２０１５年に任期満了で辞任した、ウルグァイの元大統領ムヒカが、２０１２年、「環境の未来を全世界できめてゆく会議」のリオ会議の演説は、聴衆も少なかったが、世界に大反響を与えた。心にしみる演説だったからである。
　彼は「世界で最も貧乏な大統領」として有名であった。
　豪勢な官邸には住まず、わずかな農地と粗末な家しかない私宅に住み、車はがたがたな中古車、月１２０円の大統領給与も１３万円だけ残して他は社会福祉団体に寄付してしまう。裸足でサンダル履きを好み、ネクタイはせず、飛行機もエコノミ－と質素極まる生活をしているという希有な高潔政治家である。
　ムヒカ夫妻は、産経新聞の招待で２０１６年６月来日し、大学などで講演したり、若者との対話集会を開催したりしたが、これまでの彼の名言といわれている言葉を考えてみよう。
・貧乏とは少しのものしか持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ
　もっと、もっと欲しいと欲張る人こそ貧乏だと云うのである。
　日本にも「金持ちとたばこ盆は、溜まれば溜まるほど汚くなる」という諺があるが、そのような心の貧しさを、貧乏だと言っているのである。
　それはいわゆる貧乏とは云わないが、決して幸せとは云えないであろう。
・私たちは、発展するために生まれてきているのではありません。幸せになるためにこの地球にやってきたのです。人生は短いし、すぐ目の前を過ぎてしまいます。命より高価なものは存在しません。
　出生は偶然であり、目的を持って生まれてきたのではない。が、生まれてきたときには、発展という社会的なレ－ルの上だったのだ。しかし、生まれたからには幸せになりたいのはやまやまだが。
　彼が言いたいのは、三種の神器だの新三種の神器だのとものを買わされ、ロ－ンに追われて、あくせくと人生を送るのは、果たして幸せと言えるだろうか、ということである。
　しかし、それで家族に人並みに便利な生活さえ送らせてあげられたという自己満足も幸せに入ると思う。それさえ出来かったという方が不幸せなのではないか。