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from: 那須ボーイさん
2024年05月19日 12時19分00秒
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短編小説 渚の慕情
第一話
男はライターを鳴らし、紫煙を燻らしながら女の事を考えていた。
外は夜来の小雨が木々を濡らしている。
寒かった冬も過ぎ、その木々には芽吹が見られ春到来の予感がしていた。
男は55才。
某メーカーの技術部長の地位にあった。
同期の中では早くにその地位に就き今役員の話が出ている。
専務からは身辺整理をして置くように言われている。
変な噂があれば、足を引っ張られかねないからである。
男に悪い噂話などない。
只、女の事が少し気にはなっていた。
男には家庭があり、言わば不倫関係。
女は知的な女性である。
話せば身を退いて呉れる事はわかっていた。
だからこそ、簡単には話せない思いが男にはあった。
その女性は何処かエキゾチックな顔立ちで、男心を擽る容姿をしていた。
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第二話
女はT女子大の国際関係学科を終え、外資系の企業で貿易関係の仕事をしていた。
服装も外国仕込みで洗練されており、物事は何事も即断即決する。
そこに頭脳回路のスムーズさが伺われた。
男はフランスに出張の際エールフランスの機中で、女と席が丁度隣り合わせになった。
それが女とのなれ染めだった。
帰国後も時々会うようになった。
女は夜は既に成熟した女だった。
35才ともなれば当然と言えば当然である。
男は23才の頃当時短大の1年生だった彼女と旅行したことがある。
男はあまり女を知らなかった。
女を頂点に導く術を知らなかった。
自分が終わればそれで終わりと思っていた。
言わば独楽である。
その事を思えば苦笑する思いなのである。
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第三話
男と女はいつも同じホテルを利用していた。
音響設備も整っている。
何処からともなく流れて来る音の調べ。
その音は一つ一つの細胞の細部にまで伝わって来る。
女は男が淹れてくれた紅茶を口に運ぶ。
味は何時も同じ。
それはかってエール・フランスの機中で二人して口にしたあの味なのである。
口にすれば、やがてはそれが体中一杯に広がって行く。
女は紅茶を飲み干し、静かな音楽の調べに身を任せている。
やがてうとうととし、浅い夢の中に落ちる思いがした。
先程までの男との愛の疲れが心地良く残っている。
何処か遠くから波の音がしている。
寄せては返す波の音。
静かな渚の音色である。
その音色は女を一層心地よい夢の中へ誘うようだった。
奇しくも男も渚の状景を思った。
何故その状景を思ったかは良く分からない。
女の渚の状景は感傷とロマンである。
だが男の渚の状景はそれとは違うような気がした。
何故違うのか。
その時はまだ男には良く分からなかった。
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終章
不倫?!何と言われようと人の本能だ!
だが男は思った。
女とは別れよう。
自分の保身のためでは有るが、所詮不倫。
いずれは別れる時が来る。
女もそれは承知している筈。
その別れが役員の話が出て居る時に到来しただけなのだ。考え様によっては自分勝手な事は分かっている。
だが所詮それが案外"人"なのかも知れない。
ホテルの一室で観た(思った)あの渚の光景を思い出していた。
あの渚の光景を思いながら、その時女とは別れようとの思いが既にあったのだろう。
女との事が慕情として残るのだろうか。
又女はどうだろう。一般的に女性は次のステージに行けば別の景色を観ると言われる。
各人の在り方は各々。
空は暮れ掛けていた。
又明日は明日が有るのだろう。
ー終わり
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終わりに寄せて
"さよならは言わないで置こう"
愛しても 愛しても いけない恋なのか
サヨナラは サヨナラは 言わないで置こう
来世があるとすうならば大手を広げて君を抱きしめよう
サヨナラは言わないで置こう-
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