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from: yumiさん
2011年10月18日 12時10分39秒
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『さよなら』のかわりに―貝殻を―
去年の夏、沙梨(さり)は大切な人を失った。彼は優しく強く、だけど、呆気なく亡くなってしまった。沙梨は叔父夫婦と従妹の綾(あや)とその義弟である誠(まこ
去年の夏、沙梨(さり)は大切な人を失った。
彼は優しく強く、だけど、呆気なく亡くなってしまった。
沙梨は叔父夫婦と従妹の綾(あや)とその義弟である誠(まこと)と一緒に、彼を失った海岸に遊びに来ている。
「…沙梨…本当に大丈夫?」
事情を知っている綾は心配そうに沙梨の顔を覗き込んだ。
「大丈夫よ。」
「……。」
少し顔色の悪い沙梨に綾は心配になる。
「……おい、綾っ!」
「…ほら、呼んでいるから行っていいわ。」
「……。」
綾はまだ何か言いたげだったが、義弟であり、今では恋人である誠に呼ばれ、しぶしぶ綾は彼女から離れていった。
「…………。」
沙梨はジッと海を見る。
その目は悲しみに満ちていて、彼女ほどの美女がいるというのに誰も声をかけようとはしなかった。
「………さん…。」
沙梨は亡くなったその人の名を呟いた。
「…どうして、私を置いて逝ったんですか?」
物悲しい声が風に乗って、空へと消えた。
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from: yumiさん
2011年10月25日 12時45分23秒
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「『さよなら』のかわりに―貝殻を―」
「こんにちは。」
「……君たちは。」
急に話しかけられ、広人(ひろと)は面を食らったような顔をしている。
「確か、沙梨(さり)さんの従姉妹の……。」
「そうです、わたしは綾(あや)で、こっちは誠(まこと)です。」
「綾ちゃんに誠くんか。」
「単刀直入で訊く。」
まるで抜き身の刃のような鋭さを持つ誠に広人は目を見張る。
「お前は沙梨さんが好きなのか?」
「誠っ!」
もっと言い方があるのに、というように綾が誠を睨むが、彼はそんなのを無視して、ジッと広人を見ていた。
「好きだよ。」
「……あいつに恋人がいたとしても?」
「……。」
広人はそんな事を考えていなかったので、目を見張り、考え始めた。
「…一方的な片思いでも正直かまわない…。」
「……。」
誠の目がほんの少しだが、和らいだ。彼自身もずっと綾に恋していた、だから、想いが実のならなくてもいいと、考えていた時期もあったのだ。
「そりゃ、想いが通じ合えば嬉しいけど、そう簡単に両思いになるのは難しいし、それに俺たちは出会って間もないからね。」
「成程な。」
「これが俺の本心、どう?認めてもらえるかな?」
「取り敢えず、及第点だ。」
「手厳しい。」
「そりゃ、自分の恋人の親友だからな、変な虫が付いて、綾がヤキモキするのを見たくないからな。」
誠の言葉に広人は納得し、綾は目を丸くさせながら顔を真っ赤に染めていた。
「成程、君は特に沙梨さんの事は何とも思っていないようだから、正直何を考えているのか、分からなかったけど。今納得したよ。」
「そりゃどうも。」
顔を顰める誠に広人は苦笑する。
「…沙梨さんは、彼氏がいたんだ。」
「いた?」
「ええ、いた、一年前まで……、一年前の夏……沙梨たちはここに来て、帰り道に彼氏の方が車に撥ねられて、ほぼ即死。」
「沙梨さんは凄く落ち込んだよ。」
「だから、ここに来て、沙梨が塞ぐんじゃないかと心配だった。」
本当に沙梨を心配する二人に広人は彼らの頭を撫でた。
「ごめん、赤の他人にこんな事を話させてしまって。」
「…わたしたちは貴方に期待しているんです。」
「期待?」
綾の言葉に広人は軽く目を見張った。
「ああ、期待だ。」
「……俺は…、期待されるほどの人間じゃない。」
「そうでもないです。」
「だな。」
互いの視線を交わし、頷く綾と誠に広人は不安になる。
「君たちは俺を過剰に評価しているよ。」
「そうでもないですよ。」
「沙梨さんの様子が物語っているしな。」
「えっ?」
訳が分からない広人は首を傾げる。
「沙梨、実は男の人が苦手なの。」
「……。」
自分とは普通に話していたので、広人には綾の言葉が嘘のように思えた。
「綾の言っている事は本当だ。」
「……正直、貴方と話している沙梨を見てびっくりとした。」
「そうなのかい…?」
「ええ、誠でさえ、沙梨なかなか話そうとしなかったもの。」
「正直、いけ好かない女だと思ったがな。」
「もう、誠ってば。」
当時の事を思い出してか、誠は顔を顰めた。
「しゃーねーだろ、顔見てすぐ怯えたような顔をするんだからな。」
「……。」
確かに一時期の沙梨の態度は正直褒められたものではなかった、しかし、理由を知っている綾にしては当然の事かもしれないと思いた時もあったのだ。
「仕方ないよ……。」
「……まあ、理由の知った今だから同感だけど、知らなかったら結構ムカつくんだよ。」
「……誠。」
「まあ、ストーカーって恐いからな。」
「……。」
広人はその一言で何となく沙梨の身に何が起きたのか、悟った。
「分かったよ。」
「えっ。」
「あっ?」
広人は従姉思いの二人に微笑みかける。
「君たちの気持ちに添えるかは分からないけど、沙梨さんに気持ちを伝えるよ。」
「ありがとうございます。」
「……。」
丁寧に頭を下げる綾と仏頂面で自分を見る誠のそれぞれの顔を広人は落ち着いた表情で見ていた。
「本当に君たちは偉いね。」
「……子ども扱いすんじゃねぇ。」
本当に嫌そうに誠は眉間に皺を寄せているが、広人はそれを余裕のある笑みを浮かべている。
「そんなつもりはないよ。」
「どうだか。」
誠はどうやら子ども扱いされるのが嫌いなようで、広人はそんな誠を微笑ましく思った。
「まあ、本当に沙梨を頼んだからな。」
誠はまるで野生の獣のような目で広人を見た。
「もし、綾に心配掛けさせるんなら容赦しないからな。」
「……。」
広人は本当に、誠は綾の事が好きなのだと実感しながら頷いた。
「分かったよ。」
広人が頷くと、二人は安心したように互いの顔を見合わせた。
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