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弥生の河に言の葉が流れる

弥生の河に言の葉が流れる>掲示板

公開 メンバー数:7人

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  • from: yumiさん

    2010年11月02日 12時13分56秒

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    ダークネス・ゲーム〜外伝〜

    リクエスト(文化祭・白雪姫・友梨と昌獅)

    『秋風と共に――。』《前編》


     9月、それは何かとイベントが多い時期で、そして、例に漏れず、友梨(ゆうり)と昌獅(まさし)の学校も体育祭や文化祭の準備に追われていた。

    「高田(たかだ)さん。」

     友梨が振り返ると、そこには見知らぬ女子生徒がいた。

    「え…え〜と…、どなたですか?」
    「ああ、わたしは特進科3-Bの橋本(はしもと)というの。」
    「はあ?」

     友梨は別学科の子に声を掛けられる事などあまりなかったので、怪訝な表情を浮かべた。

    「ああ、一応言っとくけど、怪しいものじゃないわよ。」
    「……。」
    「今日は貴女に願いがあってきたの。」
    「……。」

     友梨は一瞬逃げようかと思うが、別に今までのような危険な生活ではないので、逃げる必要もないかと迷っているうちに、友梨は逃げる隙を失った。

    「単刀直入に言うわ。」
    「……。」
    「わたしたち演劇部の舞台に出て。」
    「は……はあ!!!!!!!」

     友梨はこの校舎に轟くような叫びを上げてしまい、この所為で、彼女はこの事で友人や見知らぬ人に冷やかされるとは知る由もなかった。



    「で?」
    「それだけ……。」
    「ふ〜ん、こんなくだらない事で、わたしに愚痴りに来たのね。」

     智里(ちさと)は凍りつくような冷たい目で友梨を見ていた。

    「だって……。ショックだったんだもん。」
    「そう。」
    「しかも、後から聞いたんだけど、この話を持ち出す切っ掛けを作ったのは!昌獅、何だよ!」
    「あらそう。」
    「あいつったら、自分のところに断れない頼みをされたからって、私にまで責任を押し付けてきたのよ!!」

     友梨が昌獅の名を上げた瞬間、剣呑の色が智里の瞳に映った。

    「あいつ、友だちで、しかも、先輩の妹の頼みだから、逃れられないからって、条件を出すなんて酷いじゃない!!」
    「で、どんなのなの?」
    「『普通科の高田友梨が劇に出るんだったら、俺も出ても構わない。』って!!」
    「それなら、お姉ちゃんが断れば言い話しじゃない。」
    「そんな簡単なものだったら、私だって断ったわよ…でも……ね…。」
    「でも?」
    「うん、今回の演劇を成功させないと部の存続が怪しいんだって……。」
    「とてもありがちの話ね。」

     智里は目で「本当にそれは作り話じゃないの?」と問うているので、友梨は苦笑を浮かべた。

    「本当よ、部員だってギリギリだし、何の成果もないからって。」
    「ふ〜ん…。」
    「そんな話を聞かされて、私が断れると思う?」
    「そうね、お姉ちゃんの性格からすれば、絶対に断れないわよね。」
    「う…ん。」

     友梨は弱弱しい笑みを浮かべた瞬間、友梨の携帯電話が震えた。

    「ふえ!」
    「お姉ちゃん奇声を発しないでよ。」
    「だ、だって…。」

     友梨は携帯の画面を見るとどうやら震えた理由は電話で、その相手は…昌獅だった。

    「……でないの?」
    「でるわよ、でてやる!!そして、文句を言ってやるわ!!」

     友梨は会話ボタンを押し、そして、電話の向こうから昌獅の声が聞こえた。

    『友梨か?』
    「私の携帯に掛けたんだから、私しか出ないでしょうが!!」
    『この前、電話かけたらお前の妹が出たぞ。』
    「へ?」

     友梨はそんな事があったかな、と首を傾げ、智里を見るが、彼女はそんな事を知らないのか首を横に振っている。

    「それ、嘘でしょ。」
    『何でそうなるんだよ。』
    「だって、智里は記憶ないって。」
    『誰が高田妹その一だと言った?』
    「えっ?もしかして、美波(みなみ)の事だったの?」
    『ああ。』
    「それ何時の事?」
    『お前が俺とのデートを忘れた日。』
    「う……。」

     友梨は覚えがあるのか、顔を強張らせた。

    『あん時確か何十回と電話しまくったからな。』
    「……ごめん。」
    『まあ、そんな事はどうでも言いだが、ちょっといいか?』
    「う、うん。」

     友梨はふと自分が昌獅に対して怒っている事を思い出した。

    「あ、昌獅!!」
    『………急にでかい声を出すなよ…。』

     電話の向こうで顔を顰めている昌獅に友梨は更に大きな声で怒鳴る。

    「何で私が出ないといけないのよ!」
    『決まった事だから。』
    「あんたが勝手に決めたからでしょうが!!」
    『別に暇だからいいだろ?』
    「何であんたがそう言いきるのよ!」
    『お前のクラス三年のクセに展示だろ?』

     友梨と昌獅の学校は一・二年が展示か教室の出し物か、舞台発表を選べる、そして、三年はそれらにプラスして飲食の販売が可能なのだ。だから、大抵のクラスは飲食の販売を選ぶのだが、何故か友梨のクラスだけは違ったのだ。

    「それが?」
    『店番とかないんだから、演劇にちょっと出るくらいは平気だろうが。』
    「何でそうなるのよ!」
    『しゃーねだろ?先輩の妹の頼みなんだから。』
    「ふ〜ん。」

     友梨は瞳を半眼にさせ冷たい声音を出す。

    『友梨?』

     流石は昌獅という所だろうか、昌獅は友梨の纏う空気が変わった事に気付いた。

    「そう、妹さんの頼みだから?本当はその子に惚れてんじゃないの!!この!浮気者―――――――!!」

     友梨は昌獅がこれ以上何も言わないようにすぐさま電源を落とした。

    「ふん!!」
    「まあ、いい薬かもね。」

     一部始終聞いていた智里は黒い笑みを浮かべ満足そうに頷いていた。

    「で、大丈夫なの?」
    「別に知らない!」

     こうして、友梨と昌獅の間に深い溝が出来た……といっても、友梨の一方的なものだ。
     そして、その日から昌獅は友梨に声をかけようとするが、友梨はうまく昌獅をかわし続け、とうとう、文化祭当日になってしまった。

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    マナ

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from: yumiさん

2011年04月26日 11時16分29秒

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「ダークネス・ゲーム〜外伝〜」
『その手に掴む温かなモノ』《後編》

「リョウくん!!」

 美波(みなみ)に手を引かれながら、涼太(りょうた)は苦笑する。

「こけるんじゃないぞ!」
「そんな訳――。」

 一体何度その遣り取りをしたのかはもう忘れてしまったが、それでも、美波はお約束どおり、涼太が注意した途端何かに躓き前へとこけそうになる。

「……お前な…オレまで巻き込むな」
「えへへ…。」

 手を繋いでいたからと、最近涼太の筋肉がついてきたために、美波は涼太に反対側に引っ張られる事で難を逃れた。

「ありがとう。」
「ん。」

 美波は満面の笑みを浮かべ、涼太はそれを見て、やや頬を赤らめながら頷いた。

「それにしても、友梨(ゆうり)お姉ちゃんも災難だね〜。」
「…だな。」

 先ほどの出来事を思い出した涼太は顔を引き攣らせる。
 よりによって何故子ども(涼太にしたらメチャクチャ不本意な言葉だが…)である自分たちを連れた友梨をナンパしたのか。
 相手の方にしたら、多分弱いヤツラばかりだと思ったのかもしれないが、それは大きな間違いだった。

「あの馬鹿どもも災難といや、災難だな。」
「そうだね〜、何せ相手が昌獅(まさし)さんだもんね。」
「ああ。」

 剣道、格闘技などをやっており、最近までは得体の知れない敵ばかりを相手にしてきた昌獅だ、ただの人間が敵うはずが無い。

「美波、迷路は二人一緒に入るか?」
「え〜、面白くないよ〜。」

 不満そうな顔をする美波だが、涼太は心配事が一つあった。

「お前、トラブルを起こさないと言いきれるのか?」
「……多分、大丈夫?」

 可愛らしく小首を傾げる美波だが、どう見たって大丈夫には見えない。

「はぁ〜……。」

 涼太は頭を掻いた。

「一緒に入ろう、お前絶対、中で迷子になるとか、変なヤツに絡まれたりしそうだ。」
「え〜。」
「いいな、二人一緒だからな。」

 強く言う涼太に美波はしぶしぶと頷いた。
 もし、友梨と昌獅が一緒ならばじゃんけんなどをしてペアをつくって別々の入り口から入っただろうが、ここには友梨も昌獅もいない。
 涼太は溜息を最後に吐き、美波の手をしっかりと握った。

「絶対にオレから離れるなよ。」
「ぶ〜。」

 頬を膨らませ、口を尖らせる美波はどう見たって、仏頂面の涼太よりも幼く見えた。
 不機嫌な少女と仏頂面の少年はそのまま迷路の入り口に向かった。

「…え〜と、二人ではいるの?」

 どう見ても幼い二人に迷路担当のお姉さんが困ったような顔をした。

「ああ。」
「……。」
「えっ…と、お母さんとかは?」

 どうやらお姉さんは二人が迷子なのだと思い、そう声をかけてきた。

「お母さんは家かな〜。」

 お姉さんの意図をちゃんと把握していない美波はボケた答えを言う。

「「……。」」

 お姉さんはどうやら、美波とでは話しが進まないと判断をしたのか、涼太の方を見た。

「……こいつの姉さんとその彼氏と来たんです。」
「……。」

 お姉さんは何と判断したのか、苦笑を浮かべた。

「フリーパスポートか券を見せてください。」
「はい。」
「ん。」

 二人は迷路の中に入っていった。通常ならば二十分もかからずに出られる迷路なのだが、どこをどう間違えたのか、二人は四十五分近くまでかかった。
 その原因は多分彼女だ……。

「リョウくん!こっちだよ!」
「おい、こら、美波そっちは――。」

 という会話や――。

「ふあっ!行き止まりだ。」
「……だから、言っただろうが…。」

 などや――。

「うわああん、出口が無い〜〜。」
「……違う、お前が方向音痴の所為だ。」

 という風に、美波が涼太を引っ張りまわした結果だった。
 因みにどのように出てきたかというと、それは涼太の御陰だ。
 涼太は自分が進んだ方向や、出口がある方向を見失わないようにしていたので、美波が迷った時間よりも早く出口に導いたのだった。

「難しかった〜。」
「……。」

 ぐったりとした涼太は顔を上げ、時計を見た。

「マジかよ…こんなアトラクションで四十五分??」
「ふみゃっ!」
「……。」

 奇声を発する美波に対し、冷たい視線を向ける涼太は頭をガリガリと掻いた。

「当然だよな……。」

 うまく時間を活用すれば、二つのアトラクションは乗れただろう。何故か今日はかなり人が少ないのだから。

「もしもし?」
『あっ、美波?今何処?』

 さっき美波が奇声を発した原因はポシェットに入れていた携帯電話が震えたからで、その電話をかけてきたのは友梨だった。

「今?迷路のゴール前。」
『……。』

 友梨はどうやら、美波の所為で時間がかなり潰れたのだと悟ったようだ。

『え…と、涼太くんに代わってくれる?』
「えっ?リョウくんに代わるの?」
『うん。』
「リョウくん、はい。」
「ん。」

 涼太は素直に電話を受けとり、その耳に当てる。

『涼太くん?』
「友梨先輩。」
『…………その様子じゃ、やっぱり駄目?』
「……。」

 黙りこんだ涼太に友梨は苦笑を漏らす。

『まあ、美波だしね。頑張って。』
「友梨先輩の方は終わったんですか?」
『うん、一応こってり昌獅を叱ってやったし、大丈夫でしょう。』
「それで、どうします。」
『う〜ん、まだ日が高いけど、帰りの電車が込むのは避けたいから、ラストの観覧車にいく?』
「別にオレはいいですけど、美波は、大丈夫ですか?」
『大丈夫よ、多分。』

 友梨のぼそりと呟かれた言葉に涼太はやや不安になるが、友梨が一応大丈夫だというので信じる事にする。

『それじゃ、観覧車前にね。』
「はい。ほら、美波。」
「もういいの?」

 電話を終えた涼太は美波に携帯を渡した。

「ん、観覧車だってさ、待ち合わせ場所。」
「そうなんだ、もう終わり?」
「電車込むのは避けたいそうだ。」
「そっか〜、それじゃ、行こう。」

 ニッコリと微笑む美波は涼太に手を差し出す。

「ん。」

 涼太は美波が迷子にならないように、という意味でその手をしっかりとに握った。



 観覧車の前で友梨と昌獅と合流した美波たちは四人で一つのゴンドラに乗った。

「うわっ…綺麗。」
「本当に、これなら高い所でも平気なのね。」

 感嘆の声を上げる美波を見ながら、友梨は目を細めた。

「……何で最後までお前らに邪魔されなきゃならん。」
「しょうがねぇだろ、昌獅のスケベ心を友梨先輩に読まれているんだから。」
「…普通だろ。」
「どうだか。」

 文句を零す昌獅に涼太は小さく肩を竦める。

「……絶対リベンジする。」
「あっそ、頑張れよ。」
「…今度は邪魔すんじゃねぇぞ。」
「さあな、昌獅が変な事を考えて友梨先輩を恐がらせなかったらこんな事にはならんと思うがな。」
「てめぇ……。」

 握り拳を作る昌獅に涼太は鼻で笑った。

「そういや、その頬の赤いもみじ友梨先輩がつけたのか?」
「……。」
「そりゃ、昌獅がいけないよな、折角のデートを自分で台無しにしたんだからな〜。」

 昌獅は眉間に皺を寄せ、思いっきり涼太を睨んだ。

「余計な事を……。」
「まあ、今回は感謝してやってもいいぞ。」

 涼太は上から目線で昌獅に言った。

「御陰で美波と一緒に入れたからな。」
「……。」
「昌獅、涼太くんそろそろ下に着くわよ。」
「ああ。」
「はい。」

 友梨の一言で二人の会話は終わった。
 下についたとき、昌獅は友梨に手を貸し、涼太もまた美波に自分の手を貸した。

「ありがとう。」

 ニッコリと微笑む美波を見ながら、涼太はこの笑みをずっと守っていきたいと強く思った。
 美波の温かな手を、自分の小さな手でしっかりと握った。
その手に掴む温かなモノはとても大切なもので、決して壊したくないガラス細工のように綿で包み込んで守っていきたい。
 大切だから……、好きだから。

あとがき:マナさんリクエストいただきありがとうございます!!
さて、中身といえば…涼太くん報われたんでしょうか?
……比較的ましとは言えそうですが、報われたかは少し疑問が残りますね…。
涼太くんがマシな分何故か、昌獅さんが酷い目にあっているような…。気のせいですよね?
本当に何万人記念の時のものかはちょっと忘れかけていますが、本当にありがとうございます。

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from: yumiさん

2011年04月25日 14時08分36秒

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「ダークネス・ゲーム〜外伝〜」
『その手に掴む温かなモノ』《中編》

「楽しい!」
「「「……。」」」

 小さなカフェテリアの一角で一人喜ぶ少女に残る三人はげんなりしていた。
 それもそうだろう、高校三年にしてメリーゴーランド……と友梨(ゆうり)は思い、残る二人は男とのプライドを捨てないと乗れないものだった。
 因みに、男二人はそれぞれの想い人もしくは恋人の頼みだったので、自分のちっぽけなプライドを砕いても何とか乗ったのだった。

「…次、何にする?」
「ジェットコースターはどうだ?」
「……あんた本気で言っているの?」

 オレンジジュースのカップを持ち、うんざりしたような顔をする友梨に昌獅はニヤリと笑った。

「冗談だよ。」
「そうじゃないと困る。」
「お前と確か高田(たかだ)妹その二はジェットコースターやお化け屋敷は駄目だったけか?」
「うん、私は最近お化け屋敷は平気だけど、美波は未だに駄目だよね?」
「うん。」

 美波はやや表情を曇らせ友梨の言葉に同意する。

「そうか、そんじゃ、何が残ってる?」
「ミラーハウス、小さな急流すべりもどき、観覧車に…期間限定の迷路かな?」
「あっ、私ミラーハウスと迷路に行きたい!」
「ん、涼太たちは?」

 友梨の意見に同意を示し、昌獅は涼太たちを見る。

「ん〜、どうしようか…。」
「急流すべりに行ってみたいかも。」
「大丈夫か?」
「うん、確か友だちに聞いたけど、全然高くもないし、濡れないって言ってたもん。」
「そうか。」

 涼太は頷き、マップを見る。

「ここからだと、迷路、急流すべり…という順番がいいか。」
「うん!」
「そんじゃ、その後は観覧車前で集合な。」
「そうね、その後で買い物で十分ね。」
「だな。」

 美波も涼太も友梨たとの意見に同意を示すようにゆっくりと立ち上がる。

「昌獅、お会計よろしくね?」
「…わーたよ、ああ、あんな約束すんじゃなかった。」
「もう、そこまで言うんなら、私の分だけ払おうか?」
「……。」

 友梨は鞄から財布を取り出そうとするが、昌獅の左手が止める。

「何?」
「払うから出すな。」
「もう、変な意地ね……。」

 友梨は呆れるが、それでも、そんな昌獅が嫌いじゃなかったので自然と笑みを見せた。

「涼太くん、美波、先に外に出てようか?」
「うん。」
「そうですね。」

 三人は外に出ていき、昌獅を待つ三人にどう見ても柄の悪い男たちが近寄ってくる。

「お姉さん。」
「おれたちと遊ばないか?」
「そんなガキどもは放って置いてさ。」
「「……。」」

 友梨と涼太は同時に顔を顰めた。その姿は本当の妹である美波よりよっぽど姉弟のように思えるほどだ。

「連れがいるので。」
「どうせ、そいつもガキなんだろ?」
「別に良いじゃねぇか。」
「止めとけよ。」

 友梨に詰め寄る男たちの間に小柄な少年、涼太が割り込む。

「殺されるぞ。」
「お前にか?」
「ははは、そりゃ傑作だ。」
「……。」

 涼太は呆れたような目で男たちを見た。

「馬鹿ばっかり。」
「……同感。」

 友梨の吐き捨てるように言った一言に、涼太も同意の言葉を漏らす。

「……あ〜…やってしまったようね。」
「……ですね。」

 最近特に緊迫した状況にいた二人は気配に鋭くなっていた。しかも、相手は味方だったらどんな気配でも直ぐにわかるだろう。

「やってしまったわね。」
「ええ、でも、丁度良いですけどね。」

 ゆっくりと自分たちに近付く只一人の気配は殺気を帯びている。

「半殺し?」
「せめて、骨か歯の一本くらいじゃ?」
「どうかしらね……。」

 涼太と友梨は同時に溜息を吐く。

「どちらにしても。」
「無事じゃすまないな。」
「ふぇ??」

 友梨と涼太が諦めの境地に入り、只一人訳が分からない美波を放って置いて、殺気の元凶が姿を表した。

「おい、そいつは俺のだ。」
「……馬鹿昌獅。」

 友梨は昌獅のストレートの言葉に顔を赤く染める。

「んあ?」
「誰だよ。」
「この姉ちゃんはおれたちと遊ぶんだぞ。」
「きゃっ!」

 急に手を引かれた友梨は嫌悪の篭った目で、男たちを睨んだ。

「はな――。」

 友梨が怒鳴ろうとした瞬間、友梨を掴んだ男が文字通りぶっ飛んだ。

「………あ〜〜〜〜〜〜〜。」
「……オレ知らねぇ……。」
「ふぁ、すごく遠くに飛んだね〜。」

 暢気な声に友梨は思わず頭を抱えたくなったが、それよりも、昌獅が一番不味かった。
 昌獅の目は据わっており、殺気だけで人を殺せそうな勢いで、しかも、容赦なく一人の男の胸倉を掴んでいる。

「……ふぅ。」
「友梨先輩?」
「ごめんね、少し席を外すわ。」
「えっ?」

 唐突にいなくなる友梨に涼太は目を丸くさせるが、次の瞬間、意識は昌獅に向けられる。
 バキッ、という嫌な音が聞こえ、そして、次の瞬間、物凄く痛そうに悶える声、どうやら昌獅は男の一人の骨を折ったようだ。

「やべぇ…。」

 涼太が顔を真っ青にしているその時。

「ストップ!」

 いつの間にか、柄の長い箒を手にした友梨が昌獅の繰り出した拳を受け止めた。

「友梨?」
「…………昌獅?」

 友梨は笑みを浮かべるが、その目は笑っていない。

「……。」
「自分が何をしたかよ〜く分かってる?」
「……悪い。」
「…ふ〜ん、涼太くん、美波。」
「はっ、はい!」
「ふえ?」
「二人は遊んでいらっしゃい、私はこの馬鹿を説教するから。」

 優しい声なのに有無を言わせぬ迫力があり、涼太は冷や汗を流す。

「は、はい…。」
「気をつけてね?」
「うん、行ってきます。リョウくん、行こう。」

 美波もここにいてはいけないと分かっているのか、珍しく走り出す。

「ふふふ、さ〜て、昌獅。」
「……。」
「何でよりによって、初デートで問題を起こすのよ!!!」
「悪い…。」
「許す訳ないでしょうが!!!!」

 友梨の怒声は遊園地中をかけた。
 そして、友梨たちは見世物化していたのだが、本人達は全く気付いていなかった。

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from: yumiさん

2011年04月24日 11時34分14秒

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「ダークネス・ゲーム〜外伝〜」
リクエスト(涼太の報われる話)
『その手に掴む温かなモノ』《前編》

『あ、もしもし涼太(りょうた)くん?』

 唐突に聞こえた声に涼太は目を見張った。

「友梨(ゆうり)先輩?」
『ええ、ちょっと良いかな?』
「……何かあったんですか?」
『う〜ん、あったと言えばあったんだけどね……。』

 言葉を濁す友梨に涼太は首を傾げた。

「……一体なんなんですか?」
『あのね……、ダブルデートして欲しいの。』
「……………………………………………………はあ!?」

 言葉の認識に時間を掛けた涼太は素っ頓狂な声を出した。

『…ごめんね、行き成り変な事を言って。』
「い…え……。」
『昌獅(まさし)が遊園地に行こうって誘ってきてくれたんだけど…、私デートなんて今まで一度もやった事がなかったから…。』
「……。」

 納得はした。涼太だが何で自分がそんな事をしなくてはならないのか、と溜息を吐きたくなったが、相手が友梨なのでそんな事は出来ない。

『それに…昌獅がしょっぱなから変な事しないか…不安で……。』
「あ〜……。」

 確かに昌獅なら隙あらば友梨を喰らうだろう…、涼太はそんな事を考え、友梨にはかなりの貸しがあるので承諾するしか道はなかった。

「分かりました。」
『ありがとう。』

 電話の向こうで笑みを浮かべている友梨を思い浮かべ、涼太は苦笑した。

「で、オレの相手は誰なんですか?」

 ダブルデートと言うくらいだから、間違いなく相手役の少女がいるだろうと思い、涼太は諦めた感じで言った。

『美波(みなみ)よ。』
「――っ!」

 涼太は一瞬心を読まれたのかと思い、危うく携帯電話を落しかけた。

『ふふふ、涼太くんは本当に美波が好きなのね。』
「……。」

 涼太は自分の頬に熱が集まる事を感じ、ここに友梨がいなくてよかったと思った。

『涼太くんに美波以外の女の子とデートさせるなんて、恩を仇で返すようなものだからね。』
「友梨…先輩。」
『私は涼太くんと美波が付き合うのは大賛成よ?』
「……。」

 涼太は自分の周りが敵だらけじゃないと分かり、ホッと息を吐いた。

『今回のデートの費用は一応昌獅持ちなんだけど、一応お金を持ってきて、美波に何かプレゼントしたらどうかしら?』
「友梨先輩……。」

 涼太は目を閉じゆっくりと口を開く。

「ありがとうございます。」
『…いいのよ、私だって涼太くんにはたくさん迷惑掛けているからね。まあ、正しく言えば私たち姉妹がね。』
「……。」

 涼太は小さく苦笑を浮かべ、高田家の三姉妹を思い浮かべた。
 長女の友梨は何かと涼太を助けてくれるが、昌獅が関連すると何故か被害が涼太の元にやってくるのだ。
 次女は次女で妹を思うが故か、それとも只単に気が会わないのか、涼太を虐める……。
 三女で彼の想い人である美波といえば、涼太がどんなにも彼女を思っていても、まったく気付かない。それどころか、第三者にばかり知られていき、彼は最近哀れんだ目で見られる気がしてならなかった。
 そういう訳で、涼太は高田三姉妹からかなりの苦労をかけられていた。

『涼太くん。』
「何ですか?」
『今週の日曜日、十時に駅前に集合ね?』
「分かりました。」
『必要なら、逸れてあげようか?』
「えっ?」
『最後の方は美波と一緒にいられるようにはかった方がいいかな〜、と思ってるの。』

 涼太は絶句する。智里もそうだが友梨も時々爆弾を落す。
 それは、涼太にとって嬉しいものもあるが、たまにとんでもなく大きいダメージを与えるものを落すのだ。

「い、いりません!」
『……ふふふ。』

 電話の向こうで友梨は笑う。

『うん、そう言うと思った。涼太くんだって行き成り、美波と一緒にいる事になっても困るもんね。でも、二人っきりなりたかったら、教えてね?』
「……。」

 涼太は脱力でその場に座り込みになりそうになった。

「友梨…先輩。」
『あはは、ごめん、ごめん、それじゃ、当日よろしくね?』
「分かりました。」
『それじゃ、ありがとうね?』
「いえ……。」

 電話を切った涼太はやや疲れている表情をしているが、その顔にほんの少しの喜びが浮かんだ。

「…………これって棚から牡丹餅?…いや、少し違う気が……。」

 涼太は本気で悩んでいるのか眉間に皺を寄せ、その場に倒れこむ。

「……まあ、あの姉の方がいないんだから、最悪な事態には……ああ…伏兵がいた……。」

 涼太は頭を抱え、その場で嘆く。

「あの…天然娘……、あいつがどう出るか……。」

 涼太は何度もあの天然娘である美波が何度も涼太を持ち上げ、そして、容赦なく何度も落としてきたのだった。
 何度も「男」として見られていない、しかも、「男」と見られたとしても「弟」、つまり、家族愛の延長線上だ。
 今回のデートで少しでも意識させられればと淡い期待を抱きそうになるが、涼太は頭を振ってその考えを振り払う。

「駄目だ…あいつは何か知らんが、簡単に逃れる…つーか…オレにダメージを与えてどっかに行く……。」

 今までの経験上涼太はあまり期待しない事を心掛けたのだった。



 時間は過ぎ、等々約束の日曜日……。

「何でテメェがいるんだよ。」
「友梨先輩に呼ばれたんだ、仕方ないだろう。」
「……ちっ。」

 メチャクチャ不機嫌そうな昌獅は舌打ちをした。どうやら、昌獅の方にはダブルデートだと言う事は伝わっていなかったようで、彼はただいま不機嫌の絶頂だった。

「うわっ、珍しい。」
「おはよう、リョウくん、昌獅さん。」
「…友梨。」
「よう、美波。おはようございます、友梨先輩。」
「おはよう、涼太くん、今日はありがとうね?」
「いえ…でも、何で昌獅には知らせてなかったんですか?」
「おい…テメェら。」
「だって、教えたら何が何でも涼太くんか美波に用事を作って追い出しそうだもの。」
「……確かに。」

 友梨の言い分に涼太は納得をする。

「おい、聴けよ。」
「何?昌獅。」

 ようやく友梨が口を聞いてくれた事に昌獅はホッとするが、自分が怒っても言い立場であると思い出し、眉間に皺を寄せた。

「友梨、お前な。」
「昌獅がいけないんでしょ、誘ってきた当初の言葉を忘れた訳?」

 いつも以上に冷めた目付きに昌獅は思わず怯んだ。

「確か…「覚悟しとけよ。」だったかしら?警戒して何が悪いの???」

 クスクスと黒い笑みを浮かべる友梨はまるで彼女の妹の最悪、最凶のあの人を彷彿させた。

「ぐっ…。」
「私はね、初めてなのよ、男の人と付き合うのも、こうして、出掛ける事も。」
「……。」
「だから、こうして、涼太くんを呼んだの、それくらい許してよね。」
「分かったよ、呼んじまったもんはしょうがないしな。」
「ありがとう、昌獅。」

 ニッコリと微笑む友梨の笑みを見て昌獅はようやく彼女の本当の笑みが見れた事に安堵する。

「そんじゃ、時間も惜しいから行くか。」
「そうね、美波、逸れないように手を繋いでなさいよ。」
「は〜い、迷子にならないでねリョウくん。」
「……オレは迷子に何ねぇよ!」
「え〜?」

 不満そうな声を上げる美波に涼太は頭痛を覚えた。

「……迷子になるのは美波だろうが……。」
「何か言った?」

 あまりに小さく呟かれた言葉だったため幸いにも美波の耳には届かなかったようだ。

「何でもねぇよ。」

 涼太は美波の手を掴み、改札の方へと足を向ける。

「ほら、さっさと歩けよ。」
「待ってよ。」
「何もない所でこけんなよ。」
「こけないよ〜。」
「どうだか。」
「何でそんな意地――っ!」

 言っているそばから美波は履きなれない靴を履いていたためかこけかけるが、それを見越していた涼太が支える。

「言ってるそばからこれかよ。」
「たまたまだもん!」
「どうだかな。」

 肩を竦める涼太を睨みつけた美波は軽く頬を膨らませる。

「リョウくんの――。」
「んじゃ、行くぞ、今日はデートだからな。」

 美波が「馬鹿」と叫びだす前に、涼太はさっさと美波を引っ張り出す。

「ふえっ……。」
「折角の友梨先輩たちの好意だ、喧嘩なんかしたら失礼だろ?」
「……。」

 耳打ちされ、美波はキョトンと目を見開いた。

「そうだね。」
「だろ、行こうな。」
「うんっ!」

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from: yumiさん

2010年11月02日 12時20分59秒

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「ダークネス・ゲーム〜外伝〜」
『秋風と共に――。』《後編》

 七人の小人と対面した白雪姫――友梨(ゆうり)はせっせと箒を持ってその場所を掃いていた。
 そして、そこに魔女ふんするおばあさんがやってくる。

「お嬢さん、すみませんが、水をいっぱいもらえないかね?」
「あっ、はい、少しお待ちくださいな。」

 友梨はコップをおばあさんに渡した。

「どうぞ。」
「ありがとうね、お礼にこのリンゴを受け取ってもらえるかね?」
「いいのですか?」

 友梨は瞳を輝かせ、リンゴを受け取る。

「まあ、とてもおいしそうね。」
「一口食べてみたら分かるよ?」

 魔女の口元がニヤリと笑うが、友梨は気付かない。

「それでは――。」

 友梨がリンゴを一齧りした時、彼女はバタン、ゴトン!!と音を立て床へと倒れこむ。

「……ねえ、智里(ちさと)お姉ちゃん。」
「何かしら?」
「さっき、物凄く痛そうな音しなかった?」
「したわね。」
「……やっぱり?」

 美波(みなみ)は心配そうな顔を舞台上にいる友梨に向ける。

「大丈夫でしょ、お姉ちゃんは意外に頑丈だから。」
「……。」

 そして、舞台の話がとうとう王子様――昌獅(まさし)が登場する。

「ああ、何て美しい姫なんだ。」

 微妙に棒読みで涼太(りょうた)と美波は笑いを堪えるので精一杯だった。

「王子様、どうか、姫を助けてください。」
「……分かった。」

 昌獅の顔が友梨に近付く。
 本当ならこのままキスをした振りですんだのだが、不幸が起こった。
 ガタンッ、という音を立て、友梨の眠っている棺…昌獅が丁度体重を掛けていた部位が外れてしまった。

「なっ!」

 思わず昌獅の声が漏れ、そして、体勢を崩した昌獅は体制を保つ事が出来ず、友梨の唇と昌獅のそれが重なった。

「――っ!」
「……。」

 友梨の目がカッと見開かれたのだが、一番前に座っていたほとんどの者たちが見えていない中、ただ一人、智里だけは眉を吊り上げた。
 因みにこんな事が起きるとは思っても見なかった小人たち(助っ人の皆さん)は固まっており、誰も続きの台詞を言えなかった。
 誰もが頭の中を真っ白にさせる中、意外にも友梨だけは笑みを浮かべた。

「貴方様が助けてくれたのですか?」
「……あっ、ああ……。」

 ニッコリと友梨は微笑んでいるのだが、残念ながら近しい間柄である昌獅は友梨が怒っている事を悟ってしまった。
 そして、この時一人の少女が席を立った。

「ち、智里お姉ちゃん?」
「智里ちゃん?」
「……。」

 連れの三人の内二人は突然の智里の行動に驚くが、一人の少年、涼太だけは予想していたのか、呆れたような顔をした。
 そして、少女はこっそりとその場を抜け出し、その後を勇真(ゆうま)が追った。
 実はその後を美波も追おうとしたんだが、涼太に「どうせ、行っても巻き添えを食うだけだから、行くなよ。」と言って止められる。
 劇は何とか無事に終えられたが、最後の方だけが、どう終わったかというのは舞台に立っていた大半の人間と美波、涼太は分からなかった。



「……友梨?」
「……。」

 ドレスを着たまま友梨は校舎の中を歩いていた。そして、同じく舞台の衣装を着た昌獅が彼女の後を追う。

「待てよ。」

 やっと、友梨の手を掴むが、友梨は容赦なく回し蹴りを昌獅の腹に食らわせる。

「ぐっ……。」

 昌獅は腹を押さえ、その場にしゃがみ込んでしまった。

「いい加減にしてよね……。」

 友梨の声が震えていた、昌獅はその声を聞き自分の腹の痛みなど忘れた。

「ゆう――。」
「分かってるわよ…アレが事故だという事くらい……。」
「……。」
「放っといて……。」

 友梨は昌獅を突き放そうとするが、昌獅は全くその気が無いのか、彼女の腕を掴む。

「昌獅っ!!」

 悲鳴に近い友梨の声が響く。

「怒るんなら、怒ってくれ、そうやって感情を抑えられる方が堪える。」
「……。」
「確かにさっきの出来事は事故だが……、俺は不謹慎だが…少し嬉しかった……。」

 友梨の顔に赤みが差す、それは怒りなのか、羞恥なのか昌獅にも分からなかった。

「悪いな……。」
「……。」
「ふ〜ん。」
「「――っ!?」」

 唐突に聞こえた第三者の声に友梨と昌獅は恐ろしいほど早く反応を示した。

「ち、智里。」
「お姉ちゃん、ちょっとこっちに来てくれる?」
「う、うん……。」

 友梨は訳が分からないまま智里に近付いた。そして、丁度智里が一歩前に出て、昌獅と対峙する。

「昌獅さん、さっきの言葉はあまりじゃありません?」
「……。」

 般若の如き智里の顔に昌獅は引き攣る事しかできなかった。

「それにしても、お姉ちゃんを泣かすまねをするなんて、本当にわたしを怒らせたいんですね…。それはワザとやっているんですか?」
「そんな訳ないだろうが。」
「ふ〜ん、そんな性格だから、お姉ちゃんに「浮気者」などと言われるんですね〜。」

 何日か前に友梨に言われた台詞を思い出し、昌獅は固まった。

「それにしても、本当にお姉ちゃんたちは馬鹿?」
「えっ?」
「そんな目立つ格好でいるから、余計に目が引くじゃない。」
「あっ!」

 友梨は自分がまだ舞台衣装を着ている事を思い出し、羞恥で顔を真っ赤にさせる。

「ほら、さっさと着替えてきなさい。みっともない。」
「う、うん。」
「……。」

 二人は控え室に向かって歩き始めた。

「智里ちゃん。」
「何かしら?」
「今回は結構軽いんじゃない?」
「そりゃ、アレは一応事故だし、昌獅さんだけを責める事は出来ないわ。それに、やっと、二人が仲直りするんだから、まあ、それを差し引いてこんなものかしらね。」
「ははは……。」

 勇真は乾いた笑みを浮かべ、そして、昌獅と友梨をそっと不憫に思った。



「なあ、友梨。」
「……。」
「言っておくが、先輩の妹とは本当に何もない、それどころか、そんな存在がいる事をこの前知らされたんだからな。」
「……ふ〜ん。」
「……。」

 昌獅はこれ以上言う言葉が思い浮かばず、黙り込む。

「……浮気者って言ったけど、別に疑ってた訳じゃないの…ただ、急にムカついて…つい…。」
「何でだ?」
「さあ、昌獅って女友だちがいないと思ってたから、そんな人がいたなんてって、ショックを受けたんだとは思うんだけど……。」
「……。」

 昌獅は一瞬友梨が嫉妬してくれたのだと思ったのだが、友梨の表情を見れば、それが本当に嫉妬と呼べるものか分からなかった。

「まあ、多分色んなストレスがあってそれを感情的に出てしまったのね、うん、そうよね、文化祭の準備や入試とかも近いし、それらが混ざり合って、昌獅にそれを向けてたのね。」

 完全に八つ当たりだったと言い切る友梨に昌獅は複雑そうな顔をしたのだった。

 さてさて、今回の文化祭は成功したのか、失敗だったのかは分からないが、取り敢えず友梨たちの活躍(?)により演劇部の廃部の話はなくなった。

あとがき:マナさん、リクエストしてくださって有難うございます!!色々なパターンを考えたりもしたんですが、ついつい、ギャグっぽくなってしまいました……、何でかな〜?
お気に召されるかは分かりませんがよければ感想なども聞かせていただければうれしいです。
まだまだリクエスト募集中です!!

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from: yumiさん

2010年11月02日 12時16分35秒

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「ダークネス・ゲーム〜外伝〜」
『秋風と共に――。』《中編》

 沢山の生徒がひしめき合う舞台裏。その中の簡易の着替え場の中で友梨(ゆうり)は今回の劇の衣装である白雪姫の衣装を着込んでいた。

「高田(たかだ)さん、一人で着れる?」
「あ、大丈夫です…、でも、化粧を後からお願いしますね、私…下手…というか、やった事が無いんで。」
「分かった、後で声かけてね。」
「はい。」

 友梨は大体着替え終えると、近くにあったかつらを引っつかんで更衣室を後にした。

「お姉ちゃん。」
「えっ?」

 聞き覚えのある声に友梨は振り返ると、そこに智里(ちさと)、美波(みなみ)、勇真(ゆうま)、涼太(りょうた)の四名がいた。

「あ、智里たち来てたの?」
「ええ、今日はわたしの学校も休みだったからね。」
「ああそっか、確かに智里の学校も土曜日は学校だったわね。」
「そうよ、忘れてた?」
「うん、すっかり。」
「……。」

 智里の目が据わるが、友梨はそれを敢えて無視をした。

「美波、涼太くん。」
「何?」
「何だ?」

 二人は同時に首を傾げた。

「はい、これ。」

 友梨は美波と涼太の手にそれぞれの紙切れを渡した。

「私のクラスは模擬店はやってないから、よそのクラスのだけど、一応ただ券。」
「いいの!?」
「……。」
「ええ、私は絶対行く気なんかないから!!」

 美波だけは気付いていないが、友梨は黒い笑みを浮かべていた。
 涼太はそっと手に乗せられたただ券を見て、そして、納得する。
 彼女が手渡した模擬店のクラスは昌獅(まさし)のクラスのものだった。涼太は友梨と昌獅が喧嘩している事は知らなかったが、彼女の様子を見て昌獅が何かをやらかしたのだと悟った。

「……………そういえば、友梨先輩は何の役だ?」
「あら、言ってなかったかな?劇は「白雪姫」で、私の役は「白雪」よ。」
「えっ?助っ人なのに主役?」
「うん、演劇の部員は三人しかいなくて、その中で女子生徒が一人あとは男子生徒なの。」
「そうなんだ。」
「うん。」

 涼太はふと昌獅は何の役をやるのかと思ったが、それを口にする事はなかった。何故なら、先に地雷を踏んだ人物がいたからだ。

「そういえば、昌獅さんは?」

 無邪気に訊いたのは美波、尋ねられた友梨といえば――。顔を強張らせていた。

「馬鹿…美波……。」

 涼太は口角を引き攣らせ、友梨が噴火しない事を願った。

「………あいつ?」

 友梨の目が据わり、声音だっていつもより低く凍りつくような声だった。

「?」

 鈍感な美波はさすがというのか、友梨が怒っている事に気付いていない。

「うん…、そうだよ?」
「…………「お」がつく役。」
「お…?」

 美波は首を傾げ、ふっと出てきた単語を言った。

「おまる!」
「……。」
「……。」
「……。」
「……馬鹿。」

 美波の一言で傍観者だった勇真を含めた三人は哀れみを込めた目で美波を見て、最後の言葉を呟いた智里だけは額に手を当て馬鹿にした目で彼女を見ていた。

「普通、「王子」って答えるでしょうが。」
「あっ!そうか、王子様なんだね。」

 無邪気に両の手を合わせ納得する美波に友梨たちはどっと疲れたかのように肩を落とした。

「お姉ちゃん、これから本番だけど気力は残ってる?」
「…ヒットポイント尽きかけてるかも…。」
「ご愁傷様。」
「……。」
「高田さん!?」
「「「えっ?」」」

 三人の高田姉妹が同時に振り返ると、いかにも悪い魔女の格好をした橋本(はしもと)が近寄ってきた。

「最後に台詞あわせをしたいから来てもらえる?」
「あっ、はい、今からいきます。」

 友梨は数歩歩いたと思ったら、直ぐに立ち止まった。

「そうだ、ゆっくりとしていってね、皆。」
「ええ、そうさせてもらうわ。」
「頑張ってね、友梨お姉ちゃん。」
「友梨ちゃんなら大丈夫だよ。」
「気をつけて。」

 それぞれ友梨に言葉を贈り、友梨は笑みを浮かべ立去った。

「………本当に大丈夫かしら?」
「ふえ?」
「お姉ちゃんよ、劇の最中に相手役に嫌そうな顔をしなければいいんだけど。」
「ああ、確かに…友梨先輩ならやりそうだ。」

 自分の気持ちに正直な友梨なら劇中だろうが道端だろうが、嫌なものは嫌な顔をする、だから、そんな友梨を智里は心配(?)していた。

「それにしても、今回の喧嘩は長いわね。」
「……。」

 涼太と勇真はさっさと昌獅が折れれば良いのにと思っていた。だが、二人は昌獅の現状をちゃんと把握してないのでそんな無責任な事を思っていられるのだ。
 昌獅の今の現状は自らのクラスの出し物や、クラブの出し物、そして、今回の助っ人で出る劇の準備などに追われ、友梨に話しかける暇があまりない上に、ほんの少しでも時間があれば友梨に話しかけようとするのだが、彼女は鮮やかにそれをかわし続けているのだ。

「さて、少し回ってから体育館に行きましょうか。」
「そうだね!」
「時間もまだあることだから、それが良さそうだね。」

 智里たちが歩き始め、その後を追うように涼太も歩き出した。その瞬間、足元にあった何かを涼太は蹴飛ばしてしまった。

「んあ?」

 涼太は怪訝な顔をしながら自分が蹴飛ばしてしまったものを拾い上げた。

「……釘?」

 何でこんなものがこんな所に落ちているんだ、と涼太は顔を顰めていると――。

「リョウくん!ほら、行こう!!」

 何時の間にか美波が涼太の腕を取って、引っ張り始める。

「ま、待てよ。こけるだろうが。」
「ほらほら。」

 美波は聞く耳を持たないのか、そのまま涼太を連れて行った。



 それから友梨たちが出る劇の番へとなる頃、友梨は舞台の袖から客席を見ていた。
 いつもは短い髪をかつらによって長く見せ、纏うドレスは学生の手作りには見えないほど上手で、ぱっと見では儚げな少女のようにも見えた。

「う…人多いな…台詞とちりそう……。」

 友梨の手は小刻みに震え、緊張の具合が分かる。

「あっ…智里たちだ……。」

 下手なものを見せる事が出来ないと思いながら、友梨はふっと周りを見渡した。

(……って!私なにやっているのよ!!)

 視界の端に見知った人物を見つけ、自分が彼を探していた事に気付いた。

(絶対に、今回はあいつの手助けなんか借りないんだから!!)

 友梨は自分の頬を叩き気合を入れ、そして、舞台が始まった。

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