微笑んでいるが、その可憐な容姿の中はユウリが想像もできないほど強かなのだ。
「わたくし、昔一度だけ剣を持った事があるんです。」
フローリゼルは昔を思い出しているのかほんの少し遠い目をしていた。
「ふふふ、あの時のカイザーの顔は今思い出しても、笑えます…。今も昔も彼があれほど取り乱した事はなかったかもしれませんね。」
「……。」
「あの頃は皆…無邪気な子どもだったのに…………、ユウリあのね、彼が彼の父の命によって、一人で旅をしていた時期がありましたの。」
「………旅?」
「ええ、彼はわたくしの国をその足で歩いてくれて、わたくしの国の現状をわたくしに教えてくれました…、でも、彼が教えてくれたのは、彼が見てきた綺麗な部分だけでした…。彼が見てきた悲惨な現状は彼の父とそして、彼の弟のルシスしか知りませんでした。」
フローリゼルは憂えている目で外に視線を向けた。
「彼は何でも一人で閉じ込め、そして、それを他人に悟られないように直向に隠す……、わたくしにだけは、頼っても良かったのに……。」
「フローリゼル様…。」
「ねえ、ユウリ。」
「はい。」
無邪気な声を出すフローリゼルにユウリは耳を傾ける。
「殿方は何もかもを己の懐に隠してしまいます、ですから、わたくしたちがそれを暴き、そして、それを分捕ってさしあげればいいのではないのかしら?」
「えっ?」
「貴女の想い人が剣を握るのなら、貴女も剣を握り、彼よりも早く敵を斬る。それが出来ないのなら、貴女の持つ権限を総動員させれば、いいのではないのかしら?」
ユウリはふっと笑った。
「それじゃ、職務乱用ですよ。」
「まあ、それは困った事ね。」
「でも、ありがとうございます。」
ユウリは何か吹っ切れたかのように微笑んだ。
「私は私なりのやり方で皆を守ります。」
「ええ、わたくしも立場を利用して彼を守りますわ。」
互いに顔を見合わせ微笑みあう二人はそれぞれの相手を思った、ただ、思う愛情は互いに違っていた。
フローリゼルは両想いではないが、それでも、今一番愛おしく、そして、共に隣を歩んで生きたい人【カイザー】。
ユウリはいつも喧嘩ばかりで、凄く自分の事を嫌っている相手だけど、何故か自分が泣きそうな時、つらい時は何故か側にいてくれる人【マサシ】。
「ねえ、ユウリ。」
「何ですか?」
「もし、貴女に好きな相手が出来たら、わたくしに教えてくださる?」
「えっ?」
「わたくし、年の近い人とあまりそういう話しをした事が無いの、ですから、貴女とはそういう関係を築きたいわ。」
「……私?」
「ええ。」
ユウリは呆然とし、フローリゼルは期待を込めた目でユウリを見詰めていた。
「………本当に、私でいいんですか?」
「ええ、貴女じゃないと。」
フローリゼルは嬉しそうに言った、それもそうだろう、自国ではカイザーに恋する女性が多く、他の人がいても圧倒的にカイザーの兄弟を上げる人がいるので、あんまり話しが弾まないのだが、こうして、ユウリのように初々しい女性の恋愛話を聞ける経験は少ないからだ。
あとがき:これまた早めに載せます。
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マナ、
from: yumiさん
2010年12月17日 18時05分17秒
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「星色の王国」
・13・
「あっ、これ可愛い。」
「ミナミ…。」
「ふあっ…、高い〜〜。」
ミナミは可愛らしい黄色い花をあしらった髪飾りを手にして、小さく肩を落す。
「お姉様にねだろうかな?でも…怒るだろうな……。」
「ミナミっ!!」
「ふえっ!!」
耳元で叫ばれ、ミナミは飛び上がるほどびっくりした。
「な、何?リョウくん!?」
「何、寄り道してんだよ。」
「だって…。」
「分かった、おばさん、これ一つ。」
ミナミが先程見ていた髪飾りを掴みそれをさっさと勘定にまわす。
「5000ユィだよ。」
「ん。」
「丁度だね、毎度。」
リョウタは髪飾りをそっとミナミの髪に挿した。
「ほら、欲しかったんだろ?」
「リョウくん…。」
「んあ?」
「悪いよ。」
「いいんだよ、どうせ、給金貰っても正直欲しいものは先回りしてじいちゃんやばあちゃんが買ってくれるから使いどころが無いんだよ。」
「いいの?」
戸惑うように上目遣いをしてくるミナミにリョウタは頬を染める。
「いいんだよ。」
「……ありがとう。」
花のような笑みにリョウタは更に顔を真っ赤にさせ、そして、そのままズイズイと先を歩き始める。
「あっ、待ってよ。」
「ほら、放っていくぞ。」
リョウタは遅れそうになったミナミの手を取った。
「ふふふ、ありがとう。」
「ん。」
初々しい二人の姿を見ていた男は呆気に取られた。
「こいつら…付き合っているのか?」
疑問符を浮かべる男の目にはどう見ても恋人同士の会話にしか聞こえない二人の姿を見て、子の国の姫がただの商人と付き合ってもいいものかと、頭を悩ませ始めた。
「おい、おっさん。」
「おっ、おっさん!?」
男はせいぜい二十代後半から三十代前半の年齢にしか見えないのに、リョウタにおっさんと言われ、ショックを受ける。
「さっさと行かねぇと、そろそろ、ぶつかるだろうが。」
「――?」
男はリョウタの言いたい事が分からないのか首を傾げる。
「あんた、本当にこの国の役人?」
「そうだが。」
リョウタの物言いにカチンとくるが、流石に十近くも離れている少年に怒る訳にはいかないと、男は自制する。
「今日は遠くの…が来る日だろ?」
「……。」
男は何故その事をと目を見張る。そう、リョウタが言っているのはこの国の中でも城で働くものか、それに関係するものしか知らない、情報だった。
「舐められちゃ、困るぜ。」
「……。」
「オレの家の事はさっき母さんから、聞かされたんじゃねえか?」
「何でそれを。」
「……はぁ、鎌掛けてみたら、当たりかよ。」
リョウタは自分の母を思い出しげんなりとした。
「あの人の事だから、何か言ったと思ったが、マジかよ。」
「リョウくん?」
リョウタの隣を歩くミナミは不思議そうに首を傾げた。
「何でもねぇ、本当に母さんは容赦ねえな。」
「……ふえ?」
「……。」
リョウタは肩を竦め、そして、そっと周りを見渡した。
「まだ、こっちには向かってなさそうだが、しばらくしたら警備の人間も増えるだろうし、観客の人間も増えるだろうな。」
「リョウくん、何かパレードでもあるの?」
「まあ、それに近しいもんだな。」
「ふ〜ん。」
リョウタは姫なのに知らないのか、と思いながらもさっさと先に進んでいく。
「ミナミ。」
「な〜に?」
「絶対に、怒るなよ?」
「ふえ?」
何の事を言っているのか分からないミナミはキョトンと首を傾げた。
「絶対にこの後何があっても怒んなよ。」
「う…うん……。」
ミナミはリョウタがあまりも真剣なものだから、頷く事しかできなかった。
「…絶対だぞ。」
念を押すリョウタにミナミは普通なら怪訝に思ったり、怪しんだりするのにも拘らず、キョトンと首を傾げただけだった。
「……ミナミ。」
「何?」
「その髪飾り、よく似合っている。」
唐突なリョウタの言葉に、ミナミは頬に熱が集まるような感じがした。
「あ、ありがとう……。」
「んじゃ、先急ごう……。」
リョウタはミナミの手を引いて歩き始めた。
この時、ミナミは恥ずかしいのか、顔を俯いていたので分からなかったのだが、もし、顔を上げていたのなら、リョウタの赤面した顔が見られただろう。
それは本当に可哀想なくらい真っ赤で、そして、耳までも赤かった。
「……本当に、この人たちは…どんな関係なんですか?」
男の心からの疑問に答える声は残念ながらなかったし、多分本人たちに聞いても彼の望んだような答えは決して返って来ないだろう……。
何故なら彼らも自分たちの関係に名をつけられないでいた。強いて言えば友だち以上恋人未満…だろうか?
あとがき:ようやく…リョウタが浮かばれたような気がします…(泣きって!リョウタ死んでないし!!)。え〜と、でも、やっぱり、彼って報われないんだよな〜なかなか…。前門の智里、後門の美波…最強ですからね…。
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マナ、
from: yumiさん
2010年12月12日 10時56分20秒
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「星色の王国」
・12・
「「え?誰?」」
リョウタの母とミナミの声が重なった。
「あっ、やっと気付いてくれた……。」
「あんた誰だ?」
怪訝な顔をするリョウタとさりげなくミナミを隠すように前に出るリョウタの母は警戒心むき出しの顔で男を見た。
「わたしはミナミ様を迎えに上がった者です。」
「……。」
リョウタはそっと男の腕を掴み、壁際に連れて行く。
「証拠は?」
リョウタの低い声に男は一瞬たじろいだ。
「証拠、ですか……?」
「ああ、あいつはオレの大切な奴なんでな、信頼のある奴じゃないと、お前に預けないぜ?」
「……。」
男はしばらく固まっていたが、すぐに何かを思い出したのか。胸元から手紙を取り出す。
「……。」
リョウタは男からそれを受け取ると、ペーパーナイフを使わず、そのまま破った。
男はハラハラとそれを見ていたが、リョウタは封をしていた文様を見て、これが本物であると分かっていた。
「……。」
内容をざっと確認したリョウタはそのまま手紙をビリビリに裂き、そして、蝋燭の炎でそれを焼いた。
「何をやっているの!リョウタ!?」
母の叫びを聞きながら、リョウタはニヤリと笑った。
「確かに、お前は本物かもしれないが、オレもこいつを送らせてもらう。」
「えっ…、ですが……。」
「こいつが何者かは、オレは知っている。」
男にしか聞こえないように囁いた。
「それに、さっきの手紙はオレも来るようにと書かれていたからな。」
そう、先程の手紙にはリョウタに城に来るように書かれていた、もし、これを持って来たのが本人だったら、リョウタは行かなかっただろう。
だけど、今回はミナミがいた。
ミナミを自分が知らない男に送らせるなど、リョウタは絶対にさせたくない、そして、それを相手も熟知しているのか、その手を使ってきたのだ。
「貴方は一体……。」
男は怪訝な顔でリョウタを見た。
「オレは只の商人子どもで、そんで、今はまだ見習い中だ。」
「……。」
男はますます分からないのか、顔を曇らせる。
「ミナミ。」
「ふえ?」
「こいつ、迎えらしい?」
「??そうなの?」
ミナミもこの男を知らないのか、不思議そうな顔でリョウタと男の顔を見ていた。
一方、リョウタの母はしかめっ面でリョウタを睨んでいた。
「母さん、オレ仕事抜ける。」
「あら?何で?」
「ミナミを送るからな。」
「そう、それなら、仕方ないわね、しっかりと送るのよ。」
リョウタの母は目に見えるほどホッとしていた、彼女はこの男を信用できないと思ったらしい。
「え、まっ、待って、何でリョウくんが!!」
自分の正体を知られたくないミナミは困惑の表情を浮かべる。
「不満か?」
「不満じゃないけど……。」
「何か文句でもあるのか?」
「……。」
「はぁ…安心しろ、お前に不利益は働かねぇよ。」
「……。」
ミナミは俯き、その手が白くなるほど強く握っていた。
「………安心しろ。」
リョウタはミナミの近くにより、そして、彼女の耳元でそっと囁く。
「お前がたとえ何もんでも、オレは構わねぇよ。」
ミナミはガバリと音を立てながら顔を上げた。
「本当!!」
リョウタは苦笑を浮かべる、先程の台詞だと、お前が何者か知っている、というつもリで言ったのだが、ミナミはどうやらそのままの意味で受け取ったらしい。
「まあ、お前らしいけどな。」
「ふえ?」
「それじゃ行くぞ。」
「あっ、待って……。」
さっさと部屋から出て行くリョウタ、その後を追うミナミ、そして、最後に男が出ようとした瞬間、リョウタの母が男の胸倉を掴んだ。
「ひっ!」
「わたしの息子と未来の娘に変な事をしてみなさい、貴方はこの商家を敵に回す事になるわよ!!」
「……っ!」
ただの商人風情が、何が出来ると男は思ったが、リョウタの母の迫力の所為でそれを口には出来なかった。
「知らない?」
リョウタの母はクスリと笑った。
「ここはね「月蓮華(げつれんか)」よ。」
「なっ!!」
男は目を見張る。
「月蓮華」とはこの国のギルド全体の運営やこの国を支える柱ともいえる貿易を司る商家の別名だった。
「言っておくけど、わたしたちは本気だからね?」
「ああ。」
ずっと黙っていたリョウタの父も重々しく頷き、それを見た男は可哀想なほど顔を真っ青にさせた。
「わたしたちを敵に回すのがこの国の王族だろうが、官吏だろうが、関係ないわ、食べるものも着る物もわたしたちの思うまま……。簡単に飢えさせるくらい出来るのよ?」
「……。」
「だから、わたしたち親子に喧嘩を売るのは止めた方が良いわ。あと、息子の恋路の邪魔をしても同じだから。」
「……。」
男は自国の姫が入り浸っている場所が物凄い場所だと知って、彼らの怒りを買わないようにと、心から願った。
あとがき:リョウタの母最高です!?どんな手を使っても息子を…いや、未来の娘を守るでしょう!
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マナ、
from: yumiさん
2010年12月05日 12時56分55秒
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「星色の王国」
・11・
ミナミは椅子に座り、じっと真剣な表情のリョウタを見ていた。
リョウタは筆を動かし、帳簿に数字やら文字やらを書き込んでいっている。
「ふあ…、凄い真剣な顔。」
今までこんなにも真剣な顔を見た事がなかったミナミはまるで別人のようなリョウタの顔を食い入るように見ていた。
そして、彼女たちは気付いていないのだが、それを温かい目で多くの従業員やリョウタの父が見ていた事に、全く気付いていなかった。
「お茶はいかが?」
「ふえ?」
突然香りのいい紅茶を出され、ミナミはそれを差し出した若い女性を見上げた。
「え…え〜と……。」
知らない人から物をもらってはいけないと、よくチサトやユウリに言われていたので、ミナミはそれを受け取ってもいいものか、悩んでしまった。
「ふふふ、安心して、これはこの店一番の紅茶よ。」
「……。」
「それとも、わたしのことかしら?」
ミナミは驚いたように女性を見上げた。
「わたしはリョウタの母親よ。」
「へ?」
ミナミは先程聞いた言葉が信じられなかった。女性はせいぜい二十代半ばのような容姿をしていて、リョウタは十五歳なので、とてもじゃないがそんな子どもがいるような年齢には見えない。
「あら、見えないかしら?」
「え…はい。」
「ふふふ、正直なのね。」
「あ……。」
リョウタの母と名乗る女性に笑われ、ミナミは小さくなる。
「あら、ごめんなさいね。よく言われるものだから、つい……。」
「……。」
「特に若作りをしている訳じゃないのだけど、これでも、三十歳前半なのよ。」
「えっ?」
「まあ、商売をする上でこの容姿はネタになるから、別に気にしないのだけど、たまにリョウタの姉だと思われるのは、快感よね〜。」
「……。」
「あの子も実際年齢より幼く見えるかしら、血筋なのかしらね〜?」
ミナミはぼんやりとしながら、リョウタの母を見た。
確かにリョウタの目元と彼女の目元は似ていたし、よくよく見れば、顔のつくりも確かに男女の差はあれど、かなり似ていた。
「母さん。」
「あら、まあ。」
不機嫌な声がしたものだから、ミナミが顔を上げるといつの間にか声と同じく不機嫌な顔をして仁王立ちしているリョウタの姿があった。
「何勝手にミナミと話してるんだよ!」
「まあ、ミナミちゃんって言うのね、可愛らしい名前ね。」
「あ、ありがとうございます…?」
「もう、リョウタ、どうしてもっと早く彼女を連れてこなかったの?出し惜しみ?」
「そんな訳ねえだろ!つーか、彼女じゃねぇし!」
顔を真っ赤にさせて怒鳴るリョウタに全く説得力がなかった。
「もう、そんなんじゃキ――。」
「母さん、黙ってくれ。」
リョウタは自分の母親の口を塞ぎ、彼女の言葉を無理矢理止めた。
「もう、別に良いじゃない。」
「よくねえし!」
「あの……。」
「本当に息子って面白みが無いわ!」
「悪かったな、面白みに欠けて。」
「もしもし……。」
「本当よ、これが女の子だったら、恋話に盛り上がるというのに!」
「はっ!くだらねえ。」
「聞いてますか?」
リョウタとリョウタの母は時々聞こえてくる男性の声に全く気付かない。
「もう、リョウタって本当に、わたしの子?」
「そりゃ、生んだ覚えがあるんだったら、あんたの子だろうが。」
「まあ、あんたって他人事のように。お母様って何時も言っているでしょ!」
「は、誰が言うかよ!」
「それじゃ、百歩譲って、ママ?」
リョウタは眉間に皺を寄せた。
「誰が呼ぶかよ。」
「本当に残念ね、でも、ミナミちゃん!」
リョウタの母は異常な速さで、ミナミの手を握った。
「貴女がリョウタのお嫁さんに来るんだったら、是非わたしの事をママって呼んで!!」
「何勝手なことを言っているんだよ!!」
「あら、だってリョウタが呼んでくれないんでしょ?」
「当たり前だ!」
「それなら、可愛い「娘」に言って欲しいじゃない。」
ウインクをする実の母にリョウタはげんなりとする。
「可愛ければ誰でもいいのかよ…。」
「あら、そんな訳じゃないのよ。」
「ふ〜ん。」
冷めた目をするリョウタに彼の母はニヤリと笑った。
「リョウタちゃんが気に入った娘に決まっているじゃない!!」
「なっ!」
リョウタは顔を真っ赤にさせ、パクパクと金魚のように口を開けたり、閉めたりを繰り返した。
「何て、嘘。」
「……嘘ってあんた…。」
「だって、リョウタって理想高そうだからね〜、下手をすれば現実にいないような娘を言いそうだもの、だから、一番は「顔」!」
「……。」
「可愛い方がやっぱりいいからね、お母さんとしては。それで、次は「性格」でしょ?やっぱり素直で、可愛い性格がいいし。う〜んと、後は。」
「もういいよ、母さん。」
再びげんなりとするリョウタに母はニッコリと微笑んだ。
「よかったわ〜、五十過ぎておばあちゃんと呼ばれるよりも、三十代気持ちが良いものね〜、ああ、可愛い孫が欲しいわ。」
「……。」
「リョウタ絶対、ミナミちゃん似の可愛い女の子にしてね。」
リョウタは一瞬ミナミ似の自分の子を想像してしまい、顔を真っ赤にさせる。
「まだ、早いだろうが!!」
「あの、いい加減に話を聞いてください!!」
リョウタの声と共に誰かも叫んだ。
あとがき:リョウタの母親最強だ…(チサトとは別の種類だけど…)、今後の活躍に期待したようなキャラですよね〜(笑い)!
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2011年10月12日 11時13分18秒
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「星色の王国」
・30・
「マサシ!」
ユウリは目の前に現れた彼の存在を厭わしく思うが、それでも、腕前で言えば自分より上の彼を頼るしかなかった。
「何だよ、その嫌そうな顔は。」
「嫌なものは嫌なんだからしょうがないじゃない。」
「……。」
はっきりと言うユウリにマサシは顔を顰めた。
「それにしても遅かったな。」
「そんな事はありませんよ?」
「ふん、そのうそ臭い笑顔で言われても説得力は皆無だぞ。」
「え、エル様。」
険のある目で睨むエルに同じ副官であるルシスは笑顔で受け止めるが、その横ではチェレーノがあせっている。
「心配要りませんよ、チェレーノ。」
「本当にですか?」
「ええ、彼女のこの言葉は僕というよりはここにいないあの愚弟に対して言っているんでしょうから。」
「……。」
「……そうなんですか?」
さらりと自分の弟を「愚弟」呼ばわりするルシスにエルは思わず、今はここにいない彼に同情をしてしまった。
「ええ、そうに決まっていますよ。」
「…でも、ルシスさん。」
「何ですか?」
「自分の弟を「愚弟」ていうのはあまりよくないと思いますよ?」
珍しく怒っているような表情をするチェレーノにルシスは頬を緩める。
「何でですか?」
「わたしには弟たちがいます。」
チェレーノの家庭はアルテッド国の平民家庭のどこにでもありそうな姉妹の多い家庭で、彼女がその長女なのである。
「わたしは弟達が可愛いです。たとえ、「お姉ちゃんドジだからルシス兄さんに心配掛けちゃ駄目だよ」とか、「姉ちゃん本当に鈍感だね。」とか、「よく愛想尽かれないね。」とかよく言われますが、本当に可愛い弟たちです。」
「……。」
「……。」
「チェレーノ貴様は弟達にすら哀れられているんだな。」
「……いや、せめてそこは弟君たちに慕われているといわなければ…。」
「本気でそう思っているのか?貴様は。」
「……。」
「そうであろう。」
チェレーノの天然差に二人の上司は頭を悩ませる。
「あの…わたし変な事を言いましたか?」
何か変な雰囲気な二人にチェレーノは心配になり、ルシスの顔を覗き込んだ。
「………いえ、何でもありませんよ。」
「本当にですか?」
「ええ。」
まだ納得していないチェレーノは顔を歪めるが、ルシスはそれを見てそっと彼女の頬に触れた。
「本当にですよ。」
「……ルシスさん?」
「貴女らしくていいじゃありませんか。」
「それって褒められているんですか?」
「ええ、褒めていますよ。」
どうも褒められた気がしないチェレーノは顔を歪めた。
「ルシスさん。」
「ちゃんと褒めていますよ?貴女の素敵な部分が僕は好きですから。」
「ルシスさん……。」
「愛していますよ、チェレーノ。」
「……いい加減にしてくれぬか?」
イチャつくこの恋人達にエルが我慢の限度を超してしまって、低い声を出した。
「えっ、あっ!すみません!」
冷静になったチェレーノは自分の行動を思い返し、火を噴くほど恥ずかしくなったようだ。
一方、恥ずかしい台詞を素で吐くこの男は余裕綽々でこんな事を言った。
「おや、何ですか?恋人達の語らいの邪魔をして。」
「煩い、貴様は時間と場所を弁えろ。」
「おや、十分に弁えていると思いますが?」
「どの口が言っている、どの口が!」
噛み付くエルにルシスは笑った。
「この口がですよ。」
「貴様のその性格どうにかならぬか!」
「なりませんね。」
いがみ合う二人にとうとうユウリが切れた。
「いい加減にしてくださいっ!」
「……。」
「……。」
ユウリの言葉に二人の動きはピタリと止まった。
「今はそんなくだらないことをいっている事態ではありません。」
「…すまない。ユウリ殿。」
「……すみません、第一王女。」
「…第一王女と呼ばないで下さい、この場では私は一介の騎士です。」
「分かりました。」
ユウリが折れる人ではないと分かったルシスはこれ以上何も言わなかった。
「で、マサシ私に報告する事は?」
「侵入者だ。」
「ええ、もう聞いている。」
「誰も見ていない。」
「………成程ね。」
ユウリは顎に手を当て、真剣に考える。
「…多分、今日、明日…敵は動く。」
「…何か知っているのか?」
自分の知らない情報をユウリが知っている事にマサシは軽く驚いた。
「チサトがね。」
ユウリの一言にマサシは納得する。
この国の真の支配者であるチサトは独自の情報網を網羅しており、自分以上にかなりの知略を練っているはずだ。
「あんまり詳しくは教えてはくれないけど、それでも、国の情勢は知っておかないと。」
「……。」
頼もしいのか、頼もしくないのか分からないユウリにマサシは彼女に気付かれないように苦笑した。
彼の苦笑は確かにユウリには気付かれなかったが、ルシスにはばれてしまい、彼は彼のその表情を見て微かに笑った。
あとがき:ストックが無いので拍手されても時間が掛かりそうですね(苦笑)。それにしても久し振りの王国パロだ〜。
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