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from: yumiさん
2012年02月04日 10時54分22秒
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『さよなら』のかわりに―口付けを―
「はぁ〜。」馬鹿な友人に対して本城洸太(ほんじょうこうた)は深々と溜息を吐いた。何が悲しくて折角の冬休みに病院、しかも、悪友の見舞いの為に来なければな
「はぁ〜。」
馬鹿な友人に対して本城洸太(ほんじょう こうた)は深々と溜息を吐いた。
何が悲しくて折角の冬休みに病院、しかも、悪友の見舞いの為に来なければならないんだろうか。
本当は来る気などなかった、それもコレも色ボケした兄の所為だ。
「あの馬鹿兄貴……。」
洸太は拳を握り締め、あの兄――征義(まさよし)がこの秋丁度教育実習場所で出会った少女――秀香(しゅうか)を家に呼んで、丁度いいからと洸太を追い出したのだ。
「嫌われちまえばいいのにな……。」
恨み言を言う洸太だが、その願いは叶ってしまう。因みに、その原因は征義が秀香に口付けをしようとして初心な秀香が顔を真っ赤にして、逃げ出してしまう。それが、何と三日もかかり、洸太に八つ当たりするのだが、この時の洸太は自分にそんな未来があるなんてしらなかった。
「はぁ〜……。」
「『そんなのは無視したらいいよ、アヤは絶対悪くないものっ!』……はい、送信っ!」
「……。」
明るい声音に洸太は足を止め、その声の出所を探ると、陽だまりの中のベンチに一人の少女が座っていた。
「あっ、もう返事?え〜と、『そうは言っても…、あの子を無視できないよ…。』…『そうは言っても、アヤは嫌だったんでしょ?』……っと送信。」
「……。」
あまりにも大きな独り言に洸太は思わず噴出した。
「ふくくく……。」
「えっ?」
笑い声が少女の耳にも届いたのか、少女は洸太をじっと見てそして、自分の独り言が聴かれた事に気付き顔を真っ赤に染める。
「なっ、いつから……。」
「確か「そんなのは無視したらいいよ。」だったかな。」
「いやああああああああっ!」
少女は耳を塞ぎ大きな悲鳴を上げ、洸太はその悲鳴があまりにも大きいものだからギョッと目を見開いた。
「お、おいお前…。」
「最低、最低、最低っ!」
「……。」
洸太は突き刺さるような視線を感じ、油の切れた機械人形のように首を動かすと己を咎めるような目で見る入院患者やその見舞いに来た人の視線があった。
「げっ……。」
第三者の目から見れば間違いなく自分はこの少女を虐めているようにしか見えないだろう。
「悪かった、悪かった。」
洸太は取り敢えず謝るが、少女はそんな言葉が耳に入っていないのか、意味不明な叫び声を上げている。
「…頼むから…、オレの話しを聞いてください……。」
肩を落とす洸太に少女が落ち着くまで残り十分。
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from: yumiさん
2012年02月24日 12時32分04秒
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「『さよなら』のかわりに―口付けを―」
あれから洸太(こうた)が来る事はなく、有華莉(ゆかり)の手術前日、彼女はあの時洸太と出会った場所にいて携帯をいじっていた。
「『アヤ…どうすればいいんだろう。』。」
沈んだ声で、有華莉はメールを打ち始める。
「…『せっかく、来てくれた人を…傷つけた…だけど、彼の笑顔が怖かった…死んでしまったら、もう、この笑顔を見る事が出来ないんだと思ったら…怖かったの…。』。」
滲み始める視界に有華莉は手を止める。
「……洸太くん。」
「後悔するんならはじめから言わなければいいのにな。」
聞きなれた声に、有華莉は驚いて顔を上げた。
「悪い、来ちまった。」
罰が悪そうに笑う洸太に有華莉はとうとう涙を零した。
「泣くなよ……。」
洸太は持っていたハンカチで有華莉の涙を優しく拭った。
「何で…。」
「おばさんが、教えてくれた。」
「えっ?」
「有華莉が明日手術だから励ましてくれないかと…。」
「…お母さん…。」
有華莉は何で母が余計な事をしたのだと思う反面、呼んでくれてよかったと思っていた。
「なぁ、有華莉。」
「何?」
「オレはさ、「さよなら」という言葉が嫌いなんだ。」
唐突な言葉に有華莉は目を見張る。
「だってさ、もう会えないような気がする。それなら「またね」とか「また明日」とかの方が次に会える気がするんだ。」
「うん…。」
「だけどな…オレは一度だけさよならの言葉を言った事があるんだ。」
「……。」
有華莉は首を小さく傾げ、洸太の言葉を待つ。
「それは病気にかかっていたオレに対してだ。」
「あっ…。」
「もう、病気にはかからない、元気になるから、よくない自分とはさよならしたかったんだ。」
「……。」
「だから、有華莉もさ、明日は自分の悪いところとさよなら、しような。」
「洸太くん。」
洸太の言葉に有華莉は肩を震わせた。
「ごめんね…。」
「謝られるより、笑っていてくれ。」
「洸太くん。」
「オレ、有華莉が笑っているのが好きなんだ。」
「……。」
洸太の言葉に有華莉は微笑んだ。
「ありがとう。」
洸太と出会えた事が有華莉にとって強い力となり、その力は洸太と顔を合わすたび、話すたびに大きくなったが、それと同時に不安も生まれた。
だから、もう会わない方がいいと思った。だけど、違った、会わない方が不安が大きくなり、地に足がついていないそんな不安を覚えた。
「ありがとう。」
有華莉はもう一度洸太にお礼を言った、自分を救ってくれた大きな存在に有華莉は心からの感謝の言葉を胸のうちでも囁く。
「有華莉、明日は学校休むから…。」
洸太の言葉に有華莉は首を横に振った。
「十分だよ。」
「…だが…。」
「それなら、今のあたしに「さよなら」して。」
「……。」
「今の弱気で病気に負けそうなあたしに…洸太くんから「さよなら」をして、そしたら、負けないように頑張るから。」
洸太は頷き、そっと、有華莉の頬を包み。
彼女の唇に己のものを押し付ける。
「――っ!」
まさかキスをされるとは思っても見なかった有華莉は大きく目を見開いた。
「こ、洸太くんっ!」
口付けは一瞬だったが、有華莉には長くも感じ、己の唇を押さえた。
「な、何で……。」
「言葉にしたくなかったんだ、だから、それの代わり。」
「別の事にしてよっ!」
顔を真っ赤にさせて怒鳴る有華莉に洸太はニヤリと笑った。有華莉は知らないがどこか彼の兄を思わせる笑みを浮かべたのだ。
「元気が出るおまじないつきでいいじゃねぇか。」
「良くないっ!」
有華莉はあまりにも彼が手馴れているような気がしたので、自分以外の子にもやってあげた事があるのではないかと、不安になる。
「お前何か勘違いしていないか?」
有華莉の表情から何か読み取ったのか、洸太は呆れた表情をした。
「言っておくが、これがオレのファーストキスだぞ。」
「えっ!」
「……。」
やはり、そんな事を考えていたのかと、洸太は胡乱な目つきで彼女を見た。
「オレは好きでもない奴にキスをするほど女好きじゃないからな。」
「……。」
「お前はオレにとって特別だ……。」
洸太は有華莉に手を差し出す。
「風が冷たくなってきたから、病室に戻ろう。」
「うん。」
有華莉はその暖かな手を取り、病室に戻っていった。
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